⑮-22-477
⑮-22-477
クルル、クルラ兄妹と話していると大公の側仕えが来た。
さっき言ってた金を渡したいとの事だ。
別室に案内すると言う。
「大丈夫かしら。闇討ちなんて事に・・・」
「大丈夫だろう。そんな事したら国中から総スカンだ」
「金持って帰ったって言えばみんなには分からないでしょ?」
「じゃぁ君等はここで待っててくれ。僕が行ってくるよ」
「そうはいかないわよ」
「そうだよ。家族なんだし」
「そうですわ。危険は共に」
「うん、当然だな」
「そうか。まぁ何か有ったらいつも言ってるように僕が盾になってる間に逃げるようにね」
「「「「了解」」」」
案内されて別室に向かう。
別室はそれ程広くなく、他から少し隔離された場所にあって壁も厚く客室というより密談するような、そんな部屋だ。
「大丈夫かしら?」
「視た所、特に魔力的に問題はない。刺客が潜んでる風でもない。単純に密談室のようだ」
「何で密談するのよ」
「まぁ口止めとさっきの僕の手刀の件かな」
「「「「なるほど」」」」
部屋に通されて入った。
中には大公ベオウルフ1人だけだ。
「不用心ですね。良いんですか?お1人で」
「構わんよ。お前もヤル気は無いんだろう?」
「歴代最強のベオウルフに手向かおうなんて、なんて恐れ多い」
「抜かせ!さぁ座れ」
椅子が人数分用意されていたので座った。
「先ず約束の金、2000万エナだ。確かめてくれ」
「・・・確かに。しかし大判じゃなく金貨とは分かってますな」
「褒めても何も出んぞ」
「ちぇっ」
「おほん。所で別に話があるのだが」
「手刀ですか」
「話が早いな」
「幾らで?」
「金を取るのか?」
「これ見よがしに自慢しながら教えると思ってるんですか?」
「見せていたではないか」
「殺そうと思ってただけですよ」
「だけとは何だだけとは、物騒な」
「まぁ教えても良いですけど」
「本当か!?」
「えぇ、大きな声では言えないですが・・・」
「ふむふむ」
ベオウルフが中腰になって顔を近付けて来る。
「・・・・・・・・・・愛です」
「・・・は?」
「常日頃から世界の平和を願って行動している僕に神様が授けてくれた力。それは人を慈しむ愛。その純粋な思いが穢れた心を持つ男の腕に触れると浄化して斬り落としてしまったのです。北部を憎む怒りの炎はそれを具現化して相手の「あー、分かったからもう良いぞ」恐縮です」
((((気の毒ぅー))))
じとっとした目をしながらベオウルフが着席した。
「まぁ教えんわな」
「分かってるなら聞かなきゃいいのに」
「ふん!」
「所で僕も聞きたい事が有るんですが」
「何だ。ウォージャイなら当分外出させんぞ」
「ウォージャイ?・・・あぁ、あの愚息ね。忘れてたわ」
「忘れるなよ!」
「どうでも良い人間なもんでね。そんな小さな事じゃ無いんですよ」
「ワシにとっては小さな事じゃ無いんだがな。何だ」
「どうやって《覗き見》から防いでいるんです?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・やっぱり大公ともなるとステータスを《覗き見》られると困るじゃないですか。それの防止策ってどんなのかなぁって」
「言うと思ってるのか?」
「秘密は守りますよ」
「息子を殺そうとした奴を信じるとでも?」
「まぁそれならそれで構いませんがね。じゃぁ金も受け取ったし僕達はこれで」
「まぁ待て」
「はい?」
(やはり感づいていたのか、ワシが光魔法を使えるって事を)
(でなきゃワシの初撃を躱すどころか当たりに行った事の説明がつかん)
(もしここで言わなければこいつは言い触らすか?)
