⑰-15-595
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俺達は南東の街ベラムに船で向かう為、船着き場に来た。
周りの人に聞くと国の定期船が出ているらしく船券を買って乗るみたいだ。
建物に入ってチケット売り場に向かう。
「ベラムまでかい?」
「よく分かるね」
「今の時期じゃぁ海亀目的だろう?」
「そりゃそうか」
「連れは女4人か。個室にするかね」
「あぁ。風呂は有るかい?」
「船は火気厳禁だ。許可無く火の使用は罰せられる。覚えときな」
「なるほど」
「勿論、魔法の使用も禁止だ。最悪の場合、簀巻きにされて湖に沈められる。気を付けろよ」
「了解だ」
「個室はグレードが有る。今の時期じゃ空いてる部屋は殆ど無い。その中から選びな」
「・・・高いな」
「個室だからな。上は貴族用から下は金持ち平民用。値段の違いはあるが揺れの違いは無ぇ。それは平等だぜ」
「なら・・・ここにしようと思うが、良いかな」
「「「「良いよー」」」」
「じゃここで」
「あいよ。出航は明日早朝だ。遅刻は待たない、遅れねぇようにな」
「今から部屋に入る事は出来るかい?」
「無理だ。物資の搬入の邪魔だ。貴族の邪魔になって目を付けられんのも嫌だろう?」
「ついでに聞きたいんだが」
「なんだい」
「星図は有るかい」
「勿論だ、無ぇと夜に困るだろ」
「売ってもらう事は出来るかな」
「構わねぇぜ。そら」
金を払って星図を買った。
「ふ~む」
「どうしたい」
「船は夜も進むのかい?」
「勿論だ」
「星を見ながら?」
「その通り」
「目星になる星は・・・動かない?」
「じゃねぇと目星になんねぇだろう」
「動かない星を教えて欲しい。この星図に印を描きこんでくれ」
「良いぜ。不動星はこれとこれとこれと・・・」
「結構あるんだな」
「まぁな」
「簡単にで良いんだが、星図を使っての航海の仕方を教えて貰えないか。無論、金は払う」
「ふ~ん。南の海にでも行くのかね。止めときな、最果て、強い魔物どもがわんさと居るって話だ。嬢ちゃん達連れて行くような所じゃねぇよ」
「夜空の星々を見ながら語り合うには必要なんだよ」
「はっはっは。船旅の夜は場にはもってこいってな。良いぜ。実際に星を見ながらの方が良いだろう。船員に紹介しとく。俺に紹介料と船員に授業料でどうかね」
「それで頼む」
「分かった。この船券が割符になってる。じゃぁ明日、遅れねぇようにな」
その夜はあいつ等の報復も警戒したが何事も無く過ぎた。
翌早朝に船着き場にやって来た。
係の人間に船券を見せるが、
「遅れてる!?」
「あぁ。なんでも或る商会が荷物の搬入に手間取ってるらしい」
「商会って、貴族も乗るんだろう?大丈夫なのか?」
「チリメン商会って所でね。今回の海亀の件を取り仕切ってる所だ。それも有って大きな事は言えねぇみてぇだな」
「ふーん」
「あんた等の割符は確認した。これが部屋の鍵だ。鍵が乗船の証明にもなる。失くすなよ」
「分かった。部屋には入って良いのかい?」
「あぁ。外で待ってて何時の間にか置いてかれるのもなんだしな。搬入の邪魔はしねぇようにな」
「了解だ」
「遅れてるってさ」
「みたいね」
「あの大きな船だよね。荷物を搬入してるよ」
「部屋に行きます?」
「あぁ、そうしよう。折角の個室だ、ゆっくりしようぜ」
「そうしよう。私も船旅は初めてだ。楽しみだよ」
早朝は船だけではなく近くの市場も賑やかになっている時間帯だ。
漁師が獲ってきた新鮮な魚が並び、他の街から輸送された物も並びだす。
観光客も居るし結構賑やかな中を目的の船に向かって歩いた。
船の横についてタラップに乗ろうとするが荷物を持った人夫が来たので先に行かせてその後に乗った。
ジョゼは構わず人夫の足元を縫うように歩いて行っている。器用な奴だ。
レイヴはマストに止まって俺達を睥睨していた。
甲板は荷物が置かれている。
一旦甲板に置いて仕分けして船倉に持っていくようだ。
「おっきい船だねぇ」
「ヤヤは船も初めてだよな」
「うん!」
「感動のところ申し訳ないが、今はゆっくり見て回れそうもない。出航してから甲板に来て楽しもうぜ」
