⑭-32-441
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諸侯が天幕を出て行く。
ファーダネやクレティアン等もだ。
「あぁ、バルドル将軍は相談が有る。残っておくれな」
「は」
「フリーエ。本気で要塞を落とせると思っているの?」
「殿下。あ奴等は手柄を欲しておるのじゃ」
「手柄?」
「今回の勝利は前線を務めた大公軍によって手柄は占められておる」
「でもそれは彼らが参加した時の条件だったからでしょう」
「然様。諸侯軍は殆ど後詰や工作部隊。恐らく戦では自分達は被害を出したくなかったんじゃろうなぁ」
「それが勝利を間近で見て自分達も手柄が欲しくなった?都合が良いわね」
「貴族とはそういうものじゃ。そしてそれを上手く取り纏めるのが大公」
「・・・」
「また、諸侯を守るのも王たる者の務め。敵国が侵攻して来たなら守ってやるのが王。弱い王に諸侯は付いてきませぬよ」
「民が王を守るのではなく、王が民を守るのね」
「その通りじゃ」
「しかしフリーエ様。要塞は流石に・・・」
「うむ。故に手柄が欲しいなら呉れてやればよい」
「要塞攻めは諸侯軍の手で、と」
「うむ」
「無理でしょう。幾ら何でも」
「そうじゃ。諦めたら帰れば良い。大公軍は休息を与える為に後詰とか理由を付け要塞攻めには参加せん」
「彼等の気を紛らわせると」
「攻める理由は本人達が言っておったしの」
「15の少女と侮って」
「他人が言ってるように言うておるが誰に聞いたのやら」
「なるほど」
「バルドル将軍も同じ穴の狢かと思っとったが違うようじゃのう」
「む」
「ただ利用されただけみたいじゃのう」
「面目御座いませぬ」
「バルドル将軍も連勝に貢献した。汚名返上は出来たかのう」
「フ、フリーエ様!か、かたじけのう御座います!」
「とは言えルンバキア南部の諸侯は今回の遠征に帯同せなんだ。今は味方を味方のままに保つのが先決ですぞ」
「・・・そうですね。先ずは北部を掌握しないと。バルドル将軍、これからも頼みますよ」
「勿体ない御言葉!盲いの私を引き上げて下さった御恩。生涯忘れませぬ」
「となるとフリーエ様。幾ら諸侯軍が攻めるとは言え、被害が出ればルンバキアの国力低下には違いないでしょう」
「連勝で浮かれてワイバーンも討伐した、多少麻痺しておるのじゃろうなぁ」
「ワイバーン」
「あやつのお陰で勝利出来たとは言え、あやつが火を点けてしもうた」
「フリーエ。それは流石に言い掛かりでしょう」
「ヒェッヒェッヒェッ。そうじゃな。ワイバーンを討伐出来なんだ我々が言う事じゃぁないわいな」
「・・・」
「どうしたかぇ、レヴィ」
「・・・いえ。不甲斐ない自分を恥じるばかりです」
「ワイバーンを討伐出来なかった事をかえ?」
「はい」
「馬鹿な。そうそう出来て堪るものかね」
「・・・はい」
「はぁ~頭が痛いのぉ」
「報酬ですか」
「一緒に悩みましょうぞ、殿下」
「あはは・・・」
ドゥオオオオオオオオ
数日後。
僕達は要塞を攻略していた。
正確には僕達は後詰だ、予備兵。攻めているのは諸侯軍。
要塞はただでさえ丘の上に建っているのに城壁も高い。
嫌な記憶が呼び覚まされる。
先ず丘を登る所で躓く。
踏ん張って登っている所を城壁から撃たれるのだ。
数は多くはないが壁上に設置されたバリスタも稼働している。
諸侯軍が攻めている様子を遠目に眺めていた。
「ソルスキアでの盗賊団の砦を思い出すわね」
「全くだ」
「まだ1年も経っていないんですね」
「そういやもう7月ね」
「暑くなってきた訳だ」
「みんな余裕だねぇ」
「「「「だぁって~」」」」
「殿下は帰ろうって言ってたらしいのに」
「貴族が攻めたいって」
『ブー!ブー!』
「それはそれとしてやはりグデッペン要塞は要害だな。ビクともしていない」
「正攻法というのも分かるけどねぇ」
「何の工夫も無いのは率いる者の器でしょうね」
「あの城壁上のクロスボウ部隊が肝だな」
「バリスタじゃなくて?」
「あぁ」
「聞かせてくれ」
「素人の考えだぞ。ケセラの様な本職のじゃなく」
「騎士の視点からだけじゃない意見も聞きたい」
「じゃぁ言わせてもらうが。僕でも拠点防衛は弓じゃなくクロスボウを用いる」
