⑭-44-453
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「マコル!」
セーラに向き直る。
ファーダネさんは剣の柄に左手を添えて利き手を自由にしているな。
クレティアンって奴も同じだ。
2人は流石だな。
ラーンとレネは、少し慌ててるようだな。
バルドルも澄ましてはいるが分かり易い。雪辱戦ってか。
こんな所か。
クルトさんとカラッハさんは戦闘タイプじゃない。
レヴィはラーンより弱いって話だ。
諸侯らは無視して良いだろう。
あとはフリーエさんか・・・
フリーエさんは・・・武器スキルは視えない。魔法だろうから無視して良いだろう。
全員詠唱はしていない。
魔法用魔法陣も視えないから魔法は無い、それは確実だ。
《剣術》なんかの武器スキル魔法陣は今言った準備してる奴等に視える。
流石にこの人数の相手は無理だ。
思考速度が早くても体が速い訳じゃない。
優先順位はあの貴族だ。
他は殺さずにおく。
打倒北部には必要な人材だ。
俺は魔法は使えん。
打倒北部の為に生かしておく場合、俺が魔法を使えるのが知られると今後の活動に支障が出る。
ここはテントの中だ。
それに奴等の味方も居る。
相手も大掛かりな武技は出せないだろう。
純粋な剣技による勝負。
《カウンター》が活きるシチュエーションだ。
密集地での至近距離格闘戦、俺の間合いに持っていく。
《神経強化》で状況を分析していた所に声が掛かる。
「マコル」
「何だマリア。悪いが手一杯だ。出来るなら後にして貰いたい」
「ちょっと雰囲気が悪そうに感じるんだけど・・・」
「流石鋭いな。ちょっと下がっててくれるか」
「えっ」
「バルドル将軍はお得意の両手鎚じゃなく剣だ。何とかなるだろう。ファーダネさんとクレティアン卿は得意そうだからチョイ時間掛かるかもな。でもテントの中は密集地、俺の間合いだ。乱戦は俺に有利、そうなったらフリーエさんは魔法は使えん。これまた俺に有利だ」
『!?』
セーラとラーン、レネがそこで初めて気付く。
クルトの額に冷や汗が流れる。
(・・・閣下、奴の言う通りです。密集は奴の間合い。そして奴はドラゴンバスター)
ファーダネ達は昨日の城壁の戦いを思い出していた。
クレティアンも状況を窺っている。
(はっはっは!コイツ正気か!?この面子と人数を相手にしようと言うのか!)
(益々面白い奴だ!)
バルドルも同じく。
(まさかコイツが姫を害そうとは思えんが)
(今までの姫との間柄を考えると何が奴をそうさせる?)
(狙いは何だ?)
(何故そこまでする必要が有る)
(まぁ良い、私に出来るのは姫の盾となる事だ)
フリーエも同じく。
(馬鹿の御蔭で最悪の事態になったぞな)
(マコルは殺る気はないじゃろう)
(あるとすればそこのアホ1人じゃろうて)
(あやつの言う通り、ワシの魔法は対多勢広範囲スキルじゃ、ここは不味い)
(はぁ、奥の手を出すしかないかのぉ)
「「マコル!」」
セーラとミキが同時に叫んだ。
「何だマリア」
「引きなさい!戦争しに来た訳じゃないでしょう!」
「あちらさんはその気だぜ」
俺の左に諸侯、そしてレヴィ、バルドル、ファーダネ3人衆とフリーエにカラッハ、正面にセーラ。
セーラの右隣にラーン、クレティアン卿その他近衛騎士か。
最初に来るのはレヴィと近衛騎士。
直後にバルドル。
最後にファーダネさんとクレティアンってところか。
「ファーダネ、クレティアン卿!」
「「殿下」」
「バルドル将軍!」
「ヴォーレ殿下」
「フリーエ!」
「ヒェッヒェッヒェッ」
むっ。
何だフリーエさんのあの魔法陣は。
初めて視る魔法陣、固有スキルだな。
隠してんのは俺達だけじゃないって事か。
魔法だけでも脅威なのにまだ何か持ってんのかよ、亀の甲より年の甲ってか。
「マコル」
「殿下」
「狼藉者は私達が裁きます。契約違反の補償はまた別に考えましょう」
「出来ないと、さっき申し上げたはずですが」
「マコル」
「フリーエさん」
「ワシらは統治者、法を司る者である。犯罪者はワシらの手で裁かねばならん。それが国を統治する上で必要な事じゃ」
「国が契約を違反した場合、誰が裁くんですかね」
「勿論ワシらじゃ」
「はっ!違反者が違反者を裁くぅ?正気で言ってんですか」
「国以上の機関は無いじゃろう?」
「有りますよ」
「何じゃ?」
「神ですよ」
『神?』
「僕が僕の神の下に送ります。無実なら生き返らせてくれるでしょうよ」
「お主こそ正気で言っとるのか」
「何を隠そう、僕がその口でして」
「生き返ったって口かの?」
「その通りで」
「信じろと?」
「どうでも良いですな。無実なら生き返る、有罪ならそのまま神に断罪される。それだけだ」
