⑭-31-440
⑭-31-440
「総大将!最早立て直しは利きません!撤退を!」
「何たる事だ!撤退!撤退戦に移れぇー!」
『ははぁ!』
『うおおおおお!』
追う者追われる者、
草原一帯は数千人もの濁流が流れる人の海と化した。
その流れが避けて通っていく箇所がある。
ワイバーンとその遺骸に腰掛けて空を見つめる男。
海の中の急流にそこだけ時間が止まったかのような竜の小島は、
遠くからでも男の行方を捜す者達にその目的達成を容易にさせた。
「カズヒコ!」
「カズ兄ぃ!」
「カズヒコ様!」
「カズヒコ!」
俺の目の前に馬車が停まった。
片方割れたゴーグルを外して彼女達を見る。
「パラシュートにすりゃぁ良かったよ・・・」
「ジェットパック担いでたから心配はしてなかったわよ」
「流石に最大魔力で噴射したから魔力はすっからかんだよ」
「えぇ。砂埃が凄かったわね。サーヤ」
「はい!魔力ポーションです!」
「ありがと。ゴクゴクゴク・・・」
「カズ兄ぃ!」
マヌイが肩に抱きついて来た。
「どうした?」
「どうしたって・・・遺言めいた事言うからみんな心配してたんでしょうが!」
「遺言?いつも通り、俺が単独行動する時の指示だぜ」
ボスッ
「ごふっ!ごほっごほっごほっ」
「これはみんなの分よ」
「ぶ、分割にして欲しかったな。隔日で。ごほっ」
「怪我は?」
「噴射したとはいえ着地で手足の骨にヒビが入ったようだ」
「マヌイ」
「うん!」
マヌイが治癒を始めてくれた。
「ワイバーンって前足無いんだな」
「翼になってるって事?」
「だろうな」
「戦争は勝ったみたいだぞ」
「そうか」
「もう無茶は止めて下さい」
「戦争だよ?そりゃ無理だよ」
「まぁ参加しようって言ったの私達だしね」
「そういや、グデッペン要塞に潜入した時に兵士達がワイバーンの目撃を話してたんだ」
「へぇ」
「てっきりブラックドラゴンの事だと思ってたんだが、今となっては本当に見たんだろうなぁ」
「そうだったんだね」
「所で《雷撃》使ったんだけど気付いた?」
「?いえ、分かんなかったわ」
「そうか、良かった。お?お客さんだ」
『お客さん?』
「マコル!」
すっかり人の流れも少なくなった頃、セーラ達がやって来た。
セーラ達が下馬する。
「無事ですか!?」
「ご覧の通りで。しばらく休みをもらいたいですなぁ」
「無事のようです、殿下!」
「ラーン様、酷くないですか?」
「全く!お主はぁ!」
「フリーエさん。お元気そうで」
「寿命が縮まったぞな!」
「今回の勝ち戦で寿命も延びましたね。差し引きプラスですか」
「兎に角無事で良かった!我々は追撃戦に移っている。君達は後から合流してくれれば良い!」
「カラッハさん。分かりました」
「では殿下、行きましょう!」
「はい。マコル、ありがとう」
「仕事ですからね」
「流石モンスターハンターね」
「僕達の活躍を無駄にしない様に頼みましたよ」
「ふふふ」
彼女達を見送っているとちびっ子騎士達が俺を見ながら慌てて追いかけて行った。
ワイバーンをランクBの収納袋に収納した。
ランクCだと解体しなきゃ無理だったが流石B、袋口が広がって入っていった。
戦場には負傷した者達が残されており、ルンバキアは後詰の兵士達が負傷者等を搬送している。
味方に見捨てられて残されたベドルバクラ兵の待つ未来は真っ暗だ。
士官などの人質になりそうなら生け捕りだが、そうでない一般兵は点数稼ぎによる首狩り、追剥、私刑。
目を背けたくなる光景だが『7人の侍』の北部に流れた経緯を聞いた後では納得出来る自分が居る。
例え八つ当たりでも憂さは晴れる。
仇討ちなんて結局は自分の気持ちを晴らす為だろう。
サーヤ君、マヌイ、ケセラは元々この世界の人間なのでこういった光景も大丈夫なようだが、菊池君には辛いものだったようだ。
僕達の荷車に負傷兵を乗せて僕達は徒歩で後方の駐屯地へ向かうのだった。
追撃戦は数日に及んでグデッペン要塞にまで追い込んだらしい。
現在ルンバキア軍本隊は要塞を前に陣を構えているらしい。
草原の駐屯地でもそういった情報でもちきりだった。
僕達が居る駐屯地も本隊を追って移動を開始するとの事だ。
