⑮-29-484
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「それで何かご用ですか?」
「あぁ。そこのンナバ「バイヨです。殿下」バイヨに聞いたのだが」
「はい」
「砦を落とす策が有るとか」
「策と言う程のものではありません。単なる思い付きです」
「それでも構わん。聞かせて貰いたい」
「依頼、と言う事ですかね」
「良いだろう」
「ベオウルフ」
「バティルシク。先ずは聞くだけ聞けば良いだろう」
「タダでは聞かせられませんね」
「貴様!」
近衛騎士がここでも五月蠅い。
「ふーむ。ただ、成功するかどうか、その判断をするのはワシだ。お前の案を聞いて実行するなら契約しよう。実行しないなら契約も無しだ」
「聞くだけ聞いて契約しないでそちらの策だって言って実行する可能性も有りますね」
「貴様無礼にも程が有るぞ!」
ベオウルフがサッと手を上げて近衛騎士を制する。
「お前捻くれてんなぁ」
「貴族には煮え湯を飲まされて来たんでね」
「ワシも元冒険者だぞ」
「今は大公だ。国が第一でしょ」
「む。ではどうすれば良い」
「・・・まぁ今回は最初の依頼だ。とりあえず信用しますよ」
「そうか」
「ただ関係者以外はお引き取り願いたいですね」
「何だと!」
「良いだろう」
「殿下!」
「バティルシク以下高級文官と、軍上層部は残ってそれ以外は出て行ってくれ」
「殿下!護衛は!」
「ワシなら要らん。文官もワシが守る。大丈夫だ」
ベオウルフに言われ渋々出て行くが俺を睨んで行く。
「お前もだ、ウォージャイ」
「親父!」
「お前は真っ先に出て行かなきゃいけねぇだろ」
「てめぇ」
「おやぁ。教育が足りないみたいだな」
「くっ」
「耳と腕の調子はどうだ?くっ付いたみたいだが」
「ぐぎぎ」
「耳の調子は良くないみたいだな。もう1度言ってやろうか」
「ウォージャイ!」
「・・・くっ。分かったよ」
ウォージャイも出て行ったので考えた案を話した。
「簡単過ぎるな。そう上手くいくか?」
「上手くいこうがいくまいが、リスクは俺だけだ。やる価値は有るでしょう」
「それはそうだが、良いのか?」
「ベルバキア公国からの援軍はどうなんです?」
「バティルシク」
「む。ベルバキア公国の援軍は来ない。ソルスキア王国は先のルンバキア公国への援助で更に増援は難しかろうし、有ったとしても遠いから時間も掛かるだろう」
「だったらやるしかないでしょう」
「良いのか?」
「だからこその高額報酬ですよ」
「むむ」
「この軍は連携の練度もあまりないので作戦というものは無理でしょう」
「その通りだ。大公選抜祭も有って急遽編成したしな」
「ならこれが1番手っ取り早いかと思いますよ」
「ふーむ。どうだ、バティルシク」
「確かにリスクは此奴1人だけだ。やって損は無かろう」
「失敗しても目の上のたん瘤が無くなって清々するだけだもんな」
「むむ」
「お前等貴族は冒険者を使い捨ての駒としか考えていない。国の事を考えているようで実は自分達本位にしか考えていない。お前等は冒険者を金の亡者とか節操の無い連中とか考えてるんだろうが、逆に言えば冒険者にとってお前等貴族は単なる金づるとしか考えていないと思ってんだろ。忠誠を示せ?払うもん払ってから言うんだな」
「言うではないか」
「俺達は俺達の仕事に命を懸けている。お前はどうだったっけな」
「ぐぐ」
「何の話?」
「何でもないよ、アンナ」
「そこまでにしておけ。戦は始まったばかりだ。身内で争ってどうする」
「身内は言い過ぎですね。所詮理解し合えない同士だ」
「はぁ。まぁ良い。お前の策でいこう、死体男」
「その徒名、気に入ってるんですか?」
「ふっふっふ。1度聞くと忘れんだろう?」
「その歳で・・・おいたわしや」
「ほっとけ!死体男のパーティと契約する!ん~、言いにくいな。パーティ名は有るのか?」
「いえ」
「じゃぁワシが付けてやろう」
「結構です」
「そうだな~」
「いえ、結構です」
「おっ!閃いたぞ」
「そのまま墓場まで持ってって下さい」
「行商をしてると言っていたな」
「聞けジジイ」
「死体男の商会。デッドマンズカンパニー。これはどうだ?」
「悪趣味ですね。そんなんだったら”死体男のパーティ”の方が良いです」
「よし!今からデッドマンズカンパニーで行くぞ!」
「聞いてます?」
「デッドマンズカンパニー・・・と」サラサラ
「あー!契約書に書くんじゃねー!」
