⑰-50-630
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「・・・どういう事?」
「血雨将軍の向かう所、血の雨が降る。今回は運良く降る前に雨宿り出来たようですがね、はっはっは!」
『・・・』
ファナキアの目が少し細まった。
「彼等に対する扱いに関してなら、申し訳なかったわ。そこは謝罪させてもらうわね」
「あ、赤将軍!」
「副官、口を挟むんじゃ、挟まないようにね」
「は、ははっ・・・」
(・・・思ったより深刻な雰囲気だ)
(てっきり虹の騎士同士は仲が良いものだとばかり思っていたが・・・)
(・・・ヤバいかもしれん)
「バウガルディ・シンファン連合軍が海亀を襲った件は」
「報告を受けているよ」
「その件に関しての重要参考人なのよ」
「その重要参考人が何故戦争に?」
「詳しくは言えないのだけれど、スパイ疑惑が有ってね」
「成る程。明かす為にも参戦と」
「えぇ」
「では尚更私の陣営で参戦したら良い。私は彼等とドゥムルガ戦役で一緒に戦っている。赤将軍よりも彼等の戦い方を知っているので上手く扱えるだろう」
「詳しく言えないと言ったでしょう。だから私の近くに置かなければならないのよ」
「また元老院かな?」
「クっ、クレティアン殿!」
「おやおやおや。そちらの副官は元老院の、赤将軍もやり難い事ですな」
「・・・」
「クレティアン殿!」
「ファナキア、これは戦争だ。一歩足を踏み外せば何十何百の人間が死ぬ。元老院のちょっかいで勝てる戦も勝てなくなる」
「クレティアン。事情が変わったわ」
「事情?」
「チリメン商会に通じていたと思われる官吏。主だった者達が自殺した」
クレティアン勢、カズヒコ達 『げっ!?』
「自殺だと!?」
「えぇ。伝達が有ったわ」
「者達、達?」
「えぇ、複数。10人以上よ」
「馬鹿な!1人ならまだ分かるが10人以上!?恐らく金の為に不正をした奴等が自殺!?逃げるなら分かるが自殺とは」
「えぇ、私もそう思うわ」
(同感だ。恐らく小遣い稼ぎの為に不正した奴がまさかの大事になって怖くなって自殺?1人くらいなら分かるが10人以上?逃げる奴も居るだろう、俺なら逃げる)
「監視は付けていたのだろう?」
「勿論よ。諜報員と接触するかも知れないし。しかしまさか自殺するとは思っていなかったらしいわ」
「・・・まぁな」
(確かに。現に皆も驚いている)
「それで、事情とは」
「今回の同時多発自殺騒動。これは殺人事件として捜査するそうよ」
「だろうな。元老院が口封じの為に殺したんじゃないのか」
「クレティアン殿!言って良い事と悪い事が有りますぞ!」
「ドゥムルガ戦役援軍の時、元老院が何をしたのか知っているだろう、ファナキア」
「・・・」
「編成の邪魔をされたな。我々は500人だけで向かわねばならなかった。大公殿下からは労いの言葉を頂いたよ。まだ若い、就任直後の10代の大公殿下だ。心の底から援軍有難うと思っていたのだろうが幕僚達は・・・顔には出さなかったがね、少ないと思われていただろうな」
「・・・」
「人口世界最大のアクアパレスで援軍が500だ。微妙な空気の中、我々は戦った。幸い野戦で勝ち、要塞も落とす事が出来た。しかし戦争だ、犠牲も出る。私の部下も死んだ。そしてファナキア達、他の虹の騎士の部下もな」
『・・・』
「聞く所によるとアクアパレスでも宴が有ったそうじゃないか。戦勝、並びに要塞を落とした事への」
『・・・』
「1番はしゃいでいたのが元老院の方々だとか。酔いつぶれて寝てしまう者も出たそうじゃないか」
『・・・』
「我々の部下は2度と目覚める事は無い眠りに落ちたがね。ファナキア、お前は酔えたのか?」
「・・・」
「その自殺騒動は赤将軍がアクアパレスを発ってから起きたのだろう?」
「えぇ」
「ならば実行者は彼等ではない、違うかな」
「実行者では、ね」
「計画者だと?尚更怪しまれる行動はしないと思うがね」
「だからこそ私の直下に居るべきなのよ。それが潔白の証にもなるでしょう」
「はっはっは!暗殺の可能性を残してかね」
「暗殺ではない!監視です!」
「監視者はどうなった?」
「ぐぐ・・・」
「労いの為に夢の国へ連れて行かれたそうじゃないか」
「ぐぐぐ・・・」
「結果的に赤将軍の面子を潰した訳だ。情報部には赤将軍への不信感を与えただろう、他の部署にもな」
「はっ!?」
「たかが冒険者に逃げられた。部下を簀巻きにされてな。軍でやってはいけない事の1つは上官への不信感を与える事だ。何故兵士が上官の命令に従うか、その命令で勝てると思ってるからだ。上官に不信を抱いた兵士が命令に従うか。初めての戦争で舞い上がって考えなかったのかね、赤将軍の副官は」
「うぅ・・・」
「彼等は赤将軍の下ではその力を十分発揮することは難しいだろう。私の下に居る事がこの戦争に勝つに必要な事だと思うが」
「・・・良いわ。彼等はクレティアン卿に預ける事にする」
「結構!」
「ファナキア殿!」
(良し。先ずはと言った所か)
「しかし総大将は私、赤の騎士が務めるわ」
「勿論、陛下からの命令だ」
「で、であれば命令で奴等を!」
「引っ込んでなさい」
「ぐっ」
(ん?どうした、食い付いて来るな。今までもファナキアに逆らって口答えしていたが。さっきの援軍の話では元老院が援軍の数を減らしたらしい。奴は元老院派。気後れしそうなものだがあそこまで食い付くのは更に肩身を狭くするだけだろうに)
「君等はこれから青将軍預かりとなった。私の下で存分に働いて欲しい」
「「「「「畏まりました」」」」」
「ぐぐぐ・・・」
(あいつが悔しそうだな。これはもう一声行けそうか?)
