⑭-42-451
⑭-42-451
ルンバキア軍本陣。
「クァー!」
「東門を完全に占拠したそうよ!」
『おぉ!』
「決まりましたな!」
「やった!グデッペン要塞を落としたぞ!」
「南門に降伏勧告をしなさい!」
「畏まりました!」
「ふぃー」ボスッ
椅子に腰を下ろして一息ついたフリーエ。
「フリーエ様」
ラーンが水を入れたコップを差し出す。
「ありがとなぁ」
ゴクゴクと飲むフリーエ。
「長生きはしてみるもんじゃのぉ」
その後、要塞内のベドルバクラ兵は降伏した。
俺達は『7人の侍』を見送った後、いつもの冒険者装備に着替えた。
そうして要塞内を北門に向かって歩いている。
傍をルンバキア兵に前後を挟まれて武装解除されたベドルバクラ兵の集団が歩いている。
中央の建物群を抜けると北門塔が見える。
屋上に人影が見えた。
北門に着くと先程の人の多さ程ではない。
ファーダネさんもクレティアン卿も居ない。
しかし門と城壁は多くの兵士が守っている。
ベドルバクラ兵の反乱に備えてだろうか。
兵士に話すとファーダネさんから話が通ってたらしい、門塔に鉤縄ロープで登って行っても注意は受けなかった。
「やぁ、ただいま」
「「「お帰り」」」
「終わったわね」
「あぁ。みんなご苦労さんだった」
屋上で各々自由な姿勢で座った。
「レイヴが1番働いたな」
「クァー!」
「それで。『7人の侍』はどうなったの?」
「南部に移る事を条件に奴等の復讐の依頼を受けた」
「復讐!?暗殺って事!?」
「そうだ」
「貴族なんでしょ!?」
「そうだ」
「私達に関係無い人を殺すの?」
「俺達が被害を受けていたかもしれない相手だ。それに同郷が殺されたんだ。一応俺達にとっても仇討ちって事にはなるだろ」
「・・・まぁ」
「気が進まないのは分かる。だからこの件は俺がやる」
「私もやります」
「助かるよ」
「じゃぁこの依頼が終わったら取り掛かるの?」
「いや。ルンバキアの貴族相手だからな。セーラちゃんに迷惑が掛からない様に仕込みをしないといけないだろう。少し時間が掛かる」
「『7人のサムライ』の方々には半年から1年の期間を頂きましたわ」
「そう。直ぐじゃないのね」
「あぁ。侍達には南部に移って朗報を待ってもらう事になってる」
「じゃぁもう北部には居ないの?」
「あぁ。このまま南に向かってるはずだ。ちなみに死んだ事になってる」
「死んだ?」
「新しい名で人生をやり直す」
「・・・それが良いわね」
「君等も『7人の侍』はこの戦争で死んだって噂を流しといてくれ」
「「「「了解」」」」
「それで仇の貴族の名前だが、ケセラ知ってるかな」
ケセラに情報を話した。
「知ってるも何も。私達にも馴染みの貴族だ」
「私達にも?」
「私達だけじゃなくセーラ様にもだな」
「うん?」
「ソルスキア王国までの護衛依頼の旅でベルバキアとの国境近くの街で街軍に襲われた事が有っただろ」
「あぁ。もしや」
「そうだ。その時の街主だ」
「くっくっく。そうか、そういう事か。はっはっは!」
「私達にも借りが有るわね」
「返して貰いませんとね」
「尚更派手にやらんとな」
「派手に?」
「南部に居るサムライの方達の耳に入る様に噂になる様に始末しないといけませんの。残忍で残酷な」
「「「・・・」」」
「それはカズヒコに任せるわ」
「はっはっは!任されよう!代わりにセーラちゃんの分までやってやろうかな」
「戦争も終わりね」
西に沈もうとしている夕陽を見ていた。
「色々有ったねぇ」
「そうねぇ」
「しかし思ったより短期間で終結したな」
「そうなのか?」
「あぁ。これだけの大規模な戦争だった割には戦端が開かれて10日余りで終わった。正直驚く程の短さだ」
「国内に爆弾を抱えるセーラちゃんには良かったんじゃないか?」
「それは間違い無いな」
「今夜はこのままここで寝るか?」
「そうね」
「特等席だね」
「下の階なら風呂を焚けるんじゃないかな?」
「「「「!?」」」」
「みんな!準備するわよ!」
「「「おー!」」」
ルンバキア軍駐屯地の天幕に上層部が集まっていた。
まだ完全に要塞内を調査していない為、反乱や暗殺といった事故を防ぐ為にセーラ等の要人を迎えるのに憚られたのだ。
『乾杯!』
「ヴォーレ大公殿下。イスカンダル大王以来の宿願達成!おめでとうございます!」
『おめでとうございます!』
「ありがとう。皆も良くやってくれました」
『ははっ!』
「援軍のファーダネ卿、クレティアン卿も重ね重ね御礼を言います」
「「恐縮に御座います」」
「北部の南下を防いだだけでなくグデッペン要塞の奪取まで成されました事。ルンバキア公国の歴史に残る偉業となりましょう」
「はっはっは!然様然様!そしてその戦いに名を連ねられた事は私共にとっても名誉な事!私共からも礼を申し上げますぞ!」
