⑮-38-493
⑮-38-493
教国軍の弓兵が森に入って行く。
護衛兵士が剣を振りかぶって俺に向かって来た。
右腕をくの字に曲げてマチェーテで《受け流し》て《カウンター》発動。
受けた反動で手首を返して相手の手首を斬り落とす。
「っはぁっ!?」
背中の結晶魔石に魔力を送り森の中に飛ぶ。
ドフッ
『えっ!?』
弓兵を飛び越して奥の木に着木して三角飛びの要領で直ぐに飛んで弓兵の背中に飛び込みそのまま斬り下げた。
「ぎゃあああ!?」
更に飛んで弓兵の頭上数mを越えて行き、着木、更に三角飛びでまた弓兵の背後からぶった斬る。
「うぉあああ!?」
(止まらん!止まっちゃぁ駄目だ!)
(奴等に的を絞らせるな!)
木を使って立体的に動き、弓兵をぶった斬ってゆく。
着木した時に斬る標的以外の敵に《巨人の中指》を金的に撃ち込む。
「クソッ!」
弓兵が俺から一旦距離を取ろうと木の陰から出て移動するが、
「ひゃうっ」
ミキの矢が突き刺さった。
「何だぁ!こいつはぁ!?」
「木の陰に隠れて飛び回って何処に居るか分かんねぇぞ!」
「何処だぁ!どっから来やがる!」
「離れろぉ!距離を取って視界を確保しろぉ!」
「広がれぇ!広がってぶぇっ!?」
「クッソ!森に入ったのは失敗だ!森は奴の庭だ!」
「まだ平地の方がマシだぁ!平地に出ろぉ!」
何人かの兵士が森から出て街道方向に向かう。
当然ミキに狙われ倒れてゆくが攻撃しているのはミキ1人だけなので何本かの火矢が荷車に放たれる。
俺も森を出て弓兵に向かおうとするが護衛兵が立ち塞がる。
「ぎょべっ!?」
金的を潰された兵士が呻く。
「こっ、こいつ土魔法をつかりゃっ」
また金的を潰された兵士が呻いた。
ブオッ
護衛兵なんぞ殺しても意味が無いので結晶魔石に魔力を送って弓兵の下に飛んだ。
飛んだ勢いのままマチェーテを弓兵の首にブッ刺す。
「来やがったぁ!」
「たっ、助けてくれ!」
「護衛兵!護衛兵は何やってるんだぁ!」
「うるせー!追いつかねぇんだよぉ!」
「何で飛んでやがんだよぉ!」
「卑怯だぞ!」
「正々堂々と来んかぁ!」
「待ち伏せしてた奴等が何ほざいてやがる!」
「五月蠅い!それは作戦だぁ!」
「俺のも作戦だろ!」
「飛ぶのは無しだろぉがよぉ!」
「ゴーレム使うのは良いのかよ!」
「だから作戦なんだって!」
「だから俺のも作戦なんだって!」
会話で気を引いてる内に人数を減らしていった。
そしてとうとう弓兵は全滅して指揮を執っていた護衛兵の1人だけとなる。
「あっ!?」
本人も気付いたようだ。
ここはもう大丈夫なのでミキにサインを送って左翼の応援に回す。
「たっ、助けてくれ!降伏する!」
「いや、悪いんだが俺の土魔法を見られたからな、死んでもらう」
「まっ、待て!情報を話すから待ってくれ!」
「情報ならゴーレム連れてきた奴から聞くから大丈夫だ。安心して苦しみながら死んでくれ」
「待ってぇ!待ってくっふぅ!?」
金的に《巨人の中指》が突き刺さった。
辺りを見渡すと戦闘可能な者は居なさそうだ。
ヘルメットの放熱孔から音を出して風が吹き出しているのを感じる。
俺は虫の息の連中のトドメを刺して回り輜重隊に戻る。
何匹かのゴーレムは倒せているが被害もあるようだ。
「隊長!右翼は殲滅した!」
「マジか!?1人で!?」
荷車に乗って左翼全体を俯瞰する。
「後は左翼だけだ!押し返せぇ!」
『おおおぉ!』
俺は飛んで今にも兵士を組み伏して食おうとしていたゴーレムの首を叩っ斬った。
「キャラァップ!?」
地面に転がった首が何か喋っている。
