⑭-26-435
⑭-26-435
「失礼します!」
衛兵が天幕に入って来た。
「うむ。報告し給え」
「はっ!先程『ワイルドキャット』の連中が駐屯地に戻って参りまして、リーダーの男が瀕死の重傷を負ったので暫く活動は控えるとの事です!」
『何だと!』
「マコルが重傷を!?」
「あいつが!?」
「潜入がバレたのか!?」
「どうもそうらしいです!ただ・・・」
「ただ・・・何だ!?」
「はっ!嘘か本当か分かりませんが、『新選組』は壊滅したと・・・」
『何だと!?』
「『新選組』が壊滅!?」
「それでマコルは重傷を負ったのね!」
「しかし真でしょうか、冒険者1人で『新選組』を壊滅出来るとは思えませんが」
「マコルならやります!」
「殿下・・・」
「それでマコルの様子は!?」
「は、はい、殿下!重傷ですが恐らく命を落とす事は低かろうと申しておりました!」
「ホッ・・・そう」
「・・・養生させましょう」
「そうですね。しっかり休むように言って下さい」
「畏まりました、伝えましょう。下がって良いぞ」
「はっ!」
衛兵が天幕を出て行く。
「マコルの潜入を見破るとは」
「恐らく『7人のサムライ』でしょうな」
「じゃろうのぅ。あ奴等も索敵は得意じゃったからのぉ」
「しかし良くやりましたな。1人で『新選組』の壊滅とは」
「全く。1人で4人を倒すとは効率が良い」
「また潜入させますか」
「いっそ暗殺でも」
「はっはっは!報酬もうなぎ上りですな!はっはっは!」
『・・・』
「もし支払えないようでしたらお貸ししますぞ!はっはっは!」
翌昼、俺は目覚めた。
腕に点滴の針が刺さっている。
針にはマヌイが動物の腸で作ったチューブが付いている。
「腹減った」
「「「「カズヒコ(兄ぃ)(様)!」」」」
「今日は、昨日か?」
「えぇ。1日しか経ってないわ」
「そうか。傷は?」
「もう大丈夫だよ」
「そうか。ありがとな」
「うん。無理しないでよ」
「調子は?」
「うん。脱水症状も無い、良いんじゃないか?何か食いたい」
「そう。じゃぁちょっと早いけど昼食にしましょう」
「ナーオ」
「あれ。ジョゼ?」
「セーラは今会議中らしいわ」
「それでここへ。しかも飯時に」
「ナー」
「流石会長」
「ニャウ」
「レイヴも助かったよ」
「クァ」
その日の夕方。
「無事で良かったわ、マコル」
「えぇ。死にそうになりましたがね」
天幕でお偉方に報告だ。
「マコル君が見破られるなんて珍しいね」
「『7人の侍』の1人に探知に優れた奴が居まして」
「なるほどのぉ」
「『新選組』を壊滅させたと聞いたが」
「はい。そいつ等にやられまして。いやぁ強かったですよ」
「そうか。まぁ無事で何よりだ」
「どーも」
「それで。報告書は後日出して貰うとして、掻い摘んで話してくれるかな」
「はい。北部の狙いは奴隷です。減った奴隷の補充です」
「なるほどのぉ。街を占領したら北に連れて行くんじゃろぅ」
「先のキルフォヴァの侵攻目的も同じでありましょうな」
「それと、ヴォーレ殿下の在軍も知られました」
「まぁ特に隠していなかったから問題は無いが」
「寧ろ今まで知られていなかったのが驚きですね」
「それで、殿下を狙う狂った集団が居ます」
『・・・・・・』
「リィ=イン教国か」
「はい」
『はぁ』
「獣人だからでしょうね」
「えぇ。そんな事言ってました」
「殿下の暗殺を気を付けた方が宜しいでしょうな」
「他には?」
「”パノプティコン収容所”というものを話してましたね」
『パノプティコン収容所?』
「何だね?それは」
「ヒト以外の種族の有力者を集めた施設だそうです」
『ほぅ』
「人質として集める事で反乱を抑制してるらしいんですがね」
「う~む。聞いた事ないな」
「まぁ、今回の戦争に直接関係はしないだろう」
「他に有るかね」
「えぇ・・・いや、特に」
「どうしたんじゃ?」
「・・・・・・いや、別に」
