⑮-03-458
⑮-03-458
ドドドドドドドドド
僕達は公都ムルキアを出て西に向かっていた。
要塞から公都オラキアに向かってた時よりも暑くなったように感じる。
ムルキアの周りの畑が青々しかった。
ドドドドドドドドド
御者はサーヤ君がしていた。
特に戦闘でもない限りスキル上げの為に最近はサーヤ君がやっている。
「バイヨ!ベオグランデ公国について知りたい!」
「ベオグランデはアレク3国の他の2国よりもヒト以外の種族の割合が多い!」
「だから対北部の意識が1番強いのよ!」
「山岳国家で農耕は小規模だ!牧畜や鉱山、山の魔物素材が主要産業だな!」
「街は有るのか!?」
「君等が今まで見て来た街とは異なり砦と言った方が良いだろう!」
「より軍事色が強いと!?」
「そうだ!平地よりも山の方が魔物は強いからな!」
「そこに攻め込んで来たのか!」
「平地の街よりも規模は小さい!しかし山だから移動に時間が掛かる!私達にも難しい戦いとなるだろう!」
「それに今頃大公選抜祭が開かれる頃だろう?」
「大公選抜って、戦って決めるとか言うあれか?」
「そうだ。8年に1度開かれる大公選抜祭、通称ロイヤルスクランブル。盛り上がるぞ!」
「いや・・・・・・・・・・そんな場合じゃねーだろ。攻め込まれてんだろ?」
「お前達に理解されないだろうが、大公選抜祭はベオグランデ国民にとって大切な行事なんだ!」
「戦争よりもか?」
「匹敵する!国民は強き者に従う。選抜祭の勝者が新たな大公となり、リィ=イン教国を倒す旗頭となるんだ。燃えない訳が無いだろう!」
「いや、だから戦争が終わってからやりゃいーじゃん」
「マコルは飯を食ってから戦うか、戦ってから飯を食うのかどっちだ?」
「ぶっ飛んだ考え方だな。お前等は戦う前に食って、戦った後にも食うんだろ?」
「はっはっは!よく分かってるじゃないか!いっそ国民になれよ!」
「御免被る!僕達は安心安全な老後の為に働いてるんだ。戦闘国家で余生を送るなんてとんでもねーよ」
「残念だ。お前なら良い線行くと思ってるんだがね」
「楽して稼ぐのが僕達のスタイルだ」
「ここ数カ月苦労だけして報酬無いけどね」
ふと御者席の隣を見るとカラスと鳩が止まっている。
ムルキアを出る時オランドさんから伝書鳩を託された。
ベオグランデ公国公都ベオグラーダを登録する為だ。
「でもベドルバクラ王国に続いてリィ=イン教国も、ってねぇ」
「間違いなく共同してるな」
『えっ』
「当然だろう。たまたま攻め込む時期が一緒だったって訳ないな」
「でも同時に攻めるんなら同時に攻めるんじゃない?」
「全く同じ日って訳にはいかないんだろう。準備の都合があるだろうし」
「ふーん」
「或いは本当にベドルバクラが攻めるか確認してから攻め込んだ、とか」
「ふーん」
「誤算が有るとすればあんなに早く決着がついてしかも要塞が落とされたって事だろうな」
「そうだねぇ」
「少なくともベドルバクラの援軍は無い。ティラミルティ帝国は分からんが」
「だな。北部の南部最西端がリィ=イン教国だ。接するのは東隣のベドルバクラと北のティラミルティだけだ」
「そう考えるとティラミルティって大きいわね」
「あぁ。強大な国だ」
途中、公都ベオグラーダへの街道上ベルバキア公国最後の街、ドゥベルチで一泊した。
街の中は中々に物々しい。
オランドさんはベルバキア公国が戦争の準備をしていると言っていた。
しかしこのドゥベルチは北部には距離の有る中部の国だ。
ベドルバクラが隣国に攻め込んだんだ。
ここでも準備をしているのだろう。
ルンバキア公国は諸侯軍を集めていた。
ベルバキアも諸侯軍を集めているのかもしれないな。
翌日。
既に街の中から見える山を目指しドゥベルチを発って馬車に揺られる。
「僕達は冒険者登録した方が良いのかな?」
