④-07-64
④-07-64
先頭の馬車はそのまま昼休憩まで走った。
ムヒは2台目に拾われたらしい。
昼休憩にムヒが必死の形相で詰め寄ってきたが冒険者から事情を聞いた管理者に止められた。
ムヒからの仕掛けだったこともあり、ムヒは3台目に1人で乗ることになった。
「ゴリラ専用馬車かぁ~。うらやましいねぇ~」
「てっ、てめぇ!」
「ムヒ!また懲罰受けたいの!」
「ぐっ!ぐぅぅぅ」
「先輩も!」
「えー!あいつから・・・」
「ハウス!」
「何故だっ!」
その後は何もなく、無事野営地に泊まり、交代で夜番につく。
勿論僕達は寝る。
「ちょっと!あなた達も夜番しなさいよ」
「道案内は受けましたが護衛依頼は受けてません。別料金になります」
「くぅ!」
「払います?」
「払いま・・・せん!」
「お休みなさーい!」
「もう!」
(先輩。良かったんですか?)
(金にならん仕事はしない)
(安全が・・・)
(どっちにしろ俺の《魔力感知》で魔物は分かる。ムヒも、ここで俺を殺したら君達は逃げて当初の目的が果たせなくなる。殺人犯にもなるし。大丈夫さ)
(だといいんですけど)
明けて2日目。
当初の予定通り、昨日のようなトラブルもないため夕方には着いた。
馬車の残骸が残っていたのでその周囲にキャンプする。
冒険者はテントを設営し僕達は隠し場所に行く。
「先ずは素材からですね。木の上に縛っておきました。あれです」
「おぉ。ホントにあった」
「回収はお願いしますよ。じゃ次金品貴重品に」
《罠》と《隠蔽》を掛けてあった所に《罠》が反応する。
設置だけじゃなく見破ることにも使えるようだ。
罠を外して《隠蔽》も解除する。
「ここに埋めてます。どうぞ掘ってみてください」
「あなたが掘りなさいよ!」
「嫌でーす。案内だけですから別料金になりまーす」
「くぅ!」
ハリエット家の護衛が掘って無事目的の物が出てきた。
この世界の貨幣はそれぞれ同じような大きさで価値が10倍ずつ変わってくる。
動産としてはやはり優秀だ。
貴重品はそれなりの大きさなので多少嵩張る。
素材や調度品は大きすぎるので埋められない。
今回は貴重品は少なく調度品は無かったので助かった。
荷物を野営地に持って帰りハリエット家は取引内容と照らし合わせているみたいだ。
「この分ならサーヤの交渉は上手くいきそうだな」
「えぇ。特に大きく失ったものは無さそうですから」
「ヴィヴィエントみたいな大きな街の大きな商会じゃないから、日用品とか食料がメインみたいだね」
「食料は魔物や野生動物が食べて全滅ですからね、除外ですし」
辺りはすっかり暗くなって周囲の探索は明日にすることになった。
ハリエット家とギルド職員は何やら話し合っている。
照らし合わせのことだろう。
僕達は特にすることもないので早く寝ることにした。
翌朝。
ハリエットさんの遺体を見たいということで遺棄した現場に案内した。
僕達も冒険者と現場を調べて話し合う。
「かなり広範囲に散らばってますね」
「魔犬とかが食い散らかすんだよ」
「そうなんですね」
「この骨、肉が残ってねーだろ」
「えぇ」
「魔幼虫がキレイにするんだよ。やつらが出て来たって事は春って事さ」
「なるほどー」
「にしても多いな」
「8人分ですから。でも4日で白骨化ですか。すごいですね」
「あぁ。見ろよ。人間じゃねー骨も混じってるだろ。食ってる最中に襲われたんだな」
「弱肉強食ぅ」
「魔物に生まれなくて良かったぜ」
護衛と現場検証しているが、ブリトラさんとプリシラさんは顔が青い。
彼女たちにはきつ過ぎたようだ。
しかし夫と父親の死んだ土地だからだろう。祈りを捧げていた。
菊池君やサーヤも神妙な顔つきだ。
一歩間違えばああなってたのは自分達だったかも知れない。そんな気分だろうか。
荷物の検証も終えたらしい。
被害に遭った馬車の解体が始まる。
使える物は持って帰るとの事。
ブリトラさんが近づいてきた。
「エタルさんマキロンさん。この度はありがとうございました」
「ご愁傷さまです」
「はい。それで調べてみたところ、持ち出したお金と残金と荷物を照らし合わせまして大体合ってることが分かりました。夫が隠して持って出た分はやはり・・・」
「サーヤの」
「はい。そうなると思います。それで3割をお支払いする代わりにサーヤさんをということですが」
「はい」
「契約金が3割を超えてしまうのです」
「なんと!」
「ですが私どもの下に来ましても現状人は足りていますので開放と言う事にしたいと思います」
「ホントですか!?」
「はい」
管理者が割って入る。
「そういう事になったのでサーヤさんを契約満了で開放という契約をギルドで行うことになりました。ついては3人はこのままギルドまでご同行して頂きたいのです」
「分かりました」
現場から撤収することになり馬車に乗り込む。
俺は人に見られながら旅はしたくないので最後尾の馬車に乗った。
ハリエット家2人とギルド職員2人も同乗してきた。
護衛と冒険者は荷物を守るようだ。
馬車が来た道を戻り始める。
「エタルさん、マキロンさんこの度の数々の無礼、申し訳ありませんでした。ハリエット商会はグンナーでは大切な商会なのです。それで少しムキになってしまって」
「いえいえ。流れ者ですから怪しんで当然です。護衛なのにハリエットさんを殺めた冒険者のような輩もいますから。お気になさらず」
「そ、そう言って頂けると」
「いえいえ。僕達みたいなクソ生意気な若造が60万エナも持ってればあらぬ疑いを持たせること失念していましたよ。こちらこそ申し訳ありません」
「ううぅ」
「こんな怪しい冒険者なんかに宿なんか宛がわなくたって仕方ありませんよ」
「うぅー」
「バッグの中を全部ぶちまけて。えぇ、全然恥ずかしくありませんでしたとも。下着を見られても恥ずかしくありませんでしたよ」
「うあぁぁ」
「先輩!もういいでしょ!」
「フーンだ」
ブリトラさんが口を開く。
「こ、これからどうなさるおつもりですか?」
「グンナーには良い思い出が出来ましたので早々に旅立とうと思ってます」
「うわあぁぁ」
「こぉら!」
「これからは旅先で商人の荷物を拾っても全部自分の物にします」
「うわーん!」
「もう!泣いちゃったじゃない!」
「フーンだ」
「あの。是非私共の家にお泊り下さい。このまま他の街に行かれるのも・・・」
「いや。これからブリトラさん達は葬儀の準備やらで大変でしょう。ご遠慮しますよ」
「いえ。夫の仇を討ってくれた方、しかも荷も届けていただいて。大損害も免れましたし是非家にいらしてください」
「うーん」
「サーヤさんもいきなり解放されてもお困りでしょうし。しばらく3人でお泊り下さい」
「そうか。サーヤの事もあるな。マキロン?」
「良いと思います」
「ではご厄介になります。君もいいな?サーヤ」
「は、はい。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「で、ではしばらくグンナーで冒険者活動をされるんですね?」
「えぇ。そうなりますね」
「わ、私も本館にいるので何時でもお越しください。あ、これからはメネットとお呼びください」
「・・・分かりました。では管理者さんこの後の手続きについて・・・」
「うわぁぁぁん!」




