⑭-36-445
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ワァーワァーワァーワァーワァー
「フッフッフ。無駄な攻撃をしおる」
「全くですな」
南門塔の頂上からベドルバクラ軍総大将ら、上層部はルンバキア軍の攻撃を眺めていた。
ルンバキア軍本陣テント。
「フリじゃぁ駄目なんじゃ。本気で攻め落とすと相手に思わせなければ」
「犠牲は出ますな」
「止むを得まい」
「しかしこれで失敗したら大損ですなぁ」
「然様!折角ここまで大掛かりに膳立てしたのだから潜入工作も成功させろと」
「全くですな!」
(何が大損よ!あなた達が要塞を攻めると言ったからじゃないの)
(殿下)
(大損って、あなた達の軍は後詰でしょうに。戦ってるのは大公軍よ)
(殿下、そこまでに)
その日のルンバキア軍の要塞の南門への攻撃は失敗に終わった。
そして同様に翌日も攻撃を与えたが更に失敗に終わる。
ルンバキア軍内では厭戦感が出始めていた。
そして翌日早朝グデッペン要塞。
「何!?病人?」
「はい。北門塔詰めの兵士達に原因不明の病気が回っております」
「疫病か!?」
「いえ。他の兵士には同じ症状の者は居りません」
「門塔詰めの兵士だけですか」
「然様です」
「悪い物でも食ったのでしょうかな」
「如何致します?」
「ふ~む」
「一応大事を取って隔離して新たに編成して送り込んだらどうでしょうかな」
「そうしよう」
「分かりました」
午前、北門塔に2人の兵士が現れた。
「何だお前達は」
「北門塔に行けって言われて来たんだがね」
「何だって?来るのは我々だけと聞いてるが」
「そんな事言われても俺達は行けと言われただけだしな」
「ふーむ」
「必要無さそうなら失礼するよ。俺達は休ませてもらうわ」
「ちょっと待て。さぼろうってのか」
「何を言う。必要無いって言われたんだから後詰に回るだけさ」
「分かった。ここに入れ」
「え」
「遊ぶくらいならここで働け」
「遊ぶって、要塞内に遊ぶ所なんてありゃしないぜ」
「良いから入れ!」
「はいよ。あ、あと差し入れで饅頭持って来た」
「おぉ。気が利くじゃねーか」
「後でもらおう」
ワァーワァーワァーワァーワァー
「何時まで攻撃するのやら」
「然様ですな。いい加減兵士達もダレてきておりますし」
「全く。グデッペン要塞を落とすのは無理なのではありませんかな」
テントの下。
ルンバキア軍上層部の面々にも疲れが見えている。
動かない戦局、
無駄に消費されていく食料武器弾薬、
そして兵士達の命。
結果が見えない作戦は15歳の少女の心を蝕んでいた。
(何よ!あなた達が要塞を落とすと言ったんじゃない!)
(今更になってそのセリフ!?)
(何時まで攻撃するのかって、結果が出るまでに決まってるでしょ!)
(勝つか負けるか、戦争なのよ!引き分けなんてあくまで結果でしょうに!)
(馬鹿じゃないの!?)
(それにわざわざ聞こえる様に!)
(1人じゃ言えないくせに、集れば喚いてみっともない)
(これが人の上に立つ貴族?)
(とんでもないわね)
(殿下)
(ラーン。あなたもそう思わない?)
(思います。しかし)
(強くなるわ!)
(殿下)
(直轄地を豊かにして大公の権力を強くする!)
ドサッ
倒れた兵士の口から饅頭が零れ落ちる。
「良し。これより作戦を開始する」
「はい!」
サーヤが兜を脱いで包帯を取り始めた。
「先ず近くの城壁上の見張りを誘き寄せて殺す」
「はい!」
「その前にレイヴを呼んで来る」
「はい!」
俺は門塔の階段を登って行く。
途中の階で壺や石や燃料なんかが積まれているのを見付けた。
倉庫階なんだろう。
階段を登り切り屋上に出た。
バリスタが設置されている。
屋上で笛を吹いた。
バッサバサバサ
レイヴが壁の上に止まった。
「この手紙をセーラちゃんに届けてくれ」
「グァ」
「要塞上空は鷹が居るかもしれんが高く飛ばずに要塞内を移動すれば大丈夫だろう」
「クァ」
「頼んだぞ」
「クァー」
バッサバサバサ
ワァーワァーワァーワァーワァー
ベドルバクラ軍南門塔屋上。
「ふん!相変わらず単調な攻撃だな」
「全くです」
「何も心配は無さそうですな」
「然様。兵共の先の敗戦の鬱憤晴らしに丁度良いのではないですかな」
「全くだな」
『はっはっは!』
「殿下!カラスが向かって来ます!」
「レイヴ!?」
バサバサバサ
レイヴはラーンの腕に止まった。
「レイヴ!マコル達は無事!?」
「クァ!」
「そう!」
「殿下!手紙です!」
全員がセーラに注目する。
手紙を読み終えたセーラは顔を上げた。
「作戦を開始します!準備を始めて!」
『ははっ!』
「騎兵隊を集めろー!」
「東門!西門にも攻撃を加える!歩兵大隊を進ませろー!」
諸将が指示を出す中、セーラとフリーエが北を見つめていた。
「やれやれ。杖は振られましたな。あとは魔法がどうなるか」
「私はマコルを信じます!」
「勿論じゃ。しかし」
「しかし総大将である以上、負けた場合も考えています」
「・・・ほぉ」
「私には勝つと信じて皆を信じる事しか出来ません。その結果、負けたらその責任は私が負います。それ位しか私には出来ないから」
「殿下」
「マコル・・・」
ドサッ
倒れた兵士の口から血が零れ落ちた。
「取り敢えずこれ位だな」
「はい!」
「よし!入り口を閉じて鍵を掛けろ!」
「はい!」
サーヤが門塔の入り口の戸を閉じて鍵を掛けた。
2人で収納袋から土嚢を出して戸に積み重ねていく。
土嚢はあらかじめ駐屯地で空いた食料袋を貰って土を入れておいた物だ。
元々門塔は外部からの攻撃から籠城出来るようになっている。
戸も外開きではなく内開き。
そこに土嚢を積んだら数人くらいでは突破出来ないだろう。
更に狭い城壁上では多数で攻撃を加える事も不可能だ。
これでかなりの時間を稼げる。
「よし。逆側も塞ぐぞ」
「はい!」
門塔への入り口2つを固めた。
次に外側の落とし格子を上げる為に歯車を回す。
「《身体強化》!」
「「ふんぐぅ~!」」
ギギギギギ
本来数人でやる所を2人でやっているのでかなり辛い。
しかし徐々にではあるが落とし格子が上がっていく。
ガタッ
休む為に一回止める。
「「はぁーはぁーはぁー」」
「いけそうではあるな」
「はい」
「「はぁーはぁーはぁー」」




