⑰-49-629
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「という訳でして・・・」
「ふ~む」
俺達はクレティアン卿と対面していた。
「なるほど。君等は私に会おうとしたがファナキアが会わせなかったと」
「機密と言われまして」
「まぁ、焼かれた紹介状など怪しさしかないからな」
「えぇ」
「海亀の事は報告を受けていた。しかしそういう事情が有ったとは。それで決戦の命令が有ったのだな」
「僕達はみんなの為に命を懸けてきたのにあの副官の扱いに途方に暮れて・・・」
「ふっ。ドラゴンバスターの台詞ではないがね」
「何の事でしょう」
「大丈夫だ。ここに居るのは知己の者ばかりだ」
「ドゥムルガ戦役でお会いしなかった方々も居られますが」
「事情が有って少数での援軍となったのだ。その辺、予想出来ているようだが」
「元老院ですか」
「口外はしないようにね。君等の為だ」
「畏まりました」
「とは言え、相手は副官、何か考えないとな」
「ファナキア様は僕達をクレティアン様に送ると仰っておりました。なのでここに居るのは自然な流れかと」
「無断で抜けてか?」
「僕達は暗殺者に狙われたのです。あの軍隊には居られません」
「簀巻きにしておいてかね。苦しいな」
「戦争に参加するよう言ったのはファナキア様です」
「そこを通すしかないか。良いだろう、後はなるようになるだろう」
「宜しくお願いします」
与えられたテントの中。
「何とか捕まらずに済んだわね」
「冷や冷やだったよ」
「でもファナキアが来てからが本番ですよ」
「一波乱起きるな」
「抜けて良かったの?まだ従軍してた方が良かったような」
「今更だよ」
「そうですわ」
「準備が有ると言っていたが、その為なのだろう?」
「あぁ。僕達2人は泳げるが・・・菊池君、泳げるよな?」
「えぇ、大丈夫よ」
「君等3人はどうだ?」
「「「泳いだこと無ーい」」」
「ケセラもか」
「魔物が居るかもしれない中で裸になる事はないな」
「泳ぎの練習って事?」
「そうだ。それに僕等2人も練習をしないと駄目だ」
「泳げるのに?」
「この装備を着たまま泳ぐんだ、今ケセラが言ったろ」
「・・・なるほど。私達は水着を着てでしか練習しなかったものね」
「船から落ちた時を想定してって事?」
「その通りだ、流石マヌイ」
「えへへ」
「僕達は軽装備、ケセラも盾役とは言え金属鎧ではなく大ムカデの殻の魔導具で軽い。陸での戦争なら経験したが水上戦は初めてだ。最悪水に落ちても浮かんでいれば助けられる」
「なら救命胴衣とか作った方が良いんじゃない?」
「そうだな。馬車の車輪補修用の魔物の皮が有っただろ。原理は同じだ。空気を入れて使う」
「後でデザインしましょう」
「うん!」
「それと筏も改良したい」
「筏も?でも私達将軍の船に乗るんじゃないの?」
「なんか有った時の為に脱出用に持っていた方が良いだろう」
「そうね、そうしましょう」
数日後、ファナキア率いる援軍が大河滞陣中の本隊、クレティアン軍に合流した。
一般兵士達がテント造営に取り掛かっている中、ファナキア以下幕僚はクレティアンが居るであろう本陣に向かう。
その途中、大河の景色に目を奪われる者が多い中、その内の誰かが見付けたようだ。
「あっ!?」
「どうした」
「あれ!」
その者が指し示したのは川岸。
陣は川から離れた高地に位置しており、その様子にも気付けたのだろう。
川岸に人だかりが出来ており、人だかりの先には河で泳いでいる者がいるようだ。
「あいつ!」
その様子を望遠鏡で確認した者が叫んだ。
「あいつ等です!脱走した冒険者です!」
「何だと!」
ウルチャイが激高した。
「あいつ等!脱走した上に川遊びとは!許さん!」
「お止めなさい」
「しかしファナキア殿!」
「止めろと言ったのよ、聞こえなかった?私の言葉が聞こえない耳なんて要らないわね?」