「ペテンじゃろうが」
「八神教の教えにも無かったですか?無実の者が生き返るって話」
「有るには有るが・・・」
「教えとして信じても現実には信じられないと」
『・・・』
「止めなさいマコル!そんな話、どこの宗教でも似たようなのは有るでしょう!」
「マリア、契約違反者が裁くって言ってるのをハイそうですかと信じられるかよ」
「私を信じて下さい!」
「今まで、キルフォヴァ以来碌な報酬は払って貰ってませんがね」
「ぐっ」
「耳が痛いのぉ」
「仇討ちの為に北部打倒でやって来たんじゃない!」
「そうだよー!マコ兄ぃ!」
「だからって無視して良い額じゃーねーだろー?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「報酬額のデカさが達成したヤマのデカさだ。命を賭けた見返りだ。俺等の仕事を他の誰かに代役出来たのか?そこの猪騎士達や勝ち馬に乗ろうとして見事に落馬した諸侯達なんかにゃ絶対無理だぜ」
『くそっ!』
「そこのバルドル将軍なんかはあの時の借りを返したくてウズウズしてるしよぉ」
「む」
「バルドル将軍!」
「大丈夫です、殿下。私は殿下に捧げた身、命令なくば仕掛けませぬ」
「随分と大人しくなったじゃねーの、将軍。そんなんで北部に対抗出来んのかよ」
「む!」
「マコル!挑発しないの!」
「狼藉者を渡して貰いたい。これは最低限の補償だ」
「ラーン」
「はっ」
「駄目じゃの」
「フリーエ!?」
「法を無視しては国の根幹が揺るぎかねん。ワシらは統治者、ワシらが法を犯すことは出来んよ」
「その統治者が法を犯したんでしょーが」
「じゃからワシらが裁く」
「それが信用出来ない時は?」
「信用を得るまで話し合うしかなかろうて」
「はっ!それまでフリーエさんの寿命が続きますかね」
「貴様!」
「結局お前等は冒険者を信用していないのよ」
「そんな事はありません!」
「報酬の支払いも、望みのままにとか、色を付けてとか、結局払わなきゃ好きな事言えるしな」
「それは・・・」
「冒険者を下に見てるくせに契約違反はするわ報酬は払わねーわ。信用を得るまで話し合う?おめーらが1番信用出来ねーんだよ、気付けアホ共」
「きっさま!」
「ピラミッドの頂点に立ってる!神に選ばれてる!下々の者は自分を崇めていればいいのだ!どうせそんな感じなんだろう?」
「違います!」
「今民衆は北部が憎いからおめーらの徴集に従ってる。しかし近い将来!民衆はおめーらの命令は聞かなくなる!民衆は家畜じゃない!おめーらがもがふが!」
「マコル!ちょっと黙って!」
ミキとマヌイとケセラの3人がかりで抑えられた。
「狼藉者の裁きは任せます」
「もがー!」
「ありがとう!マリア」
「でも問題は狼藉者ではなく、そいつ等に命令した者です」
「そうですね」
青い顔だった貴族が白くなった。
「勿論命令した者にも裁きを下します」
「よろしくお願いします」
「もがー!」
「そーゆー事に決まったから」
「もがふが!」
「おらっ!」ドスッ
「もっぐ!」
「決まったから」
「・・・・・・もぐ」
俺は開放された。
「ありがとう。マコル」
「ちっ。もう決まっちまった事に口出しはしませんがね!」
「報酬報酬と、浅ましいのが冒険者だ」
「何だと?」
「レヴィ!?」
「だったら無給で騎士を務めろよ。自分達を棚に上げて浅ましいと言われてもな」
「少し腕に自信が有るからと言って殿下や各国の重鎮に対して失礼な物言い!お前は人の上に立つべき人間ではない!」
「んな事は分かってるよ。だから冒険者やってんだろーがアホか」
「貴様!」
「それに強い奴の発言力が大きいのも当然だろうが。お前は剣の腕で近衛騎士の座を手に入れたんじゃないのか?家柄で手に入れたのか、そーかそーか」
「んなっ!勿論剣の腕で手に入れたのだ!馬鹿にするな!」
「馬鹿とは言ってない、アホと言ったんだ」
「おのれ!」
「冒険者は実力社会でな。お前みたいな本人の実力は無いのに家柄だけで出世出来る程甘い世界じゃぁねーんだよ」
「取り消せ!家柄だけじゃない!」
「なるほど。女も武器にしたと。ご立派ですな」
「死ね」
《神経強化》!
やはり単純、いや、簡単な剣筋だ。
怒りに我を忘れて抜き打ちで斬り上げて来ている。
ラーンの方が上と言うのも確かだな。
速さを意識するあまり抜き手の肘が前に来過ぎている。
それじゃぁ肘を斬られたらお終いだよ。
俺みたいな短剣にゃぁ斬ってくれって言ってる様なもんだぜ。
短剣は抜くのがはえーしな。
まだまだだな。
避けるのは簡単だ。
しかしここは肉を斬らせて憂いを断とうか。
パッ
斬り上げたレヴィの剣は俺の左腕の肉を斬って天井に血を染み込ませた。




