⑰-29-609
⑰-29-609
「大将！クイール女は仕掛け部隊に向かった様です！」
「クソったれが！速度を上げろ！奴等に肉薄すればあの女も滑空突撃は出来ん！」
『おお！』
罠を探り探り来ていた本隊も最早猶予は無いとこっちに走って来た。
俺は右側の１人だった奴に斬り掛かる。
「おらぁ！」
相手はマチェーテを剣で受け止める。
「ふん！」
「《カウンター》！」
「えっ！？」
バシュッ
喉を斬り裂かれて沈む。
「こっちだ！ミキとマヌイはこっちに来い！」
「「あい！」」
「ケセラはその２人と対していれば向こうの本隊とも対する事になる！」
「分かった！」
「私達はケセラの援護ね！」
「そうだ！」
「分かった！」
「仕掛け部隊で戦ってるのはもうあの２人しか居ません！」
「押せ押せ押せぇ！押し込んで乱戦に持ち込め！弓を使えなくしろ！」
『おおお！』
「真ん前に２人！その後ろから８人！来るわよ！」
「わーってる！サーヤと呼吸を合わせるんだ！」
「詠唱は終わってるからね！」
「わーってる！」
「私もいつでも「ドドドォーン！！！」うわあぁぁ！？」
「「きゃあああ！？」」
「うおおお！？」
〈ゴァアアアアアアアアアア！！！〉
『うわあぁぁ！？』
「大将！」
「うむ！仕掛けが発動したのだ！爆破に成功だ！」
『うおおお！』
「では！？」
「まだだ！右足が残ってる！とはいえ亀の歩みも遅くなろう！地上部隊で左足を攻撃すれば止める事は出来るはずだ！」
『やったー！』
「勝ったのだ！ワシ等は勝った！後は奴等を血祭りに上げろぉ！」
『うおおお！』
「何だったの！？」
「すっごい揺れたよ！」
「地震か！？」
「何か爆発したような・・・デジャヴを感じたな」
「爆発！？火薬を使ったのか！？」
「火薬！？嘘だろぉ何てもん使ってんだよ！」
「爆発させて海亀を殺す気なんじゃない！？」
「やばいよ！カズ兄ぃ！」
「どうする！」
「はぁーくそがぁ！先ずはあいつ等を殺るのが先だぁ！亀はその後だ！今出来るのはそれだけだ！」
「「「了解！」」」
「ミキとマヌイは突っ込むな！」
「いいの！？」
「マヌイは俺と行く！」
「あい！」
「ケセラは直前の２人を頼む！」
「分かった！」
「行くぞぉ！」
「者共ぉ！奴等を討ち取って名を上げろ！今回の功第一にしてやる！」
『うおおお！』
今正に先頭がぶつからんとしていた瞬間の両者の前を影が通り過ぎた、
ドゴッ
カズヒコ達の直前に居た２人の内の１人の頭が吹っ飛んだ。
「なっ！？」
隣に居たもう１人がその様子に驚くと、
「おらぁ！」
ケセラがシールドバッシュでその男の体を強打する。
ドガッ
「ぐわっ！？」
よろめいた所を刀で脇腹を突き刺された。
その横をカズヒコとマヌイが走り抜ける。
「先ずはその２人を血祭りに上げろ！」
「今だ！」
「《火炎流》！」
ボオオオォォォ
『うわあああ！？』
火の噴流が兵士達を襲う。
「火魔導士だと！？」
真面に炎を受けた２人が火達磨になって地面に転がり込む。
「《風載矢》」
バシュン
炎を盾で受け堪えていた１人の首が転げ落ちた。
ブファッ
「火の中から！？」
炎の中から現れたカズヒコに驚いて咄嗟に動く事が出来ない。
「ぐぶぅ・・・」
突撃して密着したカズヒコの逆手に持ったナイフが兵士の喉元に突き立っていた。
「ふん！」
「ひあ！」
そのまま回し蹴りで隣の男の首を狙う。
蹴りは当たっていないはずが喉を斬り裂かれ血の噴流が宙に舞う。
蹴った後の着地の制動のままクロスボウを発射、
「あっ！？」
ボルトに気付いた男はそれを目に突き刺して後ろに倒れた。
「ばっ、馬鹿な・・・」
驚く大将。
そこに右横から光が差し込んだ。
朝日がその頬を照らす。
「一瞬で、一瞬で６人を・・・」
残るは部下１人と自分だけになっていた大将。
「サーヤ！来い！」
ドッドッドッドッドッドッ
「何か！？」
「ミキと代われ！ミキ！乗って様子を見て来い！」
「分かったわ！でも先に行った２人は！？」
「さっきの衝撃で落ちて死んでる！マヌイはミキに付いて行け！」
「あい！」
「・・・３人でワシ等と戦うと！？」
「確かに多いな！何ならマチェーテじゃなくフォークで戦ってやろうか！？」
「き、貴様ぁ。舐めるな！」
「あっ、待て！」
残る１人が向かって来た。
ババン！
「さっ、《サンダーボルト》だと！？」
