⑮-46-501
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「はぎゃぁー!?」
てこの原理を使って目玉を取り出す。
目玉の先に筋が伸びている。
脳に繋がってる神経組織だろう。
《EMブレード》で焼き切った。
「あぎゃー!」
「目玉を取り出すのは難しいんだよ。目の周りは脂肪や筋肉が有るし瞼も有って出てこない様になってるんだ」
「出てきたら困りますもんね」
「その通りだね」
そう言いつつ取りだした目玉を頬張るカズヒコ。
「ひぃっ」
抉られた眼窩を手で庇いつつ悲鳴を上げて後退る男。
男に目玉を見せるように口を開ける。
穴の開いた自分の瞳が自分を見ている光景に血とは別の液体が下腹部から流れ出す。
カズヒコは歯を見せつつ思い切り口を閉じた。
ブヂュッ!
「ひいいい!」
「ぷっ」
男に目玉だった物が吐きかけられた。
「お前がゴーレムの作戦を命令したんだな?」
「ひいいい!」
「もう1個潰すか」
「ぞうでず!ぞうでずぅぅぅ!」
「象?暗号か?象って奴が命令したのか」
ブンブンブン
「ロッシさん。そう、ですわ」
「お前、情報は正確にって言ったよな?」
「ずびばぜんー!ずびばぜんー!」
「まぁ良いだろう。玉を失くしてコウガン自失だったんだろ」
「呆然自失ですね。殆ど韻を踏んでいませんわ」
「・・・さっきの怒ってるの?」
「知りません」プイ
口を尖らせて横を向くサーヤ。
「ごめんて~、ごめんて~」
「プンプン!」
「飴をあげるから」
「もう!飴なんかで・・・あまーい!」
「お前の所為で臍を曲げられる所だったじゃないか!」
「え、えぇ?・・・」
「ゴーレムはお前の指示なんだな!」
「はっ、はいぃぃぃ!ですが作戦自体は本国の命令でして!」
「ん?」
「ゴーレムの戦争への利用を模索してる中での実験でして!」
「なるほど。お前の国では今後、そーゆー禁忌を戦争利用していく方針なんだな?」
「は、はい!」
「全く!亜人には何しても良いって考えなんだろうな」
「そうなんでしょうね」
「と言う事はお前等も、され返されても文句は言えんぞ?」
「え?」
カパッ
大きく口を開けて首元と肩の中間に噛みついた。
「ぎゃぁあああ!?」
ブチブチブチ
ゆっくりと噛み千切って男から離れるカズヒコ。
口から肉が見え、血が滴っている。
男があまりのショックで状況を把握出来ない。
「はぁ!?はぁ!?」
「ぷっ」
「うあっ!?」
「お前はゴーレムに食われる奴を見た事有るのか?・・・有るな、コイツは」
「えぇ。親の前で娘を襲う鬼畜ですからね。住民の方達で実験したのでしょう」
「実戦で投入する前に予戦だとか言ってやってるなお前は」
「はわわわ」
「ルーナ君」
「はい?」
「俺は同じか?」
「え?」
「こいつと俺は同じか?」
「ロッシさん」
「こいつをいたぶって、気を晴らしてる俺は同類か?」
「何を言ってるんですか!全然違います!自分からやったりしないじゃないですか!あの人達の無念を代わりに晴らしているだけです!ゴーレムに食われて死んだ方達は今のあなたを見て良くやってくれたって言ってくれますよ!」
「・・・そうかな」
「そうに違いないです!さっき助けた奥さんも子供も!お礼を言ってたじゃないですか!」
「・・・そうか?」
「間違ってません!少なくとも私はどこまでも付いて行きます!」
「・・・そうか」
「そうです!あなたは今も自分の行為を見つめてるじゃないですか!正しいか間違ってるか自問して私に相談してるじゃないですか!」
「・・・そうか」
「はい!あなたは正しいんです!もう!お前の所為だ!」
ズガッ
ショックレスハンマーが男の膝に振り下ろされた。
「ぎゃぁあああ!?」
