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HappyHunting♡  作者: 六郎
第17章 虹の根元 (ウォーカー、ハンナ、ローラ、ヤヤ、セルラ)
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⑰-73-653

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俺達がバウガルディ軍の本陣に近付くと既にソルトレイク軍によって占領されていた。

タグを見せて陣に入れてもらう。

俺達の所属はファナキア直属だったのですんなり入れて貰えた。


陣中は大忙しだ。

捕虜を移動させていたり、

兵舎を設営していたり、

炊き出しをしている所も有るな。

そこで毛布に包まってスープを飲んでる奴らも居る。

河に落ちて冷えたんだろう、俺達も貰うか。


乾ききっていない俺を見てスープが配られた。

連れの彼女達の分まで貰えた。

5人で地面に座ってスープを口にする。


「温まるぅ~」

「ふぅー。あの捕虜はどうなるのかしら」

「奴隷だろうな。戦争奴隷で各地に売られるのだろう」

「鉱山とかか?」

「うん。兵士だったんだ、肉体労働に使うのが普通だろう」

「奴隷王って奴隷を解放したのよね」

「望まざる者を解放したのだ。不当に扱われていた獣人達、ヒト以外の者達をな」

「恐らくキチンとした制度にしたんじゃないか?サーヤ君との出会いの時も一応は契約書になってた訳だし」

「はい。両者の了解はありました」

「奴隷制度が無くなった訳じゃないのよね」

「無理だろう、貴族という特権階級が居る限りな」

「どうして」

「ピラミッドだよ。奴等の消費を支えるには何倍もの労働人口が必要だ」

「貴族が居なくなれば?」

「やはり無理だろうな。奴隷というのはいつの時代でも存在するものだと思う。例えばすごく仕事の出来る人間が居る一方で全く出来ない人間も居る。足が速い者も居れば遅い者も居る。それが人間社会でありバランスであり多様性だ。仕事の出来る人間はどこに行っても職にありつけるだろう。しかし出来ない人間は乞食になるか、もしくは」

「奴隷になるか・・・」

「そういう事だ。奴隷と言うと聞こえが悪いが一種のセーフティネットの側面もあるんじゃないかな?そこん所どうだ?サーヤ君、ケセラ」

「そうですね。奴隷主は奴隷に衣食住を提供しなければなりません。これは南部では法律で決まっています」

「その通りだ。逆に提供されなかった場合、雇用主、奴隷主を訴える事も出来る。権利として認められている」

「奴隷が訴えられるの?」

「一般的な奴隷だぞ。戦争奴隷や犯罪奴隷には勿論その権利は無い」

「奴隷とは契約ですから。労働力などを提供する代わりに生活環境を受け取るという」

「奴隷契約中も決められた法定額を支払えば自分を買い戻す事も出来る。とは言え、普通の奴隷契約ならば、だが」

「奴隷になる人は文字も読めない人も居ますから。違法というか、法外な契約になる事もありますね」

「切羽詰まった人間が追い詰められてそういった契約を結ぶのは、まぁ、ある話だな」

「とは言え、食っては行ける訳だ」

「はい。財産ですからね」

「死なれたら大損だ」

「北部の奴隷事情はどうなんだ?」

「聞いた話ですが、契約という形にはなっていますがそれこそミキさんが想像している奴隷だと思います」

「南部では奴隷はある程度の生活の制限は受けるが給金は出るし雇用主と同じ家屋で住む事も珍しい事じゃない。北部は家畜同然だという話だ」

「リィ=イン教国の国境街パルカで見たな」

「はい」

「捕虜じゃなく獣の扱いだった」

「はい」

「・・・」

「ミキ」

「・・・何」

「保険や国の制度が無いこの世界じゃぁ野垂れ死になんてのはよくある話なんだろう。魔物も居るんだしな。奴隷制度はお互いに利益があるから制度になってるんだ、俺達がどうこう出来るもんじゃないだろ」

「・・・」

「人権、って事で悩んでるんだったらそもそも普通に暮らしてる人達を無理やり奴隷にする為に戦争仕掛けて来たあいつ等が悪いんだ、そうだろ」

「・・・だからそいつ等を奴隷に?」

「はっはっは、笑い話だね!それで終わりだ、違うか?少なくともミキが悩むべき問題じゃないだろ。この世界のありようの問題だぞ、個人がどうこう出来る分を越えてる」

「・・・」

「ミイラ取りがミイラになった、奴隷狩りが奴隷になった、そんだけの話だ。考えるだけ時間の無駄だ。今は戦争中だぞ、自分達の命の心配だけしていれば良いんだ」

「あたしもそう思うよ」

「その通りですわ」

「私もそう思う」

「・・・南部でやっていけるかしら」

「今まで奴隷を差別していた奴等が、いざ自分が奴隷の身になって今までの差別を恥じて心を入れ替えて働いていこう、他の人種と仲良く暮らしながらいつか自分を買い戻すんだ。そして差別して来た罪滅ぼしに他の人種と共に差別の無い世界を作ってゆこう・・・無い無い。差別してるって感覚も無いんだ、差別されて当然って文化で暮らしてるんだしな。自分が奴隷になっても何で自分がこんな扱いを受けなきゃいけないんだ、差別だって憤慨するだけで隙を見て逃亡か最悪、反乱を考えるのが関の山さ」

