⑮-44-499
⑮-44-499
治まった衝撃から顔を上げると土埃はさっきまでよりも薄い。
恐らく扉が開いた為に土埃も砦の中に行った分ここら辺のは薄くなったのだろう。
抱き抱えたままで下に居るサーヤを見る。
「大丈夫か!?」
「ははははい!」
「ホントに大丈夫か!?」
「だだだ大丈夫です!」
「顔が赤いようだが苦しいのか!?すまん!俺が被さっていたな!」
急いで立ち上がって周囲を見渡しサーヤに手を差し伸べる。
サーヤは俺の手を取って立ち上がる時顔を顰めていた、やはりどこか痛めたのか。
サーヤの土埃を払いながら尋ねる。
「ホントに大丈夫か!?」
「大丈夫です!」
「良し!連射式に大ヤスデの盾をアタッチしろ!」
「はい!」
「俺が搔き乱す!クソ野郎どもをブチ殺せ!」
「はい!」
サーヤが収納袋から武装を用意する。
この大混乱の状況と土埃で俺達に注目してる奴は居ないだろうから収納袋を見られる事はないだろう。
武装を用意しつつ破城槌戦車に近付く。
あんな強大な魔力はこの世に2人と居ないだろう。
「殿下!」
「いよう!死体男!」
「何考えてんですかっ!大公自ら戦車押すなんて!」
「この方が早く開くと思ってな!」
「何かあったらどうするんですか!」
「こうするんだよっ!」
戦車の内側に備え付けられていたのだろう槍をブチ開けられた扉から砦内に投げこんだ。
〈ぎゃっ〉
未だ土煙舞う向こうから叫び声が聞こえた。
「・・・殿下はここを動かないで下さい!」
「行っちゃぁ駄目か!?」
「ジッとしてろ!後は部下に任せてジッとしてろ!」
「つまんねーの!」
「ロッシさん!」
サーヤの指さす方を見る。
味方からも扉が開いたのが見えたのだろう、大軍勢がこっちに向かって土埃を上げながらやって来るのが見える。
俺は戦車の押し手の兵士達に発破をかける。
「よっしゃぁ!野郎共!狩りの時間だぁ!」
『うおおお!』
「死んでも後ろの奴等が骨は拾ってくれるぜ!心置きなく死ねやぁ!」
『うおおお!』
「1番槍もーらいっ!」
『させるかぁ!』
「俺が1番槍じゃぁ!」
「俺だ!」
「俺だぁ!」
ジェットパックを持つ俺を追い越せる奴は居ない!
少し前から《土想造》で砦内に土埃を上げていた。
砦内の扉前では数人の教国軍兵士の死体が倒れている。
先程の衝撃で扉諸共ブッ飛ばされて死んだのだろう。
あまりの衝撃の大きさに砦内に居た教国軍兵士達がフリーズしてしまっていた所に、
ボヒュッ
1つの影が土埃から飛び出して来た。
サク
「あうっ」
1人の兵士の喉に槍の穂先が刺さった。
影はそのまま兵士達に紛れ込む。
「ぎゃあああ!?」
「ぐあっ!?」
「うあっ!?」
「何だぁ!何が起きてる!?」
「何か1人で突っ込んで来たぞぉ!」
「だったら殺っちまやぁ良いだろうが!」
兵士達が喚いている所に土埃から次々に新手が飛び出してくる。
『おりゃぁあああ!』
『うあああ!?』
破城槌戦車を押していたごつい兵士達がそのまま武器を取って砦内に雪崩れ込んだ。
土埃がある程度治まる頃には乱戦となっていた。
壁上に居た射手たちは砦内に入り込んだ大公軍兵士を狙おうとするが、
「くっ!」
「味方に密着して撃てない!」
「誤射の危険が有るぞ!」
「どうすんだよ!」
「むむむ」
射手の指揮官も判断が遅れる。
その間にも外に居る大公軍の本隊が迫って来ていた。
「そ、外の敵をひょっ!?」
射手の指揮官の首にボルトが刺さった。
「あっ!」
「クソッ!誰だ!」
「あー!下の女だ!」
「クロスボウ持ってるぞ!」
「くそが!やっちまえ!」
「馬鹿野郎!外から大軍が来てるだろうが!」
「じゃぁどーすんだよ!」
「女は1人だ!下の誰かがやってれるんっ!?」
兵士の1人にボルトが突き刺さる。
『くそがー!』
サーヤは壁上の敵を狙っていた。
正面の敵はカズヒコがどうにかしてくれるだろうと安心して扉の壁上に居る射手を狙っていた。
時折飛んで来る矢やボルトも大ヤスデの盾で弾いていた。
しかし弾が尽きて弾倉を交換する隙を突いて1矢がサーヤに迫る。
「!」
バシッ
「弾倉を交換する時が一番危険なんだよ」
「カズヒコさん!」
サーヤに一瞬前の表情とは正反対の表情が表れた。
「1番槍は貰った。あとはあいつ等に任せよう」
「はい。ここからは?」
「敵の総大将を見付けるか。逃げられる前に捕まえて落とし前を付けたいからな」
「はい。でも殺しては駄目なんでしょう?」
「あぁ。生かして捕らえる。生きてればいいだろ、生きてれば」
「えぇ、そうですね。生きていれば用は足りますね」
「「ふっふっふ・・・」」
カズヒコとサーヤが邪悪な笑みを浮かべる。
ドドドドドドドドド
公国軍本陣から騎兵隊が砂塵を上げながら走ってゆく。
バティルシクが近衛兵に疑問を投げかける。
