⑰-13-593
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2パーティが椅子に座り直して向かい合っていた。
レオは解毒薬とポーションを飲んで幾分回復している。
カズヒコはテーブルに肘をつき手の平に顎を乗せしかめっ面だ。
「ぶすー」
「レオ様、お体の具合は如何ですか」
「あぁ、大分マシになった」
「もう直ぐ昼だな。飯でも頼むか?」
「ここじゃゆっくり食べられないわよ」
「お店がオーダー受けてくれるかなぁ」
「今食べても美味しく感じられませんわ」
「言えてるな」
「全く、でんでん虫の所為で飯も不味いわ」
「「「「キッ」」」」
女達の視線がキツイ。
「何だ?今度は何の毒を盛るつもりだ?」
「きさ「止めろ」・・・」
「長剣を佩いたまま椅子に座るって馬鹿なのか?」
「きさ「止めろ」・・・」
「私の負けだウォーカー。この段に至っては賠償金を渡して収めて貰う他無い」
「・・・いつまでも貴族気分って訳か」
「ん?」
「収めて貰う他無い?自分達には他に方法が無いからそれで納得しろ、そう言ってるんだよお前は」
「・・・」
「交渉じゃぁない、開き直りだ。謝罪も無ければ当然罪の意識も無い。良いだろう、幾ら出すんだ?元貴族として幾ら出せるんだ?」
「貴様!」
「止めろと言っているのだ」
「・・・は」
「100万エナ。即金で渡そう」
「「「「100万エナ!?」」」」
「レ、レオ様。それは・・・」
「ブラダ、出すのだ」
「・・・はい」
ジャラ、
闇魔法使いがテーブルに袋を置いた。恐らく金貨が入っているのだろう。
「・・・」
「どうした、受け取らないのか?」
「これで全部か?」
「うん?そうだが」
「そうか、分かった」
ガタン
カズヒコは椅子から立ち上がった。
5人に緊張が走る。
「みんな!さっきは騒がせて済まなかった!しかし聞いてくれ!こいつ等は《覗き見》で俺達のステータスを覗いてやがったんだ!」
ざわざわ・・・
「ちょ!?」
「それの賠償でこいつ等は1エナも払わないと言いやがったんで騒ぎになっちまったんだ!」
ざわざわ・・・
「止めろ!」
「しかし騒ぎを起こしたのは事実だ!申し訳ない!そこで1杯奢らせてもらう事で謝罪としたい!」
〈おぉー〉
「店主!」
さっきの偉いさんに合図を送って1杯奢るように頼んだ。
店主が頷く。
そして席に着く。
〈覗かれたんならなー〉
〈仕方ないっちゃーないな〉
〈金も出さねぇなら尚更だな〉
〈けっ、どっちもハーレムだしどうでも良いわ〉
〈全くだ、死ね〉
・・・若干予想外の反応も有るが、まぁ良いだろう。
「貴様、どういう事だ、金を受け取っただろう!」
「まだ手をつけちゃぁいねぇぜ」
「要らないというのか!」
「お前が出したのは何に対する賠償金だ?」
「当然覗いた事に対するものだ!」
「忘れたのか?」
「何をだ!」
「覗いた事に対する賠償交渉は決裂した、そこのムッチーの所為でな」
「うっ」
「しかしだからこそこの金で」
「決裂した後のお前等からの一連の攻撃、その賠償は?」
「そっ、それはこの金で」
「つまり決裂した交渉も、その後の戦闘も、全てひっくるめてその金額だと。お前はそう言ってるんだな」
「そうだ」
「つまり、お前は全て無かった事にして金を受け取れ、そう言ってるんだな?」
「・・・」
「人のステータスを覗いた事、更にそれに対する舐めた賠償金額の提案、メンバーへの差別発言、戦闘で負けた事。全部忘れて無かった事にして金を受け取れ、そういう事だな」
「・・・しかし」
「お前は負けたと言ったな」
「あぁ」
「負けたと言ったが負けたとは思っていない、だろ?」
「・・・」
「形だけだ。賠償するが謝罪はしない。ますます貴族的だ、特に北の臭いがプンプンしやがる」
「「「「「・・・」」」」」
「南の冒険者なんぞに頭を下げられるかってところか?覗き魔は毒針を撃って来た、俺の腕を斬り落とそうとした女に鞭でシバこうとした女。それに闇の深い女だ」
