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HappyHunting♡  作者: 六郎
第14章 ドゥムルガ戦役 (マコル、マリア、マーラ、マヤ、セリーナ)
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西門付近。

門の落とし格子は上げられていた。


「西に丸っきり敵兵が居ないというのはそういう事だろうな」

「奴等も被害を出したくないのでしょう」

「本来なら軟弱者と罵る所だが」

「軟弱に救われましたな」

「いずれ取り戻す!殿しんがりは後続の者達を吸収しつつ撤退せよ!」

『ははっ!』

「先ずは我等が先陣として逃走経路を確保する!進軍開始!」

『おぉ!』




ワァーワァーワァーワァーワァー


俺達はベドルバクラ軍の兵装を着たままだったので敵に見つかっても何事も無く要塞内を南に走っていた。

要塞内は混乱状態だ。

恐らく撤退命令が出ているのだろうが全部署に伝わっているのかも怪しいだろう。


「クァ!」

「レイヴ!」


バサバサバサ


「これからはミキの所に行ってくれ!」

「クァ!」

「ミキとセーラとの連絡を頼む!」

「グァ!」


バサバサバサ




ドドドドドドドドド


西門から出たベドルバクラ軍本隊はそのまま丘を下って北西に向かおうとしていた。


「報告!敵兵発見!」

「何!?」

「南からやって来ます!」

「どの位だ!?」

「1000を超えない程度です!」

「何!?それだけか!?」

「追撃とは言え、少のう御座いますな!」

「大公旗確認出来ず!諸侯軍かと思われます!」

「はっはっは!恐らく命令無視だな!」

「大公軍は要塞内に殺到してるでしょうから!」

「手柄を焦ったのでしょう!」

「だろうな!丁度良い!帰りがけの駄賃だ!馳走になろうではないか!」

「ですな!後続の味方の露払いにもなりましょうし!」

「憂さ晴らしにもなる!遠慮は要らんぞ!」

『おぉ!』




俺達は南門に来ていた。


「発見した!」

「何処です!?」

「城壁だ!」

「向かいますか!?」

「あぁ!そうしよう!」


階段を上がっていく。


ワァーワァーワァーワァーワァー


城壁を巡る攻防は続いていたようだ。

撤退の命令は届いていないのか?