「・・・・・・そうですか。御苦労でした、下がって休みなさい」
「どーも」
彼女達と自分達のテントに戻って来た。
『なるほどー』
戻って来るまでに転生者達の北部に移った事情を話していた。
「そりゃぁ北部に行くのも分かるよ」
「そうですわ」
「何処も同じなら仇を討てる国に行くだろうな」
「まぁ恐らく大臣の専横の時期だったんだろうが」
「タイミングが悪かったわね」
「あいつ等は僕達だった可能性も有る」
『・・・』
「やっぱり貴族には関わらない方が良いわね」
「だねぇ」
「行商しつつ困った人達の依頼をこなしていきましょう」
「うん、そうだ。だが人となりを確認してからだな」
「そうだな。カルドンやナメクジンの村の件も有るしな」
「それで回収した遺体ですが」
「うん」
「収納袋は持っていませんでした」
「そうか。バウガルディ王国もケチ臭いな」
「現金が5000万エナ程有りました」
「よーし。有効活用しよう。あいつ等も浮かばれるようにな」
「そうね」
「防具もローブやらで私達に合いそうなのは有りませんでしたね」
「まぁローブって事はマジックアイテムだろうから売ればそれなりになるだろうし、僕達の装備が壊れた時の為に持ってても良いし」
「予備って事ね」
「でもカズヒコの《偽装》を見破るなんてね」
「そうだね。上位スキルなのに」
「相性だろうなぁ」
「相性?」
「《熱探知》って事はサーモグラフィーみたいに視えてたんじゃないのかな」
「視えてたか分かんないけど、熱を感じるんなら《偽装》しててもバレるわね」
「いやぁ、難しいな」
「固有スキルでしょうか」
「スキル大全には載ってないからねぇ」
「じゃぁそうそう持っている者も居ないだろうから今回は運が悪かったと思う事だ」
「そうなるとやっぱり2つ名っつーの?有名になるのは不利だよなぁ」
「そうねー。スキルも知られるでしょうし」
「対策立てられるね」
「カズヒコさんは《熱探知》の対策は?」
「持ってるだろう奴の顔と魔力発動(魔法陣)は覚えた。同じ魔力発動(魔法陣)が出れば気付けるよ」
「・・・やっぱりカズヒコが1番怖いわね」
「「「うん」」」
「ん?なんか来るぞ?」
「魔物!?」
「いや、人間だ」
白旗を掲げながら3騎がルンバキア軍駐屯地にゆっくりと近付いて来る。
やがて正面入り口の近くまで来た。
「ベドルバクラ軍総大将からの言伝を申し上げる!総大将を呼ばれたし!」
ルンバキア兵達が正面入り口付近に集まっていた。
僕達も見物に訪れる。
「何だあれは」
「使者だな」
「中に入れないのか」
「あのまま言うのだろう」
「あっ!フリーエさんが来たよ!」
「総大将で在らせられるか!」
「いかにも!こちらがルンバキア軍総大将フリーエ様である!」
カラッハさんがフリーエさんに代わって返答した。
「明後日朝!我が軍との決戦に臨まれたし!返答や如何!」
「挑戦状、決闘状みたいなもん?」
「みたいだな。味方も大勢見てる。断れば逃げたとして士気に響く。受けざるを得んだろうな」
「その通りだ。人数的に向こうに有利な状況を活かした戦略だな」
「有利じゃなきゃ挑戦しないだろうしねぇ」
「姑息ですわ」
「戦争だからな。まぁ、受けなくても良いだろうが」
「どうして?」
「緒戦で勝ってるからな。多少下がったとしてもあまり影響は無いだろう」
「そうかも知れないわね」
「相分かった!明後日朝!決戦に応じよう!」
「かたじけない!我が大将にも報告し申す!では御免!」
使者は戻って行った。
「受けちゃったわね」
「どちらにしろ、戦う事には変わらないからな」
「短期決戦をフリーエさんも望んでるようだな」
「短期決戦?」
「セーラちゃんは大公就任して間もない。弟妹も幽閉してるとは言え生きてるしな」
「なるほど。反乱を憂慮してるという訳か」
「とまれ、明後日に決まった。準備をしよう」
「準備?」
「頭のネジが緩んだ奴等がセーラちゃんを狙って来る。その準備だ」




