⑭-43-452
⑭-43-452
俺達は駐屯地の天幕に向かった。
「待て!何用だ!」
「ヴォーレ殿下に面会したい」
「ならん!ここはお前等の様な冒険者が来る所ではない!」
「コイツは最近見ない衛兵だな」
「な、何だと!」
「要塞を落として人員配置が変わったんじゃないかしら」
「何だ貴様等偉そうに!」
「偉そうなのはお前だ。いいから取り次げ。マコルの名を出せば通じるはずだ」
「お前等が『ワイルドキャット』なのは知っている!ふん!たかが冒険者風情が馴染みの様に振舞って怪しからん!弁えろ!」
「マヤ」
「ん?」
「何でコイツがこんなに偉そうなのか分かるか」
「うーん」
「俺等が『ワイルドキャット』だと知っている。つまりワイバーン退治の冒険者だって事もとっくにご存じのはずだ。その実力を持つ俺等をなんの手柄も無いコイツが門前払い出来る権力を持っている地位に居るという事に優越感を抱いているんだ」
「ふーん」
「ななな何を言っている!」
「つまり嫉妬だ。実力も実績も無いコイツに有るのはただ時間を掛けて働いた時間の積み重ねだけで得た地位だけだ。実力と実績のある俺達を門前払いして優越感を得る事が自分に課せられた仕事より優先されると思っているただの馬鹿だ」
「えー。ちょー迷惑だね」
「全くだ」
「ききき貴様!取り消せ!」
「図星当てられて頭に来たようだな。そんなんで衛兵が務まるのか?あぁ?」
「きぃー」
「ちょ、不味いって!相手は実質殿下の直属冒険者だぞ!取り次ぐのが筋だって!」
「お前はどっちの味方なんだ!同じ衛兵だろうが!」
「同じ衛兵でも頭の良し悪しは違うってこったよ。お前より断然若そうだしな」
「貴様!」
トサカに来た衛兵が槍で殴ろうと振り下ろして来た。
左手で掴んでそのまま膝で叩き折った。
「おっ、おっ!?」
「先に手を出したのはお前だからな、ふん!」
「ぶごぉっ!?」
顔面にパンチを食らい何本かの歯と一緒に吹っ飛んだ。
そこからは周囲の衛兵も出て来て乱闘となった。
一方的な乱闘だったが。
俺は衛兵を殴りぃの蹴りぃの、そうやって天幕に近付いて行く。
その後を彼女達が付いて来ていた。
『反乱!?』
「はっ!衛兵と戦いつつここに向かっています!」
「そんな馬鹿な!」
セーラは席を立って天幕を出る。
セーラが見ると、カズヒコがこっちに向かって来ていた。
それをやや離れて取り巻く武器を構えた衛兵の姿も目に入った。
戦いが有ったのは確かなのだろう、仲間に肩を貸されて立っている顔に痣が有る者や、向こうには地面に倒れている者も居る。気絶しているのだろう。
「マコル!」
「殿下。中でお話ししましょうか」
「え、えぇ。お入り」
「どーも」
諸将が戻り、セーラも席に戻る。しかし立ったままだ。
「それで!事情を聞かせて!」
俺は入り口近くに居る衛兵を見る。
「お前は何て報告したんだ?」
「ななな何だと!?」
「反乱だと聞きましたが!?」
ボクゥ
「ぐほっ」
「マコル!」
俺の右フックが衛兵の腹に入った。
「報告は正確にしないといかんな、正確に」
「正確!?」
「マーラ」
「はい!」
ズルズル
マーラは発端となった衛兵を引き摺りだした。
俺はそいつに屈んで話しかける。
「ほら。報告しろ。ちゃんと正直に有った事だけを話せよ」
「ぷぐぐ・・・」
顔を手で覆いながら頷く衛兵。
「わ、『ワイルドヒャット』の面会を断って、わたひが槍で殴り掛かって、返り討ちに遭いました」
『!?』
「マコルは私の直属よ!何で勝手に断ったの!」
「ひゅ、ひゅみまへん」
「何で槍で殴り掛かったって・・・まぁ大体予想がつくけど!」
今度はさっき腹に1発入れた兵士の肩を抱いて話しかける。
「なぁ?俺は降りかかる火の粉を払っただけなんだよ。お前等が勝手に反乱って勘違いしただけ。分かった?」
コクコクコク
「報告は簡潔に正確に順序だててしなきゃいかんよ。分かった?」
コクコクコク
「よーし。行って良いぞ。あっ、お前もな」
顔面を抑えつつ発端の兵士も出て行った。
「でもどういう事なの!?ここまでしなくても良かったんじゃないの!?」
「どーもこーも、殿下。重大な契約違反が有ったから来たのですよ」
「重大な契約違反!?」
「そうです。そこのラヴィアン卿はご存じのはずだ」
ラーンが青くなった。
「ラーン!?」
「で、殿下!じ、実はマコルが要塞に潜入中に駐屯地に残ったマリア達に不届きを働こうとした連中が居まして」
「何ですって!?」
「何じゃと!?」
俺の左側に居る諸侯の内の1人の顔が青くなったのを確認した。
「ワイバーンと馬車とバリスタを売れと迫ったが断られて武力で言う事を聞かせようとしたとか」
ガクッと思いっきり項垂れるセーラ。
「も、申し訳ありません!要塞攻略中だったもので、終わってから報告をと思い今まで黙っておりました」
「警護の兵士は!?付いていたでしょう?」
「最初は客だったので通したそうですけど、争いになったら私達より貴族の使いの肩を持っていましたね」
マリアが証言する。
バァン!