「キルケさんに勝利を報告して食料武器弾薬をドゥムルガの街に運ぶよう手紙を出そう」
「クアー!」
っと一鳴きして手紙を携えたレイヴは飛び立って行った。
翌日の要塞への行軍中にレイヴは帰って来た。
サーヤが御者をする馬車に揺られながら手紙を読んでいる。
「何々。「了解。ウリク商会と通信開通」だってさ」
「ウリク商会と伝書鳩出来るようになるの?早くない?」
「ウリク商会は先ずは鳩小屋を作らないといけないだろうけどな。僕達の改良馬車を使ったんだろう」
「なるほどね!」
「それでこの鳩たちは何?レイヴと一緒に来たけど」
「多分《伝書鳩》スキルの一種なんじゃないかなぁ?」
「スキル?」
「直接その場所に本人が行かなくても他の鳩に連れて行ってもらうっていう感じ?」
「はぁー、なるほどね。それは良いわね」
「マヌイは本読んでるねー」
「えっへん!」
「スキルって事は私にはまだ無理っぽいわね」
「キルケさん達からも私達に連絡出来るようになった訳だ」
「この子達にも燻製肉あげるよー」
「あぁ。でも鳩は肉じゃなく穀物だな」
「そっか。じゃぁレイヴは燻製肉ね。鳩は穀物っと」
「グゥ」
「クルッポー」
「ホーホー」
「じゃぁこの鳩たちに手紙を託しましょうか」
「そうだね。現在グデッペン要塞に向かってます、って所か」
「そんな感じで良いんじゃない?」
グデッペン要塞包囲駐屯地に着いた。
ベドルバクラ軍は要塞に籠っているらしい。
現在周囲の森を切り拓いて平地を確保している所みたいだ。
兵士が樵になって伐採しているのがあちこちで見える。
駐屯地は活気が有るというか雑然としている。
連日の勝利で浮かれているのだろう。
そんな駐屯地の向こうに要塞が見える。
要塞は周囲より高い丘の上にそびえ立つ。
以前来た時と同じ威容を放っている。
バイヨとジャック達と配給された夕食を摂りながら近況を話し合っていた。
バイヨ「相変わらずだねぇ」
「ん?」
バイヨ「ワイバーンさ」
「何の事だ?」
ジャック「まぁそういう事にしとくけどな」
「ジャックがやったって言いふらすぞ」
ジャック「止めてくれ!分かったっての!」
「次はグデッペン要塞か」
ミキ 「要塞にはまだ攻めてないんでしょ?」
バイヨ「あぁ。流石にな」
ティア「連勝したとはいえ、まだ何千人も要塞に居るからねー」
エマ 「ドゥムルガの街を守る戦いのはずだったのにね」
ダナ 「逆に私達が要塞まで攻めて来ちゃったね」
フイネ「攻めるのかしら」
コール「ここまで来たら攻めるだろうな」
「追撃で結構な戦果を挙げたんだろ?」
カイル「あぁ。相当やったらしいぜ。それで気付いたらここまで来てたって訳だ」
「だったら引き揚げても良さそうだが」
ミキ 「どうなるんだろーねー」
「要塞落すべし!」
『然様!』
天幕の中で貴族達が息巻いていた。
セーラが諭している。
「追撃でかなり打撃を与えました。人的損害は元より、労働力の低下に伴う生産力の低下も大変なものになるでしょう。ここらで引き上げても良いのではありませんか?何より要塞攻略で此方が受ける被害を考えると躊躇いを覚えるのも当然でしょう」
「いやいやいや、殿下!連日の勝利で我が軍の士気は天をも衝かんばかり!この余勢を持って彼の建国王さえ落とせなかったグデッペン要塞を落とせば即位したばかりの殿下の施政も盤石に御座る!」
「然様!15の少女と侮る者達も考えを改めるに違いありません!」
「反乱を起こした弟妹派の連中も口を噤むに相違ありませぬ!」
「しかし」
「分かったぞな」
「フリーエ?」
「諸侯らの熱意は分かった。要塞を攻める算段をつけるとしよう」
「フリーエ」
『おぉ』
「流石フリーエ様。我々の意を酌んで頂けるとは、流石年の功」
「大将の器でありますな」
「然様」
「但し条件が有る」
『条件?』
「当然我等にも要塞を攻めるに当たっての被害や、補給、諸問題がある。ワシがこれ以上の要塞攻略は不可を判断したなら従ってもらう」
「結構で御座います」
「確かに長い時間公都を離れるのは殿下には不味かろうと慮られます」
「然様。当然でしょうな」
「では仔細は先ず駐屯地を整備してからじゃ。今は整備に集中したらえぇ」
『畏まりました』




