⑮-08-463
⑮-08-463
俺から遠く離れた所を見るとやはりと言うか、死体が幾つか転がっている。
向こうでは何組かが塊になってやり合っている。
何なんだこいつ等。
死ぬの怖くねーのかよ。
ぶっ飛んでるんじゃなく狂ってやがる。
観客も血を見て熱狂の坩堝だ。
そういや公都ムルキアでも村人の処刑はショーだったな。
ブンブンブンブンブンブン
パシッ
俺に斧が飛んで来たので左手で掴み取った。
「ぶごおおお!ぶごおおお!」
満身創痍のさっきの大男。
意趣返しは成功したのだろう。
さっきの連中の死体が転がっている。
「殺ぉすぅ!殺ぉすぅ!」
「おうおうおう!良い面構えになったじゃねーの!」
パシッ
斧を利き手に飛ばして持ち替える。
「てめぇは直ぐに殺さねぇ。裸にひん剥いて辱めてやる!」
「良いご趣味だこと!分かった!同じ様にしてやるよ!」
「死ねぇ!」
大男が走り寄って来てまた水平斬りを仕掛けて来る。
俺は思いっきり体を反らして斧を振りかぶり、振り下ろした。
ガィン!
バキィン!
大剣の水平面の上から叩きつけられた斧は大剣を根元から叩き折った。
「ばっ!?馬鹿な!?」
「おめーは木を切る時に斧じゃなく剣を使うのか?」
相手が呆けている間に斧を振りかぶった。
ボグゥオ!
斧の刃の逆側、斧頭を当てて膝を破壊した。
「ぐわっ!?」
傾いて膝をつく大男。
残った膝も同じく破壊する。
ボギィ
「ぎゃあああ!」
両膝を石畳に着いた拍子に突っ伏した。
ダン!
ザシュッ
腕を踏んで肘の腱を解体ナイフで切断する。
「いたぁあああ!」
逆の肘の腱も同様に切断した。
これでこいつは動けない。
「ぐあああ!」
ナイフで装備のベルトや紐を切っていって下半身を脱がしていく。
「止めろぉー!」
ビリビリビリ
下着を脱がせた。
尻が露わになる。
『ぎゃははは!』
観客に大ウケだ。
大男の顔が屈辱に歪む。
「ぜってー殺す!ぜってー殺してやるからな!覚えてろよ!降さんんん!?」
「言わせねーよ!?」
「ごふっ!ごふっ!」
破った下着で猿轡を噛ませた。
自分の下着が臭かったのか咽る大男。
付近に落ちていた槍を取りに行く。
「せーのっ!」
ブスゥ
「んんんんんー!」
肛門に槍を刺し込んだ。
『ぎゃははは!』
これも客に大ウケだ。
大男の腕を持って仰向けにする。
局部が露わになりまたも客に大ウケだ。
「んんんんんー!」
涙目で俺を見る大男。
「どうだ?裸にひん剥かれた感想は!?」
「んんんんんー!」
「はっはっは!そうかそうか!お前そーゆー趣味だったんだな!はっはっは!」
「んんんんんー!」
「じっくり見てもらえ!出血多量で死ぬまで数分かかる。お前の性癖、世界中に知ってもらいな!」
「んんんんんー!」
大男の下を離れた。
『ふー!』
「流石ロッシだね!」
「一時はどうなる事かと思ったけど!」
「残酷過ぎない!?」
「大ウケだったから良いんじゃないかね!」
「大分減ったわね!」
「そろそろ佳境かね!」
俺は周りを見渡した。
かなり減った。
まだ戦ってる奴等がいるが俺の周りには人は居ない。
あの大男が相手してくれたようだ。
これはチャンスだ。
近くの死体に隠れて《偽装》。
好きなだけやり合えよ、付き合ってらんねーわ。
『あぁ!?』
「ロッシってば死体に紛れちゃったよ!?」
「あれで他が戦い終わるまでやり過ごす気!?」
「あっきれたねー!」
「あれで良いのよ!」
「アンナ!?」
「目的は勝つ事じゃなく生き残る事よ!戦わなくて良いんなら戦わなくて良いのよ!」
「そうだよ!1000万賭けたからね!」
「残りさえすれば良いんですよ!」
「頑張れー!ロッシー!」
「ニャー!」
ブーブーブーブーブー
俺の背後からブーイングが聞こえて来る。
この世界でもブーイングなんだな。
《偽装》は認識阻害系のスキルだ。
目の前に居る男が急に見えなくなるという訳にはいかない。
今まで見ていた男が死体に紛れて上位スキルを使ったからといって見えている事に変わりはないのだ。
枯葉に擬態した虫を見つけるのは難しいが一度見付けてしまえば目を逸らさない限り認識出来るってやつだ。
俺は死体に囲まれて大の字になって空を見上げていた。
あら、何だお前。
お前も観戦してたのか?
お前の目から見た人間の営みは酷く馬鹿に見えるだろうな。
なにせ同族同士で殺し合ってるんだ。
食う為じゃなくプライドの為に。
権力の為に、欲望の為に。
魔物で死ぬより人間同士の殺し合いで死ぬ方が多いだろう。
戦争なんか特にそうだ。
南部支援か。
この死体を見てると酷く虚しくなってしまうな。
何の為に支援するのか。
こんな奴等の為じゃぁないはずだ。
この戦いに意味は有るのか?
お前等は何の為に死んでいったんだ。
こんな所で死ぬよりこれから始まるリィ=イン教国との戦争で死んだ方がよっぽどマシだったんじゃないのか?
まぁお前等が望んだ結果だ、俺があれこれ言うのは御門違いだとは思うがな。
しかしこういう連中を纏めるにはこういった方法しかないのかもしれないな。
人間みんな同じ命だが、
人間みんな同じ性格じゃぁない。
俺等の様な者も居れば、
こいつ等の様な連中も居る。
ある意味自由だ。
こいつ等は自由を生きて死んでいった。
戦う自由を行使して、己の欲望に正直に生きて、そして死んでいった。
どう生きるか、どう死ぬか。
そういう自由が有ったんだ。
でもリィ=イン教国、北部にはその自由が無い。
欲望に生きる自由も、欲望に殉じる自由も。
一部の連中だけにしかない。
そんな世界は御免だ。
誰だって自由に生きたい。
自由に生きた結果、俺の隣に転がってる様な姿になろうともそれはそれで納得出来る生き方だったんだろう。
こいつ等は自分に賭けたんだ。
自分の未来に。
今日は負けただけだ。
来世、生まれ変わってまた賭けるだけなんだろう。
その未来を、俺達の賭けるべき未来を、お前等の自由にはさせんよ。
俺等の自由な未来は、お前等が自由にしていい訳がない。
北部は潰す!
この戦争にも勝つ!
ドゥオオオンドゥオオオンドゥオオオン
銅鑼が響き渡った。




