⑮-42-497
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ドォオオオオオン
朝から砦に攻撃をかけている。
僕達はバイヨ達とクルクル兄妹と合流し、前と同じく弓兵として攻撃していた。
俺とバイヨが弾除けをしてティアが全体を見ている。
後で攻撃を仕掛ける予定の南門扉の近くで敵弓手を射殺していた。
僕達のパーティは命中率も高く、また敵の矢も弾いている為に結構ヘイトを集めているようだ。
そして僕達とは離れた位置に僕達と同じ様に敵のヘイトを集めている者達が居た。
「なっ、何だぁありゃぁ!?」パシッ
見ると人間の身長よりも大きな物が盾となって矢を防ぎ、その物の陰から冒険者達が矢を射ている。
「あれは『マナドール』だ!」
「マナドール!?」パシッ
「土魔法で土人形を作り出しスキルと魔導具で操っているんだ!」
クルル・カトが叫びながら教えてくれた。
目を凝らしてみると確かに金属的な感じではなく粘土的な感じだ。
「あんなのを土魔法で操れるのか!?」パシッ
「違う!土魔法ではあくまで現地で素体を調達出来るだけだ!操るには《傀儡師》や《人形使い》などと言った人形関係のスキルとダンジョン産の魔導具が必要だ!」
「スキルと魔導具が」パシッ
マナドールは腕の様なものを動かし矢を弾いている。
足は無いようだ。
「動けないのか!?」パシッ
「そんな事は無いよ!」パシッ
バイヨが応える。
「今は弓手を護るだけだから必要無いから作らなかったんだろうさ!」パシッ
「じゃぁ完全体は歩いたり出来るのか!?」パシッ
「あぁ!そうだよ!」パシッ
なんて便利なんだ!
最初聞いた時は土魔法で操れると誤解してしまったが正直、羨ましい!
動かすには人形関係のスキルと魔導具が必要と。
魔導具は買うとしてもスキルは・・・無理だな。
羨ましい物の所有者を探してみるとどうやらロイヤルスクランブルの勇者のようだ。
「あの勇者!ロイヤルスクランブルじゃぁマナドールは使わなかったって事か!?」パシッ
「勇者が持ち主か!」
「そうみたいだねー!」
「確かに祭りでは見なかったね!」
「ロッシ!」
ティアが叫んだ。
ティアを見ると砦の方を指さしている。
その方向を見るとある冒険者達が《バインド》を使って外壁を登ろうとしていた。
「あれって!?」
「ロッシ達の真似を!?」
《バインド》に捕まって街壁を登って行くが弓手の集中攻撃に遭い全身に矢を受け絶命した。
そして《バインド》の詠唱者であろう冒険者もファイアーボールを受けてその場に倒れその身を焼かれている。
『・・・』
「ロッシの真似をしたんだろうが・・・」
「無謀だったねー」
「あれは周りのバックアップが無きゃ無理なんだよ」
「砦Aからの逃亡兵からも情報は伝わってるだろうしね」
「しかし直ぐに取り入れる所は流石冒険者って所だな」パシッ
「死んじゃぁ意味無いでしょー」
「結果的に失敗だっただけだ」パシッ
「結果的にって・・・それが全てでしょ!?」
「死んだんだしねー」
「あいつ等の仇も取らんとな」パシッ
「死体男!作戦を始める!」
後ろから伝令兵が走って来た。
「分かった!」
「いよいよ!?」
「ルーナ!行くぞ!」
「はい!」
「お前等は援護を頼む!」
『了解!』
俺とサーヤは街壁に辿り着こうとする歩兵に紛れて扉に近付く。
その間にも残ったミキ達が街壁上の弓手に向かって矢を放ち続けている。
扉に近付くにつれ俺達に加えられる攻撃が増していく。
砦Aよりもここの砦の方がリィ=イン教国に近いからか守兵もこちらの方が多そうだ。
