⑰-45-625
⑰-45-625
翌日、
ファナキアに呼ばれ部屋に居た。
窓のある部屋だ。
窓の向こうでは兵隊が日の下で歩き回っている。
「そんなに外の景色が好きなの?兵隊だけしか見れないじゃない」
「窓が有ると安心しますね」
「・・・でしょうね。明日出発するわ」
「急ですね」
「もう分かってるみたいだから言うけど、決戦の為よ」
「海亀様がご健在なのを知られる前に、という訳ですね」
「えぇ。知られたら退却するでしょうしね」
「決戦する必要も無いのに」ボソッ
「何か言ったかしら」
「いえ何も」
「出発する前に渡しておくわね」
「?」
「出して頂戴」
「畏まりました」
側に控えていた部下に合図を送って机に薬品が出された。
「早いですね」
「昨日の件もあってね、直ぐに用意させたのよ」
「何の事ですか?」
「何でも無いわ、遠慮なく受け取って頂戴」
「勿論遠慮なんかしませんよ、この薬品が無ければ海亀様はどうなっていた事やら」
「・・・もう少し処世というものを考えた方が良いのじゃない?」
「貴族のですか?ふんっ」
「・・・鼻であしらうって・・・まぁ気持ちは分かるけども」
「ふんっ」
「はぁ、どうやら嫌われたようね。所で聞きたい事が有るのだけれど」
「何でしょう」
「ベラムの街で数日前に不審者を保護したの、スラムでね」
「ほぉ」
「不審者の身元に心当たりはないかと思って」
「有る訳ないでしょう、品行方正な健康優良不良冒険団ですよ僕らは」
「「「「「・・・」」」」」
「海亀様の件に関係してるんですか?」
「えぇ、その様ね。不審者も冒険者だと名乗ったらしいわ」
「ほぉ」
「ただちょっと、普通じゃなくてね」
「普通じゃない?」
「えぇ。酷く恐ろしい事に遭遇した所為か錯乱状態で」
「ほぉ」
「恐ろしい事って言うのも、あの辺、見付かった所、スラムでしょう?貧民達に身包み剥がされた状態だったのよ」
「あらまぁ、可愛そうに」
「冒険者だから普通なら簡単に身包み剥がされる事は無いんだろうけど」
「ふむふむ」
「目がね、無かったのよ、目が。抉り取られちゃったんだって」
「「「「ぶふっ」」」」
「だから簡単に身包み剥がされたんだって」
「ほほー、可愛そうに」
「・・・知らない?」
「は?」
「冒険者に心当たり無いかしら」
「それだけの情報だと全く」
「・・・他にも湖岸で浮いてる土左衛門も発見されてるの」
「ほぉ」
「同じ様に身包み剥がされて」
「ほぉ」
「同じ様に目も抉られてたらしいわ」
「「「「ぶふっ」」」」
「そいつも冒険者なんですか?」
「いえ、身包み剥がされてるから分からないわ。でも体つきからそうじゃないかって、ね」
「・・・まさかファナキア様は彼女達を疑ってるんですか?」
「「「「はい?」」」」
「い、いえ。どちらかと言うとあなたね」
「失礼な!僕なら殺しますよ!殺した後は収納袋に入れます!」
「そっ、そうよね。その方が事件発覚しないし」
「当り前でしょう、何を言っておられるのか。それでその冒険者はまだベラムの街に?」
「えぇ。でも死んだらしいわ」
「死んだ?」
「ショック死らしい、保護されて緊張の糸が切れたみたいに、ね」
「あらまぁ可愛そうに。見舞いに行っても宜しいでしょうか、土左衛門も一緒に。同じ冒険者として身につまされる思いです」
「北部戦線で偲んであげて。丁度大河があるから」
「戦争前に不吉な事を言わないで下さいよ」
「戦争から逃げようとする人が何を言ってるのかしら」
「それでその冒険者は海亀様と何か関係があったのですか?」
「今の所は何も」
「1つご助言を宜しいでしょうか」
「勿論よ」
「ベラムで捕らえたチリメン商会の連中に照会させてみてはどうでしょうか」
「・・・分かったわ。ちょっと、手配しておいて」
「畏まりました」
「向こうに着いたらの事だけれど、あなた達には〈お待ちください!〉?」
〈今将軍は面会中です!〉
〈構わない!副官に任命されたのだ!当然会う必要が有る!〉
「はぁ、今来なくても良いでしょうに」
「?」
「たん瘤・・・新しく任命された副官よ。元老院の肝入りの」
「へぇ」
「だから後でって考えてたんだけど、まぁ仕方無いわね」
「はぁ」
ガチャッ
「しょっ、将軍!ウルチャイ様が!」
「聞こえてたわ」
「赤の騎士殿、失礼致します」
