⑮-32-487
⑮-32-487
翌早朝。
地面に座って俺は日の出を見ていた。
眼下の山の森の木々の頂上から陽の光が差し込んでいる。
「綺麗ですね」
「サーヤ君か」
「おはようございます」
「おはよう」
俺の隣に座った。
日の出を見ながら話しかける。
「みんなは?」
「まだ夢の中です。マヌイは鼻提灯まで作って」
「またか。年頃の娘なのに全く」
「うふふ」
「呑まなかったのかい?」
「はい。カズヒコさんも《偽装》で呑んだフリをするだろうなって・・・」
「ふふっ。お見通しか」
「家族ですから」
「一緒に楽しむのも大事な事なんだけどね」
「手伝います」
「ん?」
「どんな時も油断しないだろうなって思って、呑まないだろうなって思って」
「・・・」
「家族の為に・・・私も手伝います」
「・・・まぁ、無理しないようにね」
「お互い様ですわ」
「ふふっ」
「ふふ」
「綺麗だね」
「はい」
淡い霧を含んだ森は雲海の中の小島と魅せていた。
「バティルシク様」
「む・・・誰か」
「情報部の者です」
「うむ・・・入れ」
「は」
影がテントに入って来た。
大臣のテントだ、結構広い。
ベッドではなく地面に厚手の敷物を敷いただけの簡素な寝床だ。
寝心地が悪かったのか、はたまた年齢から来る節々の痛みか、身を捩りながら起きて来たバティルシク。
「こんな早くにどうした」
「はい。今朝未明、死体男の監視要員の交代を向かわせました所、目隠しをされ、猿轡をされ、木に吊るされていた昨晩の監視要員を発見致しました」
「!?・・・死んだのか」
「いえ、命に別状はありません。ただ伝言を預かっていると」
「伝言?」
「はい」
「申せ」
「はい。『次はお前とその命令者とそいつ等の家族を殺す』、と」
「・・・何時拘束された?」
「監視を始めて暫く、だそうです」
(命令した直後ではないか)
「状況を」
「はい。死体男は仲間と夕食を摂っている最中、用を足しに席を離れた直後に見失って・・・」
「拘束されたと」
「はい」
「・・・」
「どう致しましょう」
「今は?」
「監視はしておりません。先ずは御報告してからと思い」
「うむ・・・中止だ」
「宜しいのですか?脅迫に屈する事に」
「悟られず監視出来る可能性は?」
「ありません」
「・・・ハッキリ言うな?」
「情報部ですから」
「正しい判断だ。故に優秀な部下を無駄に失う訳にはいかん。中止だ」
「賢明なる判断、部下に代わって御礼申し上げます」
「慰めてくれんでも良い」
「上司のケアも仕事の内ですから」
「言いおる。拘束された者には多めに払ってやってくれ」
「畏まりました」
「うむ。また頼む」
「はい」
影がテントから出て行った。
深い溜息を吐くバティルシク。
テントの入り口の開いた隙間から陽光が見える。
「ふぅー。寝覚めが悪いのぉ」
その日の日中は砦内の掃除や修繕、潜んでいる者が居ないか虱潰しに調べて治安を回復し、街としての活動再開に向けて復旧を急いでいた。
僕等冒険者も仕事を割り振られて従事していた。
僕等のパーティは昨日の武勲も有り、疲労の少ない労働を割り当てられていた。
そして夕方。
軍全体は砦に入りきらないので一部を駐屯地に残し、本部は砦内に移った。
その本部にバイヨとクルクル兄妹達と共に呼ばれた。
「先ずは先の作戦の献策と成功の合算報酬、300万エナだ。それと総大将討伐報酬も入っている。受け取れ」
「ありがとうございます」
大公が直接手渡す、という訳では無いが人を介し報酬を受け取る。
報酬を与えるのはトップの仕事なんだろうな。
ファーダネさんもそうだったしフリーエさんも・・・
報酬もらい損ねたなクソ。
「それで新たな依頼が有る」
「新たな依頼?」
「うむ。バティルシク」
「捕虜を尋問して分かったのだが奴等は戦争奴隷をリィ=イン教国の国境街、パルカに移送する手筈だったらしいのだが或る理由で移送出来なかった」
「ある理由?」
「うむ。或る魔物の存在だ」
「魔物」
「ロックワームだ」
『ロックワーム!?』
「知ってるのか?バイヨ、クルル・カト」
「勿論だよ!」
「ランクBの魔物だぞ!」
「ランクBって、そいつ狩り続けたら冒険者ランクAになれるんじゃないの?」
「そうだよ!」
「それ程の魔物だ!」
「その通りだ。通常、山奥に居るんだが戦争に引き寄せられてこの辺りまで来たらしい」
「引き寄せられて?」