「反乱・・・」

「俺達が負けてれば俺は殺されお前等は、どうなってたかは分かるだろ」

「えぇ」

「仮に奴隷制度を撤廃する事が出来たとして、その後はどうするんだ?奴隷制度を無くしました、あなた達は自由の身です、これからは好きな職に就いて下さいね。それで元奴隷たちが好きな職に就けると思うか?手に職を持っていない連中は当然職にありつけるはずもない。そいつ等は乞食になるか冒険者になるか。狩りの経験すら無いのにましてやスキルも無いのに冒険者になったとて早死にするのがオチだ。結局奴隷だった頃の方がマシだった、そいつ等はそう思うんじゃないのか?奴隷制度を撤廃するのなら雇用の事も考えないと意味は無いだろう、奴隷を解放しただけでは問題の解決にはならないんじゃないか?」

「・・・」

「そーゆー世界なんだ、今の時代はな。お前の考えは分かるし否定する気は無い。しかし今は家族が無事に生き残る事を先ず第一に考えろ。他は不要、というか邪魔だ。殺す瞬間に躊躇してたらその隙を衝かれるぞ。戦争の趨勢は決まった。しかし追撃戦が控えてる、気を引き締め直せ、まだ終わってないぞ。というよりむしろ戦争はここからだ、なぁ、ケセラ」

「その通りだ。戦争で重要なのは追撃だ。決戦での被害以上のものを与えられれば相手は今後数年侵略は無理だろう」

「海亀襲撃作戦で馬を大量に投入してここに馬が殆ど居なかった事からも分かる通り、奴等はじり貧だ。この追撃で大損害を与えられれば、今後数年戦争は無いだろうし孤児が生まれる事も無い、違うか?」

「・・・いいえ」

「なら俺達のやる事は分かってるな」

「・・・敵を、殺すわ」

「その通りだ。1人殺せばそいつに殺される母親と子供の2人が助かる、或いは爺ちゃん婆ちゃんも。10人殺せば40人助かる。100人殺せば400人、1000人殺せば4000人だ、1つの街だぞ。殺すっきゃない、ワックワクだな」

「・・・切り替えが、さ」

「狩りだよ狩り、ハンティングだ」

「狩り」

「ほっとけば田畑を荒らし女を犯し子供を殺すとんでもない害獣を駆除するんだよ」

「狩り、ね」

「みんなが幸せになる狩りだ、ワクワクだな」

「・・・そうね。所で、何で濡れてたか聞いても良い?」

「ぶふっ」

「全身だから河に落ちたんでしょ?何で落ちたの?」

「いやー!もう今日は疲れたし早くテント張ってクソして寝よーぜ―!」

「「「「しないしない」」」」

「あっ!おい!ウォーカー!見つけたぞ!」

「「「「「ん?」」」」」

「こんな所に居たのか!ファナキア様が探しておられる!付いて来い!」

「「「「「うぇ~い」」」」」




バウガルディ軍本陣改め、ソルトレイク軍本陣総大将幕舎。


「来たわね」

「大勝利おめでとうございます!」

「・・・取り敢えずその言葉は受け取っておくわ」

「いやー流石ですね!味方が有利と言われていたとはいえ、そこに慢心があったかもしれないでしょうし先の海亀襲撃作戦阻止も有って余計に、でしたでしょうし。ファナキア様の統率力が無ければ此度の勝利は無かったと私は思いますよ、えぇえぇえぇ!」

『・・・』

「しかし我が軍の被害も大きいものだったわ」

「そういえば。忍耐の戦いだって聞いてたのに上流が騒がしかったですね、敵が仕掛けて来たんですか?」

『・・・』

「その件は今はいいわ。今はあなた達の事よ」

「(やっぱりか、抜け駆けの件だな)はて~?」

「あなた達の行動で旗艦は被害を免れたのは事実よ、あなた達に褒賞を考えているわ」

「えっ」

「クレティアンの命令で旗艦に何か起こった場合、駆け付けるよう命令を受けてそれを実行した。あの状況で命令を実行するには相当の勇気が必要だったはず」

「「「「「ん?」」」」」

「更に敵衝船にあの筏で体当たりなんて余計にね。その辺を考慮して賞を与えるわ。ただ、今回のクレティアンの任務は秘密任務、なのであなた達も今回の行動は秘密任務という事でみだりに他人に話さないように、いいわね」