「「「「ぐぅ・・・」」」」
「お前もなんかスキル使ってたな、確か・・・ドリームキャストだっけか?DVD見れなきゃ意味ねぇーんだよ!」
「「「「「?」」」」」
「ちょっとウォーカー、全然関係無いわよ」
「兎に角お前等は負けた。負けたんなら有り金全部差し出して許しを請うんじゃねぇーのか?俺達はスキルなんか使ってねぇんだぜ?」
「「「「「うぅ」」」」」
「完敗ってやつだろ。店主が来なかったらお前はどーなってたんだ?え?それが100万?その様子じゃ手持ちの一部だろ。交渉決裂前に出していたんならその額で収まってたろうが戦争に負けた今じゃ、幾ら出すかじゃなく幾ら持っててその内の何割を賠償金に当てるのかって話だろ阿呆が」
「・・・」
「さっきも言ったな。金で解決出来る事は金で解決すべきだったと。最早金で解決出来る段階じゃぁねぇんだよバーカ」
「ぐぅ・・・」
「それで」
「?」
「その金はどうするんだ?引っ込めるのか?」
「・・・」
「俺達に渡すのか?」
「そんな事を言った後で金を取ろうと言うのか!?」
「覗き魔、お前本当に凄いな、尊敬するよ」
「何がだ!」
「お前が発端で今こういう状態になっているのに更に俺達に挑発してくるなんてな。何でお前みたいなのがヒモに付いてるんだ?こういう無能が好みなのか?」
「ぐぎぎぎ」
「良いぜ。じゃぁこの金は要らねぇ。その代わりその女の片腕と、ムッチーは闇深い女を鞭打てよ。あっ、勿論武技を使ってな」
「「「「「!?」」」」」
「ここじゃぁ迷惑になるから場所を変えるぞ」
「待ってくれ」
「はぁ~、また命令か」
「申し訳ない。この金を受け取って貰いたい。それで女達への要求は無しにして貰いたい」
「女達への要求って恥ずかしい事を言うなよ。当然の賠償を要求しているまでだろ。俺の腕を斬り落とそうとし俺を鞭打とうとした。鞭打たれたのは俺じゃなかったがな」
「うぐぐぐ・・・」
「闇深い女の魔法はまぁ・・・どうでも良いや。俺には実害無かったしな」
「・・・」
「女達のウォーカーへの攻撃に対する賠償としてこの金を受け取って貰いたい。宜しく頼む」
「・・・良いだろう」
「・・・本当か」
「正直もう面倒なんだよ、お前等との時間が。早く別れたい、それはお互いそうだろ?」
「・・・」
「俺達はこの後お前等の事を街中に喧伝して回らなきゃいけないから忙しいんだよ。何せ20万人とか居るらしいからな」
「「「「「・・・」」」」」
「じゃぁこれは貰ってくぜ」
「あ、後1つお前に頼みがある」
「頼み?何だ」
「お前等この街から出て行くんだろ?だったら北に行って欲しいんだ」
「北?」
「北で戦争やってるのは知ってるだろ」
「バウガルディとソルトレイクの戦争か?」
「そうだ」
「義勇兵になれと?」
「そうだ。ただしバウガルディ側のな」
「「「「「?」」」」」
「俺達はソルトレイク側に参戦する。決着つけようぜ、戦場でな」
「「「「「・・・」」」」」
「お前等も納得はしてないんだろ?公共の場の手前大人しくしているだけだ、そうだろ?」
「「「「「・・・」」」」」
「俺も納得はしていない。お前等から仕掛けてきたのにたった100万で収めなきゃいけなかったしな。特にそこの覗き魔、お前だ」
「!?」
「戦場で会ったら必ず殺してやる。家族を辱めたんだ。例え負け戦になろうがお前だけは必ず殺してやるからな」
「・・・」ゴクリ
「だからレオ、参戦してくれよ。頼んだぞ。どうせ北への帰り道だろ?丁度良いじゃねぇか」
「・・・」
「後、剣術女、ヒルダだっけか?」
「・・・なに」
「俺達は確かに初心者冒険者だ。俺達は冒険者になって2年も経ってないからな」
「「「「「!?」」」」」
「だから他の冒険者には気を付けろよ。俺達みたいに優しくはないぞ」
「・・・」
「闇堕ち女は」
「堕ちてないわ!」
「まぁ、面白いものを見せてもらった。特に無いな」
「・・・」
「ムッチーはレオと宜しくやって鞭の技を高めるんだな。今日みたいに」
「ぐっ」
「じゃぁ、あばよ」




