⑮-30-485
⑮-30-485
ドォオオオン!
ワーワーワー
快晴。
戦闘は昨日と同じ様に力攻めで始まった。
昨日と違うのは3方向から攻めているところだ。
北を除いた3方向。
俺達は昨日と同じく南門を攻めていた。
振り返るとベオウルフが全軍から目立つ位置で馬に乗って戦況を眺めている。
振り返ると正面の南門では、門楼の中で指示を出している指揮官らしき者が見える。
俺達も弓で城壁上の敵を狙っていた。
朝からの攻撃から数時間、太陽は天頂に迫ろうとしていた。
公国軍兵装の男が俺達に近付いて来た。
「死体男!作戦開始だ!」
「了解した!」
攻城戦の機微は分からないので開始のタイミングは任せていたのだ。
「ティア!セラス!俺に付いて来い!」
「「了解!」」
「他はこのまま射続けろ!バイヨとクルル・カトは残って弾除けだ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
俺とケセラの2人の盾役で後ろのティアを守りつつ南門に迫る。
俺達3人に矢が集中しだした。
「いやぁ、結構ヘイト集まってんなー!」パシッ
「昨日の今日で結構射殺したからな!」ガンッ
セラスが盾で矢を弾きながら応えた。
「無駄口叩いてないで矢落としに集中してよー!」
後ろのティアが悲鳴を上げる。
「はいよー!」パシッ
俺達は南門の前の窪みまで来た。
門自体は壁から奥まった所にある。
従ってその窪みは周囲の城壁からは八角塔も無いし矢は届かないのだ。
しかし他の歩兵は城壁を登ろうと梯子を掛けたり梯子を登ろうとしたり。
「確認するぞ!」
「あぁ!」
「えぇ!」
「ティアがこの作戦の要だ!だからお前がティアを死守しろ!」
ドンとケセラの肩を叩く。
「了解した!」
「ティアは《バインド》の維持だけに集中しろ!」
「分かったわ!」
「俺達の両側は彼女達が狙撃で妨害してくれる!他の隊の弓手もバックアップしてくれるはずだ!」
「あぁ!」
「それを掻い潜って来る矢は少ない筈だ!それだけ防御すれば良い!」
「了解!」
「他の歩兵にも分散してるから大丈夫だ!命はセラスに預けろ!」
「任せたわよ!」
「任された!」
「じゃぁ行くぞ!」
両手を頭上に振って開始の合図を送る。
「合図を確認!」
ベオウルフの近衛騎士が叫んだ。
「作戦開始せよ!」
「作戦開始します!弓手は南門近くの敵を集中攻撃!」
ドゥオオオン!ドゥオオオン!ドゥオオオン!
銅鑼の音が鳴った直後からベオグランデ軍の矢が南門近くの敵兵士に集中しだした。
「よし今だ!」
俺達は窪みから出て頭上を門の上の壁を仰ぎ見る位置まで来た。
「ティア!」
「《バインド》!」
真横の城壁から頭上の壁までに5つの影が生まれる。
俺はその1つ目に向かってステータスを活かして助走をつけて飛んだ。
グイッ
1つ目の影に掴まれ空中に固定された。
その腕を抜けて1つ目の影に立ち、2つ目に向かって垂直飛びをする。
ガシッ
2つ目の影が俺を掴んだ。
パシッ
上から矢を放たれるもグローブを嵌めた手で叩き落とす。
下の2人にも矢が放たれているがケセラが弾いているようだ。
2つ目の影の腕を抜けて立ち、3つ目に向かって飛ぶ。
上から叫び声が聞こえる。
「落とせー!登って来てるぞー!」
「何としても落とすんだー!」
南門の門楼に居るリィ=イン教国軍首脳部。
「何だ!兵共は何を騒いでおる!」
「何やら下で起こっているようですが!」
「登っていると聞こえましたが!」
「梯子からだろう!当然だろうがしかし梯子であれば狙い撃てる!数は此方が有利だ!恐れるな!」
『はは!』
「くそっ!砦を奪ったはいいが肝心の奴隷を運べんとは!」
「ツイていませんでした!」
「先ずはこの戦いを、!?」
指揮官は有り得ないものを見る。
城壁よりも高い位置にある楼閣、その外側に1人の男が突如として現れた。
俺は最後の影を抜けて左右を見渡せば城壁の敵兵士よりも高い位置に来ていた。
当然攻撃は俺に集中する。
味方からの援護も有るがそれでも幾つかは飛んで来る。
それらを叩き落としながらジェットパックに魔力を送る。
ここまで来たら少し飛んでもステータスの所為だって思われるだろう。
ブオッ
いきなり楼閣の中に飛び込んで来た俺に対して敵兵士は一瞬固まってしまっている。
目を皿のようにして口を開けている者まで居る。
間抜け面晒して死んでいけよ。
指の間に挟んだ数個の煙玉を周囲に投げ付ける。
「てきっ!敵襲ぅー!ごほっ」
「敵だぁー!ごほっ」
「くそっ!卑怯者がっ!ごほっ!煙玉などと!ごほっ!」
「落ち着けぇー!奴も見えん!同士討ちに気を付けろぉー!」
狙いはあの派手な鎧着てた奴。
煙で見えなくても視えている。
俺は敵指揮官の下に走る。
どうせ人民から搾取した金で手に入れた鎧だろ!
