④-06-63
④-06-63
「もう先輩!挑発し過ぎですよ!」
僕達3人に1部屋を宛がわれ食事と風呂をごちそうになり、今は寝る前となっていた。
「ん?そうか?ただのじゃれ合いだよ」
「向こうは本気でしたよ!」
「嘘だろ。あの程度で?管理者だぞ」
「・・・あの、私もハラハラしてました」
「第3者もあー言ってるんだし、そうなの!」
「そ、そうか・・・」
「無駄に敵作ってどーすんですか!」
「すまん」
「目立たず生きていくって決めたでしょ!」
「・・・ごめんなさい」
「ちょーしに乗ってんじゃないっスか!?」
「た、確かに・・・マクロンから逃げきって調子に乗ってたかも」
「逃げた先でトラブル起こしちゃー、意味ないっしょ!!」
「はい・・・仰る通りです・・・で、でも」
「で・も?」
「で、でも・・・あの受付嬢が泣いたのは俺のせいじゃないと思う・・・思います」
「それは・・・私もそう・・・思いますね」
「うーん、まぁね」
「その後のムヒって奴も。降りかかる火の粉を払っただけで・・・」
「「ぶっ」」
「それそれ!君達も名前聞いて吹いてたじゃないか!」
「ま、まぁ。名前がねぇ」
「そ、そうですよねぇ」
「ムヒは俺が受付嬢を泣かしたって勘違いして突っかかって来たんだ!俺は悪くない!」
「悪くはないけど良くもないでしょ!」
「えー!」
「そこを口八丁手八丁で丸め込むのが《隠蔽》マスターのエタルでしょ!」
「うぐ・・・お、仰る通りで」
「じゃぁこれからはトラブル避けてトラブル作らないように!いいですね?」
「次の街からでお願いします」
「は?」
「この街ではもう無理だと思います」
「いやいやいや。こっからよ!こっから世間を騙していくのさ」
「騙すって言っちゃった・・・」
「先輩の処世術の真骨頂でしょう?ここからですよ」
「や、やるだけやってみます」
「やってみるんじゃなくて、や・る・の」
「ううぅ・・・」
「あ、あの、マキロンさん。これ以上追い詰めても・・・」
俺は服を脱いで下着だけになって床に大の字になった。
「ころせー!出来ねぇーもんは出来ねぇんだよー!もういっその事ころせー!」
「「こどもかっ!」」
「しかし良く魔法図鑑バレませんでしたね」
「あぁ表紙を偽装しておいたのも良かったんだろうな」
「のも?」
「あぁ」
「でも無罪の証明って、金品貴重品が見つかるの前提ですよね?大丈夫なんですか?」
「任せろ」
「?」
(埋めた所に《隠蔽》と《罠》を仕掛けといた)
(な、なるほど。でも大丈夫ですかね)
「食料じゃないから臭いも無いし大丈夫さ」
「なら良いんですけど」
「あ、あの!」
「「ん?」」
「私を開放する・・・って・・・」
「あぁ。そうだったね。君はもう十分働いたんだ。奴隷から解放されても良いだろう?そもそも違法に奴隷にされたんだ」
「私が・・・自由に・・・」
「そうだ。君は自由になれる・・・かも」
「かもって、かわいそうでしょ」
「金額次第だから、それは何とも言えんな」
「まぁ、そうですね」
「急に自由になるのも困ると思うし、まだ自由になると決まった訳じゃないし。今後の身の振り方は後で考えるとして今はゆっくりお休みよ」
「そう・・・ですね。はい」
「さぁ、そろそろ寝・・・へぇーっくしゅん」
「「服着たら」」
その日は朝早くから用意をし、しばらくしてから出発となった。
ギルドが冒険者を護衛として雇ったためだ。
ハリエットさんの荷物用2台とギルドが用立てた人員用1台の計3台の馬車で行く。
