⑰-16-596
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『きれーい!』
あの後少し経って全員起きたので甲板に上がった。
いや、全員ではなかったな、ジョゼはまた寝た。
レイヴも僕達のそばの船縁に来て俺製特別燻製肉を食べていた。
視界は水平線だけだ。
「結構、沖に出たんだな」
「湖なんでしょ?ホントに広いわね」
「水面がキラキラしてるよ」
「広い空ですねー!」
「陸で見る空とはまた違うな」
「船酔いは大丈夫か?」
『だいじょーぶぅ』
「クァ」
「じゃぁ、なんか摘まむか」
ドライフルーツを摘まみながら景色を堪能していた。
「ちょっと気持ち悪い・・・」
マヌイの調子が悪そうだ。
「船酔いかな」
「身体能力が高い獣人は酔い易いのかもな」
「こんな波も初めてだしね」
「湖なのに波がありますよね」
「部屋で横になって休もう」
「うん、そうする」
「レイヴは外の方が良いだろう?」
「クァ」
景色を楽しむのもそこそこに昼には部屋に戻った。
戻って来た時はマヌイも折角の初めての船旅で景色も見られないのを残念がってたが気持ちを切り替えて直ぐに眠った。成長しているようだ。
僕と菊池君は筏の改造を話し合い、サーヤ君は縫物を、ケセラは薬草のしこみをしてから寝た。
しばらくして起きると夕方。
その時にはマヌイの調子も戻っていてまた甲板に出て夕陽を見る。
綺麗な夕陽だった。
「僕は1日の内で1番夕陽が好きなんだ」
「へぇ」
「何でですか?」
「なんか、もう休んで良いよ、って言ってくれてる気がするんだよね。お前はよくやった、今日はもう休めって、そんな気がするんだ」
「まぁ、最近戦争ばっかりだったし」
「いや、前世からね」
「ふーん。そう言えば独立しようと会社終わってからも勉強してたんでしょ?だったら休んで良いよは違うんじゃない?」
「休んで良いよって言われてるけど、まだ頑張るよって気になるんだよ」
「なるほどねー。独立どころか転生しちゃったねー」
「こっちではゆっくりしたら良いんじゃない」
「こっちの方が頑張らんとな、命に関わるし」
「でも今は船ですから、ゆっくりされても良いのではありませんか」
「今はリラックスして街に着いてから情報収集を頑張れば良いだろう。休むのも仕事だ」
「・・・まぁな。じゃぁ部屋に戻って飯食うか」
「そうね。宿で料理して仕込んだ物があるから火を使わなくても大丈夫だし」
「あったかい物を食べて体を休めよう」
「そうしましょう」
「レイヴも来るか、どうせ夜中また甲板に来るから一緒に食おうぜ」
「クァ!」
夜中、乗船する時に予め船員から話があった通り、戸をノックされて俺は船員と連れだって甲板に出た。
星図を使って航海の仕方を習う為だ。
レイヴは来なかった。食うもの食って熟睡していたからだ。
男の船員と2人で夜空の下か、少し気持ちが下がるのはしょうがないだろう。
「じゃぁ金だ。あの受付にも渡しておいてくれ」
「あいよ!じゃぁレクチャーを始めるぜ」
灯りの下、星図を広げ夜空を仰ぎながら船員から話を聞いていく。
「なるほどなー。あの星が動かないんだなぁ」
「他の星たちも日替わりで位置が変わっていってる。あの星は今日の今、あそこに有るが明日の今には違う場所にある」
「それなんだよ。太陽も微妙に違わないか?」
「あぁ、微妙にな」
「でも次の日には同じ位置にあるだろ」
「そうだ。だから専門的に習わなければ夜の航行は難しい。金を払ってでも習ったのは正解だぜ」
「遭難なんてしたくないからな」
「海に行くのか」