「ほら!お前も署名しろ!」
その後、契約の詳細を詰めお互い署名した。
ベオウルフが口を開く。
「さてと。そうだ。奴等を呼んでくれ」
「畏まりました」
「奴等?」
「うむ。見所の有る奴でな」
3人の男達が今出て行った衛兵に連れられて入って来た。
何処かで見た事のある顔だと思ったら大公選抜祭の準優勝者の獣人だ。
ベオウルフが紹介する。
「覚えているだろう」
「えぇ。決勝進出の」
「そうだ。名乗れ」
「ダダイだ」
ベオウルフよりも上背が有り堂々とした体格だ。
「流石決勝に上がって来るだけあって強い。今回の戦争でも冒険者部隊の先鋒を任せる事になっている」
「ほぉ」
「明日の戦でもお前は冒険者部隊に所属する事になる。顔合わせをしといた方が良いと思ってな」
「なるほど。ロッシだ、宜しく」
「ダダイだ」
ダダイの後ろの2人を見る。
どちらもヒトの男だ。
「3人パーティか」
「そうだ」
後ろの2人の表情が硬い。
というより暗い。
「大丈夫か?体調が優れないようだが」
男の1人が答える。
「あ、あぁ。山地は初めてでな。適応に苦労している」
「そうか。まぁ侵略者の1人や2人でも殺せば気分も晴れるだろう」
「うっ・・・そ、そうだな」
「ん?」
「顔合わせも済んだ事だしお互い明日に備えてくれ!」
「・・・畏まりました、殿下。あっ、そうだ殿下」
「ん、何だ?」
「ベオグランデ公国軍の旗を1つ下さい」
「?分かった、用意しておこう」
「宜しくお願いします」
カズヒコ達はバイヨ達と共にベオウルフの言を受けて辞去した。
ダダイ等、3人も同様に去った。
「上手くいくと思うのか?」
「分からん。上手くいけば犠牲が少なく砦を取り戻せる。上手くいかなければ予定通り力攻めをするだけの事だ」
「確かにな」
「お前から見てどう思う」
「策か?」
「あぁ」
「分からんよ。軍略は畑違いだ」
「死体男は」
「狂ってる。軍の最後尾で大人しくするって言ってた奴がやる事じゃない」
「はっはっは!確かにな。俺も掴めないでいる。ロイヤルスクランブルは騙されて参加させられたらしい」
「だまっ!?」
「本当は戦うのは嫌で行商が本業だとさ」
「行商だと!?」
「そんな男が何故危ない橋を。まぁンナバイエル達に連れて来られて、と言った所だろうが」
バイヨ達とそれぞれのテントに帰ってる途中、
「君等が提言したんだから当然付き合ってもらうからな」
「勿論だよ」
「私の負担が大きくない?」
「仕様が無いよティア。故国の為に頑張りましょっ」
「そうそう。ロッシが守ってくれるって」
「もうバイヨったら他人事だと思って!」
「まぁ今夜はしっかり休んでくれよ」
「あいよ!また明日ね!」
バイヨ達と別れてテントに入る。
「また無茶な事して」
「そうだよぉ。ここはグデッペン要塞じゃないんだからカズ兄ぃが頑張んなくても良いんだよぉ」
「砦が2つも落とされてる。奴等が侵略する理由は分かってるだろ?」
「奴隷、ですね」
「そうだ。人々の自由を奪って己のものとする」
「孤児も生まれるだろうしな」
「その通りだ。或いは子供も奴隷として連れ去るかもしれん」
「ジュゼッペの様に?」
「そうだ。前にも言ったが自分達の失政のケツ拭きが他所の国からかっぱらう事ってのが我慢ならん。教国だとか言ってる割にはやってる事はただの野盗だ。神を建前に好き勝手やってお仲間の北部連中にも呆れられてる。ここらで神罰を下してやらんとな」
「まぁ、もう契約しちゃったし、気を付けてねとしか言えないけど」
「任せろ。寧ろ要塞の時より危険性は低い」
「だと良いんだけど。それとさっきのレイヴの手紙には何て?」
「うん。キルカ商会に衛兵の家宅捜索が入ったって」
「「「「えぇ!?」」」」
「な、何で!?」
「僕達の身柄拘束だとさ」
「拘束って・・・」
「キルケさんはベオグランデに行ってると答えたらしい」
「まぁ、本当の事だしね」
「そうだ。その家宅捜索で少なからぬ損害が出たってさ」
「はぁ、貴族ってば強引よね」
「そうだねぇ」
「セーラさんが命じたとは思えませんが」
「うん、私も同感だ」
「まぁ命令を受けた者が曲解したって所かな」
「どうするの?」
「うーん。セーラちゃんには悪いけど少し報復はしないと、キルケさんも溜まってるだろうしね」
「・・・やり過ぎないでよ」
「1国挟んだ距離に居るんだ、そこまで出来ないよ」
「「「「じー」」」」
「・・・さて、夏とは言え山地の夜は冷える。毛布を掛けて寝るんだぞ」