「騎兵を出す必要が有るのか!?」
「山地国家ですから出番が無いですからね!張り切ってますよ!」
「退路を断てばこちらの犠牲も大きくなろう!?」
「それでもクソ共を1人でも殺せるなら本望でしょうよ!」
「殲滅戦か」
「えぇ!ゴーレムも投入されてやり逃げされたら兵達の不満も溜まります!」
バティルシク含め高級文官たちは砦を遠望した。
「きゃっ!」
サーヤが小さな悲鳴を上げながら屋根に降り立った。
「上手いぞ!」
「はい!」
サーヤにジェットパックを背負わせて俺達は屋根伝いに移動をしている。
扉付近の教国軍兵士を尋問して総大将は南門付近には居ない事が分かった。
どこに居るかも知らないと言う。
公国軍の本隊が南門から突入したので俺達の役目は終わったと判断して総大将の行方を捜索することにしたのだ。
その捜索の為に砦内の建物の屋上を移動しながらサーヤにジェットパックの練習をさせていた。
俺は高い【AGI】【DEX】のお陰で自身のフィジカルで屋上を飛び伝っている。
屋上を走りながら地上の騒ぎを見付けた。
「行くぞ!サーヤ!」
「はい!」
「オラ!寄越せって言ってんだろっ!」
複数の教国軍兵士達が住民から略奪をしていた。
「ちきしょう!渡すもんか!」
「この亜人がっ!」
「おい!早くせんか!盗る物盗って次に行くぞ!」
士官だろう男が部下を急かす。
「こいつ!ブッ殺してやる!」
「ちきしょー!」
「うわー!かぁちゃーん!」
兵士の剣がしがみ付いている獣人の女に振り下ろされようとした時、
ゾグンっ
獣人の女の目の前に人の大きさ程も有るハンマーが落ちて来た。
しがみ付かれていた兵士はどうやらハンマーの下に居るらしい。
血溜まりが出来ていた。
それを見て女が悲鳴を上げる。
「ひっ!」
「なっ!?」
ドガッ
士官の前に居た兵士の首が折れてその場に倒れ込むのと男がその近くに降り立ったのは同時だった。
「凄い威力だな!ハンマーの重さと落下エネルギーで文字通りぺしゃんこだぞ!」
「はい!凄いです!」
潰された部下の血溜まりを見ながら笑顔で話している男と女を見て士官の表情が引き攣る。
「おっ、おまっ、お前等!?」
そう口を開いた顔の直ぐ側を矢が飛んで行く。
士官の後ろに居た兵士の眉間に刺さった。
士官の視線の先にはクロスボウを向けたカズヒコ。
「奥さん大丈夫かい?」
「あ、あの、あの」
「もう大丈夫だ。僕等は公国軍大公殿下直属部隊の兵士だ」
「公国軍・・・大公・・・ベオウルフ!?」
「そうだ」
「かあちゃん!」
子供が母親だろう獣人の女に抱きついた。
「ベオウルフ殿下が来て下さったから、も~大丈夫だよ」
「かぁ~ちゃ~ん!うあああ!」
安心して張り詰めていたものが解けたのだろう。
「くそっ!」
1人だけになった士官が走り出そうとする。
ビシュッ
「ぐあっ!」
足に矢が刺さって転んでしまった。
「まぁそんなに急ぐなよ。慌ててどこに行くつもりだ?ん?」
「うう・・・」
ドゴッ
矢が刺さった箇所を踏みつける。
「ぎゃあああ!」
「大将はどこに居る?ん?言ってごらん。悪いようにはしないから」
「ホントだな!殺さないな!」
「あぁ。俺は殺さないよ!これは取引だ。俺とお前の。約束は守ろう」
「ホントだな!」
「あ~。疑ってるんだ。傷付いちゃうなぁ僕。じゃぁ他の奴探そうかなぁ~」
「まっ待て!街主!街主の屋敷だ!略奪してる!」
「なるほどね。ありがとさん!」
「約束だぞ!殺すなよ!」
「あ~、俺は殺さないよ」
獣人の女に顔を向ける。
「奥さん」
「はっ、はい!」
「ベオウルフが砦に突入したって住民の人達に触れ回ってくれ。開放されたってね」
「はっ、はい!」
「あ、その前にこいつは好きにして良いよ。奥さんの頑張りに敬意を表してね」
「「えっ!?」」
「ちょ!ちょっと待て!殺さないって言っただろ!」
「俺はね。俺は殺さないって言ったの。奥さんがどうするかは知らないけどね」
「ちょ!ちょっと待てよ!」
「じゃぁ奥さん。僕等は総大将をとっ捕まえに行かなきゃいけないんで失礼しますよ」
「あっ、は、はい!ありがとうございました!」
「坊主も。良くおかあちゃんを守ってたな。偉いぞ」
「うあああーん!ありがとうー!」
「飴を上げよう」
ポケットから飴を取り出して子供に投げ渡した。
両手でキャッチして俺を見上げる。
「あめ?」
「甘いぞ。ご褒美だ。お上がり」ニッコリ
「うん!」
「じゃぁな!」
「まだ教国軍兵士も居ますからお気を付け遊ばせ!」
2人が親子に声を掛けて走り去って行った。
獣人の女は落ちていた剣、つい先ほど自身に振るわれるはずだった剣を掴み士官の男の下に向かう。
「ま、待て!待ってくれ!待ってぇぎゃあああー!」
「あまーい!」




