⑰-14-594
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俺達は清算に向かった。
さっきの偉いさんが対応する。
「ご迷惑をかけて申し訳ありません」
「話し合いはついたのですね」
「えぇ、なんとか。これはさっきの奢りの金です」
「はい」
「カルパッチョ美味しかったのは本当ですよ」
「有難う御座います。またお越しください」
「良いんですか?」
「あの様な事、この冒険者の街では日常茶飯事ですよ」
「「「「「ぶふっ」」」」」
「理由も納得出来るものでしたしね」
「そ、そうなんですよ~、理由が理由だったので。でもすいませんでした」
「皆さまのご無事をお祈りいたしております」
店を出て湖の近くまで来た。
『はぁ~』
「どっと疲れたわね」
「ホントだよ」
「でもウォーカーさん、ヤらなくて良かったんですか?」
「ローラの言うヤるの意味が分からないのが怖い」
「ローラ君、あれは喧嘩だよ。物騒な事考えちゃ駄目だよ」
「でも戦争で殺すって物騒な事言ってたじゃない」
「ヤヤとセルラを侮辱したからな、一応脅しておいた。ヤヤ達もあれで忘れろ」
「うん、分かった。楽しい事考えてた方が良いもんね」
「そうだな」
「そうだ。ヤヤも成長してるな」
「あんたは口の悪さに磨きがかかってるわね」
「えっへっへ、姐さんに褒めて貰えるなんて」
「褒めてないのよ!敵を作るなって言ってんの!」
「でもあれはしょうがなかったんじゃないかなぁ」
「そうですわ。散々ウォーカーさんが教えていたのに舐めた賠償金で。許せません」
「確かに払う気は無かったみたいだったな。あれでは平和的な解決は無理だっただろう」
「う~ん」
「どちらかが折れなきゃ駄目だったんなら僕等が折れるというのは無理だろ?」
「まぁ・・・」
「当然です!折れるのはあいつ等、折るんじゃなく斬り落とせばよかったのですわ!」
「ローラが怖い」
「ま、まぁ僕も腹立ったしな」
「ウォーカーが?珍しいわね」
「ハーレムパーティとか許せん!」
「「「「・・・」」」」
「ちょっとどういう意味?」ギュウゥ
「あたし達は女じゃないって意味?」ギュウゥ
「説明を求めますわ」ギュウゥ
「詳しく聞こうじゃないか」ギュウゥ
「あいたたたたた!」
「あいつ等大丈夫かしら?」
「街中に言い触らすって言ったし、どっか行っちゃうんじゃないの?」
「諜報員なら拉致した方が良かったんじゃありません?」
「ローラが怖い」
「諜報員はない。ステータスを覗いて騒ぎになるような真似はしないだろう」
「確かに。ちょっとした騒ぎになったしね」
「じゃぁ南部に通じた貴族の連絡員?」
「だったら南部に通じるのを止めたり?」
「それはもうしょうがない。喧嘩になった原因はあいつ等にある。僕達が気にする必要は無い」
「はい」
「義勇兵に登録に来たのに、大変な事になっちゃったねぇ」
「ホントね」
「どうする?ギルドに戻る?」
「う~ん。街を移ろうかと思ってるんだが」
「「「「何で?」」」」
「義勇兵に参加するんじゃないの?」
「気になる事が有る」
「気になる事?何?」
「デュルデュル大臣の書類で海亀の事について書かれたものが有っただろ」
「・・・あぁ。そんな物も有ったわね」
「海亀の来る予想日付の更新の書類でしたわね」
「そうだ。何故そんなに日付が重要だったのか」
「塩会議も有るし、バウガルディとの戦争になるのも分かっていた。復活戦争は早期に終わらせる予定だったみたいだしその辺りではないのかな」
「かもしれん。しかしレオみたいなのがここに居る事を考えると、やはりソルトレイクにも諜報員が居るのを考えてしまう」
「居るとは思うが、そいつ等が海亀に関わっていると?」
「海亀から遠く離れたベルバキアの大臣が海亀の来る日付が気に掛かっていた。それが気に掛かる」
「塩会議もあるそうだし、塩関連で何か騒動を起こそうとでもしてるのかしら」
「だとしたら一大事だよ。塩はソルトレイクだけの問題じゃないし」
「ベオグランデ公国は言うに及ばず、世界に波及しますわ」
「それを探る為に街を移るんだな」
「北の戦はソルトレイクの方が人数は優っているという。僕達が行かなくとも戦況に変わりはないだろう。海亀を見に行っても良いとは思うが」
「じゃぁ情報収集って事で行きましょ」
「ベラムって街だったね」
「確かそうだったわね」
「船で行くのか?」
「あぁ。急いで行っても良いが情報収集がてら船で行こうと思う」
「そうしましょ」
「やっとローラ君との約束も果たせるな」
「はい!」
「1年以上掛かったわね」
ある高級ホテルの一室。
「申し訳ありませんでした殿下!」
「ファービー!」
「あっ!もっ、申し訳ありません、レオ様・・・」
「ふー。前も言ったがお前は人を侮り過ぎる。あいつも言っていたが亜人と蔑んだその優越心が安易に《覗き見》てしまうのだ」
