⑰-74-654
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決戦は終わった。
夕方。
テントを張って食事の準備だ。
滅茶苦茶疲れた。
泳ぐって滅茶苦茶疲れる。
戦争で精神的に疲れる上に泳いで肉体的にももう限界だ。
なので食事も簡単な調理で出来る物にした。
「「「「「ふぃー」」」」」
汁物を食べながら一服する。
以前自分達で魚を釣って鍋に材料を入れた物を温めた物だ。
「みんなお疲れさん」
「「「「お疲れー」」」」
「ジョゼも留守番お疲れだった」
「ナウ」
「ちゃんと誰かの船に忍び込んでここまで来るとは流石会長だ」
「ヌフー!」
「レイヴも、今回は情報封鎖戦が激しくて出番は無かったが、逆に焦って飛び回ったりせず猛禽類に襲われなかった。忍耐という作戦通りの結果を出してくれた、よくやってくれた」
「グァッ」
「こうやって家族全員で食事出来る事が俺にとっては何よりも嬉しい」
「カズ兄ぃさぁ」
「ん」
「調理した物を収納しといたら良いんじゃないの?」
「いやー。素材を加工するのはあんまりしたくないんだよね」
「いざって時に不足しちゃうかもしれないからね」
「そっか」
「何か収納袋の物資がちょいちょい無くなってる気がするんだよな」
「ふーん」
「マヌイ、つまみ食いしてるだろ」
「・・・そんなにはしてないよ!疲れたから勘違いしてるんじゃないの?」
「まぁ、こんなに疲れる事はもう無いと思うわよ」
「だな。戦争ももう直ぐ終わるだろうし」
「敵の街までは攻めないって言ってたし、もうひと踏ん張りって所だな」
「で、カズヒコさ」
「ん」
「どうだったの?旗艦潜入は」
「実は良い知らせと悪い知らせがある」
「「「「ほぉほぉ」」」」
「じゃぁ悪い知らせから聞かせて」
「水の結晶魔石は駄目だった」
「「「「あらー」」」」
「・・・という事は、良い知らせって言うのは」
「あぁ。風の魔石はゲットした」
「「「「ナイスー!」」」」
「ドラゴンレディの強化だね!」
「ジェットパックも2つになりますね!」
「パーティ戦力の大幅強化だ!やったな!」
「ほっほっほ、苦しゅうない苦しゅうない。サーヤ君、魔石、取っておきなさい」
「はい!2つ目のジェットパックを作りますね」
「そうね。それで濡れてたのはどういう事なの」
「おかわりを頂いていでででで!」ギュウウウ
「どういう事なの」
「実は、その、色々有りまして」
「その色々を話せって言ってんじゃないの」
「途中までは結構、割と、その、順調だったんですよ」
「途中までは、ね」
「はい。結構偉そうな奴が殺そうとして来たんですけど」
「何で?」
「本陣に行くから脱出艇に乗せろって言うから案内したら、用済みだ死ねって言われて」
「「「「こっわ!」」」」
「でしょ!」
「で、どうしたの」
「今収納袋に入ってます、3人ほど」
「ふーん。でもそれで河には落ちてないんでしょ」
「はい。その後、船倉に行って魔石をゲットして」
「誰も守ってなかったの?」
「いえ、10人ほど、かな。居ました」
「それで」
「味方のフリをして魔石をゲットしました」
「ふむふむ、それで」
「そしたら、なんか、変な奴が現れて」
「「「「変な奴?」」」」
「はい。なんか、ダンジョン教の教徒だったらしくて」
「「「「ダンジョン教!?」」」」
「はい」
「ここでもダンジョン教!?」
「ダンジョン教は邪教って聞いてるよ」
「私もです」
「ダンジョン教徒が出て来たのか、臭いな」
「どういう事、ケセラ」
「ダンジョン教はその名の通りダンジョンを崇める宗教だ」
「でしょうね」
「奴等は危険な存在として南部だけでなく北部でも禁教だ」
「北部でも?」
「そういやバウガルディの兵士からも邪教徒って罵られてたな」
「なんで禁教なの?一応南部では宗教は比較的緩いんでしょ?」
「奴等はダンジョン内に籠り活動するんだ」
「それは、冒険者もでしょ」
「殆どの冒険者は地上とダンジョンを交互に行き来する。しかしダンジョン教はダンジョン内で生活を完結させようとする、それは領主にとっては都合が悪い、というか自分の敷地内に別の勢力が生まれる事になる」
「なるほど。ダンジョンは塩とかも採れるって話だし、領主には鉱山みたいな存在って事だな」
「あぁ。加えて危険な思想に走るきらいがある。ダンジョンは魔物の巣窟だ、その思想も・・・」
「「「「危険だなぁ」」」」
「更に当然魔物と遭遇するのも地上の比ではないので武装する」
「危険思想の武装集団。禁教は当然、か」
「そのダンジョン教徒が現れてどうしたの?」
「あ、はい。魔石を寄越せって言われて、断ったら斬り掛かって来て」
「「「「危険だなぁ」」」」