「ロックワームは地面の振動で獲物を察知するって話さ」
「恐らく大勢の人間の出す音や振動が山奥にまで届いたのだろう」
「ほぉ、振動ね」
「そのロックワームの討伐が依頼となる」
「強いんですか?」
「ランクBだからな。ワームの名の通りミミズの魔物だ」
「「「「げっ!」」」」
「女にはキツかろうな。全長5mを優に超える」
「「「「「げっ!」」」」」
「ロッシも苦手なのかい」
「いや、普通に5mを越えるミミズが苦手じゃない奴って居ないだろ!」
「まぁそうだろうな。更にミミズよりもその長さに対しての太さのバランスが著しく大きい。1mは有るだろう」
「「「「「うわぁ~」」」」」
「そしてロックと言う名の通り、その皮膚は岩のように固い」
「ミミズのくせに?」
「そうだ。というより最早ミミズに見えん」
「う~ん」
「どうかな?受けるか?」
「う~ん。1つ質問が」
「良いだろう」
「パルカまでの道中にロックワームが出没するのなら別にパルカまで行かなければ良いのでは?」
「砦Bまでの道中にも出没しているみたいなのだ」
「なるほど。一帯のロックワームを駆除すると」
「そうだ」
「更に質問が」
「構わん」
「何故僕等に?他にも冒険者は居るでしょう。それこそ準優勝のダダイやら」
「当然他の勇者にも声を掛けている。一斉に駆除する予定なのだ」
「勇者に金儲けの話を優先していただいたと」
「その通りだ、はっはっは!」と大公。
「報酬は」
「1匹につき50万だ」
「どうだ?死体男」
「殿下。んー。初めての魔物ですからね」
「駆除が早まればそれだけ砦Bへの進軍も早まる。砦の住民の開放も早まろう」
「大臣。今度は住民を出しにするんですか」
「・・・いや」
「報酬のオマケはお返ししましたが受け取って貰えましたかね」
「・・・あぁ」
「信用はがた落ちですねぇ」
「・・・バティルシク。お前まさか」
「契約を破ろうとは思っていない!それは本当だ」
「ふぅん?」
「ただ見るだけなら良いだろうと思っただけだ」
「そう思うのは勝手だがそう思われないとは考えなかったんですか」
「ぐ」
「ただ、僕等の目的は打倒北部。その一助でお金も貰えるのならやりましょう」
「そうか」ホッ
「ただ3パーティでやるのなら50万は3パーティで分割となる。構わんか?」
「バイヨ?」
「構わないよ」
「クルル・カト?」
「構わない」
「その条件でお受けします」
「うむ。バティルシク」
「では依頼契約書の作成に入ろう。当然冒険者GPの加算対象になるから安心して欲しい」
「安心、ね」
「ぐ」
契約をして3パーティは本部を去って行った。
「バティルシク。止めとけって言ったろ」
「ぐぅ・・・」
「それで」
「監視を付けて直ぐに拘束されたらしい」
「情報部の奴をか?」
「あぁ」
「はぁ。あんな事の後だ。お前、暗殺と捉えられても文句は言えんぞ」
「むぅ」
「分かっただろ。面倒になったらお前を守り切れるか分からんぞ」
「お主でもか」
「どうもロイヤルスクランブルでは本気を出していなかったみたいでな」
「なに!?」
「真面に戦えば勝つ、真面ならな。だが・・・」
「・・・分かった。大人しくしている」
「それが良い。問題が起こればその時に対処すれば良い。今からあれこれやってそれが騒動の原因になったりでもしたら意味が無いだろ」
「あぁ」
カズヒコ達は駐屯地のテントに向かっていた。
「ロッシ。さっきのは?」
「何でも無いよ、アンナ」
「そうかねぇ」
「バイヨもそう思うよね」
「閲兵の時、やはり何か有ったな」
「いやいや、ウォージャイの件だよ」
「ウォージャイの名前は一っ言も出てなかったけど?」
「あーもー!この話はお終い!あわわわわわ」
耳を両手で押さえたり離したりする。
『子供か!』
テントに着いた。
「報酬の分け前、100万ずつだ」
「良いのかい?」
「俺達の方も。2人で100万も貰うのはな・・・」
「冒険者の依頼の報酬の分配は頭数割りじゃなくパーティで割るのがしきたりだ。当然だろ」
「でもねぇ」
「俺達兄妹は後方に居ただけだ。それで・・・」
「あーもー!うるせぇ!色々問題が有ってしきたりが出来たんだよ!黙って従え!」
「「う~ん」」
「受け取っときなさいよ。ロックワーム討伐で頑張ってくれれば良いのよ」
「アンナ」
「メンド臭ぇんだよお前等!あーもー!飯食って屁ぇこいて寝るぞ!」
『こかないけどね』




