⑮-33-488
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駐屯地の冒険者居住区の僕達のテントの近くにバイヨとクルクル兄妹も寝泊まりしているのでそのまま食事にする。
「ロックワームについて詳しく知りたい」
「そうだね。魔虫の一種だね」
「魔幼虫から大きくなると」
「あぁ」
「魔幼虫も色んな種類居るもんねぇ」
「そうねー」
「5mを越えるが太過ぎる為にミミズには見えない」
「ふむふむ」
「固いのはさっき聞いた通りだ」
「具体的には?」
「剣で斬りつけても1太刀では斬れない」
「そんなに!?じゃぁどうやって殺すんだ?」
「何度も突いたり斬ったりして傷を広げていくのさ」
「大変だね」
「あぁ。だからランクBなのさ」
「それに1番厄介なのが奴のスキルだ」
「スキル?」
「土中に潜る」
「だろうな。ミミズだし」
「しかし土中に穴は空かないらしい」
「「「「「!?」」」」」
「穴が空いてたら今頃山は穴だらけだしね」
「土魔法か?」
「いや。他の土魔法スキルは使わないから固有スキルだろうと言われている」
「そもそも土魔法で土に潜れるのかい?」
「土魔法を使う悪魔が潜ると聞いた事が有るよ」
「「「「「へー」」」」」
「ワームのスキルはそれくらいか?」
「あぁ。そうだね」
「主な攻撃は?」
「噛みつきだね」
「巨体を活かして噛みつくからそのまま押し倒されて食われちまうのさ」
「なるほどな。普通どうやって倒すんだ?」
「大勢で囲んで削っていくんだ、時間が掛かるよ」
「出来た傷を広げていくんだ」
「今僕等は10人居るが」
「少し少ないかねぇ」
「そうだな。心許ない」
「そんなに固いの!?」
「あぁ、そうさ」
「クルル・カトさんの火魔法じゃ駄目なのかなぁ」
「カヤ。生物だから火は苦手だが苦手というだけで効く訳じゃないんだ」
「そっかー」
食事も終わった。
「それでクルル・カト。提案が有る」
「提案?」
「そうだ。契約を結んでもらいたい」
「契約?何の?」
「秘密保持契約だ」
「秘密保持・・・ふむ」
「バイヨ達とは既に結んでいる」
「そうか」
「そうさね」
「罰則は」
「何でも良い。これは保証だからだ」
「保証?」
「僕等も守りますからそっちも守ってねって事だよ」
「ふむ・・・良いだろう」
クルクル兄妹はバイヨ達とも結んだ。
「これで良し。じゃぁクルル・カト」
「あぁ」
「僕達は収納袋を持っている」
「「!?」」
「そ、その歳でか!?」
「本当なの!?」
「ルーナ君。セラスの剣を」
「はい」
サーヤ君が収納袋からケセラが以前使っていた剣を出す。
その袋の深さからは到底収めきれないものだ。
「「!?」」
「・・・なるほど。秘密だな」
「そういう事だ」
「分かった。クルラもな」
「分かったわ」
「セラスはこのままあの剣を使ってくれ」
「ん?刀はどうする?」
「ワームは固いらしい。刃こぼれが怖いし最悪折れるかもしれん。剣にしておこう」
「そうか、そうだな。分かった」
「それに戦争じゃ刀より剣の方が良いだろう」
「耐久的にか?」
「あぁ。数人殺して斬れなくなる刀より剣の方が継戦力は有るだろう」
「そうだな、そうしよう」
その後は収納袋から果物を出してデザートを食べている。
「収納袋を明かしたって事はアレを出すのかい?」
「あれ?あれとは何だ?」
「バリスタの事か?」
「そうさね」
「「バリスタッ!?」」
「バリスタか・・・まぁバリスタが最適なら使うが、使い所が難しいんだよな」
「そうだねぇ」
「設置しないといけませんからね」
日は沈んだようだ。
ワームについての話は終わり、個人的な話題に移っていた。
「セラスの氏族名は何だ?」
「私は”カ”だ」
「カか。俺達と一緒か。先祖は同じかもしれんな」
「そうだね」
「成人名は何なの?」
「無いんだ。孤児だったんでな」
「そう・・・ごめんなさいね」
「いや、構わない。気にしていないしな。それに今はもう家族が出来たし」
「それじゃぁロッシが付ければ良いんじゃないか?」
「ん?」
「リーダーだし家長だろ?」
「家長が付けるの?」
