⑰-56-636
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「「「「空に魔力反応?」」」」
俺達は急いでテントの外に出た。
「どこ!?」
「あ、あれだ!」
「「「「ん!?」」」」
風船のような物の下に四角い物がぶら下がっている。
「「気球だっ!」」
「「「ききゅう?」」」
幹部幕舎。
「はぁー。本当は1人で楽しみたいんだけれど」
「そう言うな。皆で食事をするのも大事な事だ」
「私がレディーだと忘れているのじゃなくて?」
『はっはっは』
「赤将軍と同じ釜の飯を食った事、家族に自慢できますわい」
「然様然様。青将軍はテーブルマナーの方はイマイチで御座いますからなぁ」
「言いおる」
『はっはっは』
「赤将軍が持って来てくれた新鮮な物で兵達も気を新たに頑張れるというもの」
「我々は転戦続きですからなぁ」
「食べる事が何よりの娯楽で御座る」
「然様然様」
「山ブドウも有るから楽しみにしてなさいな」
『山ブドウ!』
「これはこれは!」
「そんな季節ですか」
「ふるさとの味ですなぁ」
「ふん。諸君らは流れ者であったろうに」
『・・・』
「ウルチャイ副官」
「・・・何か」
「副官は頬の穴を早く塞いだ方が良い、何か漏れ聞こえておるぞ」
『はっはっは』
「・・・」ギリッ
「はぁー。楽しみながら食事したいわー」
団欒中に衛兵が入って来た。
「失礼します」
「どうした」
「あの冒険者達が面会を求めております」
「あの冒険者・・・ウォーカーか?」
「はい」
「何用だ」
「急ぎ報告したい事が有ると」
「急ぎ、あいつ等が・・・分かった通せ」
「畏まりました」
「ここに通すのですか?」
「副官。ここは戦場だぞ。例え糞をしている時でも重要な報告は聞かねばならん。有用なスカウトからのなら尚更だ」
「・・・チッ」
「はぁー。他に例え話は無かったのかしら」
カズヒコ達が入って来た。
「お食事中失礼します」
「うむ。何か報告が有ると聞いたが」
「はい」
「そう・・・か。何で目を腫らしているのだ?」
「・・・食前に海亀様へのお祈りをしていた時に感極まって」
「もう良い。それで?」
「はい。恐らく敵の部隊だと思います」
「何!?スパイか!?」
「いえ、空からやってきております」
『空から!?』
幹部達が一斉に幕舎を駆け出た。
カズヒコが指さす方向を一斉に見上げる。
『何だあれは!?』
森の上空、風上から近付いて来る物体。
陽も水平線に隠れて黄昏時。
気球を初めて見た者達は戸惑っていた。
それはそうだろう。
空を飛んでいる人間はこの世界に来てから見た事も聞いたことも無い。
俺達以外に居るのも驚きだが俺に出来るのなら他の奴にも出来るのは当然だ。
という事はつまり・・・
(あれは転生者ね)
(先ず間違いないだろう)
(どうやって飛んでるの?)
(結晶魔石の感じ。恐らく火の魔石だ)
(なるほど。魔力を送って火を出してるのか)
ざわざわざわ
幹部達が出て来て騒ぐものだから周りの兵士達も騒ぎ始めている。
「あれは・・・何だ?」
「名称は知りません、初めて見る物なので」
「そう・・・だな。魔物じゃないのか?」
「人の気配が有ります」
「人!魔導具か!」
ざわざわざわ
騒然としている所に気球が岸辺に差し掛かった。
ヒュウウウン
ボワンンン
『おぉ!?』
火炎瓶を落とした。
船に直撃し炎上しだした。
「何だと!?」
「敵だ!敵襲!」
「船を燃やす気だ!」
「消せ!」
「火を消せぇー!」
「弓隊であの物体を落とせ!」
「弓隊を準備させろー!」
「無理だ!あの高さには届かん!」
「人だ!人が乗ってるぞ!」
「バウガルディの魔導具だ!」
「くそ!バウガルディのダンジョンにはあんな物が出るのか!」
「将軍!兵達に動揺が広がっております!」
「だろうな!ワシも驚いて糞が漏れそうだ!」
「ウォーカー!」
「赤将軍」
「あれは何なの!」
「私達も初めて見る物ですので」
「最初に気付いたあなたの見解を知りたいわ!」
「・・・火の結晶魔石を動力として浮かんでいるものと推察します」
『!?』
「魔導具なの!?」
「あれ自体は恐らく違うかと」
「どういう事だ!?火の結晶魔石で空を飛ぶなど聞いた事も無いぞ!」
「青将軍」
「火の結晶魔石で出せるのは火だ!それで何故飛べる!?」
「火で飛べるのなら火魔導士も飛べるはずだろうが!何を言っているのか!」
「おや。鼻息だけじゃなく頬息も荒いじゃないか。塞がってないようだな」
「何だと貴様!」
「止めろ!邪魔するな!殺すぞ!」
「クっ、クレティアン殿・・・」
「ウォーカー!貴様の考えを言え!」
「両将軍閣下。蝋燭の炎は通常、上を向きますね」
「「うむ!」」
「焚火の火も、料理の火も、食い物の恨みの火もみんな上に向かいます」
「「最後のは知らんが!」」
「火が上に向かうのではなく火で温められた空気が上に向かうからです。上に向かう空気を利用して飛んでいるものと思われます」
『?』
「「ふーむ」」
「お風呂の湯気が上に向かうのも同じ理屈!?」
「そうです」
「スープの湯気が上に向かうのも同じ事か!?」
「そうです」
「「なるほど」」
(この説明で理解した!?)
(いや、理解じゃない。納得したんだ)
(今目の前で飛んでいるのは事実)
(あちらこちらから神の業だとか奇跡だとかの声も聞こえる)
(幹部連中は理解できてないし寧ろ目の前で起きた事すら信じようとしていない中、)
(将軍の2人は神の奇跡と簡単に解釈するのではなく)
(人の技だと理解しようとしている)
(天才だ)
(やはり天才だ)
(俺が同じ立場なら神の奇跡だと思うだろう)
(いくらスキルの力が有ろうが空を飛んでいる者は居ないのが現実)
(意志の力がスキルや魔法に影響を及ぼすこの世界)
(神の為す業だと言われた方が納得がいく)
(目の前の現象を敵の能力だと理解しようとする姿勢)
(リーダーだ)
(そして天才。だからこそ恐ろしい・・・)
この間にも火炎瓶が落ちていっている。
「ウォーカー!」
「はっ」
「理屈は良いわ!要は対処出来るかよ!」
「空気を使って飛んでいる以上、そこを邪魔すれば落ちるものと推察いたします」
「どうやってやる!?矢は届かんぞ!」
「飛ぶ以上あの物体は軽くなければなりません。お聞きしたいのですが、素材に耐性強化系や軽量化系を併用する事は出来るのでしょうか」
「そもそも併用が難しいけど1種類が基本ね!」
「うむ!1つの素材に幾つもの魔法付与をすれば効果はそれぞれ減少する!」
「1つのリソースを食い合ってる感じでしょうか」
「「そんな感じだ!」」
「であれば、もしあれに魔法付与されているとして、付与されているのは恐らく軽量化系でしょう」
「「そう思う!!」
「レイヴ!」
「「?」」
「クァー」っとレイヴが俺の左手に降りてきた。
注:実際は温められた空気が膨張し気球の中から冷たい空気が出て行く。その分軽くなって外の空気より密度が低くなり浮力が生まれる。蠟燭の火とは少し違うがこの時カズヒコはこの時代に合った説明をしたのだ。




