⑰-69-649
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3人組の男達が俺の前に現れた。
中央の奴はフードを被っている。
「何だあんたら」
「それはこっちの台詞だ!ここで何をしている!」
「確か・・・爆発音が聞こえて・・・そこから・・・今起きた、感じかな」
「どうやらあの爆破の揺れで頭でも打って気を失っていたのでしょう」
「うむ。ここまで揺れたからな」
何とか誤魔化せたようだ。
一応頭打った感じを出す為に頭を押さえておこう。
「いててて」
「まだ戦闘中だ。早く持ち場に戻るのだ」
「畏まりました」
「む、待て」
「はい」
「脱出艇の準備をさせよう」
「なるほど、そうしましょう。貴様には脱出艇まで案内しその準備を命ずる」
「脱出?」
「勘違いするな。本陣で起こっている火災の指揮の為に士官を送るのだ。逃げる為ではない」
「はぁ、(脱出艇・・・知らんが、確か俺が乗ってきた船がまだ横付けされているはずだ。あれに案内すれば良いだろう。俺は収納している舟に乗れば・・・大分壊れてたな・・・)」
「頭は大丈夫か?聞こえているか?」
「あんた達はホントに士官なのかね?」
「「「む?」」」
「俺は早く持ち場に戻んねぇといけねぇんだ!俺を待ってる奴等が居るんだ!俺の!俺の帰りをな!あんた等がホントに士官なのか下っ端の俺には分かんねぇよ!」
「貴様!上官に逆らうか!」
「まぁ待て、こ奴の言う事も尤もだ。寧ろ自分に与えられた命令を忠実にこなそうとしている、天晴な心意気。我が王国兵士の鏡である」
「「ははっ」」
(なんか良いように捉えられたらしい)
「貴様が任務に忠実なのは分かった。しかし我々も任務で退艦しなければならない。そこで命令の符丁を見せる事で正統性を証明したい。そら、この符丁で貴様は我々の命令を優先する事が優先される。持ち場に戻って上司に怒られてもこの符丁を見たと言えば咎は受けない、どうだ?」
「・・・(分からんが)分かりました」
「うむ。では案内せよ」
「畏まりました」
俺は3人を連れて甲板に向かう。
後ろで話し出した。
「本陣に行ってからはどうします?」
「書類を集めて行かなければならんな」
「馬が最小限しか居りませんのでそれに乗るのは部下達の目が」
「そうだな、どうするか」
「やはり命令という事で行くしかないかと」
「むぅ、それしかないか」
どうやら逃げる算段を話し合っているようだ。
しかし何故俺、一般兵士が居る前で、というより真後ろで話し合っているんだ?
逃げるって感づかれるかも知れないとは思わないのか?
いや、思ってるんだ。思ってて敢えて話し合っている。
という事は・・・
ギィ
甲板へのドアを開けて俺が乗船した所まで案内した。
「どうしたお前」
俺が乗船した時に話した奴だ。
「あぁ、実は」
「私が話そう。我々は総大将の命令であの火災への対処を伝える為に船が必要なのだ。これがその符丁だ」
「へぇ、これが命令符丁・・・」
「うむ。貴様はここの守備兵か?」
「へい、然様で」
「うむ。ここはもう良い。前まで行って船長や上官達の補助をするのだ」
「へい、畏まりました」
男は前の方へと歩いて行った。
「あのぅ」
「どうした」
「誰か本陣から来たみたいですね、舟が有ります」
「何。むっ、本当だ。舟が有ります」
「ふむ」
「多分伝令じゃないですかね、本陣からの」
「あの火災のか、有り得るな」
「我々とは行き違いになったのかも知れませんな」
「猛禽類による情報封鎖で鳩は危険ですからね」
「うむ」
「どうします?今から脱出艇を準備するのは時間掛かりますけどあの船だと直ぐ出せますよ」
「なるほど。ではあの舟で行くと致しましょう」
「うむ、そうしよう」
「と言う訳でここで貴様とはお別れだ」
「へぇ」
「短い時間だが世話になった、そして謝らねばならん」
「謝る?」
「我々の会話を聞かれてしまったという事だ」
「へぇ?(やっぱりか)」
「急いでいた為に歩きながら会話せずに居られなかったのは我々にとっても貴様にとっても不運だったのが非常に心苦しい」
「なっ!何を為さるので!?」
「世話になった貴様には悪いと思っているがこれも王国の為、民の為に必要な事と理解して欲しい」
(出来るか馬鹿が)
「貴様が他の兵士達に我々の件を話せば勘の良い奴等は気付いてしまうだろう」
「なっ、何をで!?」
「最早言う事も無いだろう。貴様の犠牲により我が軍が時間を稼げればそれだけ我々の時間が多くなるという事だ。それはつまり王国にとって「バスッ、ブスッ」ほぐっ!?」
「「かっ、閣下!?」」
「こ、これは・・・矢?」
「は、腹に矢が?閣下?」