当初奥さんのブリトラさんだけで行く予定だったのだが娘のプリシラさんが駄々をこねて同行することになった。
ハリエット家2名にお抱え護衛2名。
管理者とお付きの2名に護衛の冒険者4名。
僕達3名に御者を入れた計16名の大所帯となった。
「はぁ。馬車が嫌で徒歩で旅をしたのに・・・何の因果か」
「ホントですね、はぁ~」
「ちょっとあんた達は別々に乗りなさいよ!丁度3台有るんだから!」
「じゃぁ、この街を観光して出ていくかマキロン」
「観光する所ないからもう出ていきましょうよ!」
「だな!サーヤも付いて来い!次の街で美味しい物食べようぜ!」
「わーかったわ!分かった!一緒で良いから乗って!」
僕達は道案内の為先頭の馬車に。
ハリエット家とギルド職員は2台目に、3台目は御者だけだ。
「てめぇ、余計な真似したらブッ殺すからな」
一緒にムヒ等冒険者も乗ることになった。監視役だな。
一応バックパック含め全ての荷物を持ってきている。
前回みたいに日帰りであればいいが今回は3,4泊くらいするのだ、全財産を置いて行けない。前回と言うのは勿論ジャンの件だ。
門を出る時に事情を話したのであろう、身分チェックはされずに通された。
泊まりの旅でもあるため幌を付け馬車は昨日来た道を行く。
「良い天気だ。今日は降らなさそうだな」
俺は再後尾に座って外を眺めていた。
後ろにはハリエット家とギルド職員が乗った馬車が続いている。
俺の前に座っている冒険者が話しかけてきた。
「あんたどっから来たんだい?」
「東からです」
「武器はそのショートソード?」
「えぇ。そう言えばこいつとはもう長いな」
コローで買って以来の相棒だ。
マイタケには全く使わないからゴブリンや魔犬、魔幼虫くらいか。
そういやもう直ぐ1年か・・・
「お兄さんは槍ですか」
「あぁ、まぁな」
狭い馬車内で槍は使えない。
槍は床に置いて手元にナイフを持っている。
「地元の方ですか」
「いや。元々は北だ」
「北?あまりいい噂は・・・」
「ははは。そこまで北じゃねぇよ。悪い噂は更に北だ」
「へぇ」
「ある程度行くと国柄がガラッと変わるから直ぐ分かるよ」
「じゃぁ、その直前まで行ってみるのもいいですね」
「あぁ。ホント、境界が分かるよ」
「おい!そんな奴とくっちゃべってんじゃねぇ!」
「この辺の魔物って喋るんですねぇ」
「な、なんだと!?」
「この辺の魔物は喋るし武器も持ってる・・・と」
「て、てめぇ!そりゃ俺の事か!?」
「周り見ろよ。他に誰がいる?」
「て!てめぇ!」
「おい!やめろ!ムヒ!車内だぞ!」
「うるせぇ!ブッ殺してやる!」
俺は後部に立った。
「でっけぇゴリラが狭い車内で喚くなよ。迷惑だぜ?」
「こっ、殺す!」
「やめろって、ムヒ!」
「があああ!」
飛び掛かるムヒ!
《見切り》で見える!
俺に掴みかかろうと前のめりに突進してくるムヒ!
俺は余裕で躱し足を引っかける!
足が引っ掛かってそのまま馬車から飛び出すムヒ!
「うあああぁぁぁ!」
地面にゴロゴロっと転がるムヒ!
それを間一髪躱す後続車。
「あぶねぇ!?」
後続の御者が叫んだ。
「おーい!何かあったのか!?」
俺達の御者が前から聞いてくる。
「何も!このまま進んでくれ!」
「あいよー!」
「えっ!?止まらねぇの?」
「あいつがいる方が危ねぇよ」
「・・・それもそうだな」
どうやら他3人の冒険者は特にムヒと親しいわけではないらしい。
さらば、ムヒ!