「フリーエも初めての総大将の重役を見事果たしてくれました。礼を言います」
「ヒェッヒェッヒェッ。冥途への土産が出来ましたなぁ」
「将軍諸侯達も、良くやってくれました」
『ははっ!』
「皆無事そうで何よりだったわ」
みんなの視線が一部の諸侯に向かう。
抜け駆けをして敗れ逃げ帰った諸侯達は視線を受けて萎縮する。
「少なくない犠牲を払いましたが無駄になる事無く野戦で勝利をし、グデッペン要塞まで落とす事が出来たのはひとえに神の導き、陛下の加護、そして諸将の忠誠と献身の賜物です。これからも私を支えて下さい」
『殿下の為に、公国の為に、我等が建国王の為に!』
取り敢えずの祝勝会でその夜は終わった。
翌日朝、同天幕。
「ヴァルドゥレ卿、説明を」
「は。要塞の調査を継続して行っている最中ですが、中央建物は終わっておりますので昼にでも入城頂けます」
俺達は朝飯を摂っていた。
「久しぶりに良く寝られたね、サーヤ君」
「そうですね、ふふ」
「ベドルバクラ軍はどうだったのぉ?」
「飯はルンバキアの方が美味かったよ」
「へー。そーなんだー」
「あとは野郎ばっかりでむさ苦しいったらありゃしなかったよ。臭いしな」
「臭いのはやだねー」
「女っ気が無いとそういう所に気を使わなくなるんだろうな」
「戦争だし、余計そうだろうな」
「君等はどうしてたんだい?3人だと木彫りを彫るくらいかな」
「・・・それが・・・」
「ん?」
「ちょっと有ってね」
「うん」
「どうした」
「実はね」
「ん?」
「ある貴族の使いが押しかけて来て、ワイバーンと馬車とバリスタを売れって」
「・・・何」
「ミキ姉ぇは断ったんだけど、そしたら力づくで来ようとして。でもケセラ姉ぇにブッ飛ばされて、とっ捕まえて、凄い五月蠅いからラーンさんに預けたんだよ」
バキッ
俺は箸を握り折ってしまった。
スプーンではなく箸だ。
俺にはナイフやスプーンなんかより使い慣れた箸の方が食事には都合が良かった。
《木工》で菊池君に折角作って貰った箸を折ってしまって余計に頭に来た。
ルンバキア軍本陣天幕。
「捕虜は戦争奴隷として内地に送ります。ベドルバクラ王国側から打診が有れば交渉に応じるという形になろうかと」
「分かりました。その辺の詳しい事はバグレスク大臣と相談して決めましょう」
「はい。要塞ですが攻城兵器などを使わずに奪取出来ましたので比較的損傷は少なく。少々の手間と時間を掛ければ直ぐにでも要塞の任を果たせます」
「それは朗報ね。ベドルバクラ王国に余力が無いとしてもティラミルティ帝国が出張ってくる可能性は有るでしょうしね」
「エリーテとクレティアンとも話したんじゃが、当分はグデッペン要塞は3カ国による共同防衛がえぇじゃろう」
「そうですね。正直ルンバキアには自由に動かせるだけの兵力はそう無いですから」
「勿論統治はルンバキア公国に担ってもらった方が宜しいでしょう」
「然様然様!ソルトレイク王国にとっても要塞は北部南下の前哨基地だった訳ですから、共同防衛する事で殿下には国内問題に集中して貰いたい!」
「マコルは要塞の破壊を提案しとったけどなぁ」
「まぁ、ドゥムルガから少々遠いですからな」
「・・・破壊して出た資材をドゥムルガの強化に充てると言っておりましたな」
「確かに悪くは無いと思います。補給も遠いですし」
「しかし建国王以来の悲願の要塞奪取をして早々に破壊は。世論を考えますと」
「そうじゃなぁ」
「他国への影響もありましょうし」
「そうですね。破壊は何時でも出来るでしょう。結論は諸国と相談してから決めましょう」
「そうですな」
「その場合の取り纏めはソルスキア王国にして貰いましょう」
「御配慮、痛み入ります」
「大体冒険者が要塞の扱いに口を挟むのがおこがましいのです!」
「然様!潜入工作に成功したからといって何様のつもりかと!」
「そうですな!調子に乗っているのだろう!」
「あなた達の抜け駆けは後日、軍法に照らして罰します」
「「「殿下!?」」」
「そんな!あの冒険者も抜け駆けしたのに!」
「はぁ~。そもそも抜け駆けは軍令違反です!手柄を取れば不問にするという不文律が有るだけで法を破ったのには変わりありません!」
「お主等ぁは這う這うの体で逃げ帰って来たしのぉ」
「「「ぐっ!」」」
「それにマコル達は味方が苦境の時に一騎駆けをしたのですよ!1台の馬車でです!なのにあなた達ときたら、勝ちが見えてきた段階で本陣から1000人近く引き連れて行って、更に負けて帰って来たのでしょう!話にならないわ!」
「「「ぐぅ~」」」
「まぁ、その辺で勘弁頂けますかな。軍法会議は後日としまして当面は「失礼します!」」
「どうした」
「はっ!『ワイルドキャット』が反乱を起こしました!」
『反乱!?』




