⑰-70-650
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俺は部屋を出た。
「よしよし、何とか両方とも手に入れた、な!?」
廊下に兵士が1人立っていた。
「渡して貰おう」
「ん?朝食はもう終わったぞ?」
「飯ではない・・・聞いていた。結晶魔石を渡して貰おう」
「・・・聞いていたんなら分かってるだろ。これは命令なんだよ」
「・・・」
「お前、何者だ」
「知る必要は無い」
「分かった」
「ん?」
「お前が馬鹿なのがな」
「・・・貴様」
「聞いていたんなら俺が重要任務に就いていると知ったはずだ。それを知って尚、俺に言って来るって事は、お前はアホだ」
「・・・話にならんな」
「全くだ。馬鹿に話は通じない。あれ、良く分かってるじゃないか。つまり。勉強は出来るが仕事は出来ないタイプか?」
「ふざけるな!」シュラン
「うお!?」
剣を抜いて袈裟斬って来た。
慌てて躱してさっきの部屋に転がり込んだ。
「ん?どうした?」
「みんなー!助けてくれ!襲われた!」
『襲われた!?』
俺は兵士達の方に駆け出した。
斬り掛かってきた奴が剣を片手に部屋のドアに佇む。
「あいつ!あいつに襲われた!」
『むっ!?』
「ちっ!思わず抜いてしまった」
「あいつに!あいつが斬り掛かってきた!」
「貴様!何故斬り掛かった!」
「魔石を寄越せって言われたんだ!」
『魔石を!?』
「ちっ!余計な事を言うな!」スラッ
「ぎゃー!襲われるー!」
「貴様何奴!」
「くそっ!面倒な!こうなったら全員殺すしかない!」
「何だと!賊だ!スパイだ!皆の者!奴を捕らえろ!」
『おぉー!』
「お助けー!」
「お前!こっちに来い!俺達の後ろに隠れろ!」
「ありがとう!」
「礼には及ばん!お互い国に身を捧げた身!スパイなんぞに戦友を殺させてなるものか!」
「俺も手伝うぜ!」
「いや!お前は後ろでジっとしてろ!」
「ふざけるな!俺も国に身を捧げた身!戦友が戦っているのにジっとしてられるかよ!」
「お前・・・良いだろう!一緒に戦おう!」
「おう!でも俺戦闘タイプじゃないんで当てにはしないでね」
「気にするな!その心意気で十分だ!皆の者!掛かれー!」
『うおおお!』
「面倒な奴等だ!」
バウガルディ軍本陣。
火事の所為で辺りは大混乱だった。
「よーし。もう手に負えないくらい広がったわね」
「うん。こんだけやれば大丈夫じゃない?」
「火薬置いた所の燃え方が凄いですね」
「食料は勿体ないが仕方あるまい」
「こうやって食料が高騰するのね」
「貧しい人には辛いね」
「戦争はするもんじゃあリませんね」
「好き好んで不味い魔物を食べたくは無いだろうしな」
「カズヒコが殆ど馬が居ないって言ってたし、荷車の車軸でも折っとく?」
「そうだねぇ」
「人力で運ぶにしても重作業になりますね」
「負けて帰る精神状態の上に重作業は辛かろう、賛成だ」
「あの人も、無茶して無きゃ良いけど」
バウガルディ軍旗艦、船倉。
「いけ!そこだ!やれ!」
「くぅ!流石に多勢に無勢!無理が有ったか!?」
「このスパイ手練れだ!皆!油断するな!」
『おぉ!』
「お前も声援感謝だ!」
「何の!戦闘はからっきしだからこんな事しか出来ない俺を許してくれ!」
「気にするな!人にはタイプってもんがある!」
「あれ。でも隊長。戦闘駄目なのに魔石回収役って務まるんですかね」
「うむ?」
「今は非常時なのよ!戦闘タイプは前線で頑張ってるから運ぶのに逃げ足が速い俺が選ばれたのよ!」
『なーるほど!』
「一応俺も武器を持ちたいんで武器無いか?」
「後ろの箱から適当に選んでくれ!」
「分かった!」
後ろに積まれた箱から高そうな武器防具を適当に収納袋に入れていった。
「くそっ!強ぇーぜこいつ!」
「隊長!生け捕りは難しいぞ!」
「むむむ!猪口才な!」
「おりゃぁ!」ザクッ
「ぐあ!」
「あっ!貴様!仕方ない!殺して構わん!手加減するな!」
『おぉ!』
「上等だ!掛かって来い!」
