⑭-45-454
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「レヴィ!」
「マコル!」
彼女達が戦闘態勢に入る。
見ると、セーラとラーンは驚いているようだ。
レヴィよりも強いラーンの剣を躱していたので、今度も躱すと思ったのだろう。
斬られた左腕を振って血をレヴィの目に入れる。
「うっ!?」
バックステップでケセラの背後に回る。
盾を持ったケセラが前に出る。
サーヤはハンマーを持って俺の脇を固める。
マヌイも詠唱を開始した。
ミキがテントの入り口を押さえる。
俺は左腕を掲げ、流れる血をセーラに見せる。
「契約破棄、確かに承りましたよ」
「待って!待ってマコル!」
「マコル!」
「フリーエさん。短い間でしたけど世話になりました」
「マコルぅ」
「もうお会いする事は無いでしょうがお元気で」
「マコルぅ!」
「おさらばです」
俺達はテントを出た。
最後に1度サーヤが振り返って、そのまま出て行った。
その後にいつの間にかジョゼが付いて来ていた。
あっという間の事態の推移に追い付けないでいた者もやっと事態を把握した。
「な、何という冒険者でしょう!」
「さ、然様!手配して捕えましょうぞ!」
「貴族に対しての態度と暴言!許される事ではありません!」
「・・・・・・」
セーラの表情は重い。
フリーエも同様だ。
「はっはっは!元気な冒険者でしたな!」
「・・・・・・クレティアン卿」
「どうやらルンバキア公国では今後雇う事は無さそうですな」
「・・・・・・」
「まぁ、たかが冒険者1パーティ、気にする程の事は有りますまい。とはいえ事件の処理に内内で協議も必要でしょう。某は外します故、ごゆっくりと為されたら宜しい」
「クレティアン卿」
「それでは失礼。はっはっは!」
クレティアンが出て行く。
「殿下」
「ファーダネ将軍」
「クレティアン卿も申しておられましたが事件の処理を急がれた方が宜しいでしょう。要塞陥落で捕虜に対する事件も起きるかもしれませんしな」
「・・・・・・」
「それでは私共も外します故、お急ぎなされませ。御免」
ファーダネ達も出て行った。
「・・・」
「殿下」
「近衛兵」
『はっ!』
「そこな貴族を捕らえよ!」
「なっ!?で、殿下!」
「私直属の冒険者を恐喝、暴行した罪で捕えます」
「なっ!ぼっ、冒険者の讒言を信じるのですか!」
「並びに抜け駆けの件もね」
「うっ!」
「同じく抜け駆けした者達はしばらくテントで謹慎を命じます」
『なっ!?』
「さぁ。御行きなさい!」
関係者達がテントを出て行った。
後に残ったのはバルドルやフリーエにカラッハ。
ラーンは勿論、そしてレヴィ。
レヴィは斬った相手が向かって来なかったのでしばらく構えていたが、その後の推移に呆然としていた。
テント内は重苦しい雰囲気に抑え込まれていた。
俺達は自分達のテントに向かっていた。
左腕はマヌイが治療をしている。
「ありがとな、マヌイ」
「んーん」
「あと、追って来るのが居る」
「「「「!?」」」」
「後腐れ無しにやるつもりかしら」
「いや、クレティアンって奴だ。そんなアホじゃないだろう」
「おーい!お前達!」
クレティアンが走って来た。
「何でしょう」
「おっ。傷はもう塞がったか。流石だな」
「うちの子達はみんな天才なんで」
「はっはっは!保護者みたいだな」
「家族ですから」
「なるほど!さっきの怒りも家族を害そうとしたからか」
「その通りです」
「にしてはあっさり引き下がったね」
「口挟もうにも、もうケリが着いちゃったし」
「はっはっは!挟む君の口が塞がれてる間にね!」
「それでご用件は?僕達は国に追われる前に逃げなきゃいけないのでお早めにお願いしますよ」
「はっはっは!知ってて尚行動したのかね」
「舐められちゃぁ終わりなんですよ。次々来るんでね」
「その通りだな」
「国なんて他にも有る。ルンバキアに固執する必要は有りませんよ」
「同意だ。そこで招待したいと思ってね」
「招待?ソルトレイク王国にですか?」
「その通りだ」
「ふーむ」
「きっと気に入るはずだ。何せ私が元冒険者だからな」
『えっ!?』
「勿論来てみて肌に合わなかったら出て行けばいい。国柄に合うか合わないか、来てみないと分からないからな」
「えぇ」
「それでこの紹介状を渡しておこう」
「紹介状」
「そうだ。城に来てこの紹介状を出してくれ。私から連絡しておくので悪い様にはされないはずだ」
「今回の様な、ですか」
「はっはっは!じゃっ!そういう事でよろしくな!ではまた会おう!」
クレティアンは去って行った。
「颯爽と現れ去って行ったわね」
「食えない奴だ。紹介状持ってたって事は事前に書いてたって事だろう」
「目を付けられてたって事?」
「だな」
「まぁワイバーン倒したり要塞に潜入したりしたからねぇ」
「そうね」
「ファーダネ卿も来たぞ」
クレティアンと擦れ違う時にお互い苦笑していた。
「やぁエチル君、いやマコル君」
「ファーダネ将軍」
「少しアホ共の話に付き合ってくれないかな」
「根に持つタイプだったんですね」
「はっはっは!貴族はプライドの塊なのだよ。舐められちゃぁやっていけない。そこは冒険者と同じでね」
「なるほど」
「北部には行かないのだろうね」
「仇ですからね。勿論ですよ」
「それを聞いて安心したよ。次、何処に行くか決まってるのかな?」
「いいえ、まだです」
「北部以外なら構わんよ」
「良いんですか?」
「勿論だ。指輪は持ってくれてるんだろう?」
「勿論です。女性からの指輪の贈り物ですよ。失くしたりしませんよ」
「はっはっは!そうしてくれ。何時でも活用してくれて構わないからね」
「ありがとうございます」
「うむ!要塞攻略は本当に良くやってくれた。殿下も本当は礼を言いたかったはずだろうが何せ急な事だったからね」
「分かってますよ」
「そうか。ではまた会おう」
「お世話になりました」
「こちらの台詞だ。はっはっは!」
ファーダネ達が去って行った。
「ファーダネ様。誘わなくて良かったんですか?」
「クレティアンが先に行った。我が国には以前に来ている。ソルトレイク王国に行くのが筋だろう。冒険者として未知の国に行ってみたいというのも有るだろうしな」
「・・・ですな」
「私の領地に来て欲しいが」
「・・・南方開発ですか」
「うむ。あいつ等は目立ち過ぎる。優しさ故に依頼を受けてしまうからだ。それで下手に達成してしまうものだから貴族の目に留まる。私の領地なら私が盾になってやれる」
「その方が彼等も伸び伸びやれて良いでしょうしね」
「諸国を漫遊するのであればいずれ南方に来るかもしれん。チャンスはまだ有るさ」




