⑰-28-608
⑰-28-608
矢を射掛けながらカズヒコ達は後退していた。
「サーヤ!行け!」
「はい!」
射掛けられた矢を叩き落としながら迫る兵士達。
「逃がすな逃がすなぁ!」
「オラオラオラァ!どうしたどうしたぁ!さっきまでの威勢はどうしたぁ!」
「弓でしか戦えないくせに調子こきやがって!」
「ブッ殺してやる!」
「だったら早くここまで来いよ!何ビビってんだ!」
「ビビってねぇわっ!」
「本隊が来るまで手を出せないんだろうが!ビビってんじゃねぇか!」
「うるせぇ!ビビッてなんかねぇ!」
「だったら掛かって来い!剣を振れず腰しか振れない助平どもが!」
「「「おーっほっほっほ!」」」
「てんめぇ!好き勝手言いやがって!死ねぇ!」ダッシュ
「あっ!待て!」
カズヒコに向かった男はあっさり《カウンター》で殺された。
「馬鹿が!」
「追跡部隊振り切って来た奴だぞ!」
「甘く見るんじゃない!」
「北部の痩せ犬どもが!目の前の餌に涎たらたらだなぁ!」
「「「おーっほっほっほ!」」」
「てめぇ!」
「乗せられるな!もう半減してるんだぞ!」
「半減!?」
「あと8人しか居ない!本隊が来るまで持ちこたえれば良いのだ!」
「そうだ!本隊は!?」
「さっきの喚声は!?」
工作部隊が先程声のした方向、南の丘を見る。
丁度そこに追い付いた本隊の兵士達が丘の頂上から姿を現した。
《うおおお!》
「やった!援軍だ!」
「本隊だ!これでおめぇ等もお終いだ!」
カズヒコ達の左手から現れた兵士達が丘を全速力で降って来ていた。
ゾボッ
ズボッ
ガゴッ
『!?』
兵士達が下りきった丁度の所で落とし穴にはまった。
「「「ぎゃぁあああ!?」」」
「何だ!?どうした!?」
「兵が落とし穴にはまったようです!」
「何だと!?」
「片足だけの大きさでしたが穴の中に凶器が有ったらしく足が血塗れ、最早歩けません!」
「馬鹿が!這ってでも!這ってでも奴等の下に行かせろ!剣を振れれば構わん!」
「しかし他にも落とし穴が有るかもしれません!」
「クソが!」
バササササァー
ドゴッ
「ごふっ」
「!?」
クイールに乗ったサーヤが丘の斜面に居る兵士に滑空突撃をかました。
吹っ飛ぶ兵士。
サーヤはそのまま丘の頂上まで走って行き、馬首を大将に向けた。
「いっ、いかん!」
バササササァー
「うおおぉ!?」
地面にダイブして辛うじて躱した大将。
「ちっ」
サーヤはそのまま引き返して丘を越えて見えなくなった。
その後を見送りながら大将は思う。
(凄まじい威力だ)
(馬の突撃よりも凄まじい)
馬の突撃は走りながら、つまり地面に接地する為に威力は減少する。
クイールの滑空突撃は空中から突撃するので衝突エネルギーの接地による減少は無いのだ。
更に乗者とクイールの両方の体重が乗る。
その威力は小さな丘であるここよりも台地の斜面でなら一層際立つであろう。
(舐めていた)
(まともに受ければ死んでしまう)
(死なずに済んだしても骨は折れて戦闘不能になる)
(南部戦線に行った奴がクイールの恐ろしさに言及していたが他人ごとに聞いていた)
(亀の上に乗るのだ、関係無かろうと)
(思えば全て中途半端だったのだ)
(ソルトレイク軍は亀の上に乗って来れないという前提で作戦を練った)
(仕掛けが発動するという前提で作戦を練った)
(全て上手く行く前提で各段階の作戦を作っていったのだ)
(このまま作戦が失敗すれば国は戦争に勝てないばかりかその後の塩会議においても不利な立場になってしまう)
(そうなればワシの家の没落は不可避。いや!)
(取り潰しも有り得る!そうはさせるか!)
(ワシは死んでも家の為に!子供たちの為に何としてでも成功させねばならん!)
