⑮-26-481
⑮-26-481
(くそっ。早ぇよ)
(助かった!)
「皆から離れた所で密談かな?」
「えぇ。しかしもう終わりましたよ。では私は失礼しますよ、大公殿下」
「待て!」
「命令か?」
「そうだ!大臣として命令する!」
「断る」
「なっ、何!?」
「俺はベオグランデの国民でも無いし、お前の部下でもない。軍にも所属していないしお前の命令を聞く必要も無い」
「ベオウルフと契約したのだろう!軍の所属だ!」
「そうだ。大公殿下と直接契約したのであって国と契約したのではない。従ってお前の言う事を聞く必要も無い。理解したか?」
「ぬぐぐぐ・・・ベオウルフ!奴を止めてくれ!」
「まぁ待て、死体男」
俺は構わず歩き出す。
「ロッシ!」
「何だ」
「何が有ったか事情を聞こうじゃないか」
「そこの老いぼれ・・・宰相に聞けば良いだろう」
「バティルシク?」
「うぅ」
「俺達パーティが従軍するに当たって騒動を起こしたら殺すんだとよ」
「・・・」
「殺すとは言っていない!」
「排除するんだとさ」
「ほぉ」
「くっ」
「んで、騒動を起こさず無事に過ごせば宰相とそこの衛兵とそいつ等の家族を排除するという契約に纏まった。それだけだ」
「そんな契約を!?」
「違う!いや、半分は合っているが後半は違う!」
「うーむ。従軍中の騒動なら軍法に照らし罰するが、それ以外にも宰相独自に罰則を与えると。そんな権限が有ったかな。総大将はワシのはずだが」
「うぐ」
「罰則を与えて、更に私刑も行うと。なるほど、問題だな」
「私刑ではなく契約だ。騒動を起こせば俺達が、起こさなければこいつ等が死ぬ。それだけだ」
「それだけって、お前な」
「俺とこの爺との契約だ。口を挟まないで貰おう」
「うーむ」
「破棄したい!」
「断る。じゃぁな」
「まぁ待て、ロッシ」
「何だ」
「先日の騒動でバティルシクに睨まれたのだろう事は分かった。先日も言ったが、騒動は完全に愚息の所為だ。それでお前達が迷惑を被る事は無いと言った。大公の言だ。それを証明せねばならん」
「証明するのはこれからしてくれれば良い。これは俺とそこの老いぼれとの問題だ」
「お前が被害を被ったからワシが出張っているのだ」
「どうしろと?」
「バティルシクが持ちかけた契約だろう?」
「そ、そうだ」
「ならバティルシクからの一方的な破棄は許されんな」
「むむ・・・」
「当然だ」
「うむ。なので違約金を払うというのはどうだ?」
「ふーむ」
「更に大公がバティルシク以下公国関係者から其方達を守ろう。具体的には、そうだな。何か有ればワシに言ってくれればいい」
「言うとどうなる?」
「大公であるワシが罰する」
「返り討ちの許可も欲しい」
「良かろう。しかし分かってはいると思うが悪用はするなよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった」
「その間はなんだ、その間は」
「違約金は1000万エナだ」
「「いっせんまん!?」」
「あ、お前は宰相の護衛で居ただけだから払わなくて良いぞ。払うのは宰相だけだ」
「ほっ」
衛兵が安堵の溜息を漏らすがバティルシクに睨まれ慌てる。
「これに懲りて余計な口を挟まない事だ」
「うぅ・・・」
「それにこれは国からの契約ではなく宰相個人での契約だった。宰相の懐から出して貰う」
「はっはっは。当然だな。国庫からは出せんぞ、バティルシク」
「くっ」
「その条件でなら破棄に応じよう」
「どうする?バティルシク」
「・・・応じよう」
「良かろう!大公であるワシが立ち会った。両方とも約を違わぬようにな」
「畏まりました。大公殿下」
チラっとバティルシクを見るベオウルフ。
「・・・分かり申した」
「結構結構!はっはっは!」
「では」
「待て待て」
「ん?」
「義勇兵として従軍するんなら国とも契約して貰わんとな。軍法にも従ってもらわにゃいかんだろ」
「ちっ」
「はっはっは。ではこの際だから契約しちまおうか」
カズヒコは義勇兵として国と契約してメンバーの下に戻った。
「何だったの?」
「あぁ。まだ国と契約してなかったから契約して来たよ」
「そう。あのお爺さんが担当の人だったの?」
「あぁ。宰相だってさ」
「「「「宰相!?」」」」
「宰相がわざわざ!?」
「やっぱ僕程の男になると放っておかないのだろうねぇ」
「セラス。宰相って大臣でしょ?」
「そうだ。大臣が役職名。宰相は通称だな」
「偉いんでしょ?」
「当然だ。一国のナンバー2だぞ」
「クルル・カト」
「大公も集まっていたが本当に義勇兵登録だったのか?」
「まだしてなかったから早くしろって怒られたよ」
「明日にも出兵するからまぁ分かるが」
「それにしても何か見られてる気がするのは気の所為か?」
