⑮-41-496
⑮-41-496
翌朝になっても輜重隊は出発する事は無かった。
なんでも、後続を待ってるらしい。
やがて昼近くにその後続が合流して来た。
ラドニウスに曳かれ、覆いを被せられた通常よりも大きな荷車だった。
「中身は何だい?」
「秘密兵器さ」
輜重隊長はそう言って進軍命令を下した。
その日は日が暮れても進軍して駐屯地に居る本隊に合流した。
駐屯地は日が暮れても静かになっている事は無かった。
明日からの攻城戦を控えて気分が昂っているのか焚火を囲んで談笑している者達が多い。
遠目に攻めるべき砦Bが見える。
夜警だろうか、灯りも見える。
僕達も遅めの夕食を摂ってる途中で俺は憚りに彼女達から離れて用を足した帰りに兵士達が何をしているのかふと気になって自身に《偽装》を掛けて近付いてみた。
何やら1人の男を囲んでワイワイ騒いでいる集団が有る。
中心に居る男は絵を持っていた。
女性の裸体だ、顔は無い。
デッサン画だろうか写実的でかなり上手い。
そう言えばベルバキア公国公都ムルキアで似顔絵を描いてもらったがあれも上手だった。
確かスキル持ちだったような記憶が有る。
スキル持ちならこのリアルさも納得だな。
絵師の周りに居る男達は金を出しながら騒いでいる。
女の名前を叫んでいるようだ。
どうやら気になる女の顔を裸体とコラージュさせているようだ。
絵の裸体は何パターンか有り、気に入ったポーズのと組み合わせるらしい。
名前と言っても絵師が知らない女ならば所属の部隊を言ってるようだ。
・・・
どの世界もやる事は一緒だな。
まぁ、明日死ぬかもしれない身だ、息抜きも必要だろう。
コラージュ、写真か。
写真ねぇ、、、
俺は彼女達の下に戻ろうと腰を上げた所、
「デッドマンズカンパニーのエルフだ!」
「同じくグラマラス美女!」
ピクッ
「どうしたの?遅かったわね」
「いや、別に。おっきいは正義だなって」
「ちょっと!食時終わったとはいえ直後なんですけど!」
彼女達の下に戻って腰を下ろしかけた時、離れた所にダダイのパーティを見かけた。
「あぁ、準優勝の」
「確かぁ・・・ダダイだっけ?」
「確かそんな名前だったわね」
「うん、確かそうだ」
「ヒトの方は槍を持ってるねぇ」
「そうね。冒険者には珍しいわね」
「傭兵だろうな」
「傭兵って、戦争専門の冒険者の事?ケセラ姉ぇ」
「うん、そうだ。槍は普通冒険者は使わないからな」
「そうなの?」
「マヌイ、冒険者の依頼って大きく分けて4つ有ったろ」
「うん。討伐、護衛、調査、採集、だっけ」
「そうだ。討伐は何を討伐する?」
「勿論魔物でしょ?」
「あぁ。だとしたらバトルフィールドは・・・」
「森だね」
「あぁ。調査は何処を調べる?」
「ダンジョンとか古代文明の遺跡とか?」
「あぁ、何処に在るかと言うと・・・」
「森、かな」
「だな。じゃぁ採集は」
「当然森だね」
「森だと木なんかで槍が振れないだろ」
「あー」
「勿論、木々の間隔が広い森も有るが狭い森も有る。汎用性を考えるなら槍は普通持たないんだろう」
「ふーん」
「持つなら護衛依頼か」
「そーなるねー。街道がメインになるだろうから。そうすると開けた場所で槍も振るえるだろうしね」
「でも護衛依頼で【ランク】Cまでいくかな?」
「うーん。街道に出る魔物はそんなに強くないだろうから難しいかもねぇ」
「セーラさんの護衛だと上がるけどねー」
「あれは特殊ですわ」
「だよねー」
「とすると人間相手で上げた。対人専門、戦争専門、つまり傭兵って事になるな」
「へー」
「勿論絶対じゃない。草原専門のモンスターハンターも居るだろうし色んな冒険者が居るだろうけど第一候補は」
「傭兵って事か」
「あぁ」
団欒中に衛兵がやって来た。
「ベオウルフ殿下が御呼びだ」
首脳陣の大型天幕に呼ばれた。
魔導ランタンに室内が照らされている。
ベオウルフが口を開いた。
「依頼を出したい」
「依頼?どんな依頼です?」
「明日から攻砦戦を始めるが、民が奴隷として北に連れ去られる前に砦を落としたい。いや、取り戻したい」
「えぇ。ロックワームの脅威が無くなったのはあちらさんも一緒でしょうし」
「うむ。そこでだ、砦の扉にこの楔を打ち込んでもらいたい」
「楔?」
テーブルに置かれた楔を見ると結構ゴツい。
頑丈そうで更に頭が大きいと言うか広く、ハンマーか何かで打つにしても広過ぎる。
「結構歪ですね」
「うむ。頭でっかちでな。だから重量もそれなりに有るのだ」
