③-11-56
③-11-56
やがてコロリマイタケはジャンの下にやって来た。
ジャンは麻痺していて動くことが出来ない。
ジャンの周りは胞子でキラキラしている。
彼はジャンのボルトの傷を眺めたあと周りを舞い始めた。
(舞い始めたぞ)
(傷を見ていた気がしますけど)
(麻痺してるのを確認したんだろうか)
しばらく舞っている間に胞子も辺りを舞っている。
(分からん。あの舞に何の意味が有るんだ)
(ってかそもそも何で舞うんですか)
(そこに苗床があるから・・・とか?)
(そこに山があるから登るみたいに言うんじゃない!)
しばらく観察しているとジャンの傷口からキノコが生えてきた。
(おわー。生えてきたぁ)
(ひえぇぇぇ)
(あいつまだ死んでないよな)
(えぇ胸が動いてますよ)
(毒で殺すんじゃないのか)
(仮死状態かもしれませんね)
(俺達が使えば致死性の毒だけどあいつはある程度コントロール出来るのか)
やがて顔にもキノコが生えてきた。
(死体でも勿論キノコは生えるんだろうが、生きてる方が生えるの早いんだな。多分)
(生きてる分魔力があるからでしょうかね)
(なるほど)
(しかしジャンがあのままキノコになるとして大き過ぎません?)
(恐らく分裂するんだろう)
(ぶぶぶ、分裂!?)
(あぁ。コローの納品館のお兄さんは幼体に苗床の面影が有るって言ってた。養分を吸ってある程度育つと巣立ちしていくんじゃなかろうか)
(育った順に巣立っていくってことですか?)
(あぁ。多分)
(ははは早く逃げましょう!)
(まだ大丈夫だろう)
(逃げますよ!)
ある程度育ったからだろうか、マイタケはジャンからゆっくりと離れて周りを舞いだした。
(これは誕生の喜びの舞なのかも知れんな)
(今のを見ると納得しますねぇ)
(ジャンは・・・まだ生きてるな)
(もう行きますよ!)
強引に菊池君に連れられその場から離された。
「これからどうします?」
「あいつらはボスが居るらしい」
「ボス?あいつらだけの犯行じゃないんですか?」
「あぁ。そうらしい」
「・・・どうするんです?」
「計画はある」
「何です?」
「僕を信用してるかい?」
「当り前じゃないですかっ!」
「僕の指示に従って欲しい」
「・・・分かりました」
「まず荷物は宿に置いたままだ。これを取りに行く」
「はい」
「しかしこの時間は街をうろつくのは危険だ」
「じゃぁ、どうするんです?」
「門限ぎりぎりに北西門から入りそこらの宿に泊まる」
「え?」
「僕達は南東門から出た。恐らく奴らは南東方向に狩りに行ったと思ってるはずだ。だから帰りも南東門から帰ると思い、張っているだろう」
「なるほど。宿も張られてるかもって事ですね」
「そうだ。リオンヌさんとの関係を知ったから後釜狙いで襲撃しに来たんだろう。当然リオンヌさんの宿も張られてるだろうな」
「それから?」
「明日1番の便の隣街への馬車を予約する。それで逃げる」
「なるほど。私達と戦って負傷してるかも知れないから1日くらいは待つだろうって事ですね」
「あぁ。4人は野宿の用意はしてなかったが火を熾すくらいは出来るだろうからな」
「それから?」
「そう言えば、4人漁ってどうだった?」
「ぜんっぜん!持ってませんぜアニキ」
「盗賊みたいに言うなよ。授業料だし」
「たっかい授業料・・・やっすい命でしたね」
「命って言うか、俺は人と思ってないけどな」
「え?」
「魔物だと思ってるよ」
「まもの・・・」
「話が通じねーし、殺して奪う、犯す。ケダモノ。魔物だね」
「そう・・・ですね」
「それから君はその宿で待っててくれ」
「えっ?先輩は?」
「僕はリオンヌ商会へ行って話をつけてくる。あと僕達の荷物を君に届けさせる。受け取ったら君は馬車乗り場で待っててくれ」
「えっ、先輩1人で行くんですか?」
「あぁ。間に合わなかったら君だけで行くんだ」
「嫌です!私も一緒に行きます」
「駄目だ。1人の方が動き易い」
「足手まといってことですか」
「男女2人連れでしかも綺麗な女だと目立つんだよ」
「もう!こんな時に!」
「1人で行く。連れては行けない」
「・・・分かりました」
「大丈夫。あいつらも街中ではおいそれと襲っては来れない。なんたって領都だからな」
「そう・・・ですよね」
「あぁ。任せろ」
「分かりました」
僕達は北西門に向かいつつ、道中の魔犬を狩っていった。
門限にギリギリになるように門に辿り着き、列に並び街に入った。
門に辿り着く前からあいつらのコートを着てフードも被っていたのでバレてはいないだろう。コートは安っぽい品だし目立たないはずだ。
付近の宿を借りて乗合馬車に向かい隣街までの明日の便の予約を済ませた。
どの街もそうだが乗合馬車は1日1便だ。
まれに近くに村がある場合だと時間をずらして2便ある街もあるが、それだとその村からは道連れになるのであまり意味が無い。
この夜リオンヌ商会へ行くのは、街へ出歩くことの危険と張られているかも知れないことを考え行かない。
