⑮-43-498
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ドォオオオオオン
「うおおお!?」
「きゃあああ!?」
ぶつかった衝撃が俺達にまでやって来た。
街壁もその衝撃を受けたのだろう、矢が止んでいる。
土煙が舞う中で戦車を押している兵士は身体の向きを正反対に変え、今度は背後に有った棒を押していく。
戦車は砦から離れて行く。
扉を見るとあの破壊力であっても壊れる事なくそこに屹立していた。
〈オーエス〉
〈オーエス〉
〈オーエス〉
遠ざかってゆく戦車から掛け声が聞こえる。
「扉に向かうぞ!」
「は、はい!」
矢が来る前に急いで扉に戻る。
楔は深々と打ち込まれているようだ。
扉も楔を中心に凹んでいるようだ。
直上から声が聞こえる。
〈扉を押さえろぉー!〉
〈扉を壊させるなぁー!〉
広くなった扉の隙間から教国軍兵士の血走った眼と怒声が俺達に向けられる。
「ブッ殺してやる!」
「邪教徒め!」
「地獄に落ちろ!」
「サーヤ、連射式」
「はい!」
「その女もまわしてやるっ!」
「お前等の教義はそんな事して良いのかよ」
「俺達で浄化してやるんだよ!」
「ひゃーはっはっはぎゃっ!」
ドシュッドシュッ
隙間から連射式クロスボウを撃ち続ける。
『ぎゃぁあああ!?』
「くせぇ息を吐きかけんなよ」
ドシュッドシュッドシュッドシュッ
『ぎゃぁあああ!』
〈《エアロエッジ》!〉
「避けろ!」
俺とサーヤは隙間から離れる。
ザシュッ
隙間から真空波が吹き抜けて行った。
〈今の内に扉を押し戻せぇー!〉
「魔法の射程範囲だが扉を無視して発動しては来ないな!」
「はい!障害物が有ればその向こうには発動出来ないようですね!」
扉の向こうを視ると丸太を担ぎ出して来たようだ。
「扉から離れろ!」
ドオオオオオン
丸太2本で扉を向こうから押して凹みを直した。
その衝撃で楔も押し出され俺の足元に落ちた。
丸太はそのまま扉を破られない様につっかえ棒の役割になっている。
土魔法使いが土に穴を開け丸太を支えたようだ。
俺がロックワームでやったように。
「クソッ!打ち込むのが難しくなりやがった!」
「カズヒコさん!」
「だがまだ諦める訳にはいかん!行くぞ!」
「はい!」
落ちた楔を拾い扉の隙間にあてがう。
サーヤが重ハンマーを振りかぶって掛け声と共に楔を打ち込んだ。
「ふんっ!」
ギィイイイン
しかし向こうから丸太で支えられてさっきの様には刺さらない。
「しょうがねぇ!《身体強化》だ!」
「はい!《身体強化》!」
「ふんっ!」
ギィイイイン
「良いぞ!もう1度だ!」
「ふん!」
ギィイイイン
「良し!もういっちょぉぉぉ!」
「ふん!」
ギィイイイン
「良し!入ったぁ!」
俺は味方に合図を出す。
「デッドマンズカンパニーの合図を確認!」
「発進!」
「破城槌戦車!発進!」
「了解!破城槌戦車発進!」
さっき戦車を押していた兵士と代わって新たな兵士がスキルを発動する。
『《身体強化》!』
またさっきと同じ様に最初はゆっくりと進んでいた戦車が徐々に速度を上げていく。
途中、ファイアーボールが戦車の鎧に直撃して1人が火達磨になりながら脱落する。
〈撃て撃て撃てぇー!〉
上から叫び声が聞こえる。
矢が戦車に集中して降ってゆく。
しかしそれでも更に速度を上げて最高速に達した破城槌戦車は楔に衝突した。
ドォオオオオオン
寸前で避けていた俺達にまたも土埃が襲う。
〈オーエス〉
〈オーエス〉
〈オーエス〉
戦車はまたさっきと同じ様に帰って行った。
俺達も扉に戻る。
扉は破られてはいない。
しかしさっきよりも扉が凹んでいる。
つっかえ丸太も視ると折れたようで兵士達が慌てて次の丸太を用意している。
閂も曲がって来ている。
「よぉーし!良いぞぉ!」
「でもカズヒコさん!」
