⑮-34-489
⑮-34-489
僕達は山道を歩いていた。
ラドニウスは連れて来ていない。
ロックワームに襲われる事を考慮したからだ。
今頃ジョゼと一緒に寝ている事だろう。
「先ずは砦Bに向かう街道一帯のワームを駆除する」
「行軍で被害が出ちゃうかもしれないもんね」
「そうだ。今回僕達だけじゃなく他の勇者パーティにも依頼が出されている。大体の地区の割り振りが為されてるが他の地区のも駆除しても構わない。要は早い者勝ちと言う事だ」
「早い者勝ちったってねぇ。出来たら苦労は無いんだよ」
「そうよ。ただでさえ火力が必要なのに私達はロックワームに効きそうにない武器がメインよ」
「そうね。弓だと、私とそっちはアンナ、ルーナ、カヤでしょ。クルルとクルラの所もクルラが弓でクルルは剣かしら?」
「そうだな。弓は恐らく通じない。私も剣の方が良いだろう」
「戦えるのは実質バイヨとロッシとセラスとクルルの4人だけよ。ほぼ不可能だわ」
「弓は無理か」
「刺さらないわ。傷を付けられても狙った所を正確に狙い続けるのは不可能ね」
「剣で至近距離からになるね」
「4人だけだと・・・1日に1匹、良くて2匹が限界だろうな」
「そうだね。クルルがランクCとはいえ、相手が相手だしね」
「クルルさんの《インフェルノ》も無理かなぁ。他の火魔法よりも威力が凄いし」
「《ファイアーサージ》や《ファイアーアロー》だと無理だが《インフェルノ》ならいけると思う。体じゃなく頭部、口の中なら尚更良いだろう」
「じゃぁ《インフェルノ》で決まりだね」
「しかし頭部、しかも口の中に当て続けなければならない。難易度は高いぞ」
「まぁ1つ試してみたい方法が有る」
「ロッシの策か。興味が有る。話してくれ」
「勿論だ」
道すがら話して当該地区に来た。
「さてと」
「じゃぁロックワームを見付ける所から始めないとね」
「討伐しようにも居なきゃ始まらないしね」
「その辺りも考えが有る」
『考え?』
「ルーナ君、ハンマーだ」
「はい、大きい方ですか?」
「そうだ」
「ハンマー?ハンマーで何をしようってんだい?」
「地面を叩く。地面の振動で山奥から出て来たという話だ」
「なるほど。地面を叩いた振動で誘き寄せるって訳だね。でもハンマー程度で誘き寄せられる振動を出せるかね」
サーヤ君が収納袋から重ハンマーを出した。
「「「「「でっか!?」」」」」
「これならいけそうだろ?」
「え、えぇ、これならいけそうね」
「そうだね」
「でかいな」
「じゃぁルーナ君、頼んだよ」
「はい!せーのっ!」
ズガンッ
『おぉ!』
「凄い振動だね!」
「これならいけるんじゃないか?」
「そう願う。ルーナ君、続けてくれ」
「はい!よいしょぉ!」
ズガンッ
しばらくやり続けるとそれを感じた。
「感有り!」
『!』
「強力な気配だ!恐らくロックワームだろう!こっちの方角だ!」
感じた方角に手を向けた。
「来たかい!」
「さっき話した通り3班に分かれる。バイヨ達はエマが気配を探れ!」
「「「了解!」」」
「俺等のパーティは俺が抜けてアンナが気配を探れ!」
「「「「了解!」」」」
「俺はクルクル兄妹に付いて気配を2人に教える!」
「「了解!」」
「って、クルクル兄妹は止めてよね!」
「作戦もさっき話した通り、生態やら弱点やら知りたいが先ずは殺せるかどうかが重要だ。全力で奴を殺す!ティアが要だ!バイヨは必ず守れ!」
「あいよ!」
「もうすぐ来るのか!?」
「あぁ!あと数分だ!」
「!?数分!?えらい余裕が有るな?本当に来るのか!?」
「ロッシの気配察知は普通じゃないのよ!でも信用出来るわ!」
「だと良いがな!」
「余計な荷物は収納袋に入れろ!襲撃に備えろ!アンナも察知したら教えろ!」
『了解!』
各々準備をしていく。
「私も察知したわ!」
「ルーラ君、ハンマーを仕舞え!」
「はい!」
「エマ!」
「察知したわ!ロックワームよ!」
「先ずは俺の作戦に従え!通じない場合に通常手段に移る!」
『了解!』
ザザッ
森の切れ目からそいつは姿を現した。
『でっか!』
ミミズには全く見えない。
芋虫。
いや、マカロニだ。
先端に大きな穴が開いたでっかいマカロニだ。
その穴から小さな牙が沢山生えている。
見た感じ、マカロニの先端には目らしき物は見当たらない。
しかし森から出て停止しているマカロニは頭部を街道付近に居る俺等の方に向けて明らかに様子を窺ってる風だ。
一頻り俺等を見回したのかどうか分からないが、一呼吸有って頭部から地面に潜りだした。
「潜ったぞ!」
「なるほど!地面に穴が空いてないな!」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」
「アンナ!」
「察知出来てる!」
「エマ!」
「出来てるわ!」
「予定通りだ!俺が囮になる!ティア!カヤ!詠唱を始めろ!」
「「了解!」」
地中から感じる魔力反応に向かって走る。
走った先の地面から奴が顔を出した。
出した勢いのまま地面を跳ね飛んで俺に向かって来た。
凄い迫力だ。
5mを越える巨体が俺に向かって来る。
横に飛び退き様にマチェーテを振るって頭部に傷を付ける。
「ブッシャァァァ」
血を流す程の傷では無かったが注意を惹く事には成功したようだ。
奴が彼女達に向かうのではなく俺を振り向いた。
完全に振り向く前に飛び掛かって体を斬り付ける。
ガイン
「かった!?」
思ってたよりも硬くてびっくりした。
固いとは聞いていたが生物だぞ。
皮膚がこんなにも堅くなるものなのか!?
