⑮-17-472
⑮-17-472
バタバタバタ
鳩が飛んで行った。
オランドさんから預かっていた鳩だ。
無事に公都ムルキアに帰ってくれ。
「さてと」
結構長い時間寝られたし旅の疲れも大公選抜祭の疲れも抜けきってはいないが大分回復はしている。
夏だが山地で涼しいのも過ごし易くて良い。
彼女達と朝食を摂る。
「今日はどうするの?」
「ゆっくり休む?」
「旅をしながら公都ベオグラーダに着いた途端、大公選抜祭でしたからね」
「そうだったな」
「魔石を取りに行って、飛行機の実験もしたいんだよね」
「戦争に行くから魔石は幾ら有っても良いしね」
「じゃぁ取りに行こっか!」
「この辺はどんな魔物なんでしょう?」
「平地より強いらしい。特に魔虫だな」
『魔虫・・・』
「そんな強い奴じゃなくて良いんだよな」
「だよね」
「いつも通り魔犬とか魔幼虫とかは?」
「居ないな。強い奴等のエサだろう。山には近付かない」
「そっか・・・じゃぁ魔虫にするか」
「そうね。普通は単独行動なんでしょ?」
「あぁ。そのはずだ」
「それで、昼前に実験するんでしょ?」
「あぁ」
「昼以降は?」
「各街で仕入れた品を卸そうと思う。戦争で値も上がってるんじゃないか?」
「それはあるでしょうね」
「でも南部支援の為だったら安く売った方が良いんじゃないの?」
「マヌイ、僕達が卸した商人が安く売ってくれるんならそれも良いかもしれないがな」
「・・・それはないね」
「だろう?高過ぎず安過ぎず、つまり値段は自然と決まっていくんだ」
「戦争だから高いんじゃないの?」
「それが今は普通の値段って事だよ。戦争で近辺は治安が悪くなったり運ぶ荷の護衛を雇うのも高くなったり安全な高い宿に泊まったりして費用がかかる。色々事情が有って高い値段が付いてるんだ」
「それが今は普通って事か」
「そういう事だね」
「それで祝宴の事だけど」
「さっ、狩りの準備だ」
『待ぁーってって』
「いだだだだだ!?手を離せ」
「何?出ないの?」
「出る必要が有るか?」
「折角招待されてるのに?」
「この国の奴等は狂ってるよ。そんな奴等のパーティなんか行きたくないな」
「自ら戦争に行く私達も相当狂ってるわよ」
「世界平和の為だ」
「あー!それを言ったら何も言い返せないのを分かってて言う政治家みたいな事言ってる!議論はそこで止まるわよ!」
「みんな狂ってるんだったら行くと余計に狂ったパーティになるだろ」
「関わらなきゃ良いじゃない」
「招待客だろ?言わば主賓だろ?無理じゃないかな?」
「折角王族の食べ物が食べられるのに!」
「本音が出たな」
「当然でしょ!みんな食べたいわよね!?」
「「「うん!」」」
「僕は別に」
「聞いてないし」
「酷い!?僕主賓なんですけど!?」
「戦争前に英気を養わなきゃ」
「そうですよ士気を上げるのも大事ですよ」
「そうだぞ」
「俺製燻製肉じゃ駄目か」
「そういう事じゃないのよ!わっかんないかな!」
「そうだよ!メンバーの気持ちの管理もリーダーの仕事だよ!」
「カズヒコさんはその辺もう少し察して欲しいですわ!」
「美味いものが食べたい!」
「クァー!」
「ナーゴ!」
「お前等もか!?」
「人間は調理する唯一の生物なのよ!全ての生物にとって食べる事が生きる事なのよ!それは人間にとっても同じ!食べる事が人生なのよ!そして調理という人間にしか出来ない事をして食べるのは調理こそが文明と言っても良いのよ!あなたは生で食べるの!?違うわよね!?ワイバーンの心臓は食べてたけど毎日食べたい程美味しかったの!?違うわよね!?嫌々食べてたでしょ!調理の良し悪しは人間らしい生き方に欠かせない文明の尺度なのよ!あなたみたいに美味しけりゃ良いって言う人は料理の大変さと苦労が分かっていないのよ!美味しく食べられる事にもっと感謝しなさい!それに今後の旅の食事でも参考に出来るかもしれないでしょ!毎日同じ食事じゃ飽きが来るかもしれないじゃない!モチベーションの維持に食事の美味い不味いは大きく関わって来るのよ!このパーティは女4人も居るのよ!食事がどれだけモチベーションに繋がるか既婚者だったあんたにも分かるでしょ!」
