⑮-19-474
⑮-19-474
バトルロイヤルに勝ち残った8人が観衆の前に横1列に並んで居る。
ベオウルフが話しだした。
「今回のバトルロイヤルに残った勇者諸君に盛大なる拍手を!」
《おおお!》
パチパチパチ
「諸君等には名誉をここに讃える!金はもう受け取ってるはずだからな!」
《はっはっは!》
「おっ!そういえば賭金の配当が有ったな!まぁあんなものは賞金に比べたら微々たるものだ!気にする程のものじゃない!」
《はっはっは!》
「そして決勝戦で私と戦ったファイナリスト!貴様の名は!」
「ダダイだ!」
「ダダイ!一歩前に出ろ!」
列から獣人が1歩前に出た。
将軍を負かした番狂わせを演じた獣人だ。
「ファイナリストには私が直接配当金を渡す事になっている!受け取るが良い!」
大公がダダイに近付いた。
微かだがダダイって奴が震えてるように見える。
俺も時々神経が昂ると震えるが奴もそうなのかもな。
そしてダダイは汗も流し始めた。
そこまでか?
大公がダダイの斜め前で止まって袋をダダイに差し出す。
観衆に見えるようにだ。
ダダイが震える手でそれを受けとろうとしている。
「ファイナリストでも緊張するのかな?安心しろ!ここでは戦わなくて良いぞ!」
《はっはっは!》
ダダイは袋を受けとった。
大公が続ける。
「しかし戦いはまだ終わってはいない!いや!寧ろここから本番が始まるのだ!」
《おおお!》
「リィ=イン教国との戦いだ!狂信者共との戦いだ!家族を守る戦いだ!」
《おおお!》
「勇者諸君も勿論参戦してくれるのだろうな!?期待しているぞ!」
同調圧力による一種の強制だな。
なるほど。
デモンストレーション。
プロパガンダか。
まぁ元々参戦する気でいるから良いが、こういうのはちょっと気分は良くない。
「勇者諸君等の為に開いた宴だ!戦争前に大いに楽しんで行ってくれ!」
結構、良くない。
デモは終わって係りの者から賭金の配当を受け取って彼女達の下に帰った。
「配当って幾ら?」
「10万エナも無いな」
「「「「やっす!」」」」
「1%でしょ?」
「私達結構賭けたよねぇ?」
「税金だろうな。半分以上持ってかれたんだろう」
「胴元だもんね、そりゃそうか」
しばらく彼女達と食べながら話していた。
「クルルも参戦するんだろ?」
「あぁ。昨日も言ったが参戦する。リィ=インの奴等を火達磨にしてやる」
「た、頼りになるー。妹さんもか?」
「あぁ。10年程一緒に冒険者をやってる。余所でも参戦した事も有る。問題無い」
「そうか。しかし「おい!」ん?」
肩に手を置かれたので振り返った。
その振り返った顔に衝撃が走る。
ガッシャーン
俺は吹っ飛びテーブルに激突した。
『ロッシ!?』
(何だ!?何が起こった?)
(左頬が痛い。殴られたのか?)