とはいえ、兵の数も少なく感じる。

兵を掻き分け『7人の侍』の4人に近付く。


「『7人の侍』の方々!」

「何だ!」

「総大将がお呼びです!付いて来て下さい!」

「分かった!おい!行くぞ!」

「「「了解!」」」


侍達を連れて階段を下りて他の兵士達から離れた所で止まる。


「どうした!?」

「総大将は撤退命令を出しました!」

「何!?」

「既に本隊は西門から逃げています!」

「何だと!?聞いてないぞ!」

「北門が突破されました!もう直ぐ東門も突破されます!」

「くそっ!」

「どうする!」

「どうするも何も!逃げるしかねーだろう!」

「そ、そうだな!」

「馬を集めましょう!案内致します!」

「そうか!よろしく頼む!」

「こちらへ!」

「行くぞ!」

「「「了解!」」」




北門付近。


「報告!」

「うむ!」

「東門奪取!敵は撤退を始めました!」

「「よーし!」」

「現在東門塔を攻略中です!」

「投降を呼びかけろ!命の保証はすると!」

「はっ!」

「余計な犠牲は必要有りませんからな!」

「その通りです!マリアに知らせてくれ!東門奪取と!」

「・・・畏まりました!」




俺達は馬を曳いている侍を引き連れ西門まで来た。

西門は既に誰も居ない。

いや、ちらほら兵士は見えるが組織だった動きではなかった。

遠くで喚声が聞こえる。

西門を越えた所で話しかけた。

その最中にも何人かが門を潜って逃げて行く。


「さぁ!お逃げ下さい!」

「お前達はどうするんだ!?」

「我々も直ぐに後を追います!」

「一緒に乗って行け!」

「駄目です!馬の負担になり追い付かれます!」

「お前等を置いては行けん!」

「いざとなったら降伏すれば大丈夫です!命までは取られません!」

「しかし!」

「何を青臭い事言ってるんです!逃げろ!」

「しかし!」

「早く逃げろ!」

「・・・お前、あの時の諜報員か?」

「「「!?」」」

「「・・・」」

「何だと!?」

「本当か!?」

「馬鹿な!だとしたら何で俺達を逃がす!」

「どうなんだ」

「何を言ってるんだ。俺は命令に従っているだけだ。それにその男の言う通りだ。諜報員だったら逃がす理由が無いだろう」

「背格好があの時の男と似ている」

「世の中顔じゃなく背格好が似ているだけの奴なんて幾らでも居る」

「その通りだ。しかし諜報員前提で話を進める俺に同調している。普通なら話の筋が分からず混乱するはずだ」

「・・・不味ったな」

「認めるのか」

「俺も慌てていたようだ」

「「「!?」」」


3人が武器に手を掛ける。

サーヤも身構える。


「何故だ」

「何がだ」

「何故逃がす。それとも逃げる背中を狙うつもりだったのか」

「何でわざわざそんな事をする必要が有る。殺すなら南門で見殺しにすれば良いだろう」

「・・・その通りだな。理由が知りたい」

「知ってどうする」

「分からん。知ってから考える」

「俺は軍属じゃぁない、冒険者だ」

「同業か」

「そうだ」

「あの時の諜報員はお前だな」

「その通りだ」

「『新選組』が後を追ったはずだ。その後帰還していない」

「殺したよ」

「てめぇ!」

「やっぱりか!」

「お前が!」

「何故だ」

「殺されそうになったんだ、当然だろう」

「・・・そうか。じゃぁ余計に分からん。何故俺達を逃がす」

「理解出来るからだ」

「理解?」

「お前達が北部に渡った理由がだ」

「「「「・・・」」」」

「俺にもパーティがある。女が居るパーティだ」

「「「「・・・」」」」

「俺の家族はティラミルティ帝国に殺された」

「「「「!?」」」」

「必ず復讐を果たす。そう誓った。だから理解出来る」

「・・・そうか」

「しかしもしお前達を逃がす事を恩に着るのなら1つ頼みが有る」

「何だ。ティラミルティの情報を売れとでも?2重スパイになれと?」

「いや。北部を離れて南に来て欲しい」

「・・・出来ん相談だな。理解出来ると言ったのは嘘か」

「そうだ!」

「仲間を殺されて黙ってられるか!」

「復讐を果たす!?それは俺等も同じだ!」

「お前等が憎むのはルンバキア公国。そうだろ」

「そうだ」

「じゃぁ他の国に来れば良い。南部全体が復讐の対象じゃぁないだろう?」

「・・・」

「更に言えば、国自体じゃぁなく特定の貴族だ。違うか」

「・・・いや。その貴族を罰しない国もだ」

「国自体が復讐の対象か」

「そうだ。国を亡ぼす!それが俺達の復讐だ」

「お前等が居た頃、あの国は次期大公を巡っての骨肉の争いの中、国中が混乱していた」

「そんな事は俺達に関係無い」

「お前等の復讐に関係無い人達が、お前等の復讐の所為で死んでいくんだぞ」

「「「「・・・」」」」

「取引をしないか」

「取引?」

「そうだ。いや依頼だ」

「依頼?どんな」

「俺がお前等の仇の貴族を討つ」

「何!?」

「どうだ」

「それこそお前に何の関係も無いだろう。お前等に関係無い貴族を殺すのか?」

「殺す」

「何故だ」

「お前等を理解出来るからだ」

「・・・それで報酬は?」

「南部に移る事。勿論ルンバキアじゃなくて良い。ソルトレイク王国やもっと南でも」

「信じられるか!」

「そうだ!俺達を理解出来る!?家族が殺されたってだけでか!」

「当然、お前が貴族を殺してから南部に移るって事だろうな」

「当然だな」

「信じるのか!?」

「こいつを!?」

「殺したってどうやって知る!?一貴族の暗殺なんて情報が北部に来るもんかよ!南に居なきゃ分かんねー。俺達を南部に移すのが目的なんだよ!」

「だそうだ」

「信じてくれと言っても無理だろうな」

「当然だろうが!」

「そうだ!」

「裏切られたのに信じろだと!」

「もう1度言うが、お前等の気持ちは理解出来る」

「それは聞いたが」

「先月でもう丸2年だ」

「?何がだ」

「この世界に生まれ変わって来たのが」

「「「「!?」」」」

「俺はこの世界で肉親も無く天涯孤独の身となったが幸いパーティに恵まれた。パーティが俺の家族だ。お前等もそうだろう」

「お、お前、転生者か!?」

「さっき言った家族が殺されたって言うのは、メンバーの家族だ」

「お前のメンバーにこの世界の住人が居ると」

「そうだ。孤独に生まれ変わった俺を信用してくれる。俺にとっては家族だ。だからお前等の事も理解出来る」

「お前の隣に居る男も転・・・男?」

「私は女、転生者ではありません、この世界の住人です」

「「「「!?」」」」

「転生者だって話したのか!?」

「家族だからな」

「「「「・・・」」」」

「俺達は前世で無差別テロに遭い理不尽に殺された。お前達が国を滅ぼそうとするのは俺達の様な無関係の犠牲者を作る事に他ならない。自分がそうやって殺されたから他の人間もそうやって死んでも良い。お前等の死んだ仲間はそれを望んでいるのか」