「祝宴に出ます」
昼に狩りと実験から帰ると言伝が有った。
祝宴への正式な招待だ。
賞金も払われるらしい。
指定された夕方に城に赴いた。
門衛に証明書を見せて入城する。
当然だが帯剣は認められない。
そうだろうと思ってあらかじめ収納しておいた。
収納袋は申請制らしい。
当然しないが。
もし会場で武器の携帯をしていた場合、罪に問われるという事だ。
パーティ会場に案内され入室する。
すると結構な人数が既に居たが視線が僕達に集中した。
あちこちでヒソヒソと聞こえる。
広い広間だ。
立食形式の様で各グループに分かれて談笑していたようだ。
僕達も中に入って空いたスペースに陣取り、周囲を窺った。
「どうやら冒険者の服装で大丈夫だったみたいだね」
「まぁ冒険者に上流階級の服を求められてもね」
「上流階級っぽい人達は高そうな服着てるねぇ」
「ルーナ君も参考にしてみたらどうだい?」
「はい」
「では食事を取りに行こうか」
『はーい』
ビュッフェ形式の様で彼女達に取りに行かせ、僕はスペースの確保をしていた。
キャイキャイ言いながら皿に盛っている。
楽しそうだな、来て良かったようだ。
色々種類が有って目移りしているんだろう、時間を掛けているようだ。
彼女達を眺めている所に声が掛かる。
「ロッシ」
「クルル・カトか」
「遅かったな」
「午前中は狩りに出ていたんでね」
「狩りに?何故」
「魔石の確保にね」
「なるほど、マジックアイテム用か。しかしお前なら買えるだろう?」
「自給出来るならしたいのさ」
「まぁエルフとしては分からんでもないがな」
「そうなの?」
「・・・エルフがパーティに居るのに知らんのか?」
「彼女は孤児だったんだ」
「そうか。エルフはあまり他種族とは関わらない部族が多いんだ。だから自給というのも理解出来る」
「えっ。でもそうすると独自に村を作ってるのか?魔物は?」
「ヒトが主に作ってる村とは規模が違うんでな。それこそ部族が丸々住んでる訳だからな。多いと数百とかも有る」
「ほほー!そりゃ凄い。所でエルフってヒトより寿命が永いの?」
「いいや、お前等と同じくらいだ。というより獣人もドワーフも同じくらいだ。何故そんな事を聞く?」
「僕はヒトしか居ない田舎で育ったもんでね。どんなもんかと思って」
「種族的な違いというなら1番大きな違いは魔力だろう。1番魔力が多いのがエルフだ。次にドワーフかヒト。1番低いのが獣人だ。しかしフィジカルが1番強いのが獣人だ。最たる者が大公だな」
「確かにありゃバケモンだ」
「ふっ。直接知った訳だからな」
「あぁ。もう2度と御免だ」
「・・・騙されて参加したと聞いたが」
「あぁ、友人にな。ここには来ていない」
「そうか。クルラ・カラは紹介したな」
「あぁ、会場でね。どーも」
「ふん」
また睨んでいる。
「すまんな。妹は俺に勝ったお前に腹を立てているらしい」
「まぁ分かるよ」
「兄さんが油断していなければ勝ってたわ!」
「クルラ、油断はしていなかったよ。それに油断していたならそれこそ負けた理由として何も言う事は出来ないだろう?」
「でも!」
「《インフェルノ》を食らって生きてる奴なんてこいつだけだ。それは素直に称賛すべきだ」
「・・・」
「あ、無理しなくて良いですよ。僕は気にしてないんでね」
「しかしエルフとして自分に勝った相手に敬意を払うのは当然の事なのだ」
「ほー。まぁ直接戦ったクルル・カトの称賛を得られれば僕としては良い訳だろ?ならそれ以外は気にはしないよ」
「いやしかし妹が失礼をするのは俺の名誉にも関わる」
「まぁパーティなんだしそんな固い事言うなよ」
「むむ」
「あら、昨日の?」
「アンナ達も戻って来たから仕切り直しといこうぜ」
「・・・そうしよう」
「・・・山盛り盛って来たな」
「少し摘まんだけど美味しいよ!」
「レシピを知りたいですわ!」
「今度挑戦してみよう!」
「そいつは楽しみだ。頼んだよ」
菊池君から皿を受けとって俺も食べ始めた。