「ふむふむ。でもこれを扉に打ち込むだけでしたら兵士でも出来るんじゃないですか?金を払って依頼せずとも」
「楔を打つだけなら兵士でも良い。しかし扉まで確実に行く事が出来、楔を打ち込んだ後もその場に残って楔が取れない様に監視出来るだけの胆力と防衛力が必要なのだ」
「防衛力」
「矢や魔法から楔を守ってもらいたい」
「は~ん、なるほど。ご覧になっておいででしたか」
「うむ。ファイアーボールは効かんようだしな」
「何時まで防衛すればよろしいので?」
「扉が開くまでだ」
「!?」
「秘密兵器を見ただろう?」
「・・・あぁ、あれ」
「明日投入する」
「・・・なるほど」
「分かったのか?」
「何となく。それで、扉が開いた後は?1番槍を頂いてもよろしいので?」
「はっはっは!良かろう。好きにするが良い。どうした?やる気を出すのがらしくないではないか」
「流石にゴーレムには頭に来ましてね」
「・・・なるほど。お前達の働きには感謝している」
「人間同士の戦いに魔物を持ち込むクソ野郎どもにアンナがお冠でして」
「ちょっと!?」
「ふむ。女の機嫌は取った方が良いぞ。特に家族なら尚更な」
「殿下!?」
「なるほど。実感が籠ってますな」
「ほっとけ!」
「それでは合図を待っていますよ」
「うむ。頃合いを見てまた伝令を送る」
会合も終わって僕達のテントに戻って来た。
焚火を囲んでフルーツを食べる。
「私をダシにしないで欲しいわっ!」
「君も怒ってただろう、ゴーレムでは」
「まぁ、あんな非人道的な、魔物は元々非人道的だけどそれでもゴーレムはさぁ」
「そーだよねー。人が造ったって言うし」
「生きたまま腸を引き摺り出されていた兵士の姿が目に焼き付いている」
「ケセラ姉ぇ」
「短い間だったが目的を同じくする戦友だった。奴等の無念を晴らす」
「・・・カズヒコらしくないじゃない」
「いつも私達の安全を優先されていましたものね」
「リィ=イン教国が勢力を拡大したら・・・どんな世の中になるか予想がつく」
『・・・』
「確かに今回のゴーレムを見ればね」
「ゴーレムも神の導きだとでも言うのでしょうか」
「神兵だとか言いそうだな」
「神兵に食われるのならリィ=イン教国兵士も本望だろう」
「食われるのは教国軍兵だけで良い」
「その通りだ」
「それで明日の依頼だが、俺1人じゃなく後1人連れて行く必要がある」
「はい!私がお供します」
「ま、まぁ待てサーヤ君」
「はい」
「扉に楔を打ち込むのに弓は必要無い。菊池君マヌイは却下だ」
「まぁそうよね」
「だねぇ」
「しかし2人は俺が扉に居る間にも敵兵を射殺す必要が有り、その間の弾除けが必要だ」
「私か」
「そうだ、ケセラ」
「では」
「あぁ、サーヤ君。また頼むよ」
「はい!御任せ下さい!」
「結構大きくて歪な楔だ。ショックレスハンマーで打ち込んだ方が良いだろう」
「はい。《身体強化》も有りますしお役に立てると思います」
「役に立つ立たないではなく君の力を出してくれれば良い。失敗したら俺の作戦が不味いってだけだ、気にする必要は無い」
「・・・はい」
「君達もだ。自分の命を最優先にな」
「「「了解」」」
「うん」
彼女達の返事を聞いた時にまた目の端に黒い物が映った。
「ゴキブリ?」
『きゃっ!?』
「あれ、おかしいな。居たと思ったが」
「もー!また!?」
「いい加減にしてよカズ兄ぃ!」
「ビックリしました」
「疲れてるのじゃないか?」
「うーん、かもな」
「ゴーレム騒動も有ったしね」
「だねぇ」
「そういえばカズヒコさん。これ、どうします?」
そう言いながら収納袋から人の頭大の大きさの物をニュっと出した。
「きゃっ!?」
「ゴーレム!?」
「あぁ。そういえばそんなモンも拾ったな」
「私が治療してる間に拾ってたの!?」
「あぁ。何か実験に使えるかもと思ってな。使えなくても高値で売れそうだしな」
「あんたも大概ね」
「どの国も持ってるって話だぜ?」
「だとしてもお金にするって言うのがさぁ」
「勿論北部に売る気は無いよ。有効に利用してくれる国に・・・ファーダネさんとか良いんじゃないか?」
「まぁね」
「そろそろ収納袋も一杯ですわ」
「ロックワームも有るしな」
「砦を落としたら食料を売っても良いかもな」
「それが良いわね」
「街の人達の為にもなるしねぇ」
「まぁ先に砦を落とす事が先決だ」
「その通りだな。早く寝て明日に備えよう」




