⑮-47-502
⑮-47-502
「はぁ~」
「どうしたんですか?」
街主の館の屋上に上がっていた。
周りよりも高い建物から見て付近の様子を探る為だ。
砦内はあちこちで衝突が起こっている。
どうやら住民も立ち上がったようだ。
「いや、今思ったんだけどね」
「はい」
「あいつの目玉を口に入れただろう?」
「はい」
「その前に錐で目玉を刺しただろう?」
「はい」
「その前にあいつの玉を錐で刺しただろう?」
「は・・・い」
「・・・はぁ」
「ご愁傷さまあっ!レイヴですよ!レイヴゥー!」
「ん?」
レイヴが飛んで来た。
「クァー」
「何て書いてるんです?」
「これからどーすんだって」
「どうされます?」
「どうやら勝敗は決したしな」
顔を上げると壁上の敵も押されて退却しているようだし、
街中も住民や公国軍が押しているようだし。
「今更命張っても事故なんかで死んだら意味が無いだろうしな」
「そうですね。ここでリスクを負う必要は有りませんわね」
「そういう事だね。砦内で合流しよう」
「はい」
極力戦わない様にと返信して合流場所である南門付近に急ぐ。
僕達よりも近かったのと僕達の方が危険だったので時間が掛かってしまった為に少々待たせてしまったようだ。
「やぁ!」
「お疲れ!怪我は無い!?」
「あぁ。ルーナ君共々無事だ」
「そう、良かったわ」
「これからどうする?」
「僕等はもう休むよ」
「なら私達は追撃しようかい」
「そうしましょう」
「俺達も行く。また後でな、ロッシ」
「あぁ。気を付けろよ」
「クズ共を1人でも多く殺してやる」
バイヨ達とクルクル兄妹は勇んで走って行った。
「戦意旺盛ね」
「まぁ、分かるよ」
「?」
「砦内を見て来ましたから。教国軍の横暴さを」
「そんなになの」
「はい」
「あいつ等はヒト以外は人と思っていないからね!」
「そうだ。奪う殺す犯す。神に与えられた権利だとな」
「あいつ等が可愛そうになるよ」
「教国軍をか!?」
「あぁ」
「何故だ!?」
「本当に神が居たとして、果たしてあいつ等は神に迎えられるのか?」
『・・・』
「恐らく『嘘でしょっ!?』ってな結果になると思うんだよな」
「まぁねぇ」
「『偉い人に言われてその通りにやって来ただけなんですけど』って言っても『やったんなら有罪』って言われちゃうでしょ」
「そうですわね」
「メッチャ不満たらたらに地獄に落ちると思うんだよね。そんな奴等が悪魔とかになるんじゃないの?」
『うーん』
「あるいはそういう奴等がゴーストやスケルトンなんかになったりするのかねぇ」
『うーん、かもねー』
「死体男!」
『ん!?』
振り返るとベオウルフが門の前に居る。
簡易的な本陣を敷いて指揮をしていたようだ。
「殿下」
「何処に行っていたのだ?姿が見えなかったが」
「街主の館に」
「む」
「ご夫妻とご息女をお助けしました」
「そうか!」
「そこで教国軍の総大将も確保致しまして」
「何だと!」
「衛兵に引き渡しましたので後程連絡が来るかと」
「うむ」
「街主様に、護衛を送るよう殿下に伝えると言ってしまい」
「分かった。おい!直ぐに街主の護衛に向かえ!」
『はっ!』
「これからどうする?」
「安全な位置でサボろうかなと」
「おい!大公の前で本音を晒すな。そんな事なら住民を助けてやれ」
「?」
「負傷した住民も多いだろう」
「なるほど。分かりました。もし敵兵士が居ても・・・捕虜は必要無いですよね?」
「あぁ。総大将が居るんならな。しかし奴隷にして金にするからなるべくなら五体満足に捕まえろ」
「えぇー」
「早く行けっ!しっしっ」
「行くぞー」
『はぁーい』
僕達は砦内を見て回った。
既に公国軍が安全を確保した地域を中心に見て回る。
途中、大公の言う通り住民が負傷していたりするので、都度マヌイが治癒していく。
建物の損傷も少なからず有る。
あいつ等の頭には育てるとか作るとか、産業というものは無いのだろうか。
略奪しか頭に無いのだろう。
その証拠が住民の死体だ。
弱い立場の者達のが多い。
老人に女に子供。
何故殺すのだろうか。
奴隷として連れて行けないなら殺した方が公国の弱体化になる、そんな所か?