「詠唱終了!」
「よし!配置に着け!」
『了解!』
「ブジュルゥァアアア」
「おらっ!」
石を拾ってロックワームに投げ付ける。
頭部に当たったが全くダメージは無いようだ。
しかし俺に対する執着を感じた。
「ブルァアアア」
ロックワームが俺を威嚇する。
「ティア!」
「《バインド》!」
ロックワームの影から黒い手が伸びて来て頭部を拘束した。
1つに集中した事で拘束力が増すらしい、ロックワームの巨体でも動けなくなった。
「カヤ!」
「《コントロールウォーター》!」
大きな水の塊が生まれてロックワームの頭部を包む。
「グルブブブ・・・」
「今だ!奴の身体を押さえろ!」
『了解!』
「「「《身体強化》!」」」
バイヨとサーヤとケセラがスキルを発動する。
魔法詠唱中の2人を除いた全員でロックワームの胴体を押さえにかかる。
大きいとはいえ胴の太さ1mほどなら大人8人でも押さえる事が出来た。
しかし、
「ぐううう・・・結構強いな」
「地面を這ってるからね・・・強いよ」
「ティア!」
「私は大丈夫!」
「カヤ!」
「大丈夫だよ!ワームも苦しそう!」
「ゴブブブブ」
「維持だ!維持しろ!」
『了解!』
数分経った頃、ロックワームの動きが無くなった。
《魔力検知》で視ると生命活動は止まったようだ。
「ふぅ~。みんな、離れて良いぞ」
『ふぅ~』
「やったのかい!?」
「あぁ、そのようだ」
「まさか本当にやってしまったとは」
「こんな短時間で・・・」
「こんな簡単に、、、私達押さえてただけだもんね」
改めてロックワームの全容を眺める。
大きい。
全くミミズには見えんが。
「短いのが助かったな。長いと8人では無理だったかもしれん」
「普通のミミズだとウネウネ動くしねぇ」
「ビチビチ動くからね」
「太くて短い分、可動域が狭いんだろう」
みんなロックワームを素手ではなく武器やら木の枝などでツンツンしてる。
「固いねぇ」
「本当ね」
「これは刃は通らないよ」
「矢も無理ね」
「拘束した時地面に潜られなくて助かったわね」
「奴が最初潜った時頭から潜っただろ」
「そうだったかしら」
「そうだ。恐らく頭部からじゃないと地面に潜れないんだ」
『ふーん』
「窒息死とはね」
「普通、ミミズは皮膚呼吸だ」
『皮膚呼吸?』
「口からじゃなく体全体で呼吸してる」
『へー』
「だから普通のミミズだったら今回みたいな方法は通じなかっただろう」
「皮膚呼吸じゃないって分かったの?」
「ロックの名の通り硬い皮膚じゃぁ呼吸は難しいだろうと考えた。ある程度の伸縮性が必要だろう。地面を這うのなら尚更な」
「でも這って来てたよ?」
「それほど速くはなかった」
「そうだな」
「伸縮性がないから速度も出ない」
「だったら地面に潜った方が良いんじゃない?実際潜った方が早かったし」
「潜ってる最中は呼吸が出来ないんだろう」
「なるほど」
「皮膚呼吸ならまだしも、口からだとな」
「獲物までは這って近付いて攻撃する時に地中に潜って出る勢いで押し倒して食うんだろうな」
「気配察知出来ていたから良かったが、不意を突かれたら先ず助からんな」
「さてと。じゃぁ討伐証明部位と魔石を取り出そうか」
『・・・』
「どした?」
「取りだそうにも硬すぎて解体は大変よ」
「でもやらないと。こいつ1匹で50万エナだぞ?」
『・・・』
「やりましょうか」
「そうだね」
「力仕事になるから交代でやっていこう」
「そうしましょ」
討伐時間よりも遥かに長い時間掛かって討伐証明部位と魔石を取りだしたのだった。




