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バウガルディ軍旗艦。
「敵中央旗艦!帆が炎上中!」
「よぉーし!敵の士気は確実に落ちた!旗艦が燃えているのだ!確実に落ちたのだ!」
「このまま作戦継続ですか!突撃した部隊は挟撃されて被害を拡大しておりますが!」
「そうだ!総大将さえ!総大将さえ殺れれば勝ちなのだ!このままファナキアを狙えぇ!」
ソルトレイク軍左翼、クレティアン。
「旗艦から伝達!自力航行不能!」
「・・・」
両軍の激突が激しさを増す頃、バウガルディの本陣。
「さっ、この位で良いかな」
「はい。相手の食料を盗んで残ったものは燃やす。ちょっと勿体ないですけど」
「まぁね。でももし僕達が勝って追撃をするんなら逃げる敵は食料が少ない方が被害も大きくなるだろうしね」
「はい。じゃぁ後は火薬と油を撒いて次に行きますか」
「うん、頼んだよ。僕はこの時限発火式オルゴールを、大体20分・・・15分後かな。ちょっと分かんなくなっちゃったな」
「感覚ですもんね」
「うん。やっぱり時計は作った方が良いな。ミキ達とのタイミング合わせも出来るから一気にドカンとやる時には必須だな」
「そうですね」
「太陽とか星の観測にも必要だから戦争が終わったら直ぐに作ろう」
「じゃぁ終わらせる為にも急いで次に行きますか」
「そうしよう」
ソルトレイク軍中央、ファナキア。
「敵船が前線を突破!またさっきのコースに入ります!」
「《投擲》用意!」
「《身体強化》!」
「さっきよりも近いです!」
「尚更好都合よ!」
「敵船速度増しました!」
「反撃を受けないようにって!?はっ!甘いわ!投擲!」
「ふん!」
樽が放り投げられた。
「続けて投擲!」
「ふん!」
火の着いた松明が放り投げられた。
「《ダンス・マカブル》!」
空中に放られた2つの物体。
ファナキアのスキルで樽は軌道を調整されバウガルディ船の空中へ、
松明も同じく船の上に移動したが松明は更に樽に近付いて・・・
ズガァアアアアアン
『ぎゃぁあー!?』
バウガルディ兵士達の上空で爆発した。
魔法詠唱の為に甲板に揃っていた兵士の体は衝撃波で引き千切れる。
辺りに腕や首などがゴロゴロと転がりボタボタと落ちた。
衝撃でマストも折れ、辺りには血の雨が降り注ぐ。
「踊りなさいな、地獄まで。私が案内してあげるわ」
バウガルディ軍本陣。
人目に付かない一角。
1人の男が4人の男装の兵士達に話しかけた。
「悪い悪い、待たせたね」
「何してたの?サーヤの話だとテント出てから用を思いついたって言ってどっか行ったらしいじゃない」
「あぁ。ちょっと見回って来た」
「何の為に?」
「馬が居ないと思ってさ」
「「「「馬?」」」」
「あぁ。こんな大所帯だと荷物の運搬に馬やラドニウスを使うだろ」
「でしょうね」
「居ないとどうなるの?」
「恐らくだが、馬は殆ど先の海亀襲撃作戦に投入したんだろう」
「「「「あ~」」」」
「だけどそれがどう影響するの?」
「こちらが勝てばの話だが、退却に苦労するだろう」
「ほほー。負けた上に徒歩で帰んなきゃいけないもんね」
「そうだな。追撃戦は我々に有利になるだろう」
「つまり、追撃戦で戦果を上げれば」
「バウガルディ王国に大ダメージを与えられ」
「今後数年間は戦争は無理になるだろうと」
「そういう感じだな」
「じゃぁ絶対勝たないと」
「そうねマヌイ」
「我々の潜入作戦が重要になってくるな」
「そう「ボゥワ」おっ!?」
そこから見える遠くのテントから火が上がった。
「始まったみたいだな」
「そうみた・・・めっちゃ広がるの早いね!」
「火薬を使ったからね」
〈火だぁー!火が出たぞー!〉
〈何だってー!?〉
ボゥワ
2つ目の仕込みにも火の手が上がった。
「ん~。やっぱり時間差が大きいな」
「やっぱり時計は必要みたいね」
「だな」
ボゥワ
「3つ目も成功だね!」
「よしよし。仕組みは簡単だから失敗の可能性も低いんだよね」
