⑭-29-438
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「敵は”頭”を失ったぞぉー!」
『おぉ!』
「今だー!畳みかけろぉー!」
『うおおぉ!』
周りは味方が優勢だ。
敵は指揮官が倒されたのを知って戦意を喪失しつつある。
振り返った。
本陣の様子も大丈夫だ。
少ない騎兵では近衛騎士の厚みを突破出来なかったみたいだ。
うーむ・・・よし。
どうやら本陣に居るちびっ子騎士も無事なようだ。
前から1騎、近寄って来る。
「マコル!」
「ラーン様!」
「防衛は成功だ!」
「えぇ!ちびっ子騎士達も無事の様です!」
「そうか!」
「味方も本陣が襲われたのは知ってるでしょう!勝った事を触れ回りましょう!」
「うむ!フリーエ様に申し上げて来る!」
ベドルバクラ軍総大将はテンプル騎士団が突撃した報告を受けて砂埃を上げさせるのを止めさせていた。
やがて埃が風で流されていく。
「どうなったのだ!?」
「分かりません!報告を待ちましょう!」
「敵後方は動きが無いように見えますが!」
ドオオオオォ
「なっ、何だ!?」
「敵の咆哮です!」
「どっちだ!どっちのだ!?」
「報告!」
「待っていたぞ!」
「テンプル騎士団!奇襲に失敗の模様!」
「・・・あのクソテンプラーがぁ!口ほどにも無い!」
「か、閣下!?」
「なぁにが神の御加護だ!なぁにが神罰だ!自分に振りかかっておれば世話無いわ!」
〈キョワアアアァァァ!〉
『ん!?』
ルンバキア軍天幕。
「御苦労じゃったのぉマコル!」
「いえ!皆さん無事で何よりです!」
「前線も左翼は押しつつあります!」
「ちびっ子騎士達も無事だな!」
「「ちびっ子言うな!」」ゲシ
「いった!」
「中央、右翼は戦線を維持!このまま左翼を押して敵中央軍の側面を突きましょう!」
「うむうむ!」
「今日も勝ちですな!」
「目出度い目出度い!」
「まだ戦は終わってはいません!気を引き締めなさい!」
『は、はは!』
「フ、フリーエさん!」
「どうしたマコル!?」
「上空に魔物の反応!」
『上空!?』
「途轍もなく強いですよ!何だこれ!?」
「何じゃとー!」
みんな天幕から出てバラバラに上空を見上げる。
俺が指した方を一斉に見つめる。
『ワイバーンだっ!?』
〈キョワアアアァァァ!〉
「な、何か光る物を出したみたいですよ!?」
「光る物ぉ!?ファ、《ファイアーボール》じゃぁ!」
ヒュゥゥゥウウウ
ドオオオォォォン
《ぎゃあああ!》
《ファイアーボール》の落下地点で爆発が起こり人が吹っ飛ばされる。
「ワイバーンじゃぁ!」
『ワイバーンだ!』
ワイバーンは敵味方関係無く《ファイアーボール》を撃ち込んでいる。
人間が魔法で出す大きさを遥かに超えている!
「くそっ!折角勝てそうな時に!」
「カラッハさん!」
「何だね!」
「ワイバーンを簡単に!」
「体長は5m以上になる!」
「「「「「5m!?」」」」」
「外皮は固く!力も強い!
見ての通り空から《ファイアボール》を撃って来る恐ろしい竜種だ!
竜種は空の王様だ!」
〈キョワアアアァァァ!〉
ヒュゥゥゥウウウ
ドオオオォォォン
《ぎゃあああ!》
ワイバーンは地表すれすれを飛びながら人間を咥えて再び上昇していった。
「人間を食った!?」
「そうだ!我々は竜の餌なのだ!」
〈キョワアアアァァァ!〉
「「ひいぃぃ」」
噛み千切った肉片が地上に落ちてゆく。
ちびっ子騎士達が抱き合って震えている。
戦場に目を移すと敵味方関わらず大混乱だ。
「カズヒコ」
「あぁ、翼に魔力を感じる(魔法陣が視えた)。やはり魔法かスキルで飛んでいる」
「どうするの?折角勝てそうだったのに。このままだとどっちも撤退・・・」
「そうはさせん。今朝までの人数差は向こうが上だったんだ。今日勝てばトントン、或いはこっちが上回る感じだったのに」
「でもワイバーンが」
ドラゴン好きのマヌイでも不安そうな表情だ。
「馬車に乗れ!」
「カ、マコル!?」
「バリスタか!?」
「いや!バリスタは仕舞え!」
「どうするの!?」
「俺に任せろ!命令だ!」
「「「「りょ、了解!」」」」
「フリーエさん!」
「マコル!」
「フリーエさん達は軍を落ち着かせてください!」
「落ち着かせる!?無理を言うない!」
「そこを何とかするのが大将でしょう!」
「逃げるしか無かろうて!」
「ワイバーンは俺等が何とかします!」
「な、なんじゃと!?」
『ワイバーンを!?』
俺はちびっ子騎士達の肩に手を乗せる。
「殿下!子供達を頼みますよ!」
「マコル!」
「お忘れですか!」
「!?」
「冒険者は魔物のスペシャリストですよ!」
「でも相手はワイバーンよ!」
「モンスターハンター(冒険者)にお任せあれ!」
俺の背後にメンバーが乗った馬車が到着した。
「お前達は殿下をしっかり守るんだぞ!」
肩を揺するが驚いた顔のまま身動ぎしないちびっ子騎士達。
手を離し首に下げていたゴーグルを着けながら御者席の隣に乗る。
「フリーエさん!報酬の上乗せ!お願いしますよ!」
「マコル!行くなぁ!」
「セリーナ!」
「ハイッ」
ドドドドドドドドド
「マコルぅ!」
「フリーエ様!軍を落ち着かせましょう!」
「・・・近い所から徐々に隊列を組ませろー!」
『はは!』