「本隊もあの体たらくだ!お前等はここで死ぬんだよ!」
『クソっ!』
「落ち着けぇ!」
『大将!?』
「もしワシ等がこの作戦を失敗したら!ワシ等はどうなると思う!」
「当然死ぬんだよ!魚の餌になるんだよ!痩せ犬ども!」
「うるさい!口を挟むな!ワシ等が失敗したら!ワシ等の家はどうなるのだ!」
『!』
「任務に失敗したアホ共って国中の笑いもんだろ!」
「やかましい!貴様は口を挟むなと言っておろうが!」
「他人の土地にやって来て何好き勝手な事ぬかしてんだてめぇ!死ね!」バシュッ
「うおっ!危ない!殺す気か!」
「だからそう言ってんだろうが!とっとと国に帰りやがれ!お帰りはあちらだ!」
「落下死するわ!何を言っておる!任務に失敗したワシらの家族を!国の連中がタダで済ますと思っているのか!」
『!』
「良くて御家取り潰し!悪ければ見せしめで一家全員縛り首だ!」
『!』
「そうなったら世界平和でお祭り騒ぎだ!南部全国でパレードしてやるぜ!」
「やかましいわ!黙ってろ!いいか!ワシ等は最早失敗は許されんのだ!」
「そうだ!上の連中が許すはずねぇ!」
「妻や娘は売られ!男は処刑だ!」
『くそっ!』
「最早成功させるしか無いのだ!成功しかな!」
『うわあああ!』
「己は湖の藻屑となろうとも!家族を救いたいのなら奴等を殺せぇ!」
『うおおお!』
「息を吹き返したわ!」
「流石の大将だな!」
「褒めてる場合じゃないよ!」
「左右から来るぞ!」
「左はサーヤが撹乱してる!右だ!右に集中しろ!」
「「「了解!」」」
ゴォン
鈍い音で後頭部を割られ、脳漿が前に居た者に飛び散った。
「ひい!?」
サーヤが後ろから擦れ違いざまにハンマーをアンダースウィングで振ったのだ。
倒れた男は頭半分を失い、そこから大量の血が丘を流れてゆく。
サーヤはそのまま走り去って丘の向こうに消えて行こうとしていた。
「おーっほっほっほ!」
「何だあの女はぁ!」
「クイールが厄介過ぎる!」
「ここではどこから来るか予測が付かん!」
「固まれ!全員固まって降りるんだ!」
ジリジリとだがカズヒコ達に近付く本隊。
「死ね!」
サーヤが背後からクロスボウを放つも警戒していた兵士の盾に弾かれた。
「ちっ!」
「このまま着実に近付けぇ!損害を出さずに近付くのだ!」
「数は我等が3倍だ!囲んで始末するんだ!」
『うおおお!』
「どーすんの!?」
ガコン
「装填!?突っ込む気!?カズ兄ぃ!」
「待て!今のままでは無傷では済まんぞ!」
「機を見て突っ込む!安心しろ!今直ぐじゃねぇ!」
「無事に帰って来てよ!」
「勿論だ!海亀の命より俺の命の方が大事だ!」
「さっすがカズ兄ぃ!」
「俗っぽい所がカズヒコらしい!お前が私達のリーダーだ!」
「全力出すの!?」
「待て!なるべくなら生き証人を最低でも1人は捕まえたい!」
「そんな事言ってる場合!?」
「とてもそんな余裕はないぞ!」
「じゃないとシンファンのクソ野郎共に宣戦布告できねぇだろうが!」
「戦争吹っ掛けるの!?」
「俺じゃなくソルトレイクがな!」
「でもするかな!?」
「専守防衛だぞ!?」
「そりゃぁ有る事無い事吹き込むのよ!戦争するようにな!」
「戦争しない為に来たんじゃないの!」
「街の1つも奪わねぇとまた同じ様にやって来るに決まってんだよ!」
「たっ、確かに!」
「奴等ならやるだろう!」
「でも!」
「毎回毎回海亀殺しにくるよりも!こっちから1回バツンと痛い目遭わせてやらなきゃ分かんねぇんだよ!あいつ等は!やられたらやり返さねぇとな!」
「もう!」
「閣下!」
「何だ!」
「奴等が下がって行きます!仕掛ける好機では!?」
「うむ!部隊に合図を送って仕掛けを発動させろ!」
「畏まりました!」
ピュウウウゥゥゥ
「《鏑矢》!?」
「合図だ!」
「仕掛けを発動するぞ!」
「でも俺達ゃ8人しか居ねぇぞ!」
「2人だ!2人で仕掛けまで行って発動させろ!」
「2人だと時間がかかるぞ!」
「仕方がない!奴等を相手にするなら少なくとも同数は必要だ!」
「確かに!弓の腕は抜群だぜ!」
「本隊と徐々に削っていくのだ!」
『おぉ!』
「あの合図は仕掛けを作動させる奴だったみたいね!」
「その様だ!」
「どうするの!?」
「確認した!さっきサーヤにブッ飛ばされた奴は気絶してる!」
「という事は!?」
「土産はそいつだけで十分だろ!もし駄目でももう知るか!全力で行けぇ!」
「「「おおお!」」」
「何だ!?」
「2人居なくなったら突っ込んで来やがったぞ!?」
「まだ6人居るのに舐めてんのか!?」
「殺せ!返り討ちだ!」
『おおお!』
ケセラが盾を前面に出して突っ込む。
「「死ねぇ!」」
「《耐撃》!」
ガアアアァン
「「痛ぇ!?」」
「《解放》!」
ブワッ
「「ぎゃっ!?」」
吹っ飛んだ2人に追い打ちでミキとマヌイから矢が放たれる。
「「あっつ!?」」
「クソっ!《盾術》のスキルか!回り込め!後ろの奴等を先に片付けろ!」
「「「おぉ!」」」
1人と2人に左右に分かれてカズヒコ達を囲もうとしていた所、
ドゴッ
「「「!?」」」
1人残っていた小隊長がサーヤのハンマーで頭を失った。
「「「あの女!」」」
「おーっほっほっほ!」
「本隊からこっちに回り込んで来やがった!」