「うっ」
「行くわよ」
「・・・は」
「やはり本隊に合流しておりましたな」
「あいつ等は北部に何らかの恨みが有ると言っていた。そこが嘘ではなかったのならここに来るだろうとは思っていた。でなければ1000人も居る中に潜入しようとは思わないわ。クレティアンの紹介状も持っている。彼の所に向かったと思うのが自然ね」
俺はびしょびしょのまま岸に揚がって河を見ていた。
「まぁ・・・広いが塩湖を見た後じゃぁそれ程でもないかな」
幅数百mの大河だ。
向こう岸も見えておりそこには船も見えている。バウガルディ軍のだ。
〈脱いじゃえよー!姉ちゃん達よー!〉
〈俺と一緒に泳ごうぜー!〉
〈ヒューヒュー!〉
外野が煩いな。
いつも着ている装備を着けたまま泳ぐ練習をしていた。
クレティアンの許可は貰っていたがこの様だ、少し目立ち過ぎてしまったかもしれない。
彼女達は泳ぐというより浮く練習をしていた。
装備を着たまま浮くのも布が体に貼り付いたりそれが抵抗になったりで難しい。
急遽作った救命胴衣を着けているので事故は起こらないだろう。
とは言えこの大河、流れが遅い。
多くの船が岸に繋がっていてその合間で練習しているのでここら辺は水面付近の流れはあまり無い。
しかし浮いているだけでも体力は使ってしまう。
菊池君が揚がってきた。
「ぜぇぜぇ・・・」
「しんどそうだね」
「普段使わない筋肉を使ってるからね・・・ぜぇぜぇ」
「全身の筋肉を使うらしいからな、水泳は」
「その上この装備が水を吸って・・・重い・・・ぜぇぜぇ」
「インナーのサーペント装備は水を弾くがジャケットとかがね」
「これ、武器持ったままって無理よ・・・」
「だな。両手をフリーにしとかないと無理だな」
「船から落ちたら危ないわね。流れも速いし。見た目遅いけど実際泳ぐとなったら速いわ」
「あぁ、水全部が押し寄せてくるからな。所で自転車の駆動部分を木で作ってみてくれないか」
「ぜぇぜぇ・・・試作品?」
「あぁ。木はそこら辺にある奴をちょろまかして来るからさ。何か収納袋の素材がちょいちょい無くなってるんだよな。使った記憶は無いんだが・・・使ったのかな」
「見付からないようにね」
「任せとけ。夜の脱出も僕の《偽装》と土魔法の足音の相殺でラドニウスも連れて来られたろ」
「ぜぇ」
「浮いてるだけでもしんどそうだな。泳ぐなんて滅多にないから水が怖いんだろう」
「マヌイは大丈夫そうだけど・・・」
「水魔法使ってるよ」
「こらー!」
「いっけね!」
「真面目にやりなさーい!」
「はーい!」
「お前も泳いでみるか?」
「ノ~」
「猫用の救命胴衣か、必要か?」
「ノ~」
「ウォーカー!」
「ん?」
「クレティアン様が御呼びだ!」
「やれやれ、お出ましか」
水から揚がり、着替えて本営に向かう。
役者は揃ってるようだ。
煩い奴もな。
「失礼しまーす」
ギロリ
ファナキア陣営が俺達を睨む。
特にウルチャイの目が血走っている。
「来たわね」
「これはこれは、赤の騎士様」
「相変わらずの白々しさね」
「川から揚がったばかりでして、体温が下がっております申し訳ありません」
「貴様!」
「キャイ~ン。またハラスメントですかぁ~」
「貴様ぁー!」
「青将軍。彼等がここに来た経緯を?」
「勿論存じておりますよ。元々赤将軍が彼等を私の下に送る予定だったそうですな」
「(・・・確かに言ったわね。成る程、その線で行くのね)その予定だったのだけれど海亀の一件でそれは変更になったのよ」
「変更になった?」
「総大将直下にするわ」
「それは困りますな。元々彼等を呼んだのは私です。確かに紹介状の件は仕方ないとしても海亀の件で彼等の腕は証明されたのでは」
「その海亀の件で色々有ってね」
「総大将直下にしたと」
「えぇ」
「しかし暗殺とは、穏やかではありませんな。いつもの赤将軍らしいと言えばらしいですが」
『・・・』
(だっ、大丈夫かな・・・)