「「「「・・・」」」」

「お前等の復讐心は理解出来る。俺等も復讐の為に行動しているからだ。しかし今の世界情勢を見れば、北部が勢力を拡大するのは全ての人種にとって良い事では無いだろう」

「「「「・・・」」」」

「それともお前等は人種差別主義か」

「いや、それは無い」

「お前等のやり方で復讐を果たす事は第2、第3の俺を作る事になる」

「「「「・・・」」」」

「今ルンバキアは新しく少女が大公に就いた。これから改革されていくだろう。もしかしたらお前達の様な者が出ない国に変わっていくかもしれない」

「だから復讐を忘れろと?」

「違う。だから俺に依頼をしろと言っている」

「依頼。暗殺か。お前に無関係の者を?」

「俺達は依頼されて潜入した。結果大勢の人間が要塞陥落で死ぬだろう。俺が受けた依頼の所為でな」

「無関係の人間が死んでも平気なのか」

「俺の復讐は北部政治体制の打倒だ。国を亡ぼすのはお前等と同じ目的だが意味が違う」

「どう違う」

「仮にお前等の復讐が成ったとして、その後、北部が有利になったとしよう。お前等の周りのエルフやドワーフ、獣人達は悲惨な境遇に陥るだろう。お前等は現実を直視出来るか。今ですら北部では奴隷として悲惨な目に遭っているらしいが」

「「「「・・・」」」」

「俺達の復讐の先には大勢の人間の自由がある。お前等のは一部の、しかもお前等が嫌いな貴族だけしか利益を享受出来ない未来しかない」

「「「「・・・」」」」

「『7人の侍』の映画は見たのか?」

「・・・いや。実は見た事は無い」

「貧乏な百姓を盗賊から助ける話だ」

「・・・そうか」

「繰り返すがお前等の復讐に反対はしない。ただ、国を亡ぼすのには反対だ」

「「「「・・・」」」」

「お前等の復讐の先には第2、第3のお前等が生まれる可能性が高い。お前等はそれに後悔しないと言えるのか」

「「「「・・・」」」」

「依頼を出せ。俺達がお前等の復讐を果たそう。同郷の誼として、同じ復讐者として」

「・・・報酬は南部に移る事、だったな」

「そうだ。幸い『7人の侍』はグデッペン要塞で死ぬ。移るには都合が良いだろう」

「「「「何!?」」」」

「死体は見付からないが噂を流せば信じるだろう。南門には連絡が行っていなかったみたいだしな」

「「「「・・・」」」」

「・・・みんな」

「・・・良いんじゃないか。確かに北部は駄目だよ」

「・・・そうだな。貴族しか幸せになれないのはなぁ」

「・・・一般人に、子供達に笑顔が無いってのはどーもね」

「みんなすまんな」

「死んでいったあいつ等も分かってくれるさ」

「あぁ・・・一つ聞きたい」

「何だ」

「『新選組』。奴等が手を出さなければ殺さなかったのか」

「今となっては分からんが、今こうしてお前等と話している事を考えるならばイエスだ」

「・・・良いだろう。お前に依頼を出す」

「受けよう。復讐対象の貴族の情報をくれ」


情報を聞いた。


「じゃぁ半年、遅くても1年以内には達成する」

「遅いな」

「済まないが俺達は南部所属の冒険者だ。俺達が疑われないようにする為には仕込みが必要だ。ただ殺せば良いという訳じゃない」

「・・・良いだろう。お前等は北部打倒が目的だったな。大きな目標だ。仕込みが必要なのは分かる」

「ただ、必ず殺す。残忍で残酷で市井の話題に上るような死に様にする事を誓う」

「分かった。南部でその噂を待つ」

「もう移るのか?」

「お前も言っただろう。俺達はここで死んだ。名を捨て新しい名前でやり直すには良い頃合いだ」

「そうか。今なら大丈夫だろう」

「今なら?」

「さっきまで南西で戦闘してたみたいだが終わったようだ」

「そうか」

「ソルトレイク王国が評判が良いらしい」

「あぁ。南部に居た頃も聞いた事が有った。参考にしてみる」

「あぁ、そうしてくれ」


4人が馬に乗った。


「世話になった」

「いや。同郷なんだ、気にするな」

「ふっ。100人程しか居ねぇけどな」

「だからだよ」

「確かに」

「『7人の侍』の最後、知ってるのか」

「最後?」

「何人生き残るのか」

「いや。何人だ?」

「知らない方が良い」

「・・・そうか」

「敢えて名前は聞かないでおく」

「あぁ。じゃぁな」

「あぁ。じゃぁな」


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