(そういう奴等では無さそうだが、かと言って信じる事も出来ん)
(教えたとしてワシにデメリットは・・・光魔法はもう感づいてる以上魔法に関しては構わんだろう)
(うーむ)
「何なら秘密保持契約を結んでも良いですよ」
「秘密保持契約?」
「えぇ。お互いの秘密を他人にバラさないって契約です」
「ふーむ。罰則は」
「好きな様に。バラさなきゃ良いんですからね」
「ふーむ。死を以って償う、でもか」
「僕等は構いませんよ」
「・・・よかろう。契約しよう」
そのまま秘密保持契約を結んだ。
「では1通は大公殿下に」
「うむ」
「もう1通は僕等が持っています」
「良かろう」
「では先ず殿下の初撃の秘密を他人に話さないと誓いましょう」
「・・・知っているのか?」
「キーワードは《袈裟斬り》ですかね」
「・・・なるほど。その歳でそこまでとはな」
「「「「ぶふっ」」」」
「どうした?」
「「「「いえ」」」」
「おほん。殿下におかれましては剣より杖が似合ってると、不肖ながら具申致します」
「・・・良かろう。それでお前達の秘密は」
「わざわざ相手が知らない秘密を言う訳にはいきませんよ」
「道理だな」
「今後、僕等が言わなかった、言いたくなかったであろう事は全部秘密だとご理解下さい」
「うむ」
「あっ、そうだ。一応話しておいた方が良いかもしれません」
「ん、何だ」
「収納袋を持っています」
「何!?その歳でか!?」
「「「「ぶふっ」」」」
「え、えぇ。この歳でね。割と苦労してるんですよ、これでも。変な奴に絡まれたりね」
「そ、そうか。まぁ女が4人も居れば然もありなん」
「それで先程の僕等の問いですが答えて頂けますか」
「先程のお前の言を取るならわざわざ秘密を言う必要も無いだろうが・・・」
「えぇ」
「ワシの秘密はもう分かってるようだし、ウォージャイの件もあって借りがある。良いだろう。教えてやろう」
「ホントですか」
「あぁ。この腕輪は何に見える?」
「?・・・普通のパーティリングにしか見えませんね」
「うむ。これは《覗き見》なんかの他人のステータスを見るスキルや魔導具を阻害する事が出来るリングなのだ」
『な、何だってー!?』
「まぁ世間にはあまり知られてはいない。お前も言った様に王族などのステータスを知られたくない者達によって秘匿されている代物だ」
「なるほど」
「これは秘匿のリングと呼ばれている」
『秘匿のリング』
「一見してもパーティリングにしか見えないからそれを着けてるとは誰にも分からない。それにパーティリングの機能も備えているから尚更だ」
「確かに。これは魔導具ですか」
「そうだ。しかし魔石を必要としない。その辺もパーティリングと一緒だな」
「ほぉー。ではこのリングを大公になって国から・・・いや違うな。最初の大公選抜祭の時には既に着けていた?」
「ふっふっふ。流石だな。その通りだ。ワシは元冒険者でな」
「ふむふむ」
「ダンジョンで手に入れたのだ」
『!?』
「ダンジョン産ですか!?」
「そうだ」
「ダンジョンかぁ~」
「潜った事無いのか?」
「えぇ」
「冒険者だろう?冒険者ならダンジョンに潜って一攫千金を狙いそうなものだが」
「行商人なんですよ。副業で冒険者をやっています。地道にやってくのが僕等のやり方でして」
「ふっ!はっはっは!ロイヤルスクランブルに出ておいてか!?」
「騙されて参加させられたんですよ」
「だまっ、そう言えばそう言っていたな。てっきりその場凌ぎの冗談だと思ったが本当だったのか?」
「勿論ですよ。誰が好き好んで殺し合いをしたいと思うんですか」
「「「「・・・」」」」
「はーっはっはっは!これは良い!ワシも長年出ておるが騙されて出場した奴はお前が初めてだ!それで棄権したのか?」
「はい」
「はーっはっはっは!なるほどな!それで合点がいったわ!はーはっはっは!」
「全く。結果としては良かったですけど危うく死にかけましたよ」
「はっはっは!すまん。これも秘密か!?」
「いえ別に。クルル・カトなんかにも言ってますし他の人に言っても構いませんよ」
「そうか!家族に教えてやりたい。笑えるネタだ」