「馬鹿な!こ奴は弓など持っておりませんぞ!どこから撃たれてべぇ!?」グサッ
「貴様!「ズバン!」・・・」バタッ
「・・・貴様・・・雷魔導士・・・」
「ご名答」
「魔導士なら、何故、志願しない・・・」
「ん?魔導士部隊にか?誰がなるかあんなもん、使い潰されるだけだ。今みたいにな」
「ぐ、ぐふっ」
「抜けねぇぜ、その矢はな。特製だ」
「待て、私が居ないと王国は」
「お前等が俺を殺そうとしなけりゃ俺も殺す気は無かったがね。降りかかる火の粉は必要以上に消す主義なんだ」
「大義の為に」
「責任は取れよ、人の上に立つんならな」
「待」グサッ
「さてと。急いで収納して下に降りるか」
ソルトレイク軍左翼、クレティアン。
「展開しろ!全面攻勢に出ろ!ファナキアの負担を軽減しろ!」
ソルトレイク軍中央、ファナキア。
「敵中型船後続来ません!」
「組織的攻撃が薄くなってるわ!今の内に態勢を立て直せ!」
バウガルディ軍旗艦、船倉。
「待て!何者だ!」
「おっととと。俺は命令を受けて来た者だ」
「命令!?どんな命令だ!」
「結晶魔石の回収だ」
「回収ぅ~?」
結構な人数の奴等に怪しまれている。
「回収は旗色が悪くないと出ないはずだ。今まだそんな報告は受けていない!」
「と言われてもなぁ。俺も命令されただけだし」
「怪しいな!」
「あの黒煙が影響してるとしか」
「黒煙!?」
「あれ!?ここまで連絡来てないの!?本陣に火の手が上がってんだよ」
『何だってー!?』
「見に行ったら?」
「おい!お前!見に行ってこい!」
「畏まりました!」
ダダダっと1人が部屋を出て階段を駆け上がってゆく音がする。
ちょっとしてまた、ダダダっと部屋に帰って来た。
「まっ、マジです!マジで黒煙上がってますです!」
『マジか!』
「マジです!」
「マジなんだよ」
「という事は・・・負けそうなのか?」
「いや。まだそこまでじゃないみたいだけど、万が一を考えてって事で俺が来た訳」
「ふ~む。確かに。自爆用の火薬も海亀襲撃戦に持って行ってここに無いし」
「ぶふっ」
「ん、どうした?」
「い、いや。(自爆用だと!?それを先に言え危ねぇじゃねぇか!とするとさっきの爆発音と衝撃波は自爆?誰が!?)」
「なるほど。本陣で何かが起こっているのか」
「あと、命令符丁も、ほれ。これだ」
「ふ~む、これは緊急脱出用の符丁じゃないかな」
「そ~、そ~なんだよ!魔石を回収して緊急脱出しないといけないのよ!大変だなぁ!」
「まぁ、確かにな」
「緊急脱出ってあんまし人に言えないからね!君等も他の人達にみだりに喋っちゃ駄目だよ!」
「確かに。俺も乗せてけっていう忠誠心の薄い奴等が居るしな」
「そーそー!そいつ等に絡まれて魔石を奪われでもしたら俺の首が飛んじゃうんだよ!物理的に!」
「なるほどな」
「君等はそんな事言わないよな!俺が魔石の回収に来たって言っても「じゃぁ一緒に逃げるぜ」とか言わないよな!?」
「何を馬鹿な事を!俺達は忠誠心が篤いからここの番を任されたんだ!」
『そうだそうだ!』
「勿論そうだろうさ!でもシンファンの奴等みたいに裏切ったりする奴等が居る訳じゃない!?」
「全くな!あいつ等が侵攻してソルトレイク軍の背後を衝けば勝利は疑い無しなのに!あれ、ちょっと待て。お前黄色人種だよな。シンファンの関「あー!」」
「そーゆー事言っちゃうんだ!へー!あーそー!俺は忠誠心を買われているからこそ魔石回収役に選ばれてんだぞ!魔石を回収し、無事に本陣に送り届け、送り届けた後もまた何か命令されてそれでも不平不満を言わずにえっちらおっちら働き続ける。それもこれもどれもあれも俺が忠誠心に満ち溢れているからだ!お前等に負けない程な!」
「何を言う!俺の方が忠誠心は上だ!」
「いや俺だ!」
「いやいや!俺だ!」
「いーや!俺だ!見ろ!これは収納袋だ!見てろよ、ほーれほれほれ!袋より大きい物が入ってるだろ!」
「むっ!確かに!ん?あ、あれ?」
(やっべ!さっき殺した奴の頭だしちゃった!)
「今・・・」
「俺は信用されてこの収納袋を任されてんだ!俺の方が忠誠心は上ですぅー!」
「いーえ俺ですぅ!結晶魔石の番を任された俺の方が総大将に近いから俺ですぅー!」
「隊長隊長、そんな事より収納袋任されてんだから信じても良いんじゃないですか?」
「むっ、そうだな。お前の忠誠心は俺より下だが中々のものなのは分かった。符丁も持っている事だし良いだろう、魔石を預ける。大事に持って行ってくれ」
「俺の忠誠心はお前に劣るとも優らないものだが、分かった。引き受けよう」
「うむ。道中気を付けてな」
「気遣い感謝。お前等の武運を祈っている」
『がんばれよー!』
「お前等もなー!さらば!」