その夜は疲れたこともあり早々に寝ることにした。
「先輩」
「ん?どうした菊池君」
「風魔法のLvが上がってました」
「・・・そうか」
翌早朝。曇天。
「じゃぁ、君はここで待っててくれ。リオンヌ商会の人に届けさせるから。用心の為名乗らなかったら窓から逃げるか殺すんだ」
「分かりました」
「じゃぁ行ってくる」
「はい、気を付けて」
「馬車の出発の時間になったら僕を待たずに乗るんだぞ」
「・・・はい」
「後で会おう」
このまま2人で馬車に乗って行くっていうのも、あるのかもな。
コートを纏い、フードを被ってリオンヌ商会へ赴いた。
応接室に通されてリオンヌさんと会う。
「どうされましたカーズさん!?昨日お帰りになられなかったと報告が有ったのですが」
リオンヌさんが奴らとグルって線も考えたがあんな下卑て貧乏な奴らと、ゴーグルやバックパックで儲けさせた俺達を殺してまで組むなんてないだろう。
「マクロンという冒険者をご存じですか?」
「マクロン?え、えぇ知っていますがそれが?」
「実はその手下に昨日襲われまして」
「なんですって!?」
「どうやらリオンヌさんとのコロリマイタケの取引を嗅ぎつけられたみたいでして」
「なんと!まさかマイキーさんが居られないのはっ!?」
「いえ。マイキーは無事です。大事を取って宿で待機しています」
「そ、そうですか。それは良かった。して襲撃者は?」
「僕達がリオンヌさんを護衛した時に居た2人組を覚えてますか?」
「えぇ。あまり役には立ちませんでしたが・・・まさか!?」
「はい。かれらとその仲間の合計4人で襲ってきました」
「なんと・・・」
「それで彼らのボスがマクロンという訳です」
「な、なるほど。それで襲撃者とはどうなったのですか?」
「彼らは行方不明です」
「行方不明?」
「えぇ。領都には戻ってこないでしょう、永遠に」
「そ、そうですか」
シモンが茶を持ってきた。
「それでこれからどうなさるのです」
「領都を出ようと思いまして」
「そ、そうですか。仕方ありませんな、マクロンに狙われては」
シモンが茶を淹れようとするがそれを制する。
「?」
「僕に淹れさせてもらえませんかね」
「どうなされたのです?」
「リオンヌさんには色々お世話になりましたが急に出ていく事に申し訳ない気持ちです。これくらいしか出来ないのも心苦しいのですが・・・」
「いえ、いえいえ。カーズさん、我々の方こそ、お2人には今まで儲けさせて頂いて。お世話になったのは私共の方ですよ」
「では最後に茶でも」
「分かりました頂きましょう!それよりお手持ちの方は大丈夫ですかな?今までお世話になった分」
「いえ。契約は契約。取引以外の金銭は受け取れません」
「そ、そうですか。分かりました。それでいつ立たれるのです?」
「今朝の便で」
「そ、それは急ですな。しかし仕方ないでしょう、マクロンはあまり評判の良くない冒険者と聞いています。そうですか、彼らはマクロンの仲間だったのですか」
自分にも茶を淹れ2人で飲む。
「ようやく当家の茶を飲んで頂けましたな」
「うまいです」
「ありがとうございます」
「リオンヌさんに頼みが有ります」
「何なりと」
「マイキーに部屋の荷物を届けていただきたいのです。出来れば偽装していただいて。あと僕からだという証に今持ってる笛を渡しますので彼女に届けた時に見せてください」
「分かりました。他には」
「いえ、それだけで結構です」
「それだけですか?もっと仰って頂いても。そうだ!バックパックが領軍の装備に試験的に導入される事になりましてな。今後は正規装備、はては王国軍まで広げようと思っております。これもお2人のお陰です。ですから何なりと仰って下さい!」
「そうですか・・・それはおめでとうございます。それはリオンヌさんの商才の賜物で僕達の力ではありませんよ」
「いえいえ!開発して頂いたからこそですよ!」
「いえ、契約以上は望みません。お気持ちだけで」
「そ、そうですか。残念ですな。今後は、将来またヴィヴィエントに戻られるのでしょうか?」
「そうですね・・・ほとぼりが冷めれば」
「ほとぼり・・・そうですな。マクロンが居れば難しいですな」
「ただ世界を周っているので、いずれ王都に向かおうと思ってますのでその折に寄らせて頂くかもしれません」
「おぉ!いつでも歓迎しますよ。商員達にも通知しておきますのでいつでもお立ち寄りください!」
「分かりました。その折はよろしくお願いします」
俺は席を立ちリオンヌさんと握手する。
「今までありがとうございました。今後の繁栄を願っています」
「こちらこそ。お2人の旅の無事を願っております」
手を放してドアに向かう。
ドアを開けて出る寸前振り返った。
「最後に。2週間ほど冒険者の間で病気が流行ります。しかしそれは疫病でも流行り病でもありませんのでご心配には及びません。リオンヌさん達は今まで通り活動して大丈夫ですから」
「!?そ、それはどういう・・・?」
「おさらばです」
俺はそのまま去った。