「本当に失礼よ、あなた」
「ぐっ」
若いエルフだ、20代前半と言った所か。
「門衛に止められたでしょう?理由が有って止めたのよ、分からないの?」
「副官に任命された故に軍のあらゆる会合に出る権利があると思います!」
「出席の可否は総大将の私が決める事よ」
「女王陛下に任命された私には出る権利と必要が有ります!」
「女王陛下に認めさせた、ね」
「不遜ですぞ!」
認めさせた・・・
元老院がか。
つまりこいつは元老院派か。
元老院が女王に言ってファナキアの副官にさせたってことかな。
ファナキアもわざわざ俺に教えてくれたみたいだし、やはり仲は悪いみたいだな。
「こいつ等が例の冒険者共ですか」
「えぇ、”例”の冒険者よ」
「男1人に・・・女4人・・・ふん!」
ジロジロ見てくる。
特にケセラをガン見だ。
同族ってのもあるようだが別の要因もあるだろう。
男なら誰しもそうだろうからな。
「人払いをしてこの者共に会うのは如何なものでしょう。余計に疑惑を招くのでは?」
「褒賞の儀での失態を他所で喋らないでねってお願いしてたのよ、誰かさんの所為でね」
「栄典係殿が本当に陛下を侮辱したのですか!?あの方がそんな事をするとは信じられません!」
「本当かどうか、あなたの父上にでも聞いてみたらどうかしら?」
「ぐぐ・・・」
「私の邪魔をしに来たのなら出て行って頂戴」
「・・・いえ、邪魔などは」
「なら大人しくしてなさい、良いわね」
「・・・は」
「はぁ、出陣前から疲れるわ」
「肩でもお揉み致しましょうか」
「原因の人に揉まれると余計に凝りそうよ」
「ではお祈りだけでも。ナンマンダ」
「呪ってる様にしか見えないから止めなさい。それで今後だけど。ある程度の自由の制限は覚悟しておいて」
「ブー」
「現地では総大将の直属として働いてもらう事になるわ」
「・・・輜重隊に配属されるはずでは」
「希望を聞いただけよ。希望は通らなかった、当然でしょ」
「僕の所為じゃないのに」
「貴様等の所為だ」
『ん?』
「貴様等の所為で栄典係殿が死んだのだ」
『・・・』
(おや。こいつにはどういう風に伝わってるんだ?)
(ファナキアは父親に聞いてみろって言ってたからてっきり・・・)
(少し探ってみるか)
「この国では女王陛下への不敬罪は軽いようだな」
「何だと!?」
「神に選ばれた王への不敬、ソルトレイクでは軽いんだなって言ったんだ、聞こえなかったのか?」
「あの方が陛下へ不敬をはたらく訳がないのだ!あの方は立派に国に尽くしている方だった!」
(盲目的に、元老院にな)
「あの様な方が・・・あの方だけでなく家族まで死刑になるなど!」
「「「「「げっ」」」」」
(深すぎる)
(恐らくファナキアと元老院とで話し合った結果、そうなったんだろう)
(衛兵にも知られてしまった関係上、元老院も責任を負わなくてはならなくなった)
(表面上、不敬罪で一家死刑)
(衛兵にはそれで脅迫してあいつが死んで浮いた金を衛兵にバラ撒く)
(飴と鞭で衛兵を押さえて口を閉じさせた)
(・・・闇が深すぎる)
ファナキアを見る。
俺を見た。
動じずいつも通りの顔だ。
(家族を捕縛させたのはファナキアだ)
(元老院派への牽制で捕らえただけかと思ったが・・・)
(しかし元老院が切り捨ての為に家族まで死刑にしたとも考えられる)
「ファナキア様が尋問されたので?」
「いいえ。元老院に身柄を移されたわ」
「・・・」
「元老院及びそれに近い者には特権が有るのよ。将軍の私と謂えどもみだりに超える事は出来ない特権がね」
「神に選ばれた故に神に与えられた権利です!」
「神に選ばれた奴がこっすい真似を「ジロッ」!?」
ファナキアが目を細めた。
(・・・知らないのか?)
(いや、父親に聞いてみろと言ってたし・・・)
(スパイ)
(ファナキアはスパイを探っている)
(確率的に低いと言っていたが一応その線も調べているのか)
(ヒト以外のエルフが北と繋がるとは思えないが)
(逆に言えばそう思われているからこそノーマークだったってのもあるかもな)
(誰がスパイか分からないからこそ誰を調べているのか分からないようにした方が良い)
(ジリジリと調べた方が尻尾を出し易いと、そういう感じかもな)
(余計な情報は口にするなという事だろう)