あと少しで扉という所で直上からファイアーボールが落ちて来た。
マチェーテに《EMバリア》を流して《カウンター》でファイアーボールを弾く。
弾いた先は扉。
『うわっ!?』
扉に居た味方兵士が慌てて弾かれた来たファイアーボールを避ける。
ズガァァアアアン
「危ねぇだろーがっ!」
「気ぃ付けろー!」
「悪い悪い!」
窪地である扉は弓からの安全地帯である為に味方兵士の休息場にもなっていた。
「デッドマンズカンパニーか!」
「何しに来やがった!?」
「秘密兵器を投入するってよ!」
「秘密兵器!?」
「破城槌戦車かっ!?」
扉前の兵士達が一斉に味方陣地の方を見る。
視線の先には通常の荷車よりも大きな荷車。
その荷車の外装を改造して車自体を破城槌にして鎧で覆ったものだ。
体のごつい兵士達が荷車から横に伸びた1本の棒を数人で持って押す。
その棒が車の左右から複数伸びて多数のごつい兵士が戦車を押していた。
戦車の先頭には破城槌が取り付けられている。
破城槌の先っぽは扉を破る為に先鋭化されているのではなく球体になっていた。
これから俺達が打ち込む楔をあの破城槌で更に撃ち込むのだ。
「見たか!ここは戦車が来る!他の場所に行け!」
『わ、分かった!』
周りに居た兵士達も事情が分かって散って行った。
「サーヤ!楔だ!」
「はい!」
サーヤが収納袋から預かっていた楔を出す。
予備を含めて3個預かっている。
「この楔を打ち込む!」
「はい!」
あらかじめ破城槌が打ち込まれる高さを測っていたので扉のその位置を視る。
どうやらその高さに閂があるようだ。
味方の砦だから閂の高さも分かってるのだろう。
扉はピッタリ閉まってる訳ではない。
指が入るくらいの隙間がある。
そこに楔を打ち込むのだ。
しかし楔を打ち込んでも向こうから打ち返されたら楔は外れてしまう。
向こうから打ち返されない様に閂の場所を狙う。
楔を受け取り閂の高さに合わせ扉の隙間にあてがう。
「よし!打ち込め!」
「はい!そーれっ!」
重ハンマーを振りかぶり、サーヤがホームランを狙う。
俺が楔に手を添えているが気にはしていない。
それほど頭が大きく広いのだ。
ギィィィィィン
「もういっちょぉぉぉ!」
「はいぃぃぃ!」
ギィィィィィン
「いよぉぉぉし!」
俺は戦車に向かって合図を出す。
「デッドマンズカンパニーの合図を確認!」
ベオウルフの側に控えていた観測兵が望遠鏡を下ろして報告する。
ベオウルフが命令を下した。
「破城槌戦車発進!」
「了解!破城槌戦車発進!」
「破城槌戦車発進せよ!」
ベオウルフの号令の下、周辺が慌ただしくなる。
『《身体強化》!』
破城槌戦車の押し棒を押していたごつい兵士達がスキルを発動する。
ベオウルフから少し離れた位置にあった戦車がゆっくりと動き始める。
そして段々と速度を上げて行き、凄い音と共に扉に近付いて行く。
ドドドドドドドドド
「うおっ!来るぞ!」
「カズヒコさん!」
「一旦離れるぞ!」
「はい!」
収納袋から大ヤスデの盾を取り出し上方の矢からサーヤを護りつつ扉から離れる。
外壁上からも大声が響く。
〈戦車だぁー!〉
〈破城槌戦車だぁー!〉
〈狙えー!近寄らせるなぁー!〉
壁上から矢が戦車に向かって放たれるが押す兵士達を護る様に盾が取り付けられている。
矢は盾に音を立てて弾かれていく。
戦車はその速度を緩める事なく扉に向かって一直線に向かってゆく。
戦車を押す先頭の兵士達には《馬術》持ちを配しているらしい。
正確に楔に向かって行けるようにだろう。
そして狙い過たず破城槌は楔を捉えたのだった。
ドォオオオオオン