全く理解出来ないが、それはあいつ等もそうなんだろう。
あいつ等も俺の考えを理解出来ないだろう。
理解出来ない者同士がお互い譲歩し合って妥協点を見つけるのが外交だろう。
そもそも教国はヒト以外は人と認めていないから妥協点も無いのだろうな。
そもそも外交なんてものもないのだろう、いきなり侵略して来たらしいし。
理解し合えないと戦争になる。
それはもう運命なのだろうか。
流石にこの惨状を見て菊池君も息を呑んでいる。
無理矢理連れて来られた、そう思っていた連中がこの惨状を生んだのだ。
無理矢理連れて来られた憂さを、住民で晴らしたのだ。
砦内を回ってると止めを乞う瀕死の教国軍兵士もチラホラ居たが無視していた。
最後の最後まで苦しんで逝け。
彼女達からもそんな声が聞こえるようだった。
そんな中で住民の死体群でモゾモゾと動くものを見た。
赤子だ。
赤子は何かを口にしようとしている。
僕等は近付いた。
赤子の下には裸の女の死体。
母親だろう、女の乳房にむしゃぶりついている赤子。
最早2度と出る事はないだろう乳を吸おうとしているのだろう。
しばらく時間が止まったように誰も動く事が出来なかった。
俺が赤子を拾い上げると乳から離された所為か泣き出した。
その声に彼女達も意識が戻ったように動き出す。
女の衣服を整え、付近の死体も整えていく。
「母親の遺体を収納してくれ」
「?はい」
「どうするの?」
「赤子の親戚を見つけられるかもしれん」
「そうね。施設よりはまだ良いでしょう」
「うん」
「そうだな」
遠くではまだ喚声が響いていた。
「何ですって!」
「もっ、申し訳ありません!」
近衛騎士のレヴィアン・ブルーフが己が主の詰問を受けていた。
妹のラヴィアンも緊張気味に答える。
「大勢の騎士と兵士から不満の声が上がっておりまして・・・」
「我々は冒険者じゃない、魔物の討伐は我々の仕事じゃない。そういう声が広がっておりまして・・・」
「でもその不満を抑えるのがあなた達の役目でしょう!」
「「はっ!」」
「そうではあるのですが、何分にも騎士のプライドが・・・」
「その騎士のプライドでマコル達を追い払ったのはあなたでしょう!」
「あう」
「だったらあなたが騎士達を抑えるのが筋なのではなくて!?」
「うぅ」
「一部危険手当などの増額を要求する者もおりまして・・・」
「報酬報酬卑しい輩と蔑んでマコル達を追いだして!増額を要求する兵達を抑えられない!?」
「あうぅ」
「ヴォーレ殿下。そこまでに」
「大臣」
「ブルーフ姉妹を詰めても問題は解決しません。至急解決法を見つけねば」
「・・・」
ドサッ
っと、大きく音がするくらいに椅子に腰を落としたセーラ。
「・・・ベルバキア公国、ソルトレイク王国から冒険者を派遣して貰うというのはどうかしら」
「・・・それが良いでしょう」
「あの、ソルスキア王国は」
「これ以上借りを作るのは不味い」
「そうですか」
「至急、要塞のクレティアン卿にソルトレイク王国への取次ぎを頼みましょう」
「畏まりました」
「なっ、噂を広めた者に頼むのですか!」
「それしか方法が無いからでしょう!」
「あぐ」
「しかしこうなると読んでいた節も有りますな」
「近々塩会議も控えてるから。王国内外に影響力を高めるという事でなら成功ね!」
「少なくともルンバキア公国での卿の影響は無視出来ないでしょうな」