「そうだねぇ・・・うん。した方が良いだろう」
「そうか。君達、また新しい名前を考えとくように」
「違う国だしね」
「仕方ないねぇ」
「分かりました」
「苦手なんだよね」
馬車は山に入った。
流石にそれまでの速度は出せない。
しかし改良荷車と《馬術》のお陰かグイグイと山道を登ってゆく。
そして最初の砦が見えた。
砦か、なるほど。
山の斜面を取り入れて建てられている。
砦の周りの木々は伐採されて見晴らしが良い。
聞いていた通り草原の街に比べると小さい。
最初門は閉まっていた、戦争中だからだろう。
バイヨ達の紹介で入る事が出来た。
砦の中は窮屈な印象を受けた。
全てがギッシリ詰まってる感じだ。
しかし元々1つの国から分かれたからだろう、ルンバキア公国とベルバキア公国と、街並みはそんなに違わない印象だ。
そうして幾つかの砦を幾日か掛けて過ぎて行き、大きな山の広い山腹に砦と言うよりも街が見えて来た。
公都ベオグラーダだ。
街に近づいて行く。
他の砦同様に周囲の木々は伐採されて見晴らしが良い。
バイヨに聞くと魔物対策だそうだ。
街壁は高い。
恐らくアレク3国で1番高いんじゃないだろうか。
恐らくこれも魔物対策だろう。
山の魔物は強いと言っていたからな。
街壁にはバリスタも備え付けられている。
そしてベオグラーダは門が開いていた。
「物騒じゃないか?」
「いや、言っただろう。大公選抜祭が行われると」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・それの為に開けてるの?」
「そうだ。誰でも参加出来る」
「いや、諜報員とかどうするの」
「居るかもな」
「いや、居るかもなって」
「どうせ潜入する奴はどうやったって潜入して来る。お前等もそうだろ?」
「何の事か分からんが分かる話ではある」
「はっはっは!そういう事だ」
「何となく国民性が分かったよ」
「私も」
「はっはっは!理解してくれて嬉しいよ」
ドドドドドドドドド
公都ベオグラーダに入った。
凄い人だ!
人が多い、という訳じゃない。いや、今まで通った砦に比べて多いのは確かだが。
多いのは公都ムルキアや公都オラキアの方が断然多いだろう。
熱気だ、熱気が凄い!人々の熱気が凄い。
「確かに凄いな!」
「だろう!」
「冒険者の数が凄いわね!」
「だろう!」
「普通の人達もなんか凄いよ!」
「だろう!」
「ヒト以外の種族が多いですね!」
「だろう!」
「向こうで喧嘩が始まったぞ!」
「だろう!」
確かに祭りだ。
日本の縁日の様などこか寂寥感を覚える様な、そんなものじゃない。
圧倒的な熱量を感じる。
「腕に覚えのある者が国中から、いや、世界中からやって来る!」
「世界中から!?」
「誰でも参加出来るからな!」
「「「「「ほぇー!」」」」」
「誰でもって、奴隷でもか!?」
「いや!流石にそれだと奴隷の主人が代わりに戦わせるなんて事があるからな」
「まぁそうだな」
「今まで冒険者だった者が明日には大公。この国の王だ!」
「夢が有ると言うか、現実離れしてると言うか」
「はっはっは!」
「8年に1度交代するのよね?」
「勝てば留任出来る」
「負けた大公はどうなるの?」
「退職金が出ておさらばさ。領地なんかは貰えない」
「まぁそうだろうな。8年毎に領地を与えていったらあっという間に土地は無くなるだろう」
「それに土地を奪いに来る奴等も居るしな」
「だからその為に集中すべきだろうと思うんですよ、戦争に」
「はっはっは!」
「ベオグランデに来てバイヨ達ちょっと性格変わったんじゃない?」
「はっはっは!」
「故国だからね!」
「大公選抜祭ってのも有るわね!」
「このノリは他国じゃ無理だろ!」
「「「「「確かに!」」」」」
「はっはっは!冒険者登録に行こう!」