「奥さんと娘さんにはすいませんでしたね」
「ふっ。いや。今となっては分かるがお前は害そうとはしなかっただろう。狙いは初めから決まっていたからな」
「えぇ」
「うむ」
「あ、あの、殿下」
「うん?」
「先程の秘匿のリングなんですけど、《覗き見》ようとしたら阻害されるって」
「あぁ」
「阻害されたら秘匿のリングを着けてるって分かっちゃうんじゃ?」
「ほぅ。其方、名前は」
「アンナです」
「そうか。アンナ。確かに其方の言う通りだ。其方の言う阻害はステータスがぼやけて見えないという感じかな?」
「はい、そうです」
「うむ。秘匿のリングは文字通りステータスの項目を隠す事が出来る」
『!?』
「例えばワシは【ランク】Aなんだが、Aを隠してしまう事は出来るが隠してしまうと」
「秘匿のリングを持ってるとバレますね」
「うむ。【ランク】の欄が空白になるからな。しかしスキルを隠すと」
「なるほど。秘匿のリングを持ってる事はバレないし、スキルも隠せる」
「そういう事だ」
「ちなみに殿下が秘匿のリングを着けてるのを国の方々は知ってるんですか?」
「勿論だ。大公になると渡される。退位する時に返却と同時に口外しない旨、約束するのだ。故に今ワシは2つ持っておる。秘密だぞ」
『なるほど』
「退位した後で喋ったりしたらどうなるんです?」
「暗殺される」
『げっ!』
「結構居るらしいのだ」
「そ、そうなんですか」
「あぁ。それまで大公という王の身分の暮らしに居た者がいきなり一般の身分に落ちても暮らしの水準を落とせないで金を使い果たしてしまって、国の大事を金と引き換えに、な」
「それで国から暗殺」
「うむ」
「殿下も御気を付け下さい」
「む?ワシは贅沢はしていないから大丈夫だぞ」
「息子さんの尻拭いで直ぐに金が尽きるかもしれませんよ」
「ほっとけ!」
「その秘匿のリングを売って頂く事って出来ますか?」
「流石に無理だろうな。レアアイテムだ。滅多に手に入る物ではないし先程言った様に口外しない約束をする程の物だ」
「国の方に聞いて頂けませんか、駄目もとで」
「暗殺対象になるような物をせびるの?」
「口を利いたら殿下も暗殺されるんじゃないかなぁ?」
「全く知られていないと言う訳でもないのだ。市場には出ないがダンジョンから産出されるのは確かだからな」
「金持ちの連中の間でしか話題にはならないだろうね」
「そっか」
「ふーむ。そうだな。戦で功成ったら聞いてやっても良い」
「あっ」
「あ?」
「実は参戦は止めようかと」
「何だと!?どうしてだ!」
「ウォージャイの件で殿下と国から睨まれましたし、居辛いなぁって思ってまして」
「馬鹿な!どう見てもウォージャイが悪い!お前は返り討ちにしただけに過ぎん!それに女子達を辱める様な事を口にしおってあいつ!兎に角、お前に罪は無いし国から何か処分が下される事も無い。それは大公であるワシが保証する」
「そうですか」
「まぁ目立ってしまったのは確かだがな」
「それはまぁしょうがないですよ」
「うむ。では不参戦を考え直してはくれないか」
「分かりました。元々参戦するつもりで来ましたので」
「そうか!なら良かった。正直其方達が参戦しなかったらワシが裏で何かしたと勘繰る輩も出るだろうと思ったからな」
「でしょうねぇ」
「お前が言うなお前が」
「所でもう1つの報酬も覚えておいでですか」
「もう1つの報酬?」
「あー。独立部隊にするって件ですよ」
「あー。勿論覚えているぞ」
「嘘吐け」
「こういうのは軍編成の時に思い出すもんなんだよ」
「決まった後で思い出しても「手遅れだったスマン」で済まされそうだ」
「おほん。通常の義勇軍に組み込まず、取り敢えずワシの直属にしよう。それで良いだろ?」
「えぇ。その方が好きに動けるならそれで構いません」
「繰り返し言うが好きに動ける訳ではないからな。軍規には従えよ」
「勿論ですよ。社会のルールを破った事など1度たりとてありません。ご安心下さい」
「「「「「・・・」」」」」
「ま、まぁ、詳しい事は追って知らせる。これから編成も始まるから祭りの疲れを癒しつつ待っていてくれ」
「畏まりました」




