②-27-44
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みんなで戦闘の後始末をしていた。
「結構な数でしたね」
「ホントにな。街から離れれば数も増えるんだろう」
「いやぁー。お疲れさまでした!お2人共流石ですね!」
リオンヌさんが駆け寄って労ってくれる。
「魔犬だけで助かりましたよ」
「いやいや。助かったのは我々ですよ!普段はもっと少ないんですけどね」
「なるほど。やはり焼き肉が・・・」
「・・・ですかね。あっ、討伐証明の為に魔石の回収をなさったらいかがです?」
「そうですね、ではそうさ」
「オイ!おめぇらどーゆーつもりだよっ!」
「「「えっ?」」」
「俺がブッ殺すの邪魔しやがって!」
「は?お前が『助けてー』って言うから助けたんだが」
「ん、んなこたぁ言ってねーよ」
「私も聞きましたが」
「違うんですよリオンヌさん。俺がブッ殺すのを手伝えって言ったんだ!」
「酒を飲んでへっぴり腰になって剣をただブンブン振ってたお前が殺せたとは思えないが」
「う!うるせー!とっ、兎に角俺がブッ殺すはずだった魔犬の魔石を寄越せっ!」
あんぐり
「お、おいジャンやめろ」
流石にジャンの連れが止める。
「うるせー!俺の金だったんだ!」
「やめろって!」
「ジャンさん。流石にそれはギルドに報告させて頂きます」
「えっ、なっ、何!?」
「他人が倒した魔物の魔石を奪うとは・・・冒険者としてマナー違反です。依頼主としても然るべき措置を取らせて頂きます」
「!?ふざっごもごも!」
「えっへっへ、すいませんリオンヌさん。こいつにはよく言い聞かせますんで」
「馬車に酔っても酒に酔わない冒険者でありたい」
「ンゴモゴー!!」
「大人しくしろっ!」
「ちっ、わーったよ!」
「じゃ、こいつ頭冷やさせますんで」
「てめぇ、覚えてろよ!」
うっわ。
雑魚っぽいセリフ!
ある意味感動だな、菊池君も「ホントに言う奴いたんだ」的な顔をしている。
「おい、待て」
「あぁ?んだてめぇ!」
「お前みたいな雑魚覚えておけるか不安なんでな。ここで決着つけてやるよ」
「なっ、何?」
「抜け。先手は譲ってやる。抜け」
「お、おまえ・・・」
「抜かねぇんならこっちからいくぞ?」
「ちょっ、ちょっと待てって」
「遺言を残したいんなら少しだけ待ってやる」
「い、いや・・・」
「ちょっと待ってくれ!悪かった!ジャンが悪かった!なっ、ほら!お前も謝れ!」
「あ、え?俺が?」
ガスッ
ジャンの連れの1発が顔に入った。
「ぐうぅ・・・」
「なっ、ほら。これで勘弁してくれ!おらっ、お前も謝るんだよ!」
「うぅ、す、すまなかった」
「・・・分かった。この場は納めてやる。それでどうする?覚えてて欲しいのか?」
「いや!忘れてくれ!酔った際のたわ言だ!忘れてくれ!」
「分かった」
「ありがとよ!」
ジャンの連れが返事をし、2人は離れていった。
「いや、迫力ありましたな」
「これで酒もこの依頼中は飲まないでしょう」
「なるほど。確かにそうでしょうな。いやいやこれからもよろしくお願いしますね、カズーさん、ミキティさん」
「いえ、こちらこそ」
僕達は魔石を受け取った。
周囲を警戒してる間に隊商たちが回収してくれていた。
僕達は11匹、ジャン達は1匹、後ろの3人で2匹、隊長は1人で4匹を抑えるのに必死で倒していないのは仕方ないだろう。
しかしこの辺りは20匹近くで襲うのか・・・こえぇ。
「先輩、あれで良かったんですか?」
「ん?あれって?」
「ジャンに・・・」
「あぁ。覚えてろってやつ?あのままだと仕返しされるかもしれないだろ」
「でも酔ってたし」
「いや、あぁいうタイプは醒めてもやってくるんだよ。どうせされるんだったら精神的に上に立ってた方が良いと思って」