「普通は長老だが、孤児という事だし構わないと思うぞ」
「ふーん。でも自分で名乗っても良いんじゃないか?」
「うーん、成人名か・・・」
「まぁ今直ぐ決めなくても良いんじゃないか?」
「そうだな、考えておくよ」
俺は敷物に置いていたコップを取ろうとして視界の端に虫を認めた。
「ゴキブリ!?」
『えっ!?』
女性陣から悲鳴が上がり立ち上がって戦闘態勢だ。
俺は周りを確認するが虫はいない。
「あれ、居たと思ったんだけどな・・・」
「ちょっと!もうビックリしたじゃない!」
「ホントだよ!」
「居なかったんですか?」
「あぁ・・・見間違いかな・・・」
「疲れが取れてないんじゃないか?」
「・・・かもしれんな」
「単身で楼閣に乗り込んで総大将を殺っちまったしね」
「今日は呑まずに早く寝て明日からに備えよう」
「えぇー!そんな!」
「バイヨ!もう寝るわよ!」
「一杯だけでも」
「依頼が終わったらにしましょうねー」
「じゃねー」
バイヨがティアとエマに引きずられながらテントに向かった。
残った者達もそのまま寝る準備に入ったのだった。
翌日早朝。
駐屯地の朝はドゥムルガ戦役での朝と変わらない様相を呈していた。
顔を洗う者、
髭を剃る者、
筋トレをする者。
中には少し離れた所で剣の打ち合いをしている者達も居た。
その様子を朝食を摂りながら僕等も見ていた。
カインカインカインカイン
「連撃か・・・」
「どうしたんだ?カズヒコ」
「連撃というのは練習でしか見れないものだと思ってね」
「そうとも限らないだろう?戦争でも時折見掛けるぞ」
「恐らく腕がある者同士は連撃に、つまり打ち合いなんかにはならないだろうな」
「というと?」
「うーん。実際に体感した方が良いだろう。サーヤ君、木剣を」
「はい」
サーヤ君が食べる手を止め収納袋から木剣を2本取りだして俺とケセラに渡す。
「連撃するつもりで打って来てくれ。僕は《カウンター》は出さない」
「分かった」
ケセラが構えて打って来る。
それを木剣で受ける。
ケセラは弾かれた剣をそのまま振りかぶる。
と、
「うっ」
ケセラの喉元に俺の剣先が突きつけられていた。
振りかぶった姿勢のままケセラは固まった。
「そういう事か」
「そういう事だ」
「どういう事よ」
「相手の攻撃を受けられるという事は反応出来ているという事だ」
「攻撃した後の振りかぶっている時の隙も突けるって事?」
「うん」
「今回は連撃が来ると分かってたから出来たが普通は隙を突くのは難しいだろう。しかし剣の腕が上がる程相手のリズムを察し易い。ステータスとスキルの恩恵もあるしな」
「ふーん」
「加えて連撃は本気で振り下ろせない」
「どうして?」
「剣を振り下ろした後に戻す意識が有るから全力で振り下ろすなんて事は出来ない」
「でも力の有る者が振り下ろしたら受けるのに必死で追撃なんか出来ないんじゃない?」
「つまり力の差が有るからそうなるんだよ。腕が有る者同士だとカウンターも上手だから無闇に剣は振り回さない」
「カズ兄ぃには《カウンター》も有るもんねぇ」
「そうだ。逆に言えば《カウンター》が有れば武器スキルは俺には必要無い」
「連撃は使えないんですか?」
「使い所だろうね。菊池君も言っていたが力が有る者が振り下ろして相手を捻じ伏せてそのまま殺すって所だろうね」
「重量のある武器で相手の武器を破壊する手も考えられるな」
「そうなると刀は不利だな」
「だから剣にしたのか」
「相手が1パーティくらいなら良いんだろうが戦争だとな。継戦力が高い物を選ぶべきだろう」
「追撃はやはり突きか」
「最速だからな。振りかぶるような助走は必要無い。頭部、心臓なんかを突ければ即死。臓器でも突ければ数分で死ぬ。突いた後は守りに徹すれば良い。相手が焦って自滅するのを待てばいい」
「ケセラ姉ぇにはぴったりだね」
「そうだな」
「エストックやレイピアなんかの刺突武器があるが、買っても良いかもな」
「作ってみたら?《鍛冶》持ちなんだし」
「一般品を使ってケセラ用に改良品を作った方が良いと思う」
「なるほど。では今度買ってみるか」
バイヨ達とクルクル兄妹も起きて来たので一緒に朝食を摂った。