「は、はい」

「よろしい、褒賞はまた後日に渡すわ。今は追撃戦に集中する」

「そういえば」

「何かしら」

「クレティアン様は居られないのですか」

「下流に逃げた兵を追撃に船で下って行ってるわ、任せていい」

「うるちゃい奴も居ませんけど」

『・・・』

「対岸の本陣に居るわ、追撃戦には参加しない」

「参加しない!?追撃戦こそ戦果を挙げる絶好の舞台でしょ?あの俺が俺が君が参加しないんですか?」

『・・・』

「えぇ」

「留守番役を1番嫌いそうなんですが、そうですか」

『・・・』


「追撃戦にはあなた達にも参加してもらう予定よ、構わないわね?」

「初心者なんですが」

「あらそうなの。丁度良いわ、あなた達に私の副官の1小隊4人を付ける予定だったのよ」

「「「「「うぇ~い」」」」」

「感謝の言葉も疲れている様ね。手短にお願い、副官」

「はっ。明日未明、追撃軍本隊が出発する。我々9人はそれに同行し敵をなるべく多く損耗させる助力を行う。しかし戦い方はウォーカー達に合わせろと命令を受けている」

「ほぉ。良いのですか?」

「あなた達は自由に主体性を持ってやって貰った方が結果が付いて来ると思うのよね」

「分かってらっしゃる!」

「敵は駐屯地を砦化し追撃に備えているだろう」

「駐屯地というのはバウガルディ軍がここまで来る時に駐屯していた所ですよね」

「その通りだ」

「何箇所か有ると思うんですがその全てを攻める積りですか」

「いえ、敵地深くには入らない、ましてや敵の街を攻める積りは無いわ。あくまで侵略軍を壊滅するのが目的よ」

「であれば、最初の駐屯地をなる早で突破するのが鍵という事ですか」

「その通りよ。しかし最初の駐屯地に残っているのは死を覚悟した殿、謂わば死兵。味方を逃がす為に己が犠牲を顧みず戦うわ。しかしこちらは決戦で勝って浮き足出しがち、足元を掬われる危険が大いにある。気を付けないとミイラ取りがミイラになるわよ」

「「「「「お、おぅ」」」」」

「あなた達は正面突破をするのは役柄じゃないから助力という事よ」

「なる早で突破する手助けをという事ですか」

「えぇ。今日の戦いを見ても、正面切って戦うというのは得意ではないんでしょう?」

「「「「「はい!」」」」」

「しかし敵の本隊が街の近くに撤退する前に追い付いておきたいからある程度の損害は覚悟の上で駐屯地を落とさないといけないわ」

「敵の撤退速度は非常に遅いと思います」

「ほぉ、何故」

「本陣には馬が殆ど居ませんでした」

「へぇ。そうなの?」

「はっ。そのように報告を受けております」

「ふむ」

「恐らく海亀襲撃作戦に全てをつぎ込んだんじゃないですかね」

「なるほどね。確かに600匹以上を確保したらしいし、通常の戦力から見ても異常に馬が多いわね。恐らくバウガルディ王国の騎馬戦力は壊滅状態ね」

「そうなんですか?」

「騎馬隊はお金が掛かるのよ。維持費は勿論だけど、乗ってる人が常時世話をしたりしないわ、大体貴族が乗るものだからね。なので世話をする人を雇わないといけないし自分の従者も雇わないといけないし、騎馬用の食べ物と水、それを運ぶための荷車、それを引く為の馬。騎兵1人に5~6人、長距離遠征だと多い所で10人は必要ね、非戦闘員込みで」

「・・・金掛かりますね」

「北部であれば日常時では奴隷にやらせるんだろうけれど戦争時は奴隷は連れて来ないから人を雇う。更に負けて馬を失くせば目も当てられないわね、財産を失った訳だから。なるほど、海亀襲撃阻止だけでも相当に打撃を与えたのね、バ国の貴族はただでさえ火の車なのに今回の戦争で破綻する者が続出するでしょう・・・(調略が可能かしらね、)ふむふむ。海亀襲撃が成功していたなら我々は窮地に立たされていた、それだけのリスクを冒す価値が有ったって事か・・・」

「ファナキア様」

「おっと。つまり、馬が居ないから撤退の速度も遅い、そういう訳ね」

「恐らく」

「だとするとここに来る道もいつもと違っていたかもしれないわね」

「そうですな。馬ではなく人力で物資を運んでいたなら有り得ます」

「補給、という事ですか」

「えぇ。軍の道は水の道。敵国に侵入する最短経路は、最短距離ではなく水場が有るかどうかよ」

「ほほぉ。人力だと疲れるから1日の移動距離も短くなりそうですね」

「えぇ。いつもの経路じゃない様だからその辺捕虜に聞いてみなさい」

「畏まりました」

「今夜も忙しくなりそうね、いつもの退却路じゃないなら新しく作戦を練り直さなきゃ」

「ご苦労様です」

「明日は早いからあなた達ももういいわ、早く寝なさい」

「「「「「失礼します」」」」」

「あっ、ウォーカー」

「はい」

「帰って来たら色々聞かせてもらうから」wink

「寝れなーい!」


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