⑮-20-475
⑮-20-475
「おっ、親父!」
「死体男・・・」
「変なあだ名付けないで下さいよ」
「親父!いてぇよぉおおお!」
「ウォージャイ・・・」
「見てくれ!手を!手が!手が無ぇんだよぉ!」
ウォージャイが無くなった右腕を見せている。
(手刀で人体を切断?)
(馬鹿な、どうやった?)
(ウォージャイの右腕の切り口は焼け焦げて血も殆ど出ておらん)
(普通の手刀ではない、スキルか?)
(しかしスキル名詠唱は無かった、スキルじゃないのか?)
(いや!それはありえん。仮に手刀で斬り落とせたとしても焼け焦げるなんて事は無い筈だ)
(スキル!しかし発動は・・・事前に発動していた?)
(取り巻きの2人の時は普通に相手をしていた)
(任意のタイミングで出したり出さなかったり出来るのか?)
(分からん)
(分からん。が、先ずはこの場を収めねば)
(はぁ~甘やかし過ぎたのぉ)
「引いてはくれんか?」
「はっはっは!ご冗談を!喧嘩吹っ掛けて来たのは殿下のお坊ちゃんですよ?」
「親父!殺してくれ!こいつを殺してくれ!」
「愚息にはよく言って聞かせる」
「そんな歳ですか?幾つなんです?」
「・・・28だ」
「ぷっ。28でよく言って聞かせる?何て言うんです?パーティで粗相をしちゃいけません、めっ!はっはっは!」
「死体男」
「この国では成人は何歳です?」
「・・・15歳前後だ」
「あらら。倍も歳とって尚お行儀が悪い子ですなぁ」
「・・・」
「親父ぃ!」
「愚息さんが泣いて呼んでますよ、お父さん」
「・・・」
「ブッ殺してくれよぉ!」
「僕等は帯剣せずに参加したのに殿下は許されるんですねぇ。その剣どうするんです?まさか無手の相手に使うんですか?」
(抜かせこいつ!)
(無手でワシと戦った野郎が何言ってやがる!)
(はぁ~。こいつ分かってて言ってんな)
(剣で牽制しなきゃ間に合わなかったし目ん玉潰してただろう、お前は)
(貴族院の奴等も居る手前、確かに無手相手にこの構図はちと不味いのぉ)
(何より他の冒険者も居る。何の役職も無い、ただ大公の息子ってだけの馬鹿が勇者に、それも後ろから殴ったってのは・・・クソが)
(これから戦争も有る。何時もの様にワシの財産から金をやって引いてもらおう)
ベオウルフが構えを解いた。
「愚息が済まない。大公の名の下に謝罪をする。許してくれ」
『おおお!』
大公の謝罪で周りも「流石ベオウルフ」の声が聞こえる。
多少芝居じみてるがこの辺が引き際か?
いや。
後ろから殴るってのが気に入らんな。
それに剣を持ちだしたのもな。
「良いでしょう。殿下にそこまで言わせたらそれ以上は不敬でしょうな」
「済まないな。迷惑料で幾らか包みたいが」
「1000万で収めましょう」
「1000万!?」
(こいつ!)
(引いてくれと言った手前、こちらが引けないと分かってて吹っ掛けて来やがった!)
(国の金はワシが自由に出来る訳じゃないんだぞ!)
(ワシの金から出さんといかん!)
(24年の在位で貯めたワシの金が!)
(老後の資金にと貯めてたワシの金が!)
(妻とのんびり暮らそうと貯めてたワシの金が!)
(ぐぎぎぎ!)
「招待客への暴力。大勢居る前で殴った事への名誉棄損。何より人が食ってる最中の背中から狙うという、卑怯極まりない非道への賠償にはそれ位、いや、もっとでも良いのかもしれませんがこれから戦争で何より物入りでしょうからこの額で収めましょう」
(こいつ!)
(言うに事欠いて!)
(全部納得出来るものばかりだ。これじゃぁ減額は大公の恥)
(しかも戦争でこっちを気遣ってる風を装いやがって)
(装っただけで託けてるだけだろうが!)
(とんだ詐欺師だ。糞ったれが!)
(ウォージャイの馬鹿が!はぁー!甘やかし過ぎた!)
「・・・・・・・・・・分かった。1000万エナで手を打とう」
「手を打とう?あれ、僕は別にこのまま愚息さんをやっちゃっても良いんですが」
「手を打たせてくれ!済まないな!」
「ふぅ。しょうがないなぁ、大公殿下がそこまで言うのなら。じゃぁそーゆー事で」
(ぐぎぎぎ)
(ふぅ、まぁこんな所か)
(舐められちゃ駄目とは言え大公の息子を相手にしたんだ。この辺が引き際だろう)
(《EMB》も使えると分かったしな)
(《EMB》の強化版だ)
(次々に層を作るんじゃなくバリアを強化しただけのものだが無手でも十分戦力として計算出来るな)
(それにスキル名無詠唱)
(スキル名を変更出来るんなら無名にも出来るんじゃないかと思ってたが)
(無名だとやはりイメージし辛い)
(ただ、スキル名無詠唱は出来た)
(元々出来るとは思っていた)
(口が利けない人はスキルはどうしてんだって話だ)
(詠唱した方がイメージし易いのは確かだが慣れてしまえばいけそうだ)
(ただ最近《魔力操作》が更に上手くなってる様な気がする)
(なんか有ったかな?ドラゴンの心臓にでもそんな作用が有るんだろうか?)