「マジで死なねぇのかよ」
体の方を見ると手を伸ばして首を探っている。
「ギャップ!」
俺の声に反応したのか、体が立ち上がって俺に手を伸ばして向かって来る。
しかし首が無い為か動きに精彩が無い。
ズボッ
難なく魔石を抜き取ると体は崩れ落ち、首の方も口を開いたまま固まった。
倒れたゴーレムから視線を上げ他の様子を見る。
ズゴッ
サーヤが振り下ろしたハンマーがゴーレムの胸に撃ちつけられる。
ショックレスハンマーのお陰で撃ちつけた反動も無く殆どのエネルギーを衝撃に伝えられて魔石が破壊されたのだろう、ゴーレムは動かなくなった。
ケセラ他、数人で槍で刺して地面に組み伏していたメンバーが一瞬安堵の表情を浮かべるが、
「次行くぞ!」
「おぉ!」
ケセラの一言でまた引き締める。
ケセラとサーヤは大丈夫そうだな。
辺りを見回す。
盾兵に飛び掛かっているゴーレムが居る。
死んだ兵士から内臓を引き摺り出しているゴーレムが居る。
悲鳴を上げている兵士の目玉を抉り出しているゴーレムが居る。
さながら地獄絵図だ。
さっき頭を落としたゴーレムは動きが緩慢になっていた。
首を失って死なないまでも弱体化はあるようだ。
不死身ではあるが身体欠損による行動の制限を衝いて殺して行こう。
俺は駆け出した。
「報告ぅー!」
「許可する!」
「待ち伏せの教国軍はゴーレムを投入した模様ぉー!」
「なっ、何!?ゴーレム!?」
「ゴーレムとはクソったれの狂信者共め!」
「バティルシク様!ゴーレムは国際慣習法違反では!?」
「その通りだ!大方神の導きだとか言っているのであろうよ!狂った奴等に常識は通用せんのだ!」
「また、火矢に因る食料車への攻撃も有り土魔導士による消火を要請しています!」
「土?水の方が良いのではないか?」
「バティルシク、夏は水を吸えば傷みやすい、土で消す方が被害を抑えられる!」
「ほぅ」
「急いで土魔導士を集めて向かわせろ!」
「はっ!」
ザシュッ
血の涙を流しながら耳まで口が裂けた首が宙を舞った。
ドシュッ
胸から魔石が抜き取られる。
ゴーレムで危険なのは牙と手の爪だ。
力は人間より遥かに強いが人間を造ろうとしたからだろう、
動きも人間に似ており適応するのに時間は掛からなかった。
横たわったゴーレムの死体から視線を上げ彼女達を探す。
サーヤとケセラは周りの兵士と一緒にゴーレムを着実に減らしていっている。
ミキはゴーレムの目や手足を射ている、行動阻害の為だな。
近接攻撃は他人に任せた方が良いだろう、良い判断だ。
マヌイは兵士を治癒している。
ゴーレムは内臓を食い千切るのではなく、なるべく傷付けない様に引き摺り出して自分の腹に入れていた。
ゴーレムは人間の器官や内臓を奪うとケセラは言っていた。
奪って自分の物にするつもりだから傷つけようとしないのだろう。
「ルーラ!」
「はい!」
「投網の方が安全そうだ!」
「はい!」
サーヤが収納袋から網を取り出し周りの兵士も使って網でゴーレムを捕まえる。
網目から手を出して抵抗するゴーレム。
その手を刀で斬り落とすケセラ。
それから頭や胴体をハンマーで滅多打ちしていくサーヤ。
弱った所にトドメとばかりに魔石を破壊する一撃を落とす。
2人は大丈夫そうだな。
俺もゴーレムに対処していく。
「死体男!」
「何だ!」
「援軍が来た!」
「よし!作戦は今まで通りに1体を複数で相手するように指示してくれ!」
「分かった!」
最初こそ未知のゴーレムに慌てたが如何せん多勢に無勢。
敵は奇襲するにしては少な過ぎる兵力で俺達は次第に落ち着いていった。