グサッ
「ぐっ!?」
喉元に解体ナイフを刺し込む。
「作る事をせず奪う事しか出来ない奴が偉そうにぬかすなよ」
「ぐぶぶっ」
口から血が泡立って出て来る。
「てめぇの死体は裸にひん剥いて門に吊るしてやる。この国だけじゃなく他の国にもてめぇの死に様は知れ渡るだろうよ。てめぇの国の家族にもなぁ!」
「ぐぶぅお!」
「はははは!後悔しながら逝きやがれ!」
ナイフを一旦引き抜いて再度刺し込む。
「ぐぶおあ!」
ベオウルフは遠くに見える煙が溢れた楼閣を凝視していた。
(どうなったぁ~、どうだぁ~、どうしたぁ~死体男ぉ~どうなんだぁ~)
「殿下!あれを!」
「ん!」
楼閣の煙の中から数人が飛び出して来て周囲に落ちて行った。
そして最後の影が飛び出て楼閣の屋根に上って行く。
楼閣の屋根は屋上作りではないので階段などは無いのだ。
屋上に着いた影は旗を付けた槍を大きく振ってはためかせた。
「殿下ぁ!ベオグランデ軍の旗です!」
「やりおったかぁー!」
「槍の先に何か刺さっておりますぞ!」
「指揮官の首だ!」
〈リィ=イン教国軍指揮官の首!討ち取ったりぃー!〉
《うおおおぉぉぉ!》
「あの野郎やりやがったぁー!全軍突撃だぁー!」
「構いませんので!?」
「本当に指揮官の首かは重要ではない!総大将が討たれたかもという疑念を抱かせるのが重要なのだ!1度でも抱けば総大将が死んだら負けるかもという考えが湧く!奴等一般兵は徴集兵だ!1度でも臆病風に吹かれたら払拭は難しい!今!ここで!勝負を決める!全軍突撃だ!」
「畏まりました!全軍突撃!」
『全軍突撃!』
ブァオオオン!ブァオオオン!ブァオオオン!
銅鑼の音が聞こえる。
屋上に立って槍を振っていたが少し疲れたな。
矢も飛んで来るし。
まぁでも振っていた方が良いんだろうな。
動かないよりも動いていた方が味方兵士の心情的には良いだろう。
敵には負けるかも、味方には勝てるという心情にさせるだろう。
ティアとケセラも窪みに入って矢は届かないし大丈夫そうだ。
眼下にはベオグランデ軍が突撃して来ている。
俺に向かって。
壮観だな。
あの海にダイブしたい。
あの人の海に。
山の上の海に。
待て待て、落ちたら死んじゃうだろ。
落ちたら・・・飛行機完成させなきゃ。
飛行機完成させて飛べばいいんだよ。
この戦争を早く終わらせて飛行機を完成させよう。
完成させて皆で乗るんだ。
家族と一緒に。
家族と一緒に空を遊覧しよう。
太陽が天頂を過ぎた頃、砦は落ちた。