同じ冒険者からの視線が集まってる様に感じる。
「先日の祝宴での騒動がもう知られているのだろう」
「早いな」
「当然だ。相手は大公の息子だぞ」
「なるほど。にしても・・・女性からの視線を感じるのは自意識過剰かね」
「ウォージャイの普段からの振る舞いは冒険者の女達からも不評だったからな。奴自身も言っていたが大公の息子だからというだけで寄って来る女も居るが、冒険者の女からは忌避されていた」
「独立心高そうだもんねぇ。女性冒険者は」
「あぁ。そこに先日の騒動だ。お前が奴の腕と耳を斬り落とした事で胸のすく思いをしたのだろう。クルラもそうだったのだからな」
「兄さん!」
「はっはっは。あの後ご機嫌だったじゃないか」
「もう!」
「ちょっと待て。という事は、これは好意的な視線。そういう事か」
「そういう事だ」
「モテ期来たぁー!」
「あんたが居ない間にレイヴの顔見せも終わったから帰るわよ」
「そうだね、帰ろう」
「そうですね、帰りましょう」
「明日出陣だから準備をしないとな」
「クァー」
「待て待て待て、君達。宴はこれからじゃないか」
「宴は先日で終わったでしょ。帰るわよ」
「先に帰ってくれ給え。僕はこれから大事な用事が有る」
「戦争の準備以上に大事な用事なんて無いわよ!」
「あるある!モチベーションだよ!ヤル気だ!」
「何をやる気なのよ!」
「戦争だ!ナニを言ってるんだ君は!これから戦争に行くんだろ!死ぬかもしれないじゃないか!悔いない様に夜の戦争に行くんだよ!」
「偉そうに言ってる最後にサラッとぶっこまないでよ!」
「これから殺し合いに行くんだぞ!酷く凄惨で非生産的な戦争だ!やる気も失せるからヤル気を出して行くんじゃないか!モチベーションの維持が大事って言ってたのは君だろ!対北部との戦争だからと言ってモチベーションの維持はそれとは別なんだよ!大義だけで戦えるほど人は強くないんだよ!綺麗な女や可愛い女との会話はそれ自体が癒しであり魔法!そう!癒しの魔法なんだよ!あっ!いや君等が綺麗じゃないって言ってる訳じゃないぞ!しかし家族じゃない女との会話がヤル気を起こして結果戦争にも身が入って、あらぁ入っちゃった、みたいな!?ナンの話をしてるんだ!そうだ!戦争だよ!これから厳しい戦いに身を投じる前にベッドに身を投じる事こそが体だけじゃなく精神も癒す最大の戦争への準備なんだよ!分かったかい!」
「帰るわよ」
「は~い」
「ベオグランデ公国に向かった!?」
「はい。キルケはそう申していたそうです」
何時ものメンバーに囲まれてレヴィアン・ブルーフの報告を椅子に座って聞いていたセーラ。
思わず身を乗り出した。
「殿下。現在ベオグランデ公国はリィ=イン教国からの侵略を受けています」
「つまりまた戦争に向かったのね!」
「はっ。恐らくは」
「北部に流れた訳ではなく、ホッとしましたな」
「レヴィ!マコル達は家族を殺されているのよ!北部に行く訳がないわ!」
「ははっ!」
「まぁ何にせよ、所在が分かったのは良かったかと」
「バグレスク大臣。えぇ、そうね。でもベオグランデ公国だと遠いし戦争中だしで呼び戻す事は難しいわね」
「呼び戻す!?あいつ等をですか!?」
「レヴィ。冒険者が流出した原因はマコル達に対する報酬の不払いにあるのだ。噂を払拭するには報酬を払う事が先決だ。当然であろう」
「・・・は」
「それに途中のベルバキア公国を通りますからな」
「ベルバキアとの連絡は?」
「未だに有りません」
「一体どうなってるのかしら」
「分かりませんが、大公は既に老齢の身。もしかしたら病で伏せっているのやもしれません」
「う~ん。仕方が無いわね。当面は先日話した通りにしましょう」
「はは」
「進捗は?」
「は。近衛と兵士達の編成は終わりました。明日から討伐に向かわせます」
「討伐か・・・商人の護衛は無理ね」
「近衛や兵が公都を長く離れるのは流石に無理ですね」
「商人の護衛が集まらないとなると商人自体も公都に来なくなるわね」
「然様です。喫緊の課題です」
「しゅ、周辺の街から冒険者を連れて来るというのはどうでしょう!」
「不払いの噂が立っている。来まいよ」
「あうっ」
「大店の商人は自前で護衛を持っています。先ずは当分の間彼らの庇護を約束しましょう」
「そうね。弟妹と繋がっていた商人は調べがついた訳だしね」
「しかし大臣。庇護というと具体的には?」
「うむ。ドゥムルガ戦役での勝利により要塞の奪取に成功し、付随する物資も手に入った。それらと戦役で手に入れた戦争奴隷も安く融通すれば良いだろう」
「経済活動を活発にして人も呼び戻す訳ね」
「然様で御座います」
「問題は一朝一夕には解決しないものばかりだわ。出来る事を着実に進めて行きましょう」
「「「御意」」」