「今は予定は無い。だが冒険者だからな、水の上じゃなく平地でも山でも星を見て位置が分かるのは重要だ」
「確かにな。だが陸では大体で良ければ大体の位置は分かるだろ」
「精度の差が生死に直結するのなら金を払ってでも習うさ」
「まぁ確かに。船と一緒だな」
「あぁ」
今日のレッスンは終わった。
また明日の夜にも授業を受ける予定だ。
「あんたみたいな冒険者で良かったよ」
「ん?」
「商会で雇われた奴等も乗ってるんだが行儀が悪い奴が居てな」
「商会、チリメン商会か」
「知ってんのか。そうだ。海亀を一手に引き受けるってんで冒険者を雇ってるんだが粗暴な奴も居て大部屋でトラブルになっててな」
「商会は何も言わないのか?」
「幹部は個室に居るんでな。海亀の件もあって幹部連中に言う奴もいないんだ」
「ふーん。迷惑な連中だな」
「全く。出航が遅れたのも商会のお偉いさんを乗せるのに遅れたって言うしな。遅れなきゃ明日の夕方には着いたかもしれないのに」
「そんなに早く着くの!?」
「早朝出航するのは勿論理由が有っての事だ。その時間に良い風が吹くからさ。それに乗っていけば距離を稼げる」
「ほほー」
「潮にも乗れるしな」
「しお?潮か?そうだ、聞きたかったんだ!何で波が有る!?風じゃなく潮からくる波なのか!?」
「あぁそうだ。この塩湖は波が有る。湖の中に流れがあるんだ。だからその流れに乗れば船も進む。潮なんで当然時間が変われば潮目も変わるんだ、だから早朝なのさ」
「湖にねー、不思議だなー」
「湖底はどっかの海と繋がっててその所為じゃないかって話だな」
「海亀が通るっていう?」
「あぁ。あのでっかい海亀を乗せる転移装置なんて物を想像するよりかはあり得る話だぜ」
「じゃぁ今は風任せか」
「いや、予備動力で進んでる」
「予備動力!?」
「水の結晶魔石だ」
「なんだって!?」
「水の結晶魔石で水を船尾から噴出して進むんだ」
「へー!」
「最終手段では風の結晶魔石で風を噴出して進む」
「へー!」
「多量の魔力が必要になるから長時間は無理だがな」
「定期船に結晶魔石を使うなんてな」
「金を持ってるからな。物流に金を使ってるのがこの国のすげぇ所よ」
「盗もうとする奴も居るんじゃない?」
「斬り捨ての許可も下りてる。湖の藻屑だな」
「船尾か、そこら辺には行かないようにするわ」
「はっはっは。そうしな。問答無用で斬られても文句は言えねぇ、国でそう決まってるからな」
「くわばらくわばら」
それから部屋に帰って寝た。
ちょっと船尾を覗き見たい気もしたが覗き見てトラブルになってもあれだしな。
そして翌早朝。
レイヴと今回はジョゼも甲板に来た。
水平線に登って来る朝日を拝む為に早起きをした。
こんな景色はそうそう見られるものじゃないだろう。
朝日を見て感想を言い合いながら朝食を食べた。
そして昼過ぎまで昼寝をした。
起きてから俺は昨晩の復習をして彼女達は道具の手入れや生産などをして過ごしていた。
そして夕方になり水平線に沈みゆく太陽を見ようという事になり甲板に上がった。
甲板は僕達の他にも見物人が居た。
考える事は同じなのだろう、みんな夕陽に見入っていた。
晴れた空に少ないながらの雲が茜色に染まって、水面もキラキラと輝いている。
夕陽が好きな俺にとって凄く感傷的な景色だ。
正直街に着いてからの事なんて放り出したい。
しかし今はこの景色を見る事だけにして何も考えないようにしよう。
ヤヌイにも見せてやりたかったな・・・
その分マヌイには色んな景色や美味い物を食わせてやりたい。
家族と見たこの景色を俺は一生忘れ「ようようよう!」・・・
「女侍らして羨ましいじゃねぇか。俺達にも分けてくれよ!」