(誰に?何故?殴られるような身に覚えは・・・無いとは言えないがこの国ではまだ無い筈だ)
ミキ達が駆けつけて起こしてくれた。
「へっへっへ。何だ、この程度かよ。バトルロイヤルに勝ち残ったっつってもマグレだな、こりゃ」
「ヒトですからねぇウォージャイさん」
「誰?」
目の前に3人組が立っている。
俺は左頬を摩りながら誰ともなしに聞いた。
「ベオウルフの息子、ウォージャイだ」
クルル・カトが応えてくれた。
「その息子が何で殴った?」
「あいつは粗暴で知られる。大公も手を焼いてるらしい」
「へぇ」
取り巻きと一緒にこっちを見てニヤニヤしている。
俺はウォージャイ達に近付いて行く。
「へっ、何だ、やろうってのか?」
「そのつもりで殴ったんだろ」
「てめぇが親父と渡り合えたのもマグレにちげぇねぇ」
「マグレにせよ事実は事実だ。今だに親父にオムツを替えてもらってるお前には無理だろうけどな」
「なっ、き、貴様!」
「ウォージャイさんに何て口の利き方だ!」
「何ならロイヤルスクランブルに参加すりゃぁ良かったんじゃねぇのか?怖くて見る事しか出来ねぇお子様に口の利き方?どーゆー口の利き方をちたら良かったんでちゅか?こんな感じで良いんでちゅかね?」
「てめぇ!ブッ殺せ!」
「「おう!」」
2人が殴り掛かって来た。
1人の振り下ろして来た右腕の拳を左手で受け止め流しつつ俺の右手で相手の右腕の肘を押し込む。
相手の腕が肘を中心にくの字に曲がる。
肘に付けた右手を支点に相手の手首を掴んだ俺の左手を回すと、
ゴキッ
「ぐあああ!?」
関節が外れた。
もう1人も殴り掛かって来るが体重の乗った膝にローキック。
カクッ
「えっ?」
バランスを崩して床に膝を着けようとする所に膝蹴りを顔面に見舞う。
「ぶぎゅっ!?」
反動で離れて行くのを襟を掴んで止める。
そのまま引き寄せて鳩尾に膝蹴り。
「おごえっ!」
何発か入れると嘔吐した。
頑丈な奴だな、流石獣人。
そのまま喉輪落としで後頭部を床に強打させると鼻血を出して気絶した。
「うぐえぇ・・・」
変な方向に曲がった右手を気にしている1人目の獣人にローキック。
体勢が低くなった所を回し蹴りを後頭部に命中させ床に寝かせる。
うつ伏せになった所に右肩を左足で踏む。
「あいてててて!」
右足で右手首を踏み砕く。
「ぎゃぁああ!」
右肘を足で押さえつつ曲がらない方向に無理に曲げる。
パキャン
「っゃあああ!」
側頭部にサッカーボールキックを入れると気絶した。
「なっ、ななな!?」
「お待たせ、っつってもそんなに待たせてないよな?」
「おおお俺は大公の息子だぞ!?」
「光栄だね、どんなもんか手合わせしようじゃねーの」
「てめぇなんかが相手に出来るもんじゃねーんだよ!」
「はっはっは!お前から手を出して来たくせに何を言ってるんだ。ほら、こいよ」
「ぐぎぎ・・・」
「後ろからしか攻撃出来ねぇのかお前は?」
「てめぇ!」
「ほらほらほら、掛かって来なさい。それともオムツが取れてからにするか?」
「ブッ殺してやる!」
「だから掛かって来いってんだよ。待たせんなよ。まだ料理も食い終わってねぇんだ」
「ふん!《身体強化》!」
てんで駄目だ。
ベオウルフのそれと比べるのも何だが、魔法陣の面体数がまるで違う。
親が偉大過ぎたのがこいつの不幸か?
常に比べられて育ち方を誤った?
まぁそんな事どうでも良いがね。
何の地位も無いとはいえ殺すと不味いだろうから半殺しって所で勘弁してやろう。
「脳ミソぶちまけろや!」
ウォージャイが殴り掛かって来た。
その程度の《身体強化》で脳ミソぶちまけられるとは思えんが。
殴って来る右腕に左手刀を振り上げる。
「ぎゃぁあああ!?」
奴の右腕が斬り落とされた。
そしてそのまま目を狙う。
一生暗闇で懺悔してろ。
奴の瞳に俺の手刀が映る。
が、
「む」
突如右から斬り上げられたので慌てて手を引っ込める。
「横槍は野暮ですね、大公殿下」
剣を携えたベオウルフが立っていた。
カラカラカラ
ウォージャイが倒れてテーブルにぶつかり、乗っていた金属製のコップが落ちて転がりながら俺の足元まで来た。