2人は構えを解いて争いが終わった事を周りにアピールしようとした、
「待ってくれよ!親父!」
「ウォージャイ・・・」
「俺の右腕をこんなにしやがった奴だぞ!無事に済ませるんじゃねーよ!」
「勇者を公衆の面前で、しかも後ろから殴るとは。腕1本で済んで御の字と言う奴だ」
「ふざけるんじゃぁねー!何が勇者だ!あんな女侍らせやがって!」
「何だ嫉妬か」
「嫉妬じゃねー!俺は大公の息子だぞ!女なんて向こうから寄って来るってーの!」
「「はぁ・・・」」
カズヒコとベオウルフが溜息をつく。
(ちょっとこの親父が気の毒になって来たな)
(これは教育とかそんなもんじゃ無理だろう)
(生まれ持った才能だ、一種の)
「ウォージャイ。今は祝宴だぞ。弁えんか」
「くく、親父ぃ」
「済まんな、死体男。気にせんでくれ」
「気にするなと言いながら変なあだ名で呼ぶのはワザとですよね」
「ん?どうした」
「試合の時には”そんな事では怒りはせん”と言っておきながら、結構根に持つタイプだ」
「何の事やらさっぱりだな」
「てめぇ!ベオグランデで大手を振って歩けると思うなよ!てめぇの女も娼館へ、いや!戦争で兵士の慰み者にしてやるぜ!」
「「・・・」」
「引いてはくれんか」
「家族を害すると言われてはねぇ」
「勿論そんな事はワシがさせん」
「28歳まで甘やかしたお父さんにそんな事言われてもねぇ」
「・・・どうすると言うのだ」
「勿論殺しますよ。売られた喧嘩だ、それに高い値で買ったんだ。殺す」
「・・・大公が命じてもか」
「これは言わば決闘ですよ。有るんでしょ?この国にも。決闘システムが」
「・・・有るには有るが、これは決闘ではない。ただの喧嘩だ」
「喧嘩じゃなくしたのはあんたの愚息さんだ。責任は取る。それが大人でしょう?」
「勿論取らせる。しかしお前が取らせるんじゃない」
「俺は当事者ですよ」
「だからこそだ。第3者が介在してこそ社会的に収まり易いだろう」
「・・・どうなんだ?お前はそれで良いのか?ウォージャイ」
「何だと!?」
「てめぇの不始末をてめぇじゃなく親が取るってよ。お前28歳なんだろ?マジでまだオムツ穿いてんのか?」
「貴様!」
「これは俺とお前の決闘だ、違うのか?」
「そうだ!これは俺とお前との決闘だ!ブッ殺してやる!」
「ウォージャイ!」
(くそっ!)
(ウォージャイが口走ったせいで喧嘩が決闘になっちまった)
(決闘は国家が認めた殺人許可システムだ)
(両者の間で合意が有って第3者が決闘の成立を見届けたなら決闘が成立してしまう)
(周りには政府高官だけじゃない、一般人である勇者も居る)
(死体男の口車に乗せられやがって馬鹿が!)
「ウォージャイお止めなさい」
「おっ、おふくろ!?」
「お前・・・」
「あなたが戦ってもこの方には敵いませんよ」
「おふくろ!」
「あなた、お名前は?」
「ロッシだ」
「ロッシさん。息子が失礼しました。私からも謝罪します。収めて頂けないかしら」
「お断りだ」
「まぁ」
「死体男」
「言ったはずだ。俺は売られた側だと。しかもここで引いたら家族に手を出すと言う。そんな輩を野放しに出来るか、馬鹿か」
「貴様妻に向かって!」
「何だ?一般人が決闘にしゃしゃり出て来ただけだろう?違うのか?」
「ぐぬぬ・・・」
「私はこの子の母親です」
「だったら尚更息子が決めた決闘に横から口を出すんじゃぁねぇよ」
「う」
「そもそもこんな馬鹿息子に育てた責任があんたには有るな」
「死体男、それ以上は、無いぞ」
「へぇ。無いってのは何がかな?あんた等が育てた馬鹿息子には確かに腕が片方ねーな」
「・・・」
(こいつ本気か?)
(さっきまで収めようとしていたのに今は頑なに、それに挑発も入れて来やがる)
(・・・家族。家族と言ってたな)
(ワシも妻を侮辱され頭に来ていたが家族をあんなに言われたら怒るか)
(しかし死ぬと分かっててやるかね?)
(勝つ気でいる?)
(どうやって?)
(さっきの手刀か?)
(・・・)
(あれを試合の初手で出されてたらワシの手首も落とされて負けていたかもしれん)
(知らなければ躱せない。事実、奴の初手は食らった)
(勝とうと思えば勝てたのか?)
(何故仕掛けなかった?)
(分からん。こいつの考えが読めん)
(しかし今なら手の内を晒したんだ。食らわなけりゃ良いだけだ)
(奴は武器も持っていない。リーチは此方が上。やれば勝てる)
(周りには言い訳なぞどうとでもなる)