『はーい』
人夫の邪魔にならないように移動しつつ船員に部屋の場所を聞いて下への階段を降りてゆく。
荷物の区画とは違ってここは宿泊用なので今は人の出入もそれ程ではない。
「有った、ここだ」
証明代わりの鍵を使って戸を開けた。
『せっま!』
「ナー」
「・・・まぁ船だし。こんなもんか」
「あれ2段ベッド?4つ有るって事は、8人用って事かしら」
「みたいだねぇ。中央にちょっとスペースが有るだけで安宿の8人部屋よりも狭いね」
「これであの値段ですか」
「高いな」
「・・・ちょっと一般用の大部屋を見に行くか」
「うん、行きましょ」
「ジョゼも来るか?」
「ノー」
個室を買わなかった場合、大人数で寝る大部屋になる。
そこを見に行った。
『うわ~』
「広いっちゃぁ広いが」
「区切りも無いから本当に一緒に寝るのね」
「雑魚寝だな」
「荷物が置いてあるって事は」
「場所取りでしょうね」
「個人の行商人の荷物とか、冒険者だと武器も有るし、結構な見た目だな」
「盗まれたりする心配も有るだろうし、これは大変だな」
「狭くっても周りに気兼ね無く過ごせるだけ幸せね」
「そうだねぇ。元々貧乏だったからあの部屋でも全然大丈夫だよ」
「そうよね」
「全くだ。軍隊でも同じようなものだったしな」
「・・・戻ろっか」
「そうね。早くに起きたから寝直すのも良いでしょうし」
「船のベッドがどんなのか気になるよ」
「朝食は少なめにしましたけど良かったんですか?」
「正直ちょっと小腹が空いたな」
「船酔いを考えてね。とりあえず船が出て何時間か経つまで様子を見た方が良いだろう」
「分かりました」
「調子が良ければ甲板に出て景色を見ながら何か摘まもう」
「うん、そうしよう」
僕等は部屋に戻って来た。
荷物は怪しまれないように盗まれても大丈夫な物を入れた大きな袋をダミーとして部屋の隅に置いてある。
バックパックは収納袋に入れて安心だ。
「ベッドは・・・まぁまぁなんじゃないか?」
「そうね。これは高いだけあるかなって感じ」
「でも狭いね」
「しょうがないわよ」
「うん、直ぐ慣れるんじゃないかな」
「窓があるけど開かないね」
「壊れて水が入って来てもな」
「そっか」
「いつ出航になるか分からんし、いつ出航しても良い様にこのまま寝ちまうか」
「そうね。ウォーカーは休んでなさいな」
「ん?何かするの?」
「ちょっと冷えるから秋用上着に装甲を移すわ」
「手伝おうか」
「あなたは寝てて」
「じゃぁ、お言葉に甘えるよ」
「えぇ」
「ちゃんと仕上げますからゆっくりして下さい」
「ふっ、頼んだよ」
「はい!」
「はっ・・・」
どの位寝たんだろうか。
窓から差し込む明かりは透明感がある、まだ午前中のようだな。
彼女達も眠っているようだ。
マヌイは鼻提灯も出来ている。
この夏はずっと戦争に参加していたから疲れも溜まっているんだろう。
数日ゆっくりしたが疲れは抜けきれていないようだ。
ジョゼも・・・マヌイの側で丸くなっている。
暑い所から肌寒い高地に一気に来たからな、慣れない経験で疲れただろう。
レイヴは・・・マストに止まっているな。
あいつは船倉の部屋に居るより外の方が良いだろう。
・・・というより揺れが大きい。
どうやら出航したようだ。
残念だが出航の瞬間を甲板でみんなと一緒に体験したかったが、まぁしょうがないだろう。
マヌイの寝顔を見る。
安心安全の生活の為に戦争に参加するという矛盾をしているが、復讐の為でもあり文句は出ていなかった。
冒険者になったばかりのマヌイには危険だらけの旅だった。
不安だらけの毎日だったろう。
俺のしている事はマヌイの為になっているんだろうか。
成長はしていってるがそれで命を落としちゃぁ意味が無い。
バレンダルに居た方がマシだったんではないか・・・
「ナ~オ」
そうだな。
どうせ戦争になるんなら俺達と居た方が良かったんだ。
北部の南下が起きるんだったら俺達の力が南部の役に立てば復讐の為にもなる。
これで良かったんだ・・・よな?
「ファ~」
欠伸をしてまた眠りに戻っていった。
俺ももう少し眠るか。