「ん!?」
「《身体強化》は時間を空けないと使えません!」
「そうか!」
どうするか・・・
思案している所に直上から強大な魔力反応を感知する。
「なにっ!?」
〈《サイクロン》!〉
俺達の少し離れた位置に竜巻が発生した。
さっきのでも分かったが自分が見えない位置に魔法を発生させるのは出来ないらしい。
上に居る風魔法使いは自身が見える扉の前に《サイクロン》を発生させた。
そして自分の見えない位置に居る俺達に向かって《サイクロン》を移動させる作戦のようだ。
《サイクロン》が空気を吸ってるんじゃなく空気を吐き出しているようだ。
吐き出しているのは当然・・・
「クソッ!《エアロエッジ》がっ!」
小型の《エアロエッジ》が俺達を襲う。
サーヤに作って貰った夏用の服が斬り裂かれる。
「うおおお!」
「きゃあああ!」
「《土壁》!」
俺達の周りに土の壁が地面から突き出て来た。
《エアロエッジ》が土壁に当たっている音がするが俺達には届いていない。
しかし周囲の風の勢いは相変わらずだ。
やがて《サイクロン》と《土壁》が衝突して砂塵が辺りに舞い上がる。
通常の竜巻なら通常の土壁にぶつかっても通過するのだろうが、
魔力で操っているモノ同士はぶつかると通過はせず何らかの反応を起こしてエネルギーを辺りに散らしている。
そのエネルギーは熱だったり光だったり。
断続的な閃光、
瞬間的に発生する熱、
空間を歪めるほどのエネルギー。
エネルギー発生個所が蜃気楼のように揺らめく。
「ぐおおお!」
「きゃあああ!」
やがて《土壁》が《サイクロン》に耐えきって消滅させた。
「「はぁ、はぁ・・・」」
「大丈夫かサーヤ!」
「は、はい!」
「楔、楔・・・クソっ!」
俺達が《サイクロン》に襲われている間に次のつっかえ丸太で扉を支えた時に落ちたんだろう。
「カズヒコさん!」
「ん!?」
「カズヒコさんが魔法使ったの、大丈夫でしょうか!?」
「土埃で見えていないさ!心配いらん!」
「はい!」
「良し!《土想造》!」
足元から土が盛り上がって来て楔を打ち込む高さに台を作った。
その台に楔を乗せる。
「打ち込め!」
「はい!ふん!」
ギィイイイン
「もういっちょぉ!」
「ふん!」
ギィイイイン
「もう一声!」
「ふん!」
隙間が開き過ぎて楔がガバガバだ。
もはや打ち込んでも楔を固定出来ないだろう。
あとは閂を圧し折るだけだ。
このまま台に載せたままにしよう。
俺は合図を出す。
「デッドマンズカンパニーの合図を確認!」
「よぉーし!今度はワシも出る!」
「はぁ!?殿下がですか!?」
「そうだ!ワシも押すぞ!」
「御止め下され!殿下自らとは!」
ベオウルフがノッシノッシと戦車に近付いてゆく。
次の交代要員の兵士達もざわつく。
「ワシと共に戦車を押す者は居るかぁ!」
『うおおお!』
「次で扉を開け!住民を開放するのだぁ!」
『うおおお!』
「ゴーレムを放った狂信者共を皆殺しにするのだぁ!」
『うおおお!』
「建国王に我等の雄姿を!」
『我等は共に!ベオウルフと共に!』
《死して家族の盾となり!御霊は建国王の従者となる!》
「《身体強化》!」
『《身体強化》!』
「続けぇー!」
『うおおお!』
ベオウルフが先頭の押し棒を掴み戦車の指揮を執る。
ドドドドドドドドド
最初から凄い速度だ。
トップスピードもさっきより断然速い!
ファイアーボールが破城槌戦車を襲う。
しかし速度に乗った戦車に受け流されて後方で着弾する。
ドォオオオン
真っ直ぐに一直線に俺達の方に向かって来る。
「やっべぇ!」
「カズヒコ様!」
予想より遥かに速い速度で避けるタイミングを誤った!
不味い!
ジェットパックの結晶魔石に魔力を送り、サーヤを抱き抱えて飛んだ。
ドォオオオオオン
『ぎゃぁあああ!』
扉に遮られて反射した悲鳴ではなく、開放的な叫び声が聞こえた。