「あいつ等から奪った火薬もあいつ等に返せましたし、スカッとしますわ」
「全くだ」
ボゥワ
「4つ目確認。全部成功ね」
「大混乱になってるよ。ざまーみろ」
「でもあれ、結構な火の大きさになってない?」
「・・・なってるな」
「あの程度の火薬であそこまでの規模になるもんなの?」
「・・・まぁ、あの海亀を殺そうって程のもんだったし」
「・・・そっか」
「では次の段階に移りますか」
「我々は兵士に紛れて隙を見て放火していく」
「あぁ、俺はちょっと野暮用がある」
「「「「野暮用?」」」」
「あぁ」
「何?」
「敵の旗艦に行って来る」
「「「「旗艦に!?」」」」
「危険よ!」
「そうだよ!」
「そこまでする必要有りませんよ!」
「ここで本陣の破壊工作で十分だろ!」
「いや、旗艦には恐らくあれが有る」
「「「「あれ?」」」」
「水と風の結晶魔石だ」
「それを取りに行くって訳?」
「そうだ」
「「「「う~ん」」」」
「戦闘に行くんじゃなく、お宝を取りに行くだけだ」
「十分危ないでしょ」
「しかしその価値は十分にある。特に風の結晶魔石はドラゴンレディを更に強化出来る」
「「「「う~ん」」」」
「取りに行くだけよ、戦闘は回避してね」
「分かってる。本陣の火災で軍全体に動揺が広がる、そこを衝いて奪って来る」
「分かったわ、気を付けてね」
「君等もな、バレないのが第一だからな」
「「「「うん」」」」
一時の名残を惜しむ5人の兵士達。
その向こうでは盛大に燃え広がった火を前に右往左往する者達で溢れていた。
ソルトレイク軍中央、ファナキア。
「敵突撃中型船!我が艦に来ます!」
「白兵戦よぉーい!」
「白兵戦用意だ!」
「ファナキア様を中心に防御隊形!」
「盾となれ!」
「魔導士は下がって援護に撤しろ!」
ドドォオオオン
グラグラグラ
『うおぉぉぉ!?』
「来るわよ!盾隊!構え!」
『おぉー!』
「弓隊!絞れ!」
『おぉー!』
カツカツカツ
鉤縄が船首付近に掛かった。
『おりゃぁー!』
船首付近から兵士達が飛び上がって来た。
ヒュヒュヒュン
「あっ」
「うっ」
「おっつ」
矢が刺さって何人かそのまま落ちて行ったが何人かはそのまま船首に乗り込んだ。
「親衛隊だ!ファナキアが居るぞ!」
「ブッ殺せー!」
「やっちまえー!」
バウガルディの兵士達が盾隊に突っ込んだ。
ドガドガドガ
「《跳躍》!」
盾隊にぶつかった兵士の背を蹴って1人が跳んだ。
そのまま盾隊を飛び越え眼下にファナキアを視認する。
「死ねぇー!」
「《ダンス・マカブル》!」
ピシュン
首が飛んでファナキアの横に転がった。
辺りに血の雨が降る。
「更に敵中型船来襲!」
「うふふふ、久しぶりね。この感じ」
ソルトレイク軍左翼、クレティアン。
「味方旗艦!白兵戦に入った模様!」
「敵の動きを見逃すなー!動き出すはずだー!」
「しょっ、将軍!」
「どうしたー!動きが有ったかー!」
「う、動きというか・・・」
「はっきりせんかー!」
「てっ、敵の本陣から黒煙が上がっています!」
「黒煙!?」
見ると1本だけじゃなく何本か黒い筋が上がっていた。
バウガルディ軍旗艦。
「報告!」
「どうした!ファナキアを殺ったか!」
「いっ、いえ!本陣から火の手が!」
『何だってー!?』
「馬鹿な!」
総大将は船縁に駆け出し後方を見やった。
ドオオオォォォ
猛烈な勢いで簡易兵舎が燃えていた。
しかも1カ所ではない。
何箇所かが特に火の手が大きい。
更にそこより離れた位置からもこちらは小さいが燃えている。
「放火だ!失火ではない!あれは放火だ!」
『放火!?』
「裏切者が!?」
「だろうな!間諜だとしても1人2人程度の働きであんなに広範囲に放火できるものではない!クソったれが!」
「如何致しますか!」
「如何もクソも無い!このまま攻撃しろ!」
「宜しいのですか!?」
「我々にあの火をどうこう出来もせん!このまま攻撃しろ!ファナキアを殺すか!我々が殺されるか!2つに1つだ!腹を括れぇー!」




