⑰-43-623
⑰-43-623
「私としては、褒賞授与を平和裏に終えたいのだけれど」
「俺達も生きてこの国から出たいね」
「約束は守って貰わないと」
「それはこっちの台詞だ。褒賞の儀と言いながら騙し討ちしたのはそちらだ。信用度は海亀様を命懸けでお助けした俺達よりもそちらの方が断然低い」
「信用出来れば良いのね?」
「女王陛下は褒賞授与を認めていたんだな?」
「えぇ」
「2000万エナも」
「えぇ」
「つまり、陛下とあんた等は平和的に解決したかった」
「その通りよ」
「じゃぁ、分かるよな?」
「・・・元老院を潰せと?」
「そこまでは流石に言わないさ、仮にも元老院だぜ?」
『・・・』
「ただ・・・こういう事態を引き起こし、剰え俺達の褒賞2000万エナを横取りしようとした。その意地汚さに神罰が下る事を海亀様に祈っている所なのよ」
「「・・・」」
「流石にそれは難しいわね、あなたも言った通り仮にも元老院だから。しかし、あなたが人質を解放し、儀式を終えて私と従軍するのなら、今回の事は何も無かった事に出来るわ」
「出来るのか?」
「陛下から任命されている。進行はその男だけど儀式の統括は私。今も儀式の最中よ」
「2000万は」
「元老院に貸しって事でどうかしら」
「還って来るのは永遠に無さそうだが」
「あなた達に手を出さない様にそれで手を打たせる、どう?」
「・・・つまり賄賂か。この国の為に命を張った見返りがスパイ容疑で、政治家に賄賂を渡さなけりゃこの先生きてく事も難しいと。衛兵のお前等も大変だな。命を懸けても報われる事が無いどころか王国の恥部を知った今となっては牢屋に入れられる危険もある。転職考えた方が良いんじゃねぇか?良い所紹介するぜ?」
『・・・』
「断るのかしら」
「薬代は払われるのか?」
「申請は受理されているわ」
「払われるのかと聞いてるんだ」
「そのはずよ」
「払われるのかと聞いてるんだ」
「・・・将軍の私からという事で申請している。元老院にも取られる事はないわ」
「払われるのかと聞いてるんだ」
「・・・払うわ」
「良いだろう」
「契約という事で良いかしら」
「条件は」
「こちらからは人質の解放、儀式を無事に終わらせる事、従軍」
「俺達からは身の安全の保障、金だ」
「私が総大将である以上従軍中の保証は出来る。金の方もね」
「儀式では」
「栄典係より権限の委譲で私が全責任者よ。衛兵も私の命令を聞くわ。保証する」
「・・・良いだろう」
「じゃぁ栄典係を解放して」
「解放って人聞きの悪い。まるで人質にしていたように聞こえますね」
「そうね。転びそうになった所を支えてくれて有難う。もう大丈夫だから離れてくれて大丈夫よ」
「分かりました。あんたも災難だったな。人生どこに石があって躓くか分かんねぇぜ。気を付けて生きてけよ」
カズヒコはゆっくりと栄典係から離れた。
栄典係はドサっと床に崩れ落ちる。
「儀仗兵も最初の位置に戻りなさい、式をやり直すわよ」
『は、はは』
カズヒコ達が元の位置に戻ろうとし、
儀仗兵達も戻ろうとした所、
緊張感から解放され安心安全な気持ちが戻った栄典係が突然飛び上がった。
「まっ、待て!」
『ん?』
「ファナキア殿!今こそあいつ等を捕まえるのです!」
『えっ?』
「王国の栄典係である私を人質とし!国を脅迫した罪で捕らえるのです!」
「・・・栄典係殿。何を言っているの。あなたは人質になっていないし彼らは脅迫もしていない。話を聞いていなかったの?」
「赤の騎士殿の方が何を言っておられるのか!ここに居る全員が見ていたでしょう!現にほれ!この通り!私の耳は潰され何箇所か刺されている!」
「あなたは転んだのよ、分からないの?」
「あなたの方こそ何を言っているのだ!元老院から任命された私の方があなたよりも命令権は高い!」
「私は女王より仰せつかったのよ」
「女王はご存じないのだ!こいつ等がスパイであることを!」
「・・・あなたはさっき私に権限を委譲したのよ、それも覚えてないの?」
「してはいない!私は委譲するとも言っていないし承諾もしていない!」
『・・・』
「・・・あなたいい加減にしなさいよ」
「あなたこそ!冒険者の脅しに屈し国の名誉を落としている!将軍にあるまじき行動だ!衛兵!あの5人を捕らえろ!」
『・・・』
「何をしている!さっさと動け!」
「動いては駄目よ」
『は、はは』
「何を!」
「ファナキア?」
「ちょっと迷惑かけるわ」
「はぁ・・・分かったわ」
「あなたが捕えたらどう?元老院から命令を受けたあなたがね。衛兵は何も聞かされていないのでしょう?あなたがやりなさいよ」
「ななな何を」
「褒賞金を掠め取ってそのお零れをもらったあなたがやるべきなんじゃないのって言ってんのよ」
「ファっ、ファナキア!」
「私達はこれから戦争に向かう。命を懸けて国の為にね。留守居役の政治家達がこんなんじゃ兵達に死ねって命令出来ないわね」
「侮辱だ!名誉棄損だ!訴えてやる!何の証拠があって掠め取ったと言っているのか!そのような事実は無い!」
「もう良いわ、あなた」
「良くない!私の名誉と権利を侵害「ボゴッ」・・・???」
栄典係が話の途中で黙った。
様子がおかしい。
「お、おご・・・」
「権限の委譲は紫の騎士と衛兵も立ち会っているの。あなたが否定するって言うのは栄典係を任命した国を侮辱する事になるの、あなたの大好きな国をね」
「あ、あが・・・」
「何より女王陛下の褒賞の場を汚した罪は重いわ。これは元老院にも伝えなくてはならない、分かってて言ったのかしら」
「あうあう・・・」
「あなた個人の話だけじゃなくあなたの家族にも関わる事なのよ?分かってたのかしら?」
「おおおお助けを」
「元老院には私から伝えておくわ。家族にはあなたから伝えなさいな」
「ファナキアさま・・・」
「あの世でね」
ズゴッ
今度は見えた。
空中から何かしらの攻撃が突然現れて栄典係を襲った。
再び床に崩れ落ちた。
さっきと違うのはうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない事だ。
血溜まりが広がっている。
『・・・』
「さっ。式を汚す不届きな輩も成敗した事だし、続きをやるわよ」
『・・・』
「何をしているの?続きをすると言っているでしょう?」
『は、ははっ!血雨将軍のご命令とあらば!』
「・・・その徒名、止めてくれる?」
『失礼しましたぁ!』
「あなた達も。式を続けるわよ。さっきのは反逆分子が喚いただけだから気にしないで、処分したし」
「分かりました。血雨将軍様」
「・・・処分されたいの?」ニッコリ
式の続きも終わった。
続きと言っても褒賞金は受け取っていたしその後の契約は床に倒れたままのあいつから持ち掛けて来たもので本来の予定では無かったものだったらしいので、契約書も無かった事になった。なので直ぐに終わった。
「これで終了ね。ふぅ~、やっと終わったわね」
「ご苦労様」
「ありがと。じゃぁあなた達は宿舎に戻って私からの連絡を待ってて、案内役を付けるから」
「分かりました」
「ちょっと遅くなるかも。ハプニングがあったから」
「分かりました」
「グァランチュアラも一緒に来てくれる」
「仕方ないわね」
2人の騎士を先頭に部屋を出ると廊下には衛兵が並んで居た。
やはり捕縛する気だったようだ。
ファナキアが声を上げる。
「解散しなさい、式は終わったわ」
「よ、宜しいのですか?」
「女王陛下の命により儀式は無事終わった、一部ハプニングも有ったが無事にね」
ファナキアが後ろに目線を送る。
その先には栄典係の死体を抱えた儀仗兵。
「女王の命に反した反乱の廉で処分した。スパイの容疑もある。彼の家族を捕縛に向かいなさい」
「はっ、反乱・・・」
「何をしているの。女王の代理、『レインボー・シックス』赤の騎士の命が聞こえなかったのかしら」
「しっ、失礼しました!」
衛兵たちが走り去って行った。




