③-05-50
③-05-50
「それでは今日、コロリマイタケを狩られるのですね?」
「はい。今日、挑戦します」
「分かりました。では本契約書を用意して待っています。御武運を」
「ありがとう。では」
南東門に向かった。
7mの高い壁が視野を覆っている。
ここにも塔上に男女像がそびえている。
ここの男女像は武器を交差することなく傍らに備え、南東を指で指し示している。
後で聞いたところによると、なんでも王都の方向を指しているらしい。
門衛にカードを返してもらい外に出る。
振り返って男女像をよく見ると、なるほど。女性像の方が新しい。
目的地は東の森の奥地。
3万人の領都は冒険者の数も多く、街周辺の魔物の間引きは問題なく行われている。
村からここに来る街道でも魔物には出くわさなかった。
そういう安全性もまた領都の魅力でもあるのだろう。
森に入り結構歩いて途中の魔犬や練習用ゴブリンは殺していた。
そして森の中の木々がまばらになっている中に彼はいた。マイタケだ。
「コロリマイタケかな」
「今までのマイタケよりも色が濃いですし、図鑑の色に似てなくもないし、コロリマイタケでしょう」
「図鑑の色って微妙に違うもんな」
「ギルドによって色が着いてたり着いてなかったりしますしね」
彼は舞ってはいなかった。
どこかへ移動の途中だったのだろうか。
「舞が見られなかったのは残念だがそれは次回以降だ。仕掛ける」
「分かりました。周りを警戒しときます」
《罠》を仕掛け《隠蔽》で隠し、命綱を付け、目を瞑り《魔力検知》《魔力操作》を発動させ《魔力感知》で位置を把握し彼の前に姿を見せるとこちらに動いてくる大きな魔力が分かるので射程に入ったら《殺菌》を発動する。
魔力は地に伏したようで痙攣もしているようだ。
そのまましばらくすると小さくなっていった魔力はやがて消えた。
一応辺りを《殺菌》しながらコロリマイタケの元に向かう。
「ふー。こっち来ても大丈夫だよー」
菊池君が近づいてきた。
「ふー。問題無しでしたね。良かった良かった」
「毒が強いって聞いてたから菌も強いのかと思ってたけど別物だね」
「胞子の範囲も他のと変わらないくらいでしたし、大丈夫なんじゃないでしょうか」
「じゃあ、本契約ってことで」
「はい!」
そのままコロリマイタケを布で包み背負子で背負い街に向かった。
門衛にも検められることもなく街に入って商会を目指す。
「おぉ!正にコロリマイタケ!しかもこんなに完全な!」
丸洗いされて台に載せられているマイタケを見てリオンヌさんが興奮している。
「いかがでしょうか」
「完璧です!カズーさん!ミキティさん!」
「リオンヌさん」
「あっ!失礼、カーズさん、マイキーさん」
「似たような名前だから無駄かなとは思うんですけどね」
「何を言ってる、混乱させるのも作戦なんだよ」
「えぇ、曖昧な事の方がいざという時誤魔化しやすいものですよ」
「そんなもんですかねー」
「はい。ではお2人共、本契約ということでよろしいか?」
「えぇ。お願いします」
「是非に!」
僕達は無事、リオンヌさんと契約を結ぶ。
「期限なのですが、僕達は旅をしながら冒険者をやっていまして」
「存じております。では領都を去る迄、ということで?」
「よろしいですか?」
「勿論です」
「僕達としましても最低何か月と提示したいのですが・・・」
「いえいえ、コロリマイタケの味の旬は秋から冬。まさに今の時期ですし、それにしばらく滞在されるのでしょう?」
「はい。バックパックとゴーグルの制作に時間掛かるようですし、前の街でもそうだったんですが他に割のいい仕事が見つからない限りは離れないつもりですが」
「冒険者家業は未来が見えませんからね」
「えぇ」
「お2人が可能な限り、ということに致しましょう」
「助かります」
「なんのなんの。所で魔石はいかが致します?当家で買い取りましょうか?」
「昨日のゴブリンのは僕達に、マイタケのはリオンヌさんへ」
「分かりました。では買い取らせて頂きます」
「それと感づかれるかも知れないので毎日は狩らないということで」
「分かりました」
「僕達が言うのも何なのですが利益は大丈夫なんですか?」
「えぇ、勿論です。冬はマイタケというのはこの国の名物ですからね。貴族や王族も口にされるのです」
「王族も!」
「えぇ。そして高貴なる方達は態々金額を釣り上げてお買い上げ下さるのです。庶民とは同じ値段で購入なさらないのですよ」
「な、なるほど。見栄を張るにも高くつくのですね」
「はっはっは。しかし見栄の金額が動くお陰で国が回ります。私共が潤えば従業員も、そしてその家族も」
「ではせっせとキノコ狩りに励むとしますよ」
「はっはっは。期待していますよ」
その後納品館に行き魔石とゴブリンの討伐部位を納品し報酬を得た。
また以前と同じルーティーンでいいだろう。
そのルーティーンで1週間ほど経過した。
「1週間で10万貯まってるぞ!」
「すっ、凄いですね!」
「これならマジックアイテム2人分貯まるんじゃないか?」
「そうですね!いやー、なんなら一生このままでもいいかなって思えてきますよ」
「確かに。甘い誘惑だ・・・しかし旬は冬って言ってたから春以降はこの生活は無理だぞ」
「えー!じゃぁ、世界を周りつつ秋に戻って来て狩りましょうよ」
「まぁ、もう少し、ってかもっと世界を見て回って決めよう。まだ美味しい稼ぎは有るかもしれんし」
「そうですね。でも宿代が掛からないのは地味に財布に優しいですね」
「固定費だからね。これが有るのと無いのとでは長期で見るとかなり違ってくるね」
「日中は狩りに出てお金を稼ぎ、夜は本で勉強し、勤勉な生活ですね」
「健康面では確実に前世より良いな」
「体調も良いですよ。スキルのお陰もあるでしょうが」
「娯楽が無いのが・・・欠点か?」
「特に室内の娯楽が無いのが・・・寝るだけって、ねぇ」
「ある意味健康的ではあるが・・・小説でも書いてみるか?」
「小説?」
「この世界の人達より僕達の方が想像力ありそうだから、僕達の経験や他の冒険者の冒険譚をまとめて小説にするとかね」
「おぉー。冒険者業を引退した後で出版するのに今から資料を残しときますか」
「ただ紙高いんだよな」
「ですねー、皮紙はかさばるし」
「あとはやっぱり楽器かな」
「笛も段々良くなってきてますしね」
「結構遠くまで聞こえるようになってきてるしね」
「でも楽器としては横笛がもうありますよ」
「じゃぁ僕達の笛はより遠くへ聞こえる様に改良して、横笛は趣味で買って部屋で練習するか」
「場所も取ら無さそうですもんね」
「だねー、リュートだっけ?あれは無理」
「大きいですね」
「吟遊詩人ってギターみたいなリュートみたいなイメージだけど、僕達だったら1人が歌って1人が笛を演奏でもいけるね」
「おぉー。なんか素朴な、牧歌的な雰囲気の吟遊詩人ですねー」
「賑やかな酒場じゃなく、しっとりとした酒場だね」
「ジャズ喫茶的な?」
「聞かせる飲み屋みたいな」
「結構良いんじゃないですか」
「なんかこの世界には音楽が少ないし結構良いかもな。お金より楽しそうだよ」
「ホントですね。各地の音楽とか聞いて回るのも面白いかもしれませんね」
色々将来の事を想像することが現在1番の娯楽なのであった。