「塩会議での塩の値段にも響くわね」
「止むを得ませんな」
「でもソルスキア王国への借りも大きくて転嫁も出来ないわ」
「それは塩会議でも議題に上るでしょうな。しかし先ずは今を乗り切りませんと」
「・・・そうね」
意識せず親指の爪を噛んでしまうセーラ。
そこに衛兵が戸を開けて部屋に入って来た。
バグレスク大臣に耳打ちをする。
その様子を3人の女が無言で見守る。
「何だと!」
「「宰相閣下!?」」
側に控える2人の女近衛騎士が驚いて口に出す。
部屋に控えるこの城の主も不安を表情に出していた。
「殿下」
「大臣」
「キルカ商会が店を畳むと言っておるそうです」
「「「!?」」」
「どういう事です!」
「先日の家宅捜索で店内を滅茶苦茶にされて最早ルンバキアでは商売が出来ないと!」
「「「!!」」」
「どういう事なの!?」
「家宅捜索で衛兵が・・・強引に捜索したらしく・・・」
バァン!
セーラが両手を机に叩きつけた。
レヴィアン・ブルーフの顔が青くなる。
「レヴィ・・・」
「は、あ、いや・・・」
「どういう事なの」
「わた、私は、聞きだせとは言いましたが、そこまで・・・」
「商人を庇護すると言ったわよね」
「あ、あの、その・・・」
「それにキルカ商会はマコルの得意先よ。店を畳むとなったらマコルを連れて来る事は不可能になるわ!」
「あう」
「それだけではありません」
「ん」
「ワイルドキャットは情報収集に優れた冒険者」
「そうよ」
「グデッペン要塞に潜入するほどの能力も有り」
「そうよ」
「ドラゴンバスターでもある」
「そうよ!」
「この城などへの侵入は容易いでしょう。一度来て内部も調べているでしょうからな」
「「「!?」」」
「情報収集に優れ、要塞に侵入する程の能力を持ち、ワイバーンを討伐する程の武力を持つ・・・もし敵にした場合・・・」
ゴクリ
静かになった室内に唾をのむ音が響いた。
4人全員がワイルドキャットの力をその目で見ており、想像は容易だった。
「遺憾であると。大臣名義でキルカ商会に詫び状を出しましょう」
「「大臣名義でですか!?」」
「損害は公国が賠償する事も合わせて申し伝えましょう」
「・・・そうね。私名義じゃなくていいかしら?」
「「!?」」
「そこまでは流石に」
「他に出来る事は?」
「キルカ商会は自前で護衛を雇っています。聞けばソルスキア王国から連れて来たとか」
「確か、そうね」
「恐らくソルスキア王国の商人にも繋がりが有るのでしょう」
「そう言えばソルスキアに馴染みの商人が居ると言っていました!」
「・・・なるほど。他の商人には分からない様に多少、優遇しましょう」
「はい。それはマコルへの報酬にもなります」
「そうね。贔屓に、そう言っていたわね」
「然様です」
「レヴィ」
「はっ、はい!」
「騎士はもう少しの間、宥めなさい」
「畏まりました!」
「要塞に連絡して駐屯中の冒険者を融通してもらいましょう」
「はい」
「代わりに騎士と兵士を要塞に送る」
「はい」
「折角戦争に勝って要塞も手に入れたわ。ここで躓いてなるものですか」
「然様です。建国王でも成し得なかった偉業です。ここを凌げば、殿下の道は開かれるでしょう」
「そして南部の連中を滅ぼす」
「殿下?」
「直轄地を増やして公家の力を増すのよ」
「殿下・・・」
「自分の事しか考えない諸侯の力に頼らない。大公の力で国を・・・」