「仕返しされるの前提で?」
「あぁ」
「まっ、まさか!?」
「いや!《殺菌》は使ってないよ!そこまでしないよ。流石に僕達に直接被害が出てないんだし」
「被害が出れば・・・?」
「勿論やる。それは決めてたことだろ」
「そ、そうですけど」
「まぁ、やる時は僕が殺るけど、君もそのつもりでいてくれよ」
ラドニウスは離れたところに杭を打ち込んで繋いであったが、流石に魔犬もこの大きさを襲うことは無いようで無事だった。
簡単に被害を確認し、とりあえずみんな眠ることにした。
護衛は夜番のため交代で眠る。
ジャン達もそこは流石に協力した。
3日目の朝、被害を確認したが人も荷物も無事で安堵しつつ朝食を摂る。
テントやら食器やらを片付け、死体を離れた場所で埋める。
定期便が通るだろう、後の人を考えてだそうだ。
準備を整え次の野営地に向けて出発する。
僕達の馬車が殿を走っている。
昨夜の襲撃で逃げた魔犬が追って来ているかも知れない。
後方からの襲撃に備えて討伐が1番多かった僕達が務めることになったからだ。
しかしそうした気配もなく無事野営地に到着した。
流石にみんな疲れている。
無事だったとはいえ襲撃されたのだし当然か。
食事も口数少なくジャンすら静かに食べている。
当然だが酒も口にしていない、当然だが。
今日も2人1組で夜番を務める。僕達は最後だ。
「いやぁー、この星空を見ていたら異世界に来たんだなぁーってしみじみ思うよ」
「ホントですね。前世では絶対見られない光景ですもんね」
夜空には2つの月が輝いていた。
4日目の朝。
「おはようございます、ミキティさん。カズーさんは?」
「向こうで魔犬を埋めています」
「えっ!?襲撃があったのですか?」
「襲撃ではなく様子見だったみたいですけどね」
「そ、そうですか。何匹いましたか?」
「5匹です」
「5匹!?それは様子見ではないのでは・・・」
「隊商を襲うそぶりは見せませんでしたけどね。一応全て倒しておきました」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
「・・・」
馬車に揺られながら荷台で菊池君はウトウトしている。
ラドニウスの餌として大量の草が荷物の空いたスペースに敷き詰められている。
クッション替わりでもあるのだろう、それを布団代わりに寝かせた。
「それにしてもあんさんら強いですな」
「そうですかね?」
「今朝も5匹倒してたんでしょうが」
「まぁ」
「お陰でぐっすり眠れましたわい」
「お気遣いなく。仕事ですから」
「うんにゃ、強いだけじゃのーて気遣いも出来る。えれぇ冒険者になりなさるね」
「ははは。そうなりたいものですね」
「今回は旦那さぁも張り切っとりましたけん、よーがした」
「張り切っていた?」
「マイタケの買い付けに行っとりましたけーの。旦那さぁが直接来るんは気張っちょったっちゅーことですわ」
「マイタケはこの荷台には見られませんが他の荷台に?」
「んにゃ、旦那さぁの収納袋に入っとりますで」
「収納袋!?」
「見たことありなさるか」
「いえ。1度も」
「さいですか。大事な荷物はそん袋にいれて、安いのを荷台に乗せるんですわ。馬の餌も荷台に敷き詰めときゃええで。あいつら食いますけーの」
「全部の荷物は入らないのですか?」
「へぇ。なんでもランクが有って、荷台何台分入るかでランクも値段も上がるぅ聞きましたがの」
「へぇ、便利ですな」
「全くのぉ。まぁワシらに有っても入れるもんは何もありゃーせんがな。はっはっは」
「はっはっは」
「今夜は村に泊まりますけぇ、あんさんらもゆっくりしなっせぇ」
「そうはいきませんよ。依頼の最後の夜ですから気を引き締めて務めます」
「あれまぁ。よろしゅう頼みますわい」
そして村に無事に着き夜は更けていくのだった。