プスプスプス・・・
ドサリ
「残り１人かぁ。決まっちゃったかな？うん？」
「・・・舐めるな」
「はい？何て！？よく聞こえなかったよ！さっきよりも大分声が小さくなったんで全然聞こえなかった！もう１度言ってくれる！？」
「舐めるなぁ！」
「うわぁお！？いきなり大声出すなよ！確かに大きい声出せって言ったけど限度ってもんがあるだろう！？」
「何故ワシが大将を任せられたと思ってる！」
「この無能でしょっぱい雑魚たちの中で１番の無能だからだろ？」
「有能だ！ワシが１番有能なのだ！」
「あっれぇ！？見渡す限りチミの部下達の死体ばかりが転がってるけれど！？クスクスクス。有能！？脳は有るけど考え無し。無脳だな！なんちゃって！」
「「おーっほっほっほ！」」
ケセラが炎に包まれてのたうっていた２人に止めを刺し終わって笑いながら近付き俺の横に並んだ。
「ぐぎぎぎ！確かに戦いは貴様の勝ちだ！しかし作戦はワシの勝ちだ！海亀は殺す！ワシ等の勝ちだ！」
「確かに海亀の速度が落ちたようだが止まってはいない。死んでないだろ」
「地上部隊が左足に止めを刺せば止まる！それに右足にも仕掛けは有る！貴様等を殺して爆破させればそれで確実に殺せる！ワシの勝ちなのだ！」
「そして東からシンファンが来るって訳か」
「そうだ！そして海亀を城に籠城！そうすれば北に向かわせていたソルトレイク軍は引き返す！我がバウガルディ軍が南下し挟撃の体制が整う！ソルトレイクの街は火の海に包まれるだろう！貴様等の負けだ！はーっはっはっは！」
「そしてお前はここで死ぬと」
「死んでも悔いは無い！故国の礎として死ねるのならな！貴様等ボウフラどもには分かるまい！ワシ等には責任があるのだ！家族を養い！民を養う責任がな！依頼が辛いと逃げる無責任な臆病者には分からんのだ！この重圧が！」
「それで他国の物を奪って家族に与えると。盗賊とどう違うんだ？」
「神に選ばれた者が神の作られた法によって神の創造物である人の作った物を収穫するのは自然な事だろう！何を言っている！」
「その代理者たるのがお前だという訳か」
「そうだ！有能な者が無能な者を使うのは自然な事だろうが！」
「神が造った偉大な海亀を人ごときが殺して良いのか？神は怒らないのか？」
「ただでかいだけの亀だ！それに啓示である！」
「殺した土地は呪われるそうじゃないか。シンファンもそれで苦しんでるんだろう？」
「奴等は私欲で殺したのだ！」
「はっはっは。他人の土地で殺せば啓示か。奪うモン奪って国に帰るつもりか。一時的な占領は有るにせよ恒久的な占領では無さそうだな」
「領土にするつもりは無いのでしょう」
「占領には戦力的にも圧倒的に足りていないからな」
「神に選ばれたお前はただでかいだけの亀の甲羅の上で死ぬ、か。まっ、それも良いんじゃないか？自分で決めた人生だし」
「ワシが決めたのではない！」
「神が決めた？態々選んだのに？残酷な神だな」
「貴様！神を愚弄するな！」
「愚弄はしていない。ただ神の為に働いた男を魚の餌にするなんて酷いよねって思っただけだ」
「ワシは故国を救った忠臣として後世に語り継がれる！悔いは無い！ワシの名は１０００年も語り継がれる！貴様等一時の報酬に目が眩むだけの奴等とは訳が違うのだ訳が！」
「自分の身を犠牲に国を救うか。物語の主人公だな」
「私達には真似出来ませんわね」
「カズヒコには特にな」
「無理無理無理。自分に酔って死ぬとかキモ過ぎて無理」
「「「はっはっは」」」
「カズヒコ。ヤマート系の名前か？貴様は顔も黄色人種だしシンファン出身じゃないのか！？」
「出身じゃぁないが、同じ民族っぽいな」
「なら何故共に戦わん！」
「・・・？共にって、シンファンと？」
「そうだ！」
「・・・なんで？」
「同じ民族なら！」
「お前と同じ民族っぽいのはソルトレイクにも居るぞ。アレク３国でも見たしソルスキアでも見た。勿論ルボアール王国でもな。なんで南北に別れて戦ってる？」
「ぐぬぬぬ」
「意見が違うからだろ？考えが違うから別れて戦ってる、そうだろ？」
「ぐぬぬぬ」
「それに攻めて来たのはお前等だ。平和を脅かすお前等が悪モンなんだよ」
「ワシ等が悪だと！？」
「まぁその辺は魚に食われながらゆっくりと考えてくれ」
「貴様！」
ドッドッドッドッドッドッ
「カズヒコ！」
ミキが全力で駆けてきた。