「逃げたらバウガルディの兵士達がそいつ囲んで殺し合いを初めて」
「あんたは?」
「マストに登ってちょっと高みの見物をして、」
「ちょっと待って、本陣で旗艦の帆が落ちたって騒ぎになったんだけど・・・」
「あ、はい。僕です」
「「「「あんたかい!」」」」
「それで、頂上で、下の戦争の様子を見てたら、何で戦争してんだろって、ふと思って」
「あんたちょくちょくそーゆー時あるわよね」
「姐さんみたいに強くなれないっす」
ギュウウウ
「いででで!」
「それで」
「そしたら・・・その、また視界に虫が・・・」
「「「「もー!」」」」
「でも幻覚って分かってたからパニックにはならなかったんだよ!」
「「「「そーゆー事じゃないのー!」」」」
「その邪教徒ブッ殺せば治まるだろうと思って、腕を斬り落として河に蹴り飛ばしたら」
「たら?」
「斬った腕から魔力の腕が生えて来て」
「「「「ぎょぎょ!?」」」」
「具現系か。陽炎将軍の夢幻剣も魔力の剣を出すそうだ、同じ様なスキルなんだろう」
「なるほどな。その腕に掴まれて僕も一緒に河に落ちたと、そーゆー訳です」
「「「「ふむふむ」」」」
「んで、掴まれたままだったんで水の魔石でブッ飛ばそうとしたらウォーターリーパーに襲われて」
「「「「ウォーターリーパー!」」」」
「思わず魔石を手放しちゃって、そしたらそいつは魔石を取ろうと腕を放して、魔石を取る事も出来ず沈んでいって、僕は魔石を諦めて浮上して助かったという訳です」
「そいつ、強かったの?」
「めっちゃ強かった。兵士達相手に1人で立ち回ってたし」
「流石ダンジョンで鍛えただけはあるって感じか」
「将軍と同じ様なスキル持ちだったんでしょ?カズ兄ぃ危なかったよ」
「ホントです」
「相当の強さの邪教徒、か。何故地上に居たのか、何故軍に居たのか、気になる所だな」
「結晶魔石が目的だった、という線は?」
「勿論有り得る。非常に希少で高価な代物だ、誰もが欲しがるとはいえ船にも使われるし誰でも魔力を注げば魔法みたいに使えるので戦略物資扱いだ。結晶魔石欲しさに斬り掛かる程だし、恐らくキナ臭い目的の為とみていいだろうな」
「おのれ邪教徒めー」
「話を逸らさないの。問題はあんたの精神状態よ」
「戦争に勝ってスカッとしました」
「あとは追撃で更にスカッと、ってそうじゃないでしょ!だから私達は行くの止めたのよ、こうなるだろうと思って」
「でも魔石はゲットしたし・・・」
「命を懸けてまでゲットする必要は無かったって言ってんの!」
「・・・あったもん」
「あーりーまーせーんー!」
「ドラゴンレディのパワーアップは今後の俺達には非常に有益だと思います」
「一歩間違えばあんた死んでたって言ってんの!」
「それは、まぁ、戦争だし」
「戦争の一言で片付けるな」
「まぁまぁミキ姉ぇ、もう終わった事だし、カズ兄ぃも反省してるんだし」
「してる?してた?」
「してまーす」
「してないでしょ!どこがしてんのよ!」
「まぁまぁミキさん、今日はみんなの無事を祝って反省は戦争が終わってからで良いんじゃないですか?」
「まだ追撃戦が残ってるから言ってのよ」
「まぁまぁミキ、では追撃戦は無理をしないという事で今日はゆっくりしよう。明日も朝が早いんだし」
「・・・まぁね」
「してまーす」
「こいつ!聞いてんのか!」ギュウウウ
「いででで!」
「さっ。夕飯も食べ終わった事だし、朝早いし、もう寝るか」
「「「「う~ん」」」」
「どした」
「私達も河に浸かったからさ、ちょっとべたつきが気になっちゃって、臭いも」
「「「だよねー」」」
「あー。風呂か。川の臭いって確かに気になるよな」
「「「「そー」」」」
「うーん。ここで風呂を出すのは無理が・・・ピコーン!」
「「「「ぎょっ!?」」」」
「どした!?」
「整いました!」
「何が」
「サウナです」
「「「「サウナ!」」」」
「なるほど!サウナね!それなら周りにバレにくいわね」
「俺自身湯風呂が好きなんで蒸し風呂は考えてなかったな」
「収納袋を持ってたっていうのも大きいわね」
「テントを2つ用意しよう。1つはサウナ用。それに隣接して脱衣所。脱衣所で脱いだら直ぐにサウナ用テントに入れるだろう。脱衣所も水を置いてサウナと交互に温冷交替できるようにすれば良い」
「マヌイ。厚手の皮でテントを覆えるようにして明かりを透かさないようにして」
「分かった!」
「サーヤは2つのテントを繋げて」
「分かりました!」
「ケセラは火の番よ、石を焼いて」
「分かった!」
「あんたは・・・」
「俺は?」
「河に水を汲みに行って」
「えー!?疲れたし収納袋の水で良いじゃん!」
「駄目よ!収納袋の水はいざという時の為のよ、当然でしょ」
「めんどくさ」
「何か言った!?」
「行って来まーす」