(あれ、あいつ強いな。こっちは結構な人数なのに1人で相手してるぞ。普通2人相手になったらすっげぇ不利なのに防戦一方になる所か1人殺しちまいやがったぞ。ドア付近で戦っているから攻め辛いのは有るにしてもかなりの手練れだ)
俺は兵士達の後ろに隠れて投げナイフを投げた。
シュッ
「ぐっ!?」
太腿に刺さった。
「きっさま!卑怯な!」
「お前が言うなよ、スパイのお前が」
「全くだ!お前よくやった!」
「仲間がやられたのに黙っちゃいられねぇぜ!」
「良くぞ言った!後で上に報告しといてやる!」
「いやー!しなくて良い!俺はこういう役だからあんまり有名になっちゃいけないんだ!だから言わないでくれ!」
「お前・・・分かった!王国の為に裏方に徹するその心意気!絶対に秘密にしておく!皆も良いな!」
『おぉ!』
「ありがてぇ!」シュッ
「ぐっ!?貴様ぁ!またしても!」
「へへーんだ!ばーか!あーほ!」
「許さん!」ダダッ
スパイがドアから離れた。
「来たぞ!囲め!」
「ナイスだ良くやった!皆囲めぇ!」
『おぉ!』
「しまった謀られた!」
「じゃぁみんな!俺は運ばなきゃいけないんでトンズラさせてもらうぜ!」
「おぅ!ここは任せろ!無事に任務を達成しろよ!健闘を祈る!」
「王国の為に!」
『王国の為に!』
「さらば!」
「貴様待たんか!」
「誰が待つかバーカ!おしーりぺーんぺーん!お前の母ちゃんでーべーそ!」
「貴様ぁ!我がマザーを侮辱するとは許さん!《身体強化》!」
「げっ!?」
「おるぅあぁ!」
『うおおお!?』
「やっべぇ!」
周りを圧倒して俺の方に駆けて来た。
俺はドアを抜け階段に走り駆けあがる。
ドゴォ
後を追いかけて来るスパイが部屋の入口を突っ走って曲がり切れず壁に激突した。
階段上の俺を見上げて叫んだ。
「ぬうぅ!待てぇ!」
「お尻ペンペンペンペンペンペンペンペンペン!」
「ブッ殺ぉーす!」
「うひぃ!」
バウガルディ軍旗艦、甲板司令部。
「敵左翼!展開しつつあり!」
「全ての後詰を味方右翼に回せ!回り込ませるな!」
「敵中央!敵旗艦の前に出ます!」
「総大将の守りを固めて来たか!突撃は止めさせろ!敵右翼は未だ混乱中だ!右翼を衝け!」
「お助けー!」
『何だ!?』
1人の兵士が走って来た。
「貴様!何をやっておる!」
「お助けを!スパイが!スパイに追われています!」
『スパイ!?』
「あれを!」
見ると1人の味方兵士が走って来ている。
「あいつがスパイなのか!?」
「はい!多分本陣に火を放った奴等の仲間だと!」
『おのれ!』
「副将はそのまま全体の指示を!スパイは我々が捕えます!」
「頼んだ!船長も操船に集中せよ!」
スパイは甲板の様子に気付いた。
「くそっ!また謀られた!ど真ん中に来てしまった!」
スパイの後ろから船倉の兵士達も追い付いてきた。
「貴様!最早逃げられんぞ!観念して縛に就け!」
「馬鹿を言うな!誰が逃げたのだ誰が!あのクソ野郎を追っただけで貴様等から逃げた訳では無いわ!」
しかし周りを囲まれる。
「むむむ!」
「観念せい!ソルトレイクの痩せ犬めが!」
(あっ!そうか、スパイだとしたらソルトレイクの可能性が1番高いのか。いきなり斬り掛かられてパニクってそこまで考えつかなかったが・・・どうしよう。助けてやりたいが囲まれてしまったな・・・)
「誰が南部の痩せ犬だと!?あいつ等と一緒にするな!」
「ではどこの手の者だ!」
「私は解放者だ!貴様等に不当に弾圧されている者達の代弁者であり、マザーの救いを世に広める宣教師だ!」
「ダンジョン教だ!邪教徒だ!」
「ダンジョン教の奴等だ!ブッ殺せ!」
(ダンジョン教!?)
「兵士達よ!危険な異教徒が潜り込んだ!殺して構わん!唯一の神を冒涜する罪を償わせろ!」
『おぉ!』
「唯一の神ならば何故人を選民する!みな平等に救ってこその神であろうが!その神に見放された哀れな者達をお救い下さるのが我々の神なのだ!否!我々が選ばれたのだ!《阿羅漢》!」