机に両手をついたセーラ。
セーラに全員の視線が集まる。
「マコル」
「殿下。契約事項の第3項の違反です」
「違反と言ったって女達は無事だったのだろう!良いではないか!」
「黙ってろ役立たず」
「貴様!」
「レヴィ」
「しかしフリーエ様!」
「要塞攻略で手柄立てたと思ってんのか?俺達が居なきゃ門の前で死んでたぞお前等」
「貴様!」
「マコル!」
「殿下」
「ラーン。狼藉者達は」
「捕えております」
「マコル。私がキッチリ処罰を下します。それでどうですか」
「聞けませんな」
「マコル!貴様殿下の言だぞ!」
「だーかーらー。黙ってろってんだよ。突撃する事しか能がねぇ猪騎士が」
「・・・・・・お前」
「契約違反の補償が先ず先でしょうよ」
「契約違反の補償とは」
「その狼藉者を渡して貰いたい」
「どうするのです?」
「当然殺します」
『!?』
「というかそもそも我々が捕えた連中を、一応証拠として提出していただけだ。そちらが事件化しないと言うのなら我々が罰する。当然でしょう」
「処罰しないと言ってるのではありません!これからします!」
「時間切れですな」
「時間切れ?」
「即時処罰していれば抜け駆けする奴も出なかったかもしれません。まぁ俺が言うのも何なんですが」
『・・・』
「もしかしたら第2第3の狼藉者が出ていたかもしれません。今回は幸いそんな馬鹿な貴族は1人だけだったみたいですが」
そう言いながら、顔を青くしている貴族に首を傾げながら視線を送る。
「ひっ」
「今から処罰されても我々には効果は殆ど無いだけで等閑にされたという思いだけが残りますな」
「でも処罰する事で法を守らせるという効果は有るでしょう」
「だからそれは公国にとっての効果であって、我々には何の効果も無いんですよ、契約違反の補償としては」
「うーん」
「俺達は命懸けで潜入依頼を果たした。だったら依頼主も命懸けで契約事項を守るのが筋じゃぁないんですかね」
「大公が冒険者如きの契約を命懸けで守るだと!正気か貴様!」
「そうだ!潜入に成功したぐらいで図に乗るなよ痴れ者が!」
「立場が違う立場が!分を弁えろ!」
「抜け駆けして散々にやられた腹いせを俺に言われてもな」
「「「!?」」」
「そういうのはお前等の部下にでも当たってくれるか?俺の役目じゃねーから」
「「「貴様!」」」
「潜入に成功したぐらい?ぐらい?負けて逃げる奴等の追撃も出来ねー奴等はホントおめでてーな」
「「「きさま」」」
「何だやんのか?構わねーぜ、こっちは」
「「「くっ」」」
「決闘っつーの?受けてやるよ。抜きな」
「「「・・・」」」
「3人同時で構わんよ、こっちは」
「「「・・・」」」
「あっ、まだハンデ要るの?しょうがねーな。じゃぁ俺は武器無しで良いぜ」
「「「・・・」」」
「素手だ。どーだ?ん?何だ、まだハンデ要るのか?あ?」
俺がにじり寄ると後退る貴族達。
「抜け駆け失敗の穴埋めに大公殿下のヨイショは構わねーけど、俺相手は不味かったな。分を弁えろ?誰に言ったんだ?自分自身にか?ん?」
更ににじり寄る。
「マコル!」
セーラが叫ぶ。