「青将軍、現状を」
「現状。対岸のバウガルディ軍は開戦時から積極的な攻勢には出ていない。尤も、いつも通り開戦というものは無く大規模な戦いにはなっていないがね。偵察部隊同士の散発的な戦闘が起こっているだけだ」
「情報封鎖の方は」
「十分だ。今回多くの志願兵の中から鷹や梟持ちも居た。多くの鳩を捕らえている。対岸からのがメインだ、南からはあまり無い」
「海亀襲撃軍は壊滅したからね。飛ばす暇も無かったようね」
「その様だ」
「結構。女王陛下から決戦の命を受けている。これが命令書よ」
「・・・確認した。我が軍は赤将軍の下に入りバウガルディ軍と決戦する」
『ははっ!』
「しかし決戦とは」
「するまでも無く現状維持していれば勝てるのに」
「全くだ」
(クレティアン陣営からは不満の声が上がっている。無理もない。ドゥムルガ戦役で必死こいて戦ったのにまたここで戦争、連戦だ。しかも援軍の邪魔をした元老院は要塞奪取の祝宴で酔いつぶれたらしい。更に海亀襲撃事件で醜態を晒した。決戦をする必要が無いのにせざるを得なくしたのはチリメン商会を認可した元老院派だ。決戦する原因の奴等が戦わず要塞奪取の功労者がまた命を懸けて戦わなければならない。理不尽だよな、分かるよ。しかし普通なら声には出さないが敢えて声に出しているのは元老院派の奴等が居るからだろう)
『・・・』
(ウルチャイとその取り巻きが居心地悪そうだ)
「まぁまぁ諸君。これは女王陛下の命令だ。アクアパレスのみならずソルトレイクの為にもう一肌脱ごうではないか」
『青将軍の為に、女王陛下の為に』
「うむうむ」
(・・・主導権争いか。一応ファナキアが総大将だが今日までここに滞陣していたのはクレティアン軍だ。更に要塞奪取した。一方ファナキアはアクアパレスに居た。勿論何の仕事もしていない訳じゃぁないがそれでも実戦を続けてきたのは俺達だという事だろう)
「その通りよ。私達は協力してこの国難を乗り越えなくてはならない。ルンバキア、ベオグランデ両公国は北部の南下を阻止した。ベルバキアのアレクサンドリア復活戦争も終結し南部同盟を維持すると声明を出した。我がソルトレイクもバウガルディ・シンファン連合軍を壊滅させ海亀を救出。塩会議で2国を弾劾出来る材料を得たわ。この決戦でバウガルディに痛撃を与えれば塩会議で有利になるでしょう」
(・・・大義という奴だな。何故戦うのに大義が必要になるのか。民衆は、特に若い奴等は理想や夢とか、そんなのが大好きだ。女王の為にとか国の為にとかそんなのが大好きだ。そういう奴等が大義に集まる。大義の旗の下に。人が大勢集まれば戦争も有利になる。資本主義とか共産主義とか王政とか共和制とか関係無い。結局は民衆の大多数が支持するか、或いは受け入れるかどうかだ。少数派が反対を訴えても国賊とか非国民とか大多数の意見に圧し潰される。大義という人に造られた神によって)
「今後に向けて軍議を開くわ」
「その前に!」
『ん?』
「冒険者に聞かせる話では無いと思いますが!」
「構わない。彼等とはドゥムルガ戦役で一緒に戦って信用出来る事を私が保証しよう。それに腕が立つのは赤将軍も納得の事だと思うが」
「・・・そうね」
「しかし!」
「彼等に仕事をさせるのなら戦争の方向性、並びに主体性の確立が必要だ」
「主体性?」
「彼等は冒険者でありパーティだ。依頼任務をさせるのならパーティでという事になるだろう」
「あ奴等独自に行動させる気ですか!?」
「故に主体性が必要なのだ」
「反対です!」
「理由は」
「冒険者だからです!」
『・・・』
(こいつ・・・クレティアンも元は冒険者だって知ってて言ってんのか?)
「10年前のギルドウォーで世界中が戦争になった!冒険者の強欲が招いた戦争です!勿論我が国にも大変な被害を齎した!普段は従順そうな皮を被っているがいざの時には化けの皮を脱いで本性を現す!好き勝手にやらせればどんな結果を招くか!冒険者に信を置いてはなりません!」
(なるほど、お互いにな)
「ギルドウォー・・・世界に被害を齎した、か。しかし我が王国でギルドウォーの後で力を増した者達が居る」
「クレティアン!」
(?)
「元老院だ。何故か彼等は金が増え、政敵が死に、王国に於いて発言力が急増した」
「クっ、クレティアン殿、そ、それは・・・どういう・・・」
(なる・・・ほど。ギルドウォーは表面上は冒険者同士の戦いだった訳か。裏では貴族やら権力者が金や利権なんかを巡って争っていたって事か。そしてその結果元老院はその戦争で勝ち王国内で発言力が増した。ありそうな事だ。ありそう過ぎて疑う余地すら感じない程に。余計な事を知ってしまった感は有るが何故俺達にも聞かせる?元冒険者だからか?)
「10年程前か、君は10代前半と言った所かな。家の様子は戦争前後でどうなったか、戦争中はどうだったのか、覚えているのかね」
「クレティアン!そこまでよ」