「何故だ」
「あぁいった拠点防衛の場合弓の利点が生きないからだ」
「弓の利点?」
「マヌイ」
「う~ん、速射?」
「その通りだ。・・・成長してるな」
「えへへ」
「カズヒコさん。弓の利点が生きないからクロスボウを使ってるのですか?」
「だけじゃぁない。弓の利点が生きないがクロスボウの利点が生きるから使うんだ」
「クロスボウの利点?」
「マヌイ」
「う~ん。扱いが簡単?」
「・・・凄いな」
「やったぁ」
「誰でも使い易い。弓は熟練度が必要だ」
「それはそうだな」
「そしてクロスボウを使う最大の理由は狙う時間の短さだ」
「狙う時間?」
「弓の場合、矢を番え、狙い、力を維持し、射る。大きく分けてこの段階を経る」
「狙いと力の維持は一緒じゃないのか?」
「それがクロスボウでは別になるからだ。弓は狙ってる間も力を維持しなけれなならない。しかしクロスボウは1度番えれば維持する必要は無い」
「確かに。楽だよねぇ」
「クロスボウは胸壁で隠れている間に矢を番えれば良い。しかし弓だと・・・」
「胸壁から出て番えて狙いつつ力を維持して射る、と」
「僕ならその時間を狙うな」
「確かにね。相手も撃って来るんだから突っ立ったまま狙うって無理よね」
「キルフォヴァの時はカズヒコさんとケセラが防いでくれていましたからね」
「加えて弓の場合は相手に晒す面積が多くなる。必然的に被弾率も高くなる」
「クロスボウは頭出せば撃てるしね」
「弓の利点である速射は城壁では難しいという訳か」
「工夫が必要だね。サーヤ君も言ってたがキルフォヴァの時の様なね」
「敵弓兵を撃退したしね」
「あと弓は著しく射撃可能行動範囲が狭い」
「行動範囲?」
「例えばあの梯子登ってる奴に弓で撃とうと思ったら壁から乗り出さないといけないだろ」
「うん。それだと狙われちゃうね」
「クロスボウなら傾けて撃てる、腕だけ出してな。傾けた時矢が落ちないとして」
「見なくても当たるの?」
「梯子の上から撃てば確率は高い」
「そっかー」
「そう考えると最近使わなくなってたクロスボウも使い所は有るんだねー」
「僕は駐屯地潜入でバレて逃げる時に使ってたぞ。あらかじめ番えておけば何時でも使えるんだからな」
「自分で力を維持しなくても良いからか」
「戦争では弓は弾幕だ。弾幕展開出来る様な状況を作るのが最上の作戦だろうな」
「諸侯軍も学んだんじゃない?結構な授業料を払って」
「怪我を治癒してやるか。マヌイの経験値にもなるしな」
「うん!」
その日の要塞攻略は失敗に終わった。
フリーエさんの指揮ではなく諸侯軍が主体となった攻撃を要塞は物ともせず、撃退されて退却する様を見たベドルバクラ軍の士気を上げただけに終わった。
「ワシの判断に従うはずじゃったが?」
「我々は今後のルンバキアの為に具申しているのです!」
「今後のルンバキアの為?」
「然様!」
「ここで要塞を落としてしまえば、以降、北部の南下は難しくなろうと!」
「難攻不落の要塞を落とした心理的影響もありましょうし!」
「そもそもじゃ。同じ兵数なら要塞で守っている方が断然有利なのは端から分かっていた事じゃろう。今後の事を考えるのならここで悪戯に兵を失うのは避けた方が良い。そう思わんかの」
「そこを落とすからこそ影響が大きいのではありませんか」
「然様!」
「ここで要塞を落とせばルンバキア北部諸侯は勿論の事、南部の者達も大公殿下の下に馳せ参じること間違い無しですぞ!」
「それに要塞を落とすのは何も力づくで落とす必要は無いでしょう!」
「どういう事?」
「聞けば偵察で要塞に潜入した冒険者が居たとか!」
「然様!其奴に今回も潜入させて内部を撹乱させている隙に落とせばよう御座いましょう!」
「失敗したら?」
「冒険者1人失うだけ。それだけで御座います」
「・・・」
(殿下)
「あなた達の部下から潜入させる者を出しなさい。それなら考えましょう」
「何を言われます!我々の部下は街で必要不可欠の者ばかりです!」
「失えば街の維持に支障をきたしましょう!」
「冒険者共と同じ様には語れません!」
「グデッペン要塞が陥落すれば我等北部諸侯も脅威が薄まり枕を高くして眠れるというもの」
「大公家の恩義に増々の忠誠を誓えるというものです」