「あなたが正しいから今こいつはゴーレムに食われた人達の恨みを受けているんです!」
「・・・だよな」
「はい!ロッシさんの判断ミスは右翼の弓手を見過ごしただけです!ゴーレムで死んだ人達はあなたを恨んでなんかいません!」
「そうか?」
「そうです!ロッシさんのミスで死んだ人は居ません!食料が燃やされただけです!死んだのは全部ゴーレムの所為です!」
「だよな?」
「そうです!もう!お前の所為で!」
ズゴッ
「ぐあぁああ!?」
「はぁ~」
上を見上げたカズヒコの顔には涙の跡が。
「お前、バランス悪いな。一方だけ肉が無いじゃないか。もう一方も同じようにしないと・・・バランスが悪いだろ」
「ちょちょちょ待っぁあああ!」
ガブリ
ブチブチブチ
「おい!何をして!?ホントに何してる!?」
公国軍の衛兵が部屋に入ろうとして口を押さえた。
肩口を噛んだままカズヒコが衛兵の方に向く。
「ゾっ、ゾンビ!?」
「だっ、だずげでぐれー!」
衛兵が持っていた武器を取ろうとしたので総大将から離れて所属を明らかにした。
話しだけでは信じてもらえないようで、国と契約した時に預かったタグを見せた。
冒険者は兵士と違って装備からでは国の所属も分からないのだ。
しつこいくらい「ゾンビではないんだな!?」と尋ねられたのが癪だった。
衛兵たちは隣の部屋で街主親子から事情を聞き、ここに来たそうだ。
衛兵たちが総大将を運び、僕達もその後を付いて行こうとすると呼び止める声がする。
「あっ、あの!」
「ん?」
『ぎゃっ!?』
目の前の親子は俺の顔を見て悲鳴を上げた。
失礼な奴等だ。
「ロッシさん。お口を・・・」
サーヤがハンカチで俺の口周りを拭いてくれた。
ハンカチを見ると血塗れだ。
おぅふ。
「失礼。戦闘直後なものでして」
「い、いえ・・・」
「君達が私達を助けてくれたと娘から聞いているが・・・」
「兵士が住民を守るのは当然の事。お気になさる必要は有りません」
「しかし君達は冒険者だろう?」
「大公殿下直属の冒険者です」
「殿下直属の!?」
「はい。この度の砦開放に当たって真っ先に街主様とその御家族の安全を確かめるよう申し付かっておりました」
「でっ、殿下が!?」
「はい。大公選抜祭も有りまして直ぐに軍を起こせなかった事を殊の外お気にしておられまして、扉を開けた後に直ちに御身の無事を確かめるよう申し付かっておりました」
「殿下が・・・くくく」
「幸い間に合ったのは殿下の判断と街主様方の日頃の公国への忠誠が報われたものでしょう。私達の力ではありません、どうぞお気になさらず」
「おぉ!何と謙虚な!本当に冒険者かね」
「我々は殿下の影。陰の世界にて活動をしておりますれば我々の事はどうか・・・」
「う、うむ。君達の事は誰にも話さないと誓おう。お前達もそのようにな」
「「はい!」」
奥さんと娘さんが返事をした。
「殿下にはくれぐれも宜しくと、伝えてくれ」
「承知致しました。この館まで公国軍の衛兵が来たという事は砦の開放は成ったとみていいでしょうが、まだ狂信者共が居るのも事実、どうかお気を付けあそばしますよう」
「うむ。気遣い感謝する」
「殿下へ報告の時に護衛の派遣も上申しますのでもうしばらく我慢なされませ」
「重ね重ね感謝する」
「では」
「気を付けてな」
「あ、あの!」
「ん?」
「名前」
「ん?」
「お名前を!」
「ふっ、名乗る程の者じゃござんせん」
『え』
「では」
サーヤ君と街主の館を出た。
「カッコ良くなかった?今のカッコ良くなかった?」
「もう!台無しですよ!」
「名乗る程の者じゃござんせん」
「復習しないで下さい」
「笑わなかった方が良かったかなぁ」
「もう!まだ終わってませんよ!」