「・・・はい」
「幾ら才能が有ろうが自分を制御出来ない者には宝の持ち腐れだ。お前が付いて来るのはまだ早かったようだな」
「・・・うぅ」
「あなたの所為でレオ様は恥をかいたのよ!」
「そうだ!おまけにあんな無体まで・・・屈辱だ!」
「報復しましょう!」
「待て。報復とは、お前、後ろからでも襲うつもりなのか?」
「い、いえ。それは・・・」
「それにこの件は金を払って始末は付けた。我々が頼んでだ。私の顔に泥を塗るつもりか?」
「いえ!そのような事は決して・・・」
「しかし・・・忘れる事は出来ません。確かに原因は我々の側にありますがあいつの言動には腸が煮えくり返る思いでした」
「決闘でもしようとでも言うのか。正面から戦って勝てるのか、お前は」
「レオ様・・・」
「あいつはヒルダとフィルの2人を抑えながら私に飛び掛かった。しかもリアクションでだ。お前達に反応できるのか」
「「・・・」」
「それに関しては私達も誤りましたね。《覗き見》た【ランク】は確かにDだったの?ファービー」
「確かよブラダ!全員Dだったわ!あの男は武器スキルは疎か戦闘用のスキルなんて無かったのよ!」
「どういう事でしょうか・・・」
「『秘匿のリング』かもな」
「あいつら全員秘匿のリングを持っていたと!?」
「しかしレオ様。例え秘匿のリングを持っていたとしてもスキルを隠せるだけ。【ランク】はD、ステータスもCが最高で殆どがDだった。そうよね、ファービー」
「えぇ!確かよ!」
「Dと言ってもあくまで成長度だからな。あの動きはかなりのものだったわ」
「相当経験を積んだ?」
「でも冒険者になって2年にもなってないって言ってたわよ」
「本当かどうかは分からないわ」
「まぁ・・・」
「若かったけど」
「私の《ドリームキャッチャー》も躱されたしな」
「それです!今まで躱された事の無い《ドリームキャッチャー》を躱すなんて!」
「何か察知系のスキルを秘匿していたのでしょうか」
「恐らくな。スキルが発動する直前に避けていたからな。そうでも無ければ説明がつかん」
「・・・一介の冒険者が秘匿のリングを・・・」
「それを言えば私も今は冒険者だぞ」
「それは狡いですわ、レオ様」
「ふっふっふ。しかし悔しいが勉強になったのは確かだな。《覗き見》た結果を鵜吞みにして奴等を侮ったのは失敗だった。それはファービーを責められんな」
「そんな・・・」
「奴も言っていたが山刀も抜いてすらいなかった。女達は1矢も撃っていなかった。スキルは全く使っていなかった」
「フィルはあの男に撃たれていました」
「手甲から発射していたな。あんな物初めて見た。クロスボウの小型化にしても弓の部分は小さくするのにも限界はあろう。弓の部分は全く見えなかった」
「はい。ただの手甲にしか見えませんでした」
「我々は奴らの見た目と隠されたスキルにすっかり騙され油断してしまっていた訳だ。その結果があの様よ。街中で良かったな、外だったら全滅していただろう」
『・・・』
「あの男はリーダーではなく後ろの女がリーダーだと言っていた。更に女の方が強いとも・・・」
「俄かには信じられませんが」
「そうだ、信じられん。しかし本当かもしれん。女達は手を出さなかったが為に女達の実力は今も分からないままだ。故に男を基準としてあれ以上の実力を想定して予測しなければならない。しかも4人だ」
『・・・』
「我々は《ドリームキャッチャー》《剣術》《鞭術》も見せ、《含み針》《闇魔法》と全員の手の内を晒した。あいつ等は3人の《弓術》と持っているか分からん《盾術》、それにあの男は戦闘スキルは隠しているのだろうが素振りは無かった。本気を出さないで我々に勝ったのだ。しかも不意打ちされていながらな」
『・・・』
「驕りがあったのだろう。国でそこそこの実績があったし、ここに来ても大した冒険者は居ないと、見た目と雰囲気で決めつけてしまっていたのだ。冒険者なら自分を大きく見せると思い込んでいた。我々の様にスキルを隠している者も居る事を想定すべきだったのだ」
「・・・しかし私達は生きています。次に繋げられます」
「ブラダの言う通りだ。我々にはやるべき事が有る。冒険者との喧嘩で命を落とす事ほど馬鹿な事は無い。あの男の言う通り、金で解決すべき事は金で解決すべきだった。私の失敗だ」
「レオ様・・・」
「では街を出ますか。奴等は《覗き見》を街中にバラすと言っていました。この街に留まっても害はあっても利はありません」
「そうだな。元々観光でここに来たのだ。海亀も見たかったがそれは止した方が良いだろう。国を出る。本来の目的の為に予定より早いが東に向かおう」
『畏まりました』
(報復はしない、今はな)
(しかし次に会った時は必ず復讐してやる)
(必ず殺